おとぎの国のクソデッキ〜ホビアニ世界の転生お嬢様、前世の禁止デッキをぶん回す〜 作:模範的セルフィア市民
メグルは、きびだんごを使って犬を呼んだ。
丸い団子へ鼻を寄せた《忠犬シロ》が、尻尾を振ってモモタロウの横へつく。
《荷運びの猿》も現れ、眠ったファクターを一枚起こした。
向こうの手つきは、速すぎなかった。
効果が何をするか、見ている人が追える程度に止める。
けれど、自分が次に何をするかで迷ってはいない。
説明をしながら、こちらの手札の枚数まで見ている。
慣れている。
モモタロウの最初の攻撃は、スノウで受け止めた。
次の俺のターンにもファクターを置き、《坑道帰りの小人》を加える。
最初に出てきた小人二人をスリープにして、カードを一枚引いた。
欲しいところではなかった。
大きいカードはある。ファクターにできるカードもある。
その間をつなぐ、小さな働き手が足りない。
手札の上限を超えた分を一枚捨てて、ターンを渡す。
俺が手札を並べ直すと、メグルの目が、ほんの少し鋭くなった。
「お仕事が、お忙しそうですわね」
「人手が足りませんの」
「こちらは、もう一人来てくれはります」
次のターン、団子を受け取った《朱羽の雉アカネ》が、モモタロウの頭上へ舞い上がった。
犬。猿。雉。
旗を背負った少年の周りに、仲間が揃う。
俺は、手札の端へ指を添えた。
来るな。
そう思ったが、メグルが手に取ったのは、別にしてあるエクシードではなかった。
「もう一つ、お団子を。《暁の雉》ですわ」
もう一羽、雉が増えた。
こちらは速攻持ち。今出てきたばかりでも、攻撃に参加できる。
メグルは続けて、二枚のファクターをスリープにした。
「2コスト。《鬼ヶ島へ》」
里の向こうに、海を渡る道が伸びた。
モモタロウが刀を抜き、仲間たちが前へ出る。
全体のパワーを上げ、貫通を与えるアクションだ。
アカネは、まだ後ろにいる。
代わりに、今来たばかりの雉が先頭を飛んだ。
速攻のあるなしまで、見ている人に分かるように動く。
いい演出だと思う。
こっちへ来なければ、なおよい。
スノウをモモタロウへ。坑道帰りの小人を犬へ。まだアクティブの小人を、猿の前へ立たせる。
守れるところは守る。
ただし、貫通で越えてくる分と、頭上の雉までは止まらない。
小人が吹き飛び、スノウの姿も光にほどけた。
受けたダメージは、合わせて二十二点。
俺のライフは、18になった。
観客が、息を吐く。
表示の変化も、ユニットが消える順番も、両方のホルダーで淀みなく進んでいた。
「大丈夫ですの?」
対面から、笑みを含んだ声が来た。
ゲームのことを聞いている。
俺は、頷いた。
「まだ、続きがございますわ」
次のドローを取る。
小人。
もう一枚も、小人だった。
……お前ら、来るのが遅い。
手札から一枚をファクターへ置く。
アクティブのファクター三枚をスリープにして、スノウを再び迎える。
主人公を除外から出す二度目のプレイなので、今度は3コスト。
ファクターはすべて眠ったが、今引いた二枚を使う手はある。
スノウが戻り、小人が二人増える。
先に残っていた二人へ仕事を頼み、ファクターを二枚、アクティブにした。
その二枚を順に使って、《坑道帰りの小人》を二体。
さらに、それぞれと一緒に仲間が一人ずつ出てくる。
森が、急に騒がしくなった。
「ずいぶん、来はりましたなあ」
「求人が届くまで、時間がかかりましたの」
会場のどこかで、笑い声がした。
俺は、八人になった小人を見渡した。
だが、数を揃えて終わりではない。
《セブンズ・ハッピーエンド》で攻め返しても、今の人数では、向こうのライフを削り切れない。
こちらのエクシードの使用権は残して、〈再誕〉に賭ける。
あとは、向こうの引き次第だ。
メグルも、これだけ並んだ小人を放ってはおかないだろう。次の攻撃でエクシードを切り、こちらにも〈再誕〉を使わせに来るはずだ。
そこを《物語は終わらない》で凌げれば、次のターンには小人たちが動ける。スノウで手札を増やし、巻き返す方法を探したい。
「スノウの能力を。今度は、回復をお願いいたしますわ」
新しく来た小人を、二人ずつ働かせる。
三組に、それぞれ四点ずつ。
森の家に明かりが灯り、俺のライフは30まで戻った。
小人をブロックへ残すより、今は回復を重ねたほうが、次の貫通に対して粘れる。
もう一度立って、そのときに引くカードまで使う。
できるだけ長く、勝ちへつながる手を探す。
メグルは、増えたライフと、まだ伏せてある俺のエクシードを見た。
何も言わず、自分の手札を揃えた。
次のターン。
二枚ドローしたメグルが、手札へ目を落とした。
少しだけ、口元が動く。
そして、彼女の前へ団子が二つ並んだ。
前のターン、おじいさんとおばあさんで回収しておいた分だ。
「こちらも、まだ来てくれはります」
一つを使って、犬。
もう一つを使って、また犬。
どちらも《忠犬シロ》だった。
同じ白い犬が、三匹になった。
桃太郎の周りが、急に騒がしい。
犬猿雉を、一匹ずつ揃えるところまでは知っている。
犬を追加で二匹連れていく話は、あまり聞かない。
聞かないが、デッキには三枚入る。
そうだったな。そういうゲームだったな。
団子で育った犬たちが、揃って尻尾を振る。
まだ出てきたばかりの二匹を見て、俺は伏せられた一枚へ目を向けた。
「ほな。皆さん、準備はよろしいですか」
メグルが、今度こそエクシードを取った。
朱色のホルダーに、輪の光が灯る。
「リベレーション。《日本一の鬼退治》!」
犬が吠えた。
猿が荷物を担ぎ直し、二羽の雉が高く旋回する。
モモタロウの旗が、ひときわ大きくなびいた。
強化と速攻、そして貫通。
このターン、こちらはダメージを軽減することもできない。
さっきまで攻撃できなかった犬たちも、旗の下へ並んだ。
俺は、攻撃に来るユニットを順に数えた。
モモタロウ。犬が三匹。猿が一匹。雉が二羽。
団子の強化は、今も残っている。
攻撃すれば、モモタロウが仲間をさらに強くする。
……負けだ。
攻撃が宣言された。
アカネの能力で、モモタロウも強くなる。
俺の小人たちは、回復の仕事を終えてスリープしている。頭上の雉は止められない。地上で最もパワーの高い犬の一匹へスノウを立たせ、残った手札を確かめた。
全体の攻撃を止めるカードはない。
軽減で凌ごうにも、このターンは封じられている。
先に、加速を持つモモタロウの刀が届いた。
受けたのは七点。
ライフは、23。
続いて、仲間たちが駆けてきた。
三匹の犬。荷物を背負った猿。頭上で翼を広げる二羽の雉。
スノウが受け止めた分を除いても、四十三点。
姫の姿が光にほどけるのと、俺へ攻撃が届くのは、一緒だった。
表示が、0を通り越した。
俺のライフは、-20になった。
「再誕。リベレーション、《物語は終わらない》」
敗北が決まる前に、俺は残していた一枚を公開した。
森へ光が戻る。
ライフを十五点回復し、カードを三枚引く。
表示が動いた。
-5。
戻らない。
0から十五点になるのではない。受けた分は、そのまま残っている。
回復を重ねてから再誕しても、まだ五点足りなかった。
最後に引いたカードを、俺は手札へ揃えた。
ホルダーが、対戦の終了を告げる。
「……ありがとうございました。わたくしの負けですわ」
頭を下げると、メグルも一礼した。
「ありがとうございました」
フィールドの景色が薄くなる。
拍手が起きた。
小学生の女の子が遊んでいるところを見守っていた人たちも、最後のほうは、ずいぶん前のめりだった。
俺は、ホルダーへカードを戻した。
負けたのは、ちゃんと悔しかった。
そのことが、なぜだか少し嬉しかった。