おとぎの国のクソデッキ〜ホビアニ世界の転生お嬢様、前世の禁止デッキをぶん回す〜   作:模範的セルフィア市民

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プレミ笑わば穴二つ

 

「勝ったのはいいけれど、全部使う必要はあったのかい?」

 

 横から、よく通る声が飛んできた。

 レッカの笑顔が、ぴたりと固まる。

 いつの間にか卓の横に立っていたのは、淡い銀色の短髪に、青灰色の目をした少年だった。制服もネクタイもきっちり整え、片手には白銀と紺のクロスホルダー。いかにもホビアニの白系ライバルキャラといった立ち姿だ。

 その画面には、早くも今の対戦ログが開かれていた。

 

 天城リツ。うちの高校のクロスファクター特待生で、一年生にして校内ランキング二位の実力者だ。

 まぁ、一位が別格なのでこいつが実質一位みたいなもんだが。

 ちなみに俺はだいたい八位。デッキ縛りでなら、こんなもんだ。

 

「……え?」

「最後の大噴火だよ。もし止められていたら、どうするつもりだったんだ?」

「……次で、なんとかしてやるよ」

「その次を、相手がくれるかな」

 

 早い。

 対戦終了の挨拶が済んだと思ったら、もう説教が始まっている。

 俺は揃えかけていたカードを、卓へ戻した。

 

 リツがホルダーを操作すると、卓の上に最後の盤面が映し出された。

 竜王と槍兵二体は、攻撃を終えて寝ている。幼竜も、俺の林檎で眠ったまま。ファクターは全部、火山にくべたあとだ。

 俺は《足並みを揃えて》を抜き、小人トークン六枚の横へ置いた。

 

「こちらを4コストで使えば、小人さん六人で二十四点。レッカさんのライフは、二十二でしたわね?」

「……げっ、足りてんじゃねえか」

「ええ。次のターンで、おしまいにしてさしあげるつもりでしたわ!」

 

 その前に、俺のほうが消し炭にされたわけだが。

 

「で、でもよ! あのとき、噴火を止める札はあったのか!?」

「ございませんでしたわ」

 

 残る五枚も表にして並べると、レッカはほっと胸を撫で下ろした。

 

「ほら見ろ! 勝ったんだからいいじゃねえか!」

「勝てた手と、最善の手は同じとは限らないよ」

 

 リツがログを巻き戻す。

 竜王と二体の槍兵が揃い、攻撃に出ようとしているところで、映像が止まった。

 

「そもそも、槍兵二体は、攻撃させずに残しておけばよかった」

「はあ!? 殴らなきゃ、倒し切れねえだろ!」

「大噴火を持っていたんだから、戦闘で倒し切る必要はないね」

 

 まあ、リツならそこに気づくよな。

 俺は竜王のカードへ指を伸ばした。

 

「エクシードで強化した竜王だけなら、攻撃は二十八点。登場時と攻撃時の四点ずつを合わせて、三十六点ですわね」

「四残るじゃねえか」

「そう。四(・)残(・)し(・)て(・)お(・)く(・)ん(・)だ(・)」

 

 リツが槍兵二体を縦向きに戻した。

 さっき、俺のライフをぴったり0にした槍兵の四点。そのひと突きが来なければ、《物語は終わらない》は使えない。

 三枚のドローも、まだ貰えない。

 

「そのまま、二十三点の大噴火ですわね。わたくしがカードを引けるのは、それを受けたあとになりますわ」

「……あっ」

 

 レッカの視線が、俺の手札へ落ちた。

 

「四から二十三点で、マイナス十九……」

「十五点回復しても、マイナス四ですわ」

 

 さっきは繋がった首の皮が、今度は足りない。

 そこでどんな防御札を引こうが、もう受けたダメージをなかったことにはできないのだ。

 

「じゃあ、槍兵で殴って先に<再誕>させちまったのが、余計だったのか」

「お前のほうから、大噴火を防ぐ札を探させてしまったんだよ」

 

 レッカが、竜王と槍兵を交互に見つめた。

 でかい竜で殴って、火山を噴火させる。そこは同じだ。

 ただ、槍兵まで突っ込ませたせいで、俺に三枚も余計な札を渡していた。

 

「それに、最後まで残っていた手札は?」

「これだけど……」

 

 レッカが一枚を表にする。

 相手のユニットすべてに3点ダメージを与えるアクション、《焦土の奔流》。

 

(そっちも握ってたのかよ)

 

「なら、噴火の前にこれを使えるね。ファクター二枚をスリープして、2コスト」

「先に小人を焼くのか?」

「そのままでは困りますので、わたくしは《足並みを揃えて》で守りますわ。4/4になれば、三点では倒れませんもの」

「そう。その札を、今使わせる」

 

 リツが、俺の切り札を指先で示した。

 強化はターン終了時まで。ここで使えば、次に俺が攻撃するころには、小人たちは元の1/1だ。

 

「残る二十一枚をバーストして大噴火。それでも、十五点の回復では追いつかない。もし噴火を防がれても、槍兵二体が守りに残る」

 

 全員寝ていたさっきの盤面と、見比べる。

 ファクターを燃やし終えた槍兵のタフネスは2。仮に次のターン、二枚目の《足並みを揃えて》を引けても、二体に四点ぶん受け止められる。

 二十四点のうち、貫通してレッカへ届くのは二十点だ。

 

「二点残るじゃねえか!」

「勝ちを急いで、その二体まで寝かせる必要はなかったんだよ」

 

 レッカが、縦向きの槍兵をまじまじと眺める。

 俺も、守るために使わされた《足並みを揃えて》と、その前で立ち往生する小人たちを想像した。

 ああ、嫌な盤面だ。相手がリツじゃなくて助かった。

 

 つい口元が緩んだところを、レッカに見つかった。

 

「メイまで笑うなよ!」

「ごめんあそばせ。勝った方が、こんなに叱られているものですから」

「そうだろ!? 勝ったのは俺だぞ! なんで俺が説教されてんだよ!」

「ええ。勝ち声は、お店中によく響いておりましたわ」

 

 隣の席から、堪えきれなくなったような笑い声が漏れた。

 萌木コハルだ。レッカの幼馴染で、今日も一緒に店へ来ている。さっきまで拍手を送っていた彼女が、今度は椅子の背もたれに腕を乗せ、楽しそうに笑っていた。

 

「でも、すっごくレッカらしかったよ。全部つぎ込んじゃうところ」

「だろ!? 男のロマンだろ!」

「そのあとリソース切れて困るところまで、いつものセットだけどね」

「今日は困ってねえ!」

 

 その通りだ。

 今日、頭を抱えて困ったのは、敗者である俺のほうだ。

 人のプレミを笑っている場合ではない。

 

「……わたくしも、小人さんに回復ばかり頼んでいる場合ではありませんでしたわね」

 

 六枚のトークンを、二枚ずつに分ける。

 回復、回復、回復。これでライフを40まで戻した。

 次のターンさえ来れば勝てる。そのために、四点でも多く回復しておきたかったのだが。

 

「一回、ドローに回してたら?」

 

 コハルが、最後の一組を指差した。

 

「ライフは三十六ですわ。代わりに、一枚多く引けますわね」

 

 俺は、まだ崩していない山札へ手を伸ばした。

 <再誕>で引いた三枚。そのすぐ下にいた一枚を、めくる。

 

 ――《妖精の帳》。

 

「……そこにいらっしゃいましたのね」

 

 薄いヴェールの向こうで、可憐な妖精が微笑んでいる。

 指定したカードからのダメージをすべて軽減し、さらに1枚ドロー。

 小人を守る札なら、すでに持っていた。俺自身を焼く火山に欲しかったのは、この一枚だ。

 

(あと一枚、下だったかよ……!)

 

 負けた直後のトップ、なんで毎回こんなに強えんだ。

 レッカが、俺の指先を覗き込む。

 

「それなら、噴火を止められたのか?」

「ええ。0コストですわ」

 

 《七人のまとめ役》を、少し横へずらす。小人に一枚引かせていれば、先に手札へ来たのはこちらだ。

 そのぶん、<再誕>で引く三枚も、一枚ずつ下へずれる。

 《魔法を解く指先》、《森の小さな働き手》。そして、《妖精の帳》。

 三枚目まで、ぴったり届いていた。

 

「さっきと同じ攻撃なら、三十六から四十点受けてマイナス四。十五点回復して十一に戻り、噴火をこの札で防げますわ」

「そんで返しに二十四点……って、今度は俺が負けんのかよ!」

「そのままの進行でしたら、わたくしの勝ちでしたわね」

「うわあぁ……!」

 

 レッカが、俺以上に嫌そうな顔で頭を抱えた。

 俺だって抱えたい。

 

 ライフが36なら、竜王だけの攻撃でも0になり、<再誕>を使える。槍兵を残されても、噴火の前にこの札へ手が届くのだ。

 ただ、そのあとに《焦土の奔流》を挟まれれば、小人を守るために《足並みを揃えて》も使わされる。

 大噴火を凌げても、即座に勝ちを返せるわけではない。

 

「もちろん、今リツさんがおっしゃった手順なら、わたくしも簡単には勝てませんわ。小人さんの強化は切れますし、槍兵も二体残りますもの」

「なら、そっからもう一勝負だな!」

 

 頭を抱えていた手を下ろし、レッカが顔を上げた。

 もう、次の攻め方を考えている顔だった。

 

 俺は《妖精の帳》を、他の手札と揃えた。

 山札の上を見た今なら、ドローしておけばよかったなんて、いくらでも言える。

 あのとき、こいつがすぐ下にいると知っていたわけじゃない。

 でも、手札に火力を防ぐ札がないことは、分かっていた。次に殴る小人は六人揃っていて、<再誕>も残っていた。

 もう四点を足す前に、一枚探しにいくことは考えられたはずだ。

 

「あとで、もう一度勝負ですわ。お付き合いなさる?」

「おう、付き合うぜ!」

 

 レッカが即座に身を乗り出した。

 

「次は槍兵を残す! そのうえでもう一度、俺が勝ってやるぜ!」

「望むところですわ。その上から完璧に叩き潰してさしあげます」

「言ったな? 上等だ、やってみろよ!」

 

 言った。

 この約束を取り付けるためなら、負けた直後に令嬢らしく少し強がってみせるくらい、安いものだ。





《イグナリアの一番槍》赤・1F/1C
 イグナリア/ユニット/人間
 速攻
 あなたのアクティブ状態の赤のファクターが2枚以上あるならば、このユニットは+1/+1の修整を受ける。
 3/2
—
「俺が道を開く。灰になる前に続け!」

---
《グラナヴァ火山の大噴火》赤・1F/XC
 イグナリア/アクション
 このカードのコストを支払う間、あなたのファクターは<バースト>を持つ。(<バースト>を持つファクターは、アクティブ状態のときにこれを破棄してコストを支払ってもよい)
 相手プレイヤー1人を対象とする。このカードのコストを支払うために<バースト>したファクター1枚につき、そのプレイヤーに1点のダメージを与える。
—
 山頂が消えた。次に、空が消えた。


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