おとぎの国のクソデッキ〜ホビアニ世界の転生お嬢様、前世の禁止デッキをぶん回す〜 作:模範的セルフィア市民
先攻は俺だ。
まずは、五枚の初手を確かめる。
「最初のスタートフェイズ。《フェイブルーン》のワールドアビリティ、<物語の始まり>ですわ! 手札かデッキのレジェンド•ユニット1枚を、<主人公>として除外しますの」
ワールドアビリティ――対戦前に選んだワールドが持つ、固有の能力だ。
クロスファクターでは、デッキに組み込めるカードも、選んだワールドによって決まる。
《フェイブルーン》なら、緑と白の範囲に収まるカードに加え、色を問わず「フェイブルーン」カードが使える。
その中から六十枚を選び抜き、自分だけの物語を組み立てる。
「幕を開けましょう。これは、灰に塗れた少女が硝子の靴で玉座へと駆け上がる物語。――《灰被りの少女、エラ》をデッキから除外し、<主人公>に指定いたしますわ!」
目の前に浮かび上がったウィンドウから目当ての一枚を選ぶと、山札の中からカードが一枚飛び出す。それを受け取り、除外領域に置くと山札のすぐ隣の空中に、灰色の粗末な服を着た少女のホログラムが小さく映し出された。
<主人公>に指定されたカードは、除外領域から直接プレイできる。墓地などの別領域へ送られそうになったときも、代わりに除外領域へ戻せるため、何度でも呼び直せるのだ。
ただし、除外領域からプレイするたび、次にそこから呼び出すためのコストは『1』ずつ増えていく。何度でも甦れるが、舞台へ戻るための足取りは少しずつ重くなる。
「それでは、通常ドロー。一枚引きますわ」
クロスファクターの通常ドローは、ターン開始時に「一枚」か「二枚」を選べる。ただし、先攻の第一ターンだけは一枚固定だ。
自分のターン終了時に手札が八枚以上あれば、七枚になるまで捨てなければならない。山札が尽き、必要な枚数を引けなくなれば敗北だ。
だから、いつでも二枚が正解とは限らない。手札の溢れやすいコントロール同士の対戦や、山札が残り少なくなった終盤には、一枚に絞ることもある。
引いた一枚を手札へ収め、そのまま第一ビルドフェイズに入る。緑のカードを一枚、ファクターエリアへ滑らせた。
「《小鳥の祝福》をファクターにセット。これをスリープして1コスト。除外領域から、<主人公>の《灰被りの少女、エラ》をプレイいたしますわ」
カードをプレイするには、Fで表される必要ファクター以上の枚数のファクターを揃え、色条件も満たす必要がある。色条件には、ファクターのほか、エンティティ――フィールドにあるカードやトークンの色も使える。
エラの条件は「緑・1F」。今置いた《小鳥の祝福》一枚で、色も枚数も足りている。
そのうえで支払うのが、Cで示されたコストだ。エラは「1C」。必要ファクターがプレイするための条件なら、こちらは実際に使うための代金というわけだ。
俺は《小鳥の祝福》を指先で横に倒した。アクティブからスリープへ。これで1コストの支払いが済む。
また、カードは基本的にはバトルフェイズの前と後のビルドフェイズにしかプレイできない。相手のターンやプレイに対応して使用するには<クイック>を持っていないといけない。
「まずは、主人公ね。こちらからは何もないよ。着地どうぞ」
「ええ。今は小さくても、この舞台の主役ですわ!」
空中の少女の映像が眩い光の粒へと変わり、俺の目の前で等身大の姿に結び直された。
くたびれたつぎはぎの服。煤で汚れたあどけない頬。両手でぎゅっと握りしめた古ぼけた箒。
鬱蒼とした森と深い海がせめぎ合う大舞台に立つには、いかにも頼りない姿だ。
エラの足元に、パワーとタフネスを示す『1/1』の数値が浮かび上がった。
ユニットはゲームの中心となる戦闘をこなすカードだ。左の数値がパワー。右の数値がタフネス。タフネス以上のダメージを食らえば破壊されて、墓地に置かれる。また、ダメージは各ターンの終了時に回復する。
エラはまだ攻撃できない。出たばかりのユニットを走らせるには、速攻のような特別な能力が要る。
俺はこれ以上展開せず、ターンを終えた。
対するシオンは二枚をドローし、青のカードを一枚、ファクターに置いた。
「1コスト。《秘密の沈潜》。二枚ドローして、手札から一枚をアクティブで置くよ」
しっかり初動札を引いている。
ユニットに対してアクションはその場限りの使い捨てのカード。ドローやファクターの加速、カウンターや除去等を行うカードだ。
シオンは引いたカードを手札へ加え、一枚を選んでファクターに置いた。そのままエンドフェイズへ進むと、足元の深海が動き出す。
「《ネレヴァス》のワールドアビリティ、<海底に眠る記憶>。最初に寝かせたファクターを破棄して、一枚ドロー。その後、手札から一枚を裏向きでファクターエリアへ置くよ」
一枚のファクターが砕け、足元の青い光の下へ、新たなカードが沈んでいく。
ワールドにはそれぞれ特色やモチーフがある。俺の使う《フェイブルーン》なら、グリムやアンデルセン童話。レッカの使ってた《イグナリア》なら燃え盛る炎。
そして、シオンの使う《ネレヴァス》は深海をモチーフとしたテーマ。本来表向きに置かれるファクターを裏向きに置き、それを利用したギミックを活用するデッキだ。
ちなみに、裏向きでもファクターとしては一枚分だ。色条件には使えないが、他に青いカードがあれば、青単色の【リバースネレヴァス】ではさほど困らない。
使い終えた一枚を、裏向きの新しい一枚へ入れ替える。総数は増えなくても、手札を整えながら次の支払いを用意できる。海の底には、こうしてカードが沈められていく。
俺の二ターン目。
アクティブフェイズを迎えても、前のターンに寝かせた《小鳥の祝福》は横向きのままだ。
前世で遊んだ多くのゲームと違い、ファクターは毎ターン自動では起きない。もう一度コストに使うには何らかの効果でアクティブにするか、破棄して墓地へ送る必要がある。
ドローは潤沢でも、派手に動けばファクターが減り、必要ファクターの大きいカードに手が届かなくなる。
一方で、すべて寝ているからといって、相手が無防備とは限らない。破棄して払える分まで警戒しなければならないのだ。
今の一手のために、先の展開をどこまで削るか。これがクロスファクターの醍醐味だ。
俺は二枚をドローし、白のカードを一枚、ファクターに置いた。
これで緑と白、二色の条件が揃う。なお、色条件と支払いに使うカードの色は別の話だ。白のファクターを寝かせて、緑のカードのコストを払っても構わない。
「2ファクター、1コスト! 《夜会支度の魔法使い》ですわ。通りまして?」
「対応なし。着地していいよ」
「あら、よろしいんですの?」
「本当は消したいけどね。残念ながら通るよ」
丸みを帯びた帽子を被った魔法使いが、箒を持つエラの隣へふわりと現れた。
支払いに使ったのは、新しく置いた白のファクター。これで二枚とも横を向いた。
だが、俺の展開はまだ終わらない。
「では、お支度を始めましょう! 0コスト、《新緑のブローチ》をエラにリンク!」
『リンク』は指定されたエンティティを対象とし、装着して使うカードタイプだ。今回の装着先は、もちろんエラ。
少女の粗末な襟元に、緑の葉をかたどった小さな飾りが留まる。
それだけで、煤けた服の印象がぱっと明るくなった。
「ブローチの効果で、一枚ドロー! リンクが出れば、魔法使いの出番ですわ。こちらでもう一枚!」
カードを順に手札へ加える。
着飾るたび、魔法使いが次の衣装をせっせと運んでくる。これが、【シンデレラリンク】の手札が展開の見た目ほど減らない理由だ。
エラの足元の表示が、『2/2』へと変わった。
「バトルフェイズ! エラ、アタックですわ!」
「二点、そのまま受けるよ」
少女が箒を力強く振るう。
小さな緑の光弾が水面を滑るように走り、シオンのライフが40から38へ削られた。
俺は第二ビルドフェイズでも動かず、ターンを返す。
シオンの二ターン目。静かだった海が、本格的に動き始めた。
二枚を引き、手札の一枚を抜き出す。
「ファクターにセット。1コストで《封印の鍵守》をキャスト」
身の丈ほどの鍵を抱えた番人が、水底から姿を現す。
この鍵守は、裏向きのファクターを1枚表に返すことで、眠ったファクターを2枚までアクティブにできる。シオンの側に、支払いに使ったカードを起こす手段が出る。
「さらに1コストで《灯を呑む深海魚》をキャスト」
今度は、腹に青白い提灯のような灯を透かした魚が泳ぎ出てきた。
基本のサイズは1/3。今のところ、俺のエラとさして変わらない。
ところが、エンドフェイズ。シオンがワールド能力で眠ったファクターを破棄し、新しい一枚を裏向きで置くと、魚の腹の中で青い灯がぽつんと弾けた。
表示が『2/4』へと跳ね上がる。
「海が深くなるほど、お魚も立派に育つんですのね」
「うん。そのうち、そっちの可愛いお姫様も一口で丸呑みだよ」
「まあ。うちの子をそんな野蛮な食卓へお招きした覚えはありませんわ」
シオンは涼しい顔のままターンを返してきた。
相手のファクターは合計三枚。うち二枚がアクティブだ。
俺はドローした二枚を手札の端へ寄せた。
三枚目のファクターを置き、盤面のエラを見上げる。
ブローチひとつでは、夜会へ送り出すには心許ない。
「1コストで《薔薇のコサージュ》をプレイ。エラにリンクいたしますわ」
「ここでエラをバウンスできれば楽なんだけどね……通しだよ」
エラは、相手のカードや能力の対象にならない。リンクの装着に対応して、本人を手札へ戻されたり、除去されたりする心配がないのだ。
衣装そのものを狙われることはあるが、装着先が残りやすいのはありがたい。
その耐性を頼りにリンクを重ね、エラを育て上げる。それが【シンデレラリンク】の真骨頂だ。
魔法使いが杖を振るうと、深紅の薔薇が少女の胸元を飾った。
コサージュは、主人公に装着されるとファクターを2枚まで起こせる。支払いに使ったばかりの一枚と、前のターンから眠っていた一枚を縦に戻した。
魔法使いの誘発も忘れずに処理し、一枚引く。
ここまでは、無事に通る。
「続いて1コストで《硝子の靴》をプレイ。同じくエラにリンクいたしますわ」
「どうぞ」
また一枚、魔法使いが手札を補充してくれる。
少女の擦り切れた靴が光に包まれ、その足元で眩い硝子が輝いた。
【主人公】に指定されたエラは、リンクの修整に加え、装着されたカードの記載コストの合計だけ、パワーとタフネスが上がる。
今は1コストのリンクが二枚で、エラ自身の能力による強化が+2/+2。そこに、ブローチも含めた三枚の衣装の修整が加わる。
頼りなかった『1/1』は、もう『8/9』にまで育っていた。
(さて。こいつ、どこまで待つ気だ?)
俺のファクターは三枚。そのうち、起きているのは一枚だけだ。
エラについているリンクも三枚。
最後のアクティブファクターを寝かせ、次のカードを提示する。
「1コスト、《夜会の世話役》! お支度は、まだまだ続きますわ!」
登場時能力まで通れば、ファクターを三枚、一気に起こせる。
シオンの長い指が、手札の端に触れた。
「……通すよ」
白い手袋を嵌めた世話役が、エラへ恭しく一礼する。
彼が差し出した銀の盆に、三つの光が灯った。
「では、登場時の能力。ファクターを三枚、アクティブにいたしますわ」
横を向いていた札が、すべて起きる。
シオンは、その処理まで黙って見届けた。
ここまで、衣装も魔法使いも通している。世話役まで来て、支払いも戻った。
何も持っていないのか。それとも、止める場所を別に決めているのか。
手札を見直す。
本命のドレスは、まだ来ていない。衣装を足す前に、今のエラを一度走らせよう。
向こうには、鍵守と深海魚。どちらかを差し出すのか、それとも八点を受けるのか。
まずは、それを見せてもらう。
「お待たせしましたわ。バトルフェイズ! エラ、舞台へ!」
8/9まで育ち上がったエラが、硝子の靴で海面へと一歩を踏み出した。
《灰被りの少女、エラ》緑・1F/1C
フェイブルーン/レジェンド・ユニット[エラ]/人間
このユニットは相手のカードや能力の対象にならない。
このユニットが<主人公>であるならば、このユニットは+X/+Xの修整を受ける。Xは、このユニットにリンクしているカードのコストの合計に等しい。
1/1
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彼女はまだ知らない。灰を払ったその手が、やがて奇跡を掴むことを。
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《夜会支度の魔法使い》緑・2F/1C
フェイブルーン/ユニット/ウィッチ
あなたのフィールドにリンクが出たとき、カードを1枚引いてもよい。
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灰を払ったその手に、彼女は一夜限りの魔法を握らせた。
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