おとぎの国のクソデッキ〜ホビアニ世界の転生お嬢様、前世の禁止デッキをぶん回す〜 作:模範的セルフィア市民
「八点、いただくよ」
硝子の靴が海面を叩く。
エラの振るった箒から緑の光が伸び、シオンの前に浮かぶライフ表示を削った。
38から、30。
鍵守も深海魚も、少女の行く手を塞ごうとはしなかった。
「あら、気前のよろしいこと。そのまま頂いてしまいますわよ?」
「今なら、まだ払えるから」
これで十分、と言いたげにシオンが手札を揃える。
さっきまで1/1だった少女が、もう八点パンチだ。普通なら嫌な顔のひとつもするところだろうに、この女はライフを減らしても指の動きが変わらない。
殴れるうちに殴る。こちらとしては、それでいい。
問題は、いつまで殴らせてくれるかだ。
ターンが渡ると、シオンは《潮汐を聴く巫女》をプレイした。薄い衣を水にたなびかせた女が、深海魚の背へ静かに手を添える。
攻撃してきた魚の二点を受け、俺のライフは38。
続いて、鍵守が裏向きの一枚を表へ返し、眠ったファクターを二枚起こす。その二枚でオーダーの《陽の届かぬ王国》をプレイする。
『オーダー』は場所等を表現する、場に残り続けるカードタイプだ。物を表す『レリック』と合わせて置物と呼ばれることが多い。
王国は自分のターン終了時に任意で1枚引き、その後、手札から1枚を裏向き・スリープで置く効果を持つ。ワールド能力による入れ替えとは違い、こちらはファクターの総数まで増える。手札を整えながら足場も広げる、厄介なエンジンだ。
このエンドでは、シオンはワールド能力を使わず、王国で一枚だけを沈めた。
既に置いたファクターは残して、総数を増やす。手札を整える仕事は、今は王国だけで足りるらしい。
深海魚の腹の灯が三つに増え、3/5の表示が浮かぶ。
「巫女の能力。裏向きのファクターを二枚、起こすよ」
ターンを終える相手の前に、起きたファクターが三枚残る。
これでこっちのターンに、ファクターを減らさずに動くことが出来る。
俺のターン、二枚ドローして、二枚目の《夜会支度の魔法使い》をファクターへ置いた。引く役は、今いる一人に任せる。その支払いで二つ目の《薔薇のコサージュ》を留める。
コサージュの効果で支払いに使ったファクターを起こし、魔法使いから次の一枚を受け取る。
そこへ二つ目の《新緑のブローチ》と、《小鳥の祝福》。少女の肩へ舞い降りた小鳥が、胸元の薔薇をつついて鳴いた。
衣装を重ねるたびに手札が補充され、エラの表示は13/15へと変わった。
シオンは、どれも通した。
(だったら、こいつはどうだ)
「1コスト、《誓約の執行者》! 夜会の秩序は、この方にお任せですわ!」
白い衣の男が姿を結びかけた、その瞬間だった。
「2コスト。《深淵への沈没》で打ち消すよ」
足元の水が黒く口を開く。執行者は片足を踏み出すことすらできず、その底へ引きずり込まれた。
新たに裏向きの札が沈み、深海魚の灯がひとつ増える。
やっぱり、こいつは駄目か。
執行者が場にいれば、俺のターン中、相手はアクションをプレイできない。手札にどれだけ妨害を抱えていても、そのほとんどが紙切れになる。
エラの衣装を三枚通してでも、こちらを止める。
ずいぶんと徹底している。
「では、もうお一人! 1コスト、二枚目の《誓約の執行者》ですわ!」
シオンの起きているファクターは、あと一枚。それでも、眠った札を破棄すれば支払いを足せる。
だからこそ、今ここで払わせたい。
「1コスト。《浮上の阻止》。ユニットの登場を打ち消すよ」
残る一枚が横を向いた。二人目の執行者も、そのまま青い光に呑まれる。
二枚とも墓地。
だが、そのぶん妨害札は使わせた。起きたファクターも、これでなくなった。
「あらあら。二通続けて、お断りですの?」
「その人が来ると、私が何も言えなくなるからね」
「お静かな夜会も、風情がありましてよ」
言いながらバトルフェイズへ進み、エラを横へ向ける。
今度は十三点。
シオンは魚を差し出さず、それも自分のライフで受けた。
残り17。
まだドレスを着ていない少女が、相手のライフを半分以上削り取っている。
その返しに、海から鎖の音がした。
まず、シオンは0コストの《魔力の結晶化》をプレイする。
使ったカードそのものが、表向きのアクティブファクターになる。どのデッキにも入れることができる無色のカードだ。
続いて《鎖眠の海獣》。今増やした一枚を寝かせ、以前から眠っていた表向きの一枚を破棄して、2コストを払った。
太い鎖を引きずる獣が這い上がり、世話役へ顎を向ける。さらに裏向きの一枚を破棄し、その能力を起動した。
「世話役をスリープに。次のスタートでも起きないよ」
続いて深海魚と巫女が動いた。
エラは攻撃を終え、横を向いている。世話役も動けない。
魚の四点と巫女の三点。ここは七点を受け、俺のライフは31になった。
エンドには王国で一枚を沈め、巫女が海底の札を起こした。魚の腹に並ぶ灯は、五つになった。
次の自分のターン。今回も二枚引き、俺は手札から白いカードを抜いた。
「お待たせしましたわ! リンクは二枚以上。2コスト、《星織りの舞踏服》をエラに!」
「通すよ」
シオンの声と同時に、エラの服の縫い目から白い光が溢れた。
煤けた布がほどけ、裾へ星の粒が流れ込んでいく。二輪の薔薇も、緑のブローチも、そのまま新しい胸元へ収まった。
エラが片手で裾を持ち、恐る恐る一歩を踏み出す。
海面に、星空が映った。
19/21。
相手のユニットより先にダメージを与える"加速"。そして、与えたダメージ分だけその名の通り回復する"回復"。
「バトルフェイズ! エラ、そのドレスをお披露目ですわ!」
「海獣でブロック」
鎖を振り回す巨体へ、エラが走る。
相手が爪を上げるより早く、白い光が突き抜けた。"加速"による一撃。十九点を叩き込まれた海獣は、反撃する間もなく崩れた。
そして、俺のライフ表示が跳ね上がる。
31から、50へ。
「うおっ、四十超えたぞ! 殴ったぶん、全部戻ってくんのかよ!」
レッカが声を上げる。
いい反応だ。やっぱりデカい数字は健康にいい。
相手のライフへ届かなくても、戦闘ダメージさえ与えれば回復する。海獣のタフネスぶんで止まるわけでもない。十九点殴ったなら、こちらは十九点いただける。
返しのターン、シオンは魚と巫女を前へ出した。
エラは攻撃を終え、横を向いている。世話役も、まだ鎖に捕まったままだ。
魚の五点と、巫女の三点。合わせて八点を受け、俺のライフは42へ落ちる。
鍵守だけは向こうに残った。次のエラの攻撃を、自分のライフで受ける気はないらしい。
それでも、こちらは攻める手を緩めない。
次の俺のターン、19/21のエラが走る。その攻撃を受けたのは、あの大きな鍵を持つ番人だ。
鍵が砕け、俺のライフは61へ。
ターンの終わりに、手札から《姫を探す王子》を捨てた。七枚に収めるためだ。エラはもう場にいて、衣装もある。今は、攻撃を通す札を残したい。
シオンは返しのターンに二体目の深海魚と、新たな鍵守を出してきた。先にいた魚と巫女は、また攻撃へ出てくる。
六点の魚を、ようやく起きた世話役で受け止めた。巫女の三点は通し、ライフは58。
次の俺のターン、ようやく目当ての札が来た。
「1コスト、《カボチャの馬車》! さあ、夜会へ参りましょう!」
「《封印の否定》。それは通せない」
裏向きの札が一枚、表に返った。馬車の車輪は、回り始める前に青い光へ消える。
エラにリンクが3枚以上ついているなら、バトルフェイズ中に相手はカードをプレイできない。馬車さえあれば、あの手札を気にせず殴れる。
だから、執行者と同じように止めた。
通らないものは仕方がない。バトルフェイズに移り、そのままエラで攻撃する。
新しい鍵守がそれを受け、十九点を取り戻して77になった。
表示を見たレッカが、目を丸くする。
「開始時の倍近くあるじゃねえか! これなら多少食らっても、押し切れんだろ!」
「多少ならね」
リツの返事は短かった。
視線は俺のライフではなく、海の下へ並ぶ札を追っている。
俺も、そちらを見ていた。
魚は毎ターン育っている。こっちが十九点ずつ取り戻しても、次に噛まれる傷は前より深い。
向こうは、まだ17。自分に通る攻撃だけを止めながら、こちらのライフを削っている。
一匹目の傍らでは、二匹目の深海魚まで育ち始めていた。
その返し、シオンは魚二匹と巫女を、まとめて走らせた。
大きいほうの魚は7/9。小さいほうは2/4で、巫女は3/5。
<クイック>の《夜会の案内妖精》を0コストで出して、ファクターを起こしながら大きい魚へ当てる。
小さい魚は、魔法使いで受ける。1/3なら、二点を受けても倒れない。
巫女の三点だけを通し、ライフは74。
妖精は、最後に大きな口の前へ立って消えた。
そのエンドには、シオンが再び《ネレヴァス》の効果を使った。眠った表向きの札を破棄して一枚引き、手札から一枚を裏向きで置く。続いて王国でも一枚を沈め、二匹の腹に灯が二つずつ増えた。
《硝子の靴》緑・2F/1C
フェイブルーン/リンク
あなたのユニット1体にリンクする。
リンク先のユニットは+2/+3の修整を受け、"速攻"を持つ。
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どこへ行きたいか、初めて自分で決めた。その一歩に、硝子が鳴った。
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