おとぎの国のクソデッキ〜ホビアニ世界の転生お嬢様、前世の禁止デッキをぶん回す〜   作:模範的セルフィア市民

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《深海の夜明け》②

 

「八点、いただくよ」

 

 硝子の靴が海面を叩く。

 エラの振るった箒から緑の光が伸び、シオンの前に浮かぶライフ表示を削った。

 38から、30。

 鍵守も深海魚も、少女の行く手を塞ごうとはしなかった。

 

「あら、気前のよろしいこと。そのまま頂いてしまいますわよ?」

「今なら、まだ払えるから」

 

 これで十分、と言いたげにシオンが手札を揃える。

 さっきまで1/1だった少女が、もう八点パンチだ。普通なら嫌な顔のひとつもするところだろうに、この女はライフを減らしても指の動きが変わらない。

 殴れるうちに殴る。こちらとしては、それでいい。

 問題は、いつまで殴らせてくれるかだ。

 

 ターンが渡ると、シオンは《潮汐を聴く巫女》をプレイした。薄い衣を水にたなびかせた女が、深海魚の背へ静かに手を添える。

 攻撃してきた魚の二点を受け、俺のライフは38。

 続いて、鍵守が裏向きの一枚を表へ返し、眠ったファクターを二枚起こす。その二枚でオーダーの《陽の届かぬ王国》をプレイする。

 『オーダー』は場所等を表現する、場に残り続けるカードタイプだ。物を表す『レリック』と合わせて置物と呼ばれることが多い。

 

 王国は自分のターン終了時に任意で1枚引き、その後、手札から1枚を裏向き・スリープで置く効果を持つ。ワールド能力による入れ替えとは違い、こちらはファクターの総数まで増える。手札を整えながら足場も広げる、厄介なエンジンだ。

 このエンドでは、シオンはワールド能力を使わず、王国で一枚だけを沈めた。

 既に置いたファクターは残して、総数を増やす。手札を整える仕事は、今は王国だけで足りるらしい。

 深海魚の腹の灯が三つに増え、3/5の表示が浮かぶ。

 

「巫女の能力。裏向きのファクターを二枚、起こすよ」

 

 ターンを終える相手の前に、起きたファクターが三枚残る。

 これでこっちのターンに、ファクターを減らさずに動くことが出来る。

 

 俺のターン、二枚ドローして、二枚目の《夜会支度の魔法使い》をファクターへ置いた。引く役は、今いる一人に任せる。その支払いで二つ目の《薔薇のコサージュ》を留める。

 コサージュの効果で支払いに使ったファクターを起こし、魔法使いから次の一枚を受け取る。

 そこへ二つ目の《新緑のブローチ》と、《小鳥の祝福》。少女の肩へ舞い降りた小鳥が、胸元の薔薇をつついて鳴いた。

 衣装を重ねるたびに手札が補充され、エラの表示は13/15へと変わった。

 シオンは、どれも通した。

 

(だったら、こいつはどうだ)

 

「1コスト、《誓約の執行者》! 夜会の秩序は、この方にお任せですわ!」

 

 白い衣の男が姿を結びかけた、その瞬間だった。

 

「2コスト。《深淵への沈没》で打ち消すよ」

 

 足元の水が黒く口を開く。執行者は片足を踏み出すことすらできず、その底へ引きずり込まれた。

 新たに裏向きの札が沈み、深海魚の灯がひとつ増える。

 やっぱり、こいつは駄目か。

 執行者が場にいれば、俺のターン中、相手はアクションをプレイできない。手札にどれだけ妨害を抱えていても、そのほとんどが紙切れになる。

 エラの衣装を三枚通してでも、こちらを止める。

 ずいぶんと徹底している。

 

「では、もうお一人! 1コスト、二枚目の《誓約の執行者》ですわ!」

 

 シオンの起きているファクターは、あと一枚。それでも、眠った札を破棄すれば支払いを足せる。

 だからこそ、今ここで払わせたい。

 

「1コスト。《浮上の阻止》。ユニットの登場を打ち消すよ」

 

 残る一枚が横を向いた。二人目の執行者も、そのまま青い光に呑まれる。

 二枚とも墓地。

 だが、そのぶん妨害札は使わせた。起きたファクターも、これでなくなった。

 

「あらあら。二通続けて、お断りですの?」

「その人が来ると、私が何も言えなくなるからね」

「お静かな夜会も、風情がありましてよ」

 

 言いながらバトルフェイズへ進み、エラを横へ向ける。

 今度は十三点。

 シオンは魚を差し出さず、それも自分のライフで受けた。

 残り17。

 まだドレスを着ていない少女が、相手のライフを半分以上削り取っている。

 

 その返しに、海から鎖の音がした。

 まず、シオンは0コストの《魔力の結晶化》をプレイする。

 使ったカードそのものが、表向きのアクティブファクターになる。どのデッキにも入れることができる無色のカードだ。

 続いて《鎖眠の海獣》。今増やした一枚を寝かせ、以前から眠っていた表向きの一枚を破棄して、2コストを払った。

 太い鎖を引きずる獣が這い上がり、世話役へ顎を向ける。さらに裏向きの一枚を破棄し、その能力を起動した。

 

「世話役をスリープに。次のスタートでも起きないよ」

 

 続いて深海魚と巫女が動いた。

 エラは攻撃を終え、横を向いている。世話役も動けない。

 魚の四点と巫女の三点。ここは七点を受け、俺のライフは31になった。

 エンドには王国で一枚を沈め、巫女が海底の札を起こした。魚の腹に並ぶ灯は、五つになった。

 

 次の自分のターン。今回も二枚引き、俺は手札から白いカードを抜いた。

 

「お待たせしましたわ! リンクは二枚以上。2コスト、《星織りの舞踏服》をエラに!」

「通すよ」

 

 シオンの声と同時に、エラの服の縫い目から白い光が溢れた。

 煤けた布がほどけ、裾へ星の粒が流れ込んでいく。二輪の薔薇も、緑のブローチも、そのまま新しい胸元へ収まった。

 エラが片手で裾を持ち、恐る恐る一歩を踏み出す。

 海面に、星空が映った。

 19/21。

 相手のユニットより先にダメージを与える"加速"。そして、与えたダメージ分だけその名の通り回復する"回復"。

 

「バトルフェイズ! エラ、そのドレスをお披露目ですわ!」

「海獣でブロック」

 

 鎖を振り回す巨体へ、エラが走る。

 相手が爪を上げるより早く、白い光が突き抜けた。"加速"による一撃。十九点を叩き込まれた海獣は、反撃する間もなく崩れた。

 そして、俺のライフ表示が跳ね上がる。

 31から、50へ。

 

「うおっ、四十超えたぞ! 殴ったぶん、全部戻ってくんのかよ!」

 

 レッカが声を上げる。

 いい反応だ。やっぱりデカい数字は健康にいい。

 相手のライフへ届かなくても、戦闘ダメージさえ与えれば回復する。海獣のタフネスぶんで止まるわけでもない。十九点殴ったなら、こちらは十九点いただける。

 

 返しのターン、シオンは魚と巫女を前へ出した。

 エラは攻撃を終え、横を向いている。世話役も、まだ鎖に捕まったままだ。

 魚の五点と、巫女の三点。合わせて八点を受け、俺のライフは42へ落ちる。

 鍵守だけは向こうに残った。次のエラの攻撃を、自分のライフで受ける気はないらしい。

 

 それでも、こちらは攻める手を緩めない。

 次の俺のターン、19/21のエラが走る。その攻撃を受けたのは、あの大きな鍵を持つ番人だ。

 鍵が砕け、俺のライフは61へ。

 ターンの終わりに、手札から《姫を探す王子》を捨てた。七枚に収めるためだ。エラはもう場にいて、衣装もある。今は、攻撃を通す札を残したい。

 シオンは返しのターンに二体目の深海魚と、新たな鍵守を出してきた。先にいた魚と巫女は、また攻撃へ出てくる。

 六点の魚を、ようやく起きた世話役で受け止めた。巫女の三点は通し、ライフは58。

 次の俺のターン、ようやく目当ての札が来た。

 

「1コスト、《カボチャの馬車》! さあ、夜会へ参りましょう!」

「《封印の否定》。それは通せない」

 

 裏向きの札が一枚、表に返った。馬車の車輪は、回り始める前に青い光へ消える。

 エラにリンクが3枚以上ついているなら、バトルフェイズ中に相手はカードをプレイできない。馬車さえあれば、あの手札を気にせず殴れる。

 だから、執行者と同じように止めた。

 通らないものは仕方がない。バトルフェイズに移り、そのままエラで攻撃する。

 新しい鍵守がそれを受け、十九点を取り戻して77になった。

 表示を見たレッカが、目を丸くする。

 

「開始時の倍近くあるじゃねえか! これなら多少食らっても、押し切れんだろ!」

「多少ならね」

 

 リツの返事は短かった。

 視線は俺のライフではなく、海の下へ並ぶ札を追っている。

 俺も、そちらを見ていた。

 魚は毎ターン育っている。こっちが十九点ずつ取り戻しても、次に噛まれる傷は前より深い。

 向こうは、まだ17。自分に通る攻撃だけを止めながら、こちらのライフを削っている。

 一匹目の傍らでは、二匹目の深海魚まで育ち始めていた。

 

 その返し、シオンは魚二匹と巫女を、まとめて走らせた。

 大きいほうの魚は7/9。小さいほうは2/4で、巫女は3/5。

 <クイック>の《夜会の案内妖精》を0コストで出して、ファクターを起こしながら大きい魚へ当てる。

 小さい魚は、魔法使いで受ける。1/3なら、二点を受けても倒れない。

 巫女の三点だけを通し、ライフは74。

 妖精は、最後に大きな口の前へ立って消えた。

 そのエンドには、シオンが再び《ネレヴァス》の効果を使った。眠った表向きの札を破棄して一枚引き、手札から一枚を裏向きで置く。続いて王国でも一枚を沈め、二匹の腹に灯が二つずつ増えた。

 





 《硝子の靴》緑・2F/1C
 フェイブルーン/リンク
 あなたのユニット1体にリンクする。
 リンク先のユニットは+2/+3の修整を受け、"速攻"を持つ。
 ―
 どこへ行きたいか、初めて自分で決めた。その一歩に、硝子が鳴った。
 
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