おとぎの国のクソデッキ〜ホビアニ世界の転生お嬢様、前世の禁止デッキをぶん回す〜 作:模範的セルフィア市民
次のターンも二枚引き、手札のティアラをファクターへ置いた。今は衣装にするより、アクティブを残す。二体目の案内妖精も出し、ファクターを一枚起こした。
その攻撃で、シオンが新しい札を見せた。
「《深海の静寂》。このターン、私に与えられる戦闘ダメージを0にする」
箒から伸びた光が、水面へ触れてほどけた。
ブロッカーは出てこない。攻撃はシオンへ届いたはずなのに、ライフ表示は動かなかった。
ダメージを与えられなければ、こちらの回復もない。
軽減したあとの効果で、山札から新たな一枚が海底へ沈んだ。
俺は口の端を上げた。
「まあ、回復まで取り上げますの? お魚には、あんなに食べさせているくせに」
「これ以上増えると、減らすほうも大変だから」
シオンは通常ドローを一枚に絞った。返しの攻撃は、また三体で来た。
静寂で沈めた札でも魚が育ち、大きいほうは10/12、小さいほうは5/7になっている。
俺はもう一度案内妖精を出し、大きい魚を止めた。残る魚と巫女の八点を受け、ライフは66へ。
さっきは三点。今度は八点。
小さな盾を一枚ずつ差し出しても、止めきれないぶんは増えていく。
次のターン、俺は白い足飾りの札を抜いた。
「1コスト。《舞踏会のアンクレット》を、エラに」
細い鎖が足首へ巻きつき、ドレスの裾で小さく揺れる。
エラ自身の能力と合わせて、+3/+3。表示は22/24になった。
魔法使いから一枚を受け取り、そのままバトルへ進む。
「エラ、アタックですわ!」
今度は、クイックの《海溝の門番》が出てきた。登場時の能力で一枚を沈め、その巨体がエラの前へ立つ。
二十二点の一撃で門番が砕け、俺のライフは88まで増えた。
そして、エラの札は縦のまま残った。
このターンの手札調整では、余ったティアラを一枚、墓地へ送った。
「おっ、殴っても寝ねえ! 今度はあのエラで受けられんじゃねえか!」
「そう。アンクレットの"警護"だ。あのエラを越えられなければ、攻めるほどメイさんが回復する」
リツの言葉どおり、返しのターンにシオンの攻撃が止まった。
魚二匹と巫女で来ても、一番大きい魚をエラで受ければいい。加速で先に倒し、こちらは二十二点回復する。残りの二体から受ける十点より、戻るぶんのほうが多い。
エラを寝かせることもできない。海獣のように相手のユニットを選ぶ能力は、主人公の対象耐性に阻まれる。
シオンは魚を前へ出さず、王国で次の札を沈めた。
シオンは手札が整うと、通常ドローを一枚に抑え、《ネレヴァス》の入れ替えも休むようになった。王国で一枚ずつ増やし、巫女で使った札を起こす。通常のファクター配置も見送り、返すための札を手元に残す。
引けるだけ引けばいい、というデッキではない。ワールドと王国で毎ターン掘り続ければ、こちらを倒す前に山札が尽きることもある。手札だけでなく、薄くなる山札まで見ている。
俺は二枚ずつ引き続けた。《カボチャの馬車》か、相手の返しを封じる札が欲しい。余ったリンクを捨てることになっても、探しに行く。衣装を抱えたまま、あの十七点を眺め続ける気はない。
眠ったファクターを燃やせば、支払いは作れる。だからといって、先の足場まで使い切るわけにはいかない。
シオンは、まだ17。
次に引いたのは、三つ目の《新緑のブローチ》だった。
胸元へ留め、ブローチの能力で一枚引く。待っていた札だった。
「《運命を結ぶリボン》をリンク! これでエラは"貫通"を得ますわ。小さな盾では止まりませんことよ!」
衣装を重ね、表示は27/29へ。
リボンはさらに上から五枚を見て、フェイブルーンのユニットを手札に加えることが出来る優秀なカードだ。
ホルダーから五枚のカードが飛び出し、俺の目の前に浮かぶ。
(……げ)
しかし、この上から五枚が問題だった。
《舞踏会の静寂》、《屋根裏の小さな猫》、《カボチャの馬車》、《誓約の執行者》、そしてもう一枚のリボン。
静寂を含む三枚が、ここで今必要な妨害札。
そのいずれもが、手札に加えることが出来ない。
執行者はユニットではあるが、コンコルディアのカードであるため、リボンの対象外。
そして、リボンの効果解決後にこれらのカードは好きな順番で山札の下に置く。
つまり、今一番必要なカードがまとめて山札の下に行ってしまうということだ。
ひとまず、回収できる《屋根裏の小さな猫》を手札へ加えた。令嬢らしい笑顔を浮かべて、なんとか平静を保つ。
数巡前に、山札を探すことが出来る王子を捨ててしまったのが悔やまれる。
魔法使いの追加ドローは、ここでは見送った。焦ってドローをすれば、今送ったカードの中身が透けかねない。
平静を装いながら、《屋根裏の小さな猫》を出す。上から二枚を見て、一枚は手札、もう一枚はファクターへ。
猫は優秀な緑の初動札だ。能力に一ターンに一度の制約はあるが、手札を減らさずにファクターを増やした上で、ユニットとしても残る。
先ほど下に送ったせいでやはり妨害札は無い。そのままバトルフェイズに進む。
とはいえ、リボンのおかげでブロッカーを倒した余りのダメージを通せる。タフネス10までなら、残りのライフ17を削り切れる計算だ。
「バトルフェイズ! エラ、そのまま突き抜けなさい!」
「もう、小さいのを差し出すだけじゃ止まらないね。二枚目の《深海の静寂》。戦闘ダメージは受けないよ」
通らなかったものは仕方がない。終わりに、重なっていた舞踏服を二枚捨てる。
返しのターン、シオンは動かない。次のターンの攻撃は、三枚目の《深海の静寂》に止められた。
エラは立ったまま。シオンも、じっと動かず手札を整えて裏向きのファクターを増やしていく。
こちらは88、向こうは17。ライフ表示は動かなくなった。
その間も、海の底には札が増えていく。
さらにターンが巡ると、シオンが見逃せないカードをプレイした。
「1コスト。《深海探査》をプレイ」
一枚引いたあと、その指が裏向きのファクターへ伸びる。
俺は、選ばれた二枚の位置を目で追った。どちらも、序盤に手札から沈められた札だ。
二枚が手札へ戻り、代わりの二枚が海へ伏せられる。横向きに並んだ札の上で、二匹の腹に灯がひとつずつ増えた。
続いて、シオンは手札から二枚を並べた。
「《深海に潜むもの》を、二体」
それぞれ7/7。
十分に深くなった海から、その巨体はコストを要求することもなく浮かび上がってきた。
二体の影が、エラの足元の星明かりを覆う。
シオンは山札を一度見て、そのまま手札を揃えた。
ターンの終わりも、ワールドは使わず、王国だけで一枚引いて一枚を沈める。山札を掘る必要はないらしい。
俺のターン。
引いた二枚を確かめても、すぐにはエラへ手を伸ばさなかった。
「おい、ここは殴らねえのか?」
レッカの問いに、リツが二体の影を指す。
「ウツボ二体で受ければ、十三点。シオンさんのライフは十七だ」
「十三点入るなら、次でもう一発だろ?」
「次も同じように殴れればね」
そういうことだ。
シオンは小さなブロッカーを並べるのをやめ、手札を残したまま、こちらの攻撃を待っている。
「さっきの《深海探査》。シオンさんは、序盤に置いた二枚を拾った」
「ああ。でも、裏向きじゃ何を拾ったか分かんねえだろ?」
「こちらにはね。あの二枚は、自分の手札から伏せた札だ。何をどこに置いたか覚えていれば、欲しい札を選んで戻せる」
「あんだけ並べて、場所まで覚えてんのかよ」
「少なくとも、選ぶ指に迷いはなかったね。必要な札を取りにいったと考えるべきだ」
回収した札の中身は、俺にも見えない。
だが、今わざわざ手札へ戻した二枚だ。思い浮かべずにはいられない一枚がある。
《ネレヴァスの潮流》。
裏向きのファクターを好きな枚数表に返し、その枚数ぶん、攻撃中のユニットを相手に選ばせて手札へ戻す防御札だ。
戻すユニットを選ぶのは、こちら。エラを対象に取る必要がない。
エラの対象耐性では防げない。攻撃へ出れば、衣装ごと舞台を降ろされる。
7/7が一体だけなら、貫通で二十点。だが、二体を並べて受けられれば、通るのは十三点だ。
そのうえ、潮流まで構えられているかもしれない。衣装を全部失ってまで、試す場面ではない。
俺は手札の端を親指で押し揃えた。
シオンと目が合う。
「どうしたの。今、十七点だよ」
「ええ。ずいぶん長く、見せつけられておりますもの」
あそこまで削ってから、もう何ターン同じ数字を見せられている。よくもまあ、そんな涼しい顔で残しておけるものだ。
俺はエラを縦に向けたまま、引いた二枚の内の一枚を抜き出した。
《誓約の執行者》白・2F/1C
コンコルディア/ユニット/人間
あなたのターン中、相手はアクションをプレイできない。
2/2
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誓約の最後の一行には、沈黙が定められていた。
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《深海探査》青・1F/1C
ネレヴァス/アクション
カードを1枚引く。
あなたの裏向きのファクターを2枚まで選び、手札に加える。その後、この効果で手札に加えた枚数と同じ枚数のカードをあなたの手札から選び、裏向き・スリープ状態であなたのファクターエリアに置く。
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海底からひとつの答えを持ち帰り、誰にも言えない秘密を残した。
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《深淵への沈没》青・2F/2C
ネレヴァス/アクション
<クイック>
ソース1つを対象とし、それを打ち消す。この効果で打ち消したカードのCが1以下ならば、あなたのデッキの一番上のカードを、裏向き・スリープ状態であなたのファクターエリアに置いてもよい。
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呪文は届かなかった。その残響だけが、海底に積もった。
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