ISクロスGS ザ・グレート・ゲーム 【IS世界に横島忠夫を放り込んでみた】 作:監督
「IS学園……六道女学園みたいなもんか」
横島忠夫は、そう呟いた。
テーブルの上には、冷めかけたコーヒーと、食べ終わったシリアルの器。
朝食というには味気ないが、話し合いの場としては、妙に生活感があった。
織斑千冬は、聞き慣れない単語に眉を動かす。
「なんだ。お前の世界にも、似たような学校があったのか?」
「ああ。GSのエリート教育なんて、いやなもん施す学校でさ」
「いやなもの、ということはないだろう」
千冬は呆れ半分に言った。
昨日からの短い付き合いでも、横島がもともと真面目な修行者ではなかったことは分かっている。
GS――ゴーストスイーパーという、霊障を扱う職業に就いていながら、本人はどうにも現場で叩き上げられた匂いが強い。
学校で体系的に学ぶという言葉に、苦々しい顔をするのも当然なのだろう。
横島は、濃いエスプレッソを気管に入れてしまったような顔をしていた。
「いや、エリートって響きがもう嫌なんだよ。どこの世界で聞いてもおもしろくねえ」
「馬鹿たれ」
千冬は軽く睨む。
「私は、そこに勤めてもらいたいと言っているんだぞ」
「でも俺、IS関連の知識なんて皆無だぜ?」
「そこはこれから覚えてくれればいい。ISと、お前の持つ力。それが百パーセント融通の利くものかどうかも分からんしな」
「そりゃ、そうだ」
「結局のところ、退魔技術とIS技術のすり合わせがどこまで出来るのか。そこは束でないと分からん」
千冬は淡々と言った。
だが、声音の奥には焦りがある。
横島にも、それは分かった。
昨日のガーゴイル戦。
DDという、この世界には本来存在しなかったはずの怪物。
通常兵器では対処しきれない相手に対し、ISだけが実用的な戦力となっている現状。
そこへ、横島が現れた。
霊力を扱える。
悪霊や妖怪、魔族と戦ってきた経験がある。
そして何より、彼の世界には「退魔」の技術体系がある。
この世界の人間にとっては、喉から手が出るほど欲しいものだろう。
「……あの、いいでしょうか。千冬さん?」
おずおずと声を上げたのは、山田真耶だった。
先ほど横島に飛びかかられかけ、千冬の雪片が横島の首筋を捉えるという光景を目の当たりにしたばかりである。
まだ腰が引けているのも無理はなかった。
それでも、彼女は千冬と横島を交互に見て、勇気を出したように口を開く。
「お前の世界、とか、退魔技術とか、IS学園に勤めるとか……どういうことですか? そもそも男性がISを取り扱うなんて、不可能なんじゃあ……」
「ああ、すまない真耶」
千冬は頬に手を当てて、少し考え込んだ。
説明すべきことが多すぎる。
横島が別世界から来たこと。
霊力という概念。
文珠。
栄光の手。
DDと、横島の世界における妖怪・悪魔の類似。
そして、横島にIS学園で協力してもらうという構想。
順を追って話せばよい。
本来ならば、それが一番真耶には分かりやすい。
彼女は決して頭が悪いわけではない。
むしろ、丁寧に説明すれば真面目に理解しようとする人間だ。
だが、千冬はしばらく唸った後、短く息を吐いた。
「論より証拠だな」
竹を割ったような性格の彼女は、まどろっこしい説明を好まない。
千冬は横島を見る。
「横島。栄光の手を見せてやってくれないか」
「ここで?」
「ここでだ」
「暴発したら怒る?」
「暴発させるな」
「ですよねー」
横島は肩をすくめると、右手を軽く振った。
空気が変わった。
真耶にも、それは分かった。
部屋の温度が下がったわけではない。
風が吹いたわけでもない。
だが、確かに何かが横島の周囲に集まっていく。
光。
いや、光に似たもの。
横島の手から溢れた黄金色の輝きが、指先から手首、肘へと広がっていく。
それはやがて、腕を覆う手甲のような形を取り、さらに伸びて、一振りの剣へと変化した。
霊力を物質化した、変幻自在の武器。
栄光の手。
真耶は目を見開いた。
「……ふええ〜」
声が漏れる。
「信じられないですけど、信じなきゃいけないっていうか、もう信じざるを得ないっていうか!」
真耶は興奮していた。
その少し舌っ足らずな声で「すごいです」と何度も繰り返しながら、横島の周りをあちらこちらへ回る。
まるで子犬のように跳ね回るせいで、実年齢より幼く見えた。
横島は、臆面もなくその賛辞を受け取る。
「いやあ、はっはっは。そんなお褒めの言葉なんかいりませんよ」
「え?」
「こう、ぶちゅぅぅぅぅぅーっと、ささやかな口づけをがっちりいただければそれで! さあ今すぐ、二人初めての共同作業をいたしませんか真耶さんんん――!」
「へ、あ、あの、その、あのっ?!」
「少しは懲りるということを覚えんか、貴様はっ!」
千冬の拳が残像を残して横島の横っ面を張り飛ばした。
横島は部屋の隅まで吹っ飛び、壁に激突し、ずるずると落ちる。
真耶は目を白黒させた。
普通なら、今ので人が一人再起不能になっていてもおかしくない。
だが横島は、数秒後にはむくりと起き上がった。
「いてて……。いやあ、いい拳だねえ。愛がこもってる」
「次は殺意をこめる」
「すいませんでした」
真耶は、どう反応していいのか分からなかった。
他世界。
霊力という高エネルギー体の物質化。
男性がIS学園に勤めるかもしれないという話。
そして、節操のない素早いアタック。
驚きが連続しすぎている。
人間、理解が追いつかない時は、いっそ思考停止した方が楽になる。
真耶は今、それを体感していた。
「……で、だ」
千冬はこめかみを押さえながら言う。
「私の同僚に手を出すのはやめてもらうとして」
「えー」
「えー、じゃないっ!」
千冬がテーブルを叩いた。
コーヒーカップが跳ね、少し中身がこぼれる。
「あわわっ」
真耶が慌てて布巾を取り、こぼれたコーヒーを拭き取った。
千冬はそれにも気づかず、しばらく横島を睨みつける。
やがて、深い溜息をついた。
「もういい。話が進まん」
「俺のせいみたいに言うなよ」
「お前のせいだ」
「はい」
横島は素直に座り直した。
千冬はまぶたを閉じ、椅子の背にもたれる。
ほとほと疲れた、という態度だった。
真耶は少し驚いた。
彼女の知る織斑千冬は、常に背筋を伸ばし、冷静で、隙がない。
それが、横島が来てからずいぶん表情を崩している。
疲れている。
呆れている。
だが、どこか楽しそうにも見える。
そんなことを言えば千冬の機嫌が悪くなるのは分かっていたので、真耶は黙って新しいコーヒーを用意することにした。
横島は、そんな真耶と入れ替わるように口を開く。
「そーいやさっき、真耶ちゃんが言ってたけどさ」
「ん?」
「ISは女性しか取り扱えないって、どういうこと?」
「ああ、それか」
千冬はまた考え込んだ。
これもまた、説明が難しい。
一般向けの説明なら簡単だ。
ISは女性にしか反応しない。
男性には起動できない。
だが、横島にそれで通じるとは思えない。
彼は霊力を扱う。
現象の奥にあるものを、おそらく感覚で見てしまう。
千冬が言葉を選ぼうとした、その時だった。
ドアが開いた。
「やぁやぁ。そこから先は、この束さんが話しちゃおうかな〜」
篠ノ之束が現れた。
遅れて来たことなど、まるで気にしていない。
昨日とは違う服装だったが、頭上のウサギ耳状マニピュレーターは変わらない。主の上機嫌を示すように、くるくると回っていた。
「……遅いぞ、束。何時だと思っている」
「いや〜、準備が終わんなくて。そのせいで昨日ぶりだね〜、ちーちゃん。さあ、ハグハグしよう! 愛を確かめ――」
「愛を確かめるのなら、この不肖横島と旅立ちませんか束さんっ!」
「だからそれはもういいと言ってるだろうがっ!」
横島は、今度はISの簡易アームで床へ叩きつけられた。
束はそれを見て、けらけら笑う。
「ごめんね〜、よこっち。愛しの実験対象よ〜。私にはすでに、ちーちゃんという想い人がいるのさ〜」
ね、と束は悪びれもせず千冬へウインクする。
千冬は半ばどうでもよくなっていた。
机に突っ伏す。
「……そうか。じゃあ束、横島にISの件を説明してくれるか。真耶、新しいコーヒーをくれ……」
「あ、はいっ」
一瞬遅れて返事をした真耶は、千冬の弱った姿に面食らっていた。
だが同時に、少し頬を赤らめる。
普段見られない千冬の姿は、これはこれで貴重だった。
◇
「ISを女性しか起動できない理由は、実のところ簡単なのさ〜」
束は椅子に座るなり、楽しげに言った。
「ISコアを起動するための、起動容量が足りないだけ」
「起動容量?」
横島が首を傾げる。
「電圧みたいなもの、というか……んー、昨日よこっちの栄光の手は見たよね?」
「ああ」
「端的に言うと、あれより深度の高いものを取り出したのが、ISのコアなんだよね〜」
「ごめん、わけが分からん」
横島は即答した。
千冬も、真耶も、少し頷く。
無理もない。
この場でISコアを正確に理解しているのは、開発者である束だけだ。
千冬でさえ、経験と勘から大まかな推測を持っているに過ぎない。
束は唇を尖らせる。
「せめて、ちーちゃんには理解してほしかったなあ」
「大体は分かる。だが、私が予想しているものと、お前が言っているものが同じとは限らん」
「真耶ちゃんは?」
「え、あの……感覚的には、少しだけ。でも、説明できるほどでは……」
「そこの予備一号君の意見はど〜でもいいんだけどさ」
束は真耶を見もせずに言った。
真耶の表情が、ほんの少しだけ曇る。
「またお前は……!」
千冬が声を強める。
「いいんですよ、千冬さん」
真耶は、寂しさを誤魔化すように笑った。
「私は本当に、予備のパイロットみたいなものですから」
「真耶」
「大丈夫です」
大丈夫ではなさそうだった。
だが真耶は笑っている。
束は、その空気を気にした様子もなく続けた。
「説明するにはまず、ISコアがどういうものか話さないといけないんだけど〜」
そこで、束は横島を見た。
「よこっち。この話ってさあ、一応この世界での最高機密なわけなのだよ〜」
「聞いたら後には戻れないってか?」
「お〜。理解が早くて助かるよ〜」
束は指を鳴らした。
「でも、この話を聞いちゃったら、ここから逃げ出したくなるかもしんないよ? それでもいいの? よこっちがコーヒー吐いても、束さん片付けないよ?」
「……まあ、後も先も、俺はこの世界にいる限りどーしようもねーし」
横島は少し考えた。
逃げる。
それは横島にとって、決して悪い選択ではない。
むしろ生存戦略としては正しい。無理な戦いからは逃げる。勝てない相手には距離を取る。美神に怒られなければ、基本的にはそうしたい。
だが、今は違う。
この世界に放り出され、戻る手段も見つからない。
千冬や束の協力がなければ、身分も住む場所もない。
それに。
昨日、ガーゴイルを見た。
千冬がそれを斬る姿を見た。
この世界の人々が、何を相手にしているのか、少しだけ見た。
なら、聞かないという選択はない。
「それより、二人はどうなの?」
横島は千冬と真耶を見る。
束が最高機密だというなら、聞く者にも覚悟が必要なのだろう。
千冬は黙したまま頷いた。
だが、真耶は違った。
彼女は静かに席を立つ。
「私は……聞きたくありません」
「真耶」
「ごめんなさい、千冬さん」
真耶は千冬を見た。
言葉を探すように、深呼吸する。
「千冬さんがおっしゃるように、ISコアが何なのか、感覚的に……想像できる部分はあります。だけど、それが事実だと分かってしまえば、開発者の束さんに肯定されてしまえば……」
真耶の指先が、わずかに震えていた。
「ISを使うのに、迷いが生まれてしまいそうで。もしかすると、生徒たちにも、ISのことを教えられなくなりそうですから」
その声は、弱くはなかった。
震えてはいる。
だが、自分で選んだ声だった。
「終わるまで、二階で待っています」
そう告げて、真耶は部屋を出て行った。
千冬は止めなかった。
止められなかった、という方が正しいかもしれない。
真耶の判断は、逃げではない。
教師として、IS乗りとして、自分がこれからも教え続けるための選択だった。
知ることで折れるくらいなら、今は知らない方がいい。
千冬はそれを否定できなかった。
「仕方ないな」
千冬は小さく言った。
横島も、戸惑いながら頷く。
「まあ……分かるよ。聞かない方がいいことってあるしな」
「んふふ、了解」
束は満足げに笑った。
「予備一号君は、いてもいなくても一緒だし」
「束」
千冬の声が低くなる。
「はいはい。怒らない怒らない」
束は肩をすくめ、空中に複数のモニタを展開した。
IS技術を応用したのだろう。
光の板が、物理的にそこへ存在しているかのように浮かぶ。束はそのモニタへ直接触れ、軽やかに操作を始めた。
「じゃあ、世界初公開。ISコアの中身は何なのさ〜、っと」
喜々とした声。
だが、そこから明かされる内容は、千冬にも、横島にも、重すぎるものだった。
「結論から言うと」
束は言った。
「ISコアは、エーテル体、コーザル体、メンタル体を含めたエネルギー複合体。つまり、よこっちの世界で言うところの霊体を精製し、閉じ込めたものなんだよ〜」
「霊体の精製物……?!」
横島の顔色が変わった。
反射的に声が出る。
隣で千冬も、苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
「おおっと、険しい顔をしないでほしいな〜。これでも、アストラル体まで入ってた初期のISコアよりは、ずいぶん改良してるんだから〜」
「改良、だと?」
横島の声が低くなる。
束は気にしない。
「だって、意識が残ってると面倒でしょ? ノイズが多いし、安定性も低いし、起動時に変な干渉が出るし。だから今のコアでは、明確な人格や意識に近い層は取り除いてあるの」
「……南武の連中と、似たようなことをしてるって訳か」
「おおっ」
束の目が輝く。
「よこっちの世界にも、霊体の技術利用を考えた人たちがいるんだね〜。時空を越える大天才の束さん、すごい!」
「感心するところじゃねえだろ」
横島は吐き捨てるように言った。
彼の世界にも、霊を技術に使おうとする者はいた。
魔体を兵器に組み込むような連中もいた。
横島は、そういうものに嫌悪感を覚える側の人間だった。
退魔。
除霊。
それはただ、霊を消し去ることではない。
未練を解く。危険なものを鎮める。時には戦い、封じる。だがそこには、こちらとあちらの領分を分ける感覚があった。
人は人。
霊は霊。
生者は生者。
死者は死者。
それを、兵器の核にする。
横島には、簡単に飲み込める話ではなかった。
「まあ全部、あの高エネルギー体が発見されたおかげだけどね〜」
束は続ける。
「だけど、霊体の捕獲技術はまだ確立されてないし、精製技術だって洗練されてない。だから製造できるコアの数には限りがある。そもそも、作るのにも時間がかかるし」
「気持ちの良い話じゃあないな」
横島は呟いた。
「気持ちいいかどうかで、世界は守れないよん」
束はあっさり返す。
その軽さが、余計に重かった。
「で、コアを起動する際には、生きている人間のエネルギー複合体……よこっちの言い方なら霊体から、エネルギーを送り込まなきゃいけないのさ。車のセルモーター、スターターみたいな感じ?」
「俺の世界で言う、霊力を注ぎ込むって訳か」
「そうそう。起動した後はパイロットがコアとリンクするから、通常の何十倍かのエネルギー、つまり霊力を出力できるんだよ〜」
束はえっへんと胸を反らす。
千冬は黙っていた。
横島には、その沈黙の意味が少し分かった。
霊体の精製物と、自身の霊体を直結せざるを得ないシステム。
それがどういうものか、横島には少なくとも想像できる。
そして、束が言った「初期のコア」がどんなものだったのかも。
人格や意識に近い層まで含んだまま、人間と接続する。
それは、機械を操るというより、死者の群れと自分の内側を繋ぐようなものではないか。
千冬は、それを経験しているのだろう。
だから“不細工”と呼んだのだ。
「で、最初の話に戻るけれど」
束はモニタを切り替える。
「ISが女性しか取り扱えないのは、単純に、男性ではコアを起動するに足る容量のエネルギーが放出できないってことなのさ。お分かりかな〜?」
「まあな」
横島は低い声で答える。
女性は月を象徴し、その魔力の恩恵を受ける。
横島の世界にも、そうした理はあった。
科学では説明しきれない力の流れ。
女性の方が霊的な受容性に優れる場面も、決して珍しくない。
どうやらその理は、この世界でも変わらないらしい。
「コアなしじゃあ……ってのは無理な話か」
「だねえ。計測した限りだと、よこっちと私たちの放出できるエネルギー量は、すんごい差があるんだよ。しょぼーん」
「俺は男だけど、例外ってわけか」
「よこっちは、そもそもこの世界の基準から外れてるからね。別世界の霊能者。しかも、文珠なんて高密度エネルギー体を生身で作れる。普通の男性と比べる意味がないよん」
「褒めてるのか、化け物扱いなのか分からんな」
「両方?」
「嬉しくねえ」
横島は頭を掻く。
「で、その霊体兵器であるISの改良に、俺の知ってる知識を活用するって訳だ」
「その通り」
束は笑った。
横島は千冬を見る。
「千冬は……コアが何なのか、分かってたのか?」
「言ったろう。大体は想像していた範囲内だ」
千冬は静かに答える。
「初期のコアは、もう少し不細工なものだったしな」
その言い方に、束は不満げな顔をした。
「ちーちゃん、それ本当にずっと言うよねえ」
「事実だ」
「私はあの頃のコアも、結構好きだったんだけどなあ。賑やかで」
「黙れ、束」
千冬の声は冷たかった。
それだけで、横島にも十分だった。
初期型のコア。
意識が残っていたコア。
それを繋いだ時、千冬が何を聞いたのか。
想像するだけで、胸が重くなる。
千冬は続けた。
「ISの登場で、ある程度は落ち着いた。だが、あいつらへの戦力は絶対数が不足している。ISだけでは限界がある。IS以外の対抗手段も開発していかなければならない」
沈痛な表情だった。
横島は、雇い主の美神令子を思い出した。
美神ならどうするだろう。
おそらく、ここまで丁寧に頼まない。
「協力しなさい」と言って、問答無用で巻き込む。
横島が文句を言えば、蹴る。
それで終わりだ。
むしろ、束の方に既視感がある。
状況の深刻さを理解しながら、それを面白がっているような態度。
人を振り回し、世界の危機すら研究材料にするような目。
ただ、美神と束は違う。
美神は金に汚くても、線引きはあった。
束には、その線が見えない。
横島はしばらく黙っていた。
そして、息を吐く。
「……やるさ」
千冬が顔を上げる。
「いいのか」
「一応、GSの端くれだしな、俺」
横島は肩をすくめた。
「それに、戻れるまで千冬や束の協力がないと、行き倒れそうだし」
「礼を言う」
「最初に言っただろ。これも何かの縁だし。目処がつくまでは協力する。ここにもいるさ」
千冬は、心底安堵したように息を吐いた。
今すぐ何かが変わるわけではない。
だが、横島の知識があれば、様々な技術開発が進む可能性がある。
退魔の理論。
霊力の扱い。
霊体への干渉。
結界。
浄化。
封印。
この世界には存在しなかった知識が、IS技術と結びつく。
それがどれほど大きな意味を持つか、千冬には分かっていた。
「ついでに、乳の一つも揉ませてもらえれば――」
横島が言いかけた瞬間、千冬の拳が上がった。
横島は反射的に身構える。
だが、拳骨は飛んでこなかった。
千冬の表情が、ふと和らいでいた。
「……まったく」
彼女は小さく笑う。
「お前は本当に、締まらんな」
「そこが魅力ってやつで」
「調子に乗るな」
「はい」
千冬は椅子を引いた。
「真耶を呼んでこよう。昼食にでもするか」
その時だった。
「ま〜でも」
束が、面白そうに言った。
「どちらにせよ、よこっちはしばらく元の世界には戻れないけどね?」
「え?」
横島が固まる。
千冬の表情も変わった。
「どういうことだ、束」
「よこっちが今ここにいること自体が、その証明なんだよ。ちーちゃん」
「説明しろ」
千冬が口を開いた、その瞬間。
近距離で、爆発が起こった。
窓が震え、壁が軋む。
次いで、何かが家の外壁を叩いた。
空気が歪み、室内の光が一瞬揺らぐ。
「遮断シールドが発動?! 束!」
「はいはいは〜い」
束の声は弾んでいた。
「きゃはっ。やっぱりキタキタ! 今までで一番強力なヤツがっ!」
「……やっぱり?」
横島が聞き返す。
襲撃を事前に予測していたような束の言葉。
束は、いっそ晴れやかなほどの笑顔で振り向いた。
「そう。やっぱり、ね!」
頭上のマニピュレーターが楽しげに跳ねる。
「よこっちが来てくれたおかげで、きっとしばらくこんな感じだもん!」
「こんな感じって、お前……」
「ホント」
束は笑っていた。
心底、楽しそうに。
「この世界は、面白くなりそうだよ!」
次の爆発が、壁の向こうで弾けた。
◇
ディ・モールト続けっ