宴会場。
教団を運営するにあたり教主に任された施設だ。
訪れた使徒たちに料理を振る舞うのだが、それって教主の仕事なんだろうか?とは常々思っている。
それでもこの仕事を続けているのは、訪れた使徒たちとの会話を楽しみにしているということもある。
時には使徒の思いもよらぬ一面を知ることも……ある。
そんな宴会場のとある日、今日やってきたのはスノキーだった。
「そう言えばスノキーって地下で豆乳売ってたんだっけ?」
「ええ、随分と懐かしい話です。あの頃は組織も順調に拡大を続けていたのですが…」
それはスノキーが大穴に落とされる前の事、失われた栄光の日々を昔の話と流すには少し時間が足りない。
「その時のツテってまだ残ってる?ちょっと豆乳が欲しくてさ」
教主の言葉にスノキーはバツが悪そうに答える。
「あの頃経営していた農場はさすがに時間が経ちすぎて…すいませんドン。今どうなっているのかちょっと分からないです」
「そっかぁ。豆乳プリンとか新メニューにどうかと思ったんだけどね」
教主の言葉に怪訝な表情をする。
「豆乳で…プリンですか?」
「そう。私の故郷にあったデザートでね、牛乳の代わりに豆乳を使ったプリンなんだ。まぁかなり大雑把に言えば甘い豆腐だよ」
「甘い豆腐ですか…何だか魔女にも妖精にもウケなさそうですね」
教主の予想とは違いあまり芳しくない反応だ。
「あれ?そうなの?」
「ええ。魔女は基本甘いものを好みませんし、妖精は甘ければ甘いほど良いという味覚の種族ですから。どっちにしろ中途半端かと」
「そっかー、フリックルがさつまいも好きって聞いたから甘いの平気だと思ったんだけどな」
「その程度の甘さなんですか?だったら大丈夫だと思いますよ。あくまで妖精基準の砂糖がプンプン臭うような甘さがダメなんで」
「そのレベルの甘さは私も嫌だ」
この日の会話はここで終わったのだが、どこから話が漏れたのか、教主が新メニューを開発中という話があっという間に広がってしまった。
「う〜ん、何となく地球の料理を再現しようと思っただけなのに何か大ごとになってきたなぁ」
宴会場の料理はたまにリクエストを聞く事もあるが、基本的には数ある中から教主の気分で出てくる物が変わる。メニューといってもシェフにお任せしか無いのだ。
ヒドイ時は1週間もアニマル缶が続く事もあった。
あの時はなんでかやたらと在庫があったんだよな。多分エルフたちが生産量のケタを間違えたのだろう。
そんな宴会場で新メニューといってもここまで話題になるとは思わなかった。
「皆話題に飢えてたのかな……あ、そうだ」
教主も大分エーリアスに染まっているのだろう。
余計な事を考え出した。
「そんなに暇ならいっその事料理大会でも開こうかな。優勝したら宴会場の新メニューに追加で」
ここが地球であればそこまで悪いアイデアではなかっただろう。しかしここはエーリアス。
5歳児並みの思いつきで行動するものが多数を占める倫理観?何それ美味しいの?な本能が支配する野生の世界。
昔の人はこう言った。世界はいつだってこんなはずじゃないことばっかりだと。