迦具土・炎次郎   作:KAGUTSUCHI

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炎次郎とおっさんとオグン神

ある日、炎次郎は下校途中、またあの人物に出会った。

 

「おーい、坊主!今日もいい品入ったんだ!見にきてくれよ。」

 

「また、あんたか。『何でも屋のおっさん』」

 

何でも屋のおっさんは文字通りいろんな物を売っている中年男性である。頭に鉢巻、鼻の下にはちょび髭という外見のおっさんである。

 

「いつも贔屓にありがとう。だからな、今日は君が好きそうな商品を持ってきたよ。」

 

「あのなあ…エコカーと偽った人力車といい、適当なマッサージチェアの設計図といい…ええ加減にせいや!インチキなもんばっか売りつけよって、もう買わへんからな!」

 

炎次郎は大学生になったら車が欲しいとボヤいていた時や、琥珀館の温泉施設にマッサージチェアが欲しいとつぶやいていた時など困ったタイミングでなぜか現れるおっさんに上記のような商品を買わされていたのである。

 

「まあまあ、今までのことは水に流して、この商品を見てくれよ。これは外国から仕入れたんだ。」

 

炎次郎はしぶしぶおっさんが差し出した物を見る。それは赤黒い指輪だった。

 

「何か禍々しい指輪やな。」

 

「ふっふっふ。君、呪術とかに興味はあるかい?これはブードゥー教の呪術道具さ!」

 

「ブードゥー教?」

 

ブードゥー教といえば、ベナンやハイチ、ニューオリンズで信仰されている宗教である。ロア(Loa)と呼ばれる多数の神的存在に対する信仰と憑依を伴う儀礼が 特徴である。

 

「この指輪にはね、ブードゥー教の火の神『オグン』様の御加護が込められているんだ。君が信仰している火之迦具土神様と似ているからぴったりだと思うよ。」

 

「ほんまかいな…。ちなみに値段はなんぼなんや?」

 

「そうだね。この指輪とブードゥー教の呪文を記した経典も付けて…ジャン!2000円のご提供!」

 

「あらま…わざわざ外国から仕入れたにしては意外と安いなぁ。」

 

「どうするんだい?このチャンスを逃せばもう二度と手に入らないかもしれないよ?買わない後悔より、買う後悔だ、さあ、買って買って!」

 

炎次郎は一応、興味がある分野の商品に少し悩む。そして、炎次郎の決断は…

 

「わかった。そんなに安いならもろとくわ。ただし!パチモンやったら次はただじゃおかんからな!」

 

「はいよ。毎度ありー!」

 

炎次郎から2000円を受け取るとおっさんは風のような速さで去って行った。

 

 

 

 

 

翌日、炎次郎は指輪をはめ、経典をパラリと開く。

 

「ほんまにオグンの加護が込められとんのか?まあ、騙されたと思ってやってみるか。」

 

炎次郎はとりあえず合掌し、経典にある呪文を唱える。オグン神が現れる光景をイメージしながら。

 

「アデ、デュイ、デンベラ、アデ、デュエ、ダンバラ…」

 

なぜか呪文はカタカナに音だけ訳されていた。それだけでも十分胡散臭いが、炎次郎は馬鹿正直にもその呪文を詠唱する。すると、信じがたいことが起きた。

 

突如、指輪から火が吹き出る。そして、火がどんどん大きくなり、まるでローマの兵隊のような姿の人型に火が形づくられた。

 

「我が名はオグン…我を呼び出したのは貴様か?むっ、貴様っ!」

 

「ひいっ!?」

 

突然、目の前に現れた『オグン』と名乗る何かは炎次郎を怒鳴りつけた。

 

「なぜ我への信仰がないくせに我を呼び出した!?我を冒涜したならば、焼きつくして…む?貴様、その内に秘めたる力は何だ?」

 

どうやらオグンは炎次郎のサイキックを感じ取ったようだった。

 

「くははは!貴様の中から面白い力を感じる。我を呼び寄せることができたことにも合点がいく。よかろう。我の加護を与えてやる。ありがたく受け取れ。」

 

オグンは小さな火球を飛ばし、指輪に染み込ませた。すると、炎次郎の身体にある異変が起きた。

 

(なんや…これは…!?力がこみ上げてくる…!)

 

そんな炎次郎の反応を見て、オグンは得意げに言い放つ。

 

「貴様に眠る闇を少し強化した。貴様はどうやら内に闇を秘めているようだ。ならば、この我がその力を封じる扉を開く鍵となってやる。それが貴様に与えた加護だ。」

 

「内に秘めたる闇…ダークネスのことでっか!?」

 

しかし、オグンは炎次郎の質問には答えず、そのまま天高く昇って行く。

 

「さらばだ。もう会うことはなかろう。貴様は果たしてどちらなのだ?正か、邪か。」

 

「それは…」

 

やがて、オグンは完全に見えなくなる程、高く昇って行った。

 

 

 

 

「あとで調べたけど、これは『契約の指輪』っていう殲術道具やったわ。ブードゥー教の呪術道具か。また、覚えなあかんことが増えた。まあええわ。神道も、仏教も、ブードゥー教も全部俺の力に変えてやるで!」

 

そのような決意をした頃には、あの何でも屋のおっさんのことはすっかり忘れていたのであった。

 

 

『炎次郎とおっさんとオグン神』終

 




【設定解説】

何でも屋のおっさん…本名は不明の古今東西、さまざまなアイテムを販売しているおじさん。しかし、大半の商品はポンコツな物か、すごいように見える偽物である。だが、後述する契約の指輪のように本当に使える物もある。歳は48歳。なぜか足がめちゃくちゃ速いが、本人曰く、非売品の『高速で走れる靴』を履いているかららしい。( ICV 大塚芳忠さん)

Ogun…何でも屋のおっさんから買った指輪。しかし、その実体は殲術道具で、ブードゥー教で信仰されている火の神『オグン』の加護により、一時的にイフリートの力を引き出せる代物。おっさん曰く、現地では儀式で使用される呪術道具だったらしい。もちろん、強いサイキックを放つには呪文を詠唱する必要がある。

ソーンブレード…KHDの部長『若紫・莉那』にホワイトデーにプレゼントした無敵斬艦刀。刃にルーン文字が書かれた大剣。おっさん曰く、大昔にイギリスの凄腕の魔法使いが刃に何かすごい魔法を刻み込んだ剣らしいが、真偽は不明。ちなみに『ソーン』とはルーン文字の文字列の6番目以降の文字のこと。やはり、ネーミングセンスからも怪しさが満点の一品である。

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