迦具土・炎次郎   作:KAGUTSUCHI

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新たな力、処刑人の剣

(契約の指輪はまさかの本物やった…。あのおっさんの持ってくる商品はたまに当たりがあるな…)

 

数日前、オグン神の加護を持つ指輪を何でも屋のおっさんから買い取った炎次郎。何でも屋のおっさんの商品は大概偽物のインチキ商品が多いのだが、前述した指輪は本物であり、殲術道具として普通に使用できたのである。

 

(せやかし、武器はいいとして、最近はきな臭い話が彼方此方から聞こえとる。斬新社長のラグナロク計画とか…)

 

珍しく頭を捻る炎次郎。情勢について考えるようになったのも、少し成長した所以かもしれない。だが、そのときであった。

 

「おーい、炎次郎ちゃん。久しぶりだな。どうだい?今日も商品見ていかないか?」

 

すると、また聞き覚えのある軽薄な声が聞こえた。そこにいたのは炎次郎になぜかいろいろな商品を売りつけるインチキ商人、通称『何でも屋のおっさん』である。

 

「またあんたか、おっさん。今日は何の用やねん。」

 

「君!今、君は強くなりたいと思っているんだろう?いや、そうに違いない!そんな君にぴったりの商品をフランスから仕入れてきたんだ。」

 

冷めた炎次郎の台詞も物ともせず、ハイテンションでおっさんは何か布に包まれた長物を差し出す。炎次郎はそっと布を捲る。そこには物々しい装飾が散りばめられた西洋の剣があった。

 

「ふーん。見てくれは結構上物に見えるな。この剣はいったい何なんや?」

 

「これは『エクゼキューショナーズ』。中世ヨーロッパで神の名のもとに上流階級の貴族の罪人を処刑したとされる曰くのある剣さ。きっと、たくさんの高貴な人物の首をはねてきたんだろうね。」

 

「おっさん。悪いけど俺はそんな武器は興味ないわ。だいたい、切っ先の丸い剣なんてカッコ悪いし…」

 

しかし、おっさんはその言葉を待ってましたと言わんばかりに得意げな顔で続ける。

 

「ちっちっちっ。これはね、実は表向きは鑑賞用の剣なんだ。だがしかし!私の持っているこの書物。これが何だかわかるかい?これは『カトリック教の鎮魂歌』が載っている本さ。」

 

『鎮魂歌』といえばカトリック教において死者の安息を神に願う賛歌のことである。しかし、なぜそのような書物を一般人である何でも屋のおやじが持っているのだろうか。

 

「これはエクゼキューショナーズを仕入れた場所でこの剣と一緒にもらったんだ。おそらく写本だろうけど、内容はちゃんとしてるよ。それで、この鎮魂歌の歌詞を唱えるとこの剣が不思議な反応を示すんだ。どうだい?今回はこの2つセットで2万円で売ってあげよう!」

 

炎次郎は少し迷っていた。確かに胡散臭いのだが、カトリック教という未知の分野に興味を惹かれたからだ。そして、暫し考えた結果、炎次郎は答えを出す。

 

「分割払いでええか?」

 

「えー、本当は一括がいいけど君はお得意様だしね。特別に分割にしてあげるよ。じゃあ、1000円の20回払いね。あと、写本は返品不可だから。これ、持ってるだけでなぜか気分が悪くなるんだよ。」

 

炎次郎はおっさんからエグゼキューショナーズと鎮魂歌の書かれた写本を受け取った。1000円をおっさんに手渡す。これから月1で払っていくと約束した。

 

おっさんが去っていったあと、炎次郎はエクゼキューショナーズを手に取る。そして、振り上げてその辺りの木を斬ってみた。すると、木がすっぱりと斬れて倒れた。

 

「どうやらこれは本物みたいやな。この剣はおそらく殲術道具で言うところのクルセイドソードやな。よし、新たな力を手に入れたさかい、今から帰って特訓や!」

 

そして、炎次郎は写本をペラペラとめくりながら帰路に着くのであった。

 

 

 

 

「しかし、仕事とはいえ、カトリック教の道具を運ばなきゃいけないとはね…はあ、あれの買い手がついて良かったよ。持ってるだけで吐き気がして仕方ない…」

 

炎次郎にエクゼキューショナーズを売りつけたおっさんはふらふらとおぼつかない足取りで歩く。だが、そのとき、目の前に何かが何の前触れもなく突然現れた。

 

「貴様…殲術道具を灼滅者に売るとは何が目的だ?」

 

おっさんの目の前には黒装束に赤い手ぬぐいで口を隠す…そう『火之迦具土神』がいた。

 

「わっ!?貴方は…何者ですか?近づくだけで肌が焼けそうだ…」

 

「私は…そうだな、『神』と言えば信じるか?」

 

おっさんは下を向いてしまう。しかし、何とそのおっさんの顔は笑っていた。

 

「くふふ…はっはっは!何だ貴方でしたか。まだ神様ごっこしていたんですか?これはこれは…。」

 

「人間よ。何がおかしい。」

 

迦具土神はおっさんを睨みつける。今にも襲いかかりそうな雰囲気だ。

 

「神様。もうそろそろ楽になさればどうですか?それとも…『彼』にバレてしまうことを恐れているのですか?」

 

「貴様…これ以上喋るな。灰にしてやろうか?」

 

迦具土神は徐々に掌に炎を集めている。これでおっさんを焼き尽くすつもりだろうか。

 

「あわわわわ!お、落ち着いてください。その代わりいい情報を提供しますから。」

 

「ほう、何だ。言え。」

 

おっさんは揉み手をしながら迦具土神に話す。

 

「『迦具土・炎次郎』に新たな殲術道具を与えました。これで彼はまた強くなりましょう。貴方の計画通りに。」

 

すると迦具土神は掌の炎を消した。まるでおっさんを許したように。

 

「なるほど。あの忌々しい『奴』に対する武器として、迦具土・炎次郎は順調に育っているようだな。」

 

「はい。それが貴方との約束ですから。ですが、本当に彼でいいのでしょうか?」

 

「迦具土家の者は私を崇めて奉っている。少なくとも利用し易い人材だ。何、迦具土・炎次郎が駄目になればまた迦具土家の者から誰か引っ張ってくれば良い。『奴』を倒すための武器とするためにな。」

 

迦具土神は目を細めて口に巻かれた手ぬぐいの下で口を歪める。一方の向かい合うおっさんはにんまりと笑っていた。

 

 

 

 

 




【武器設定】

エクゼキューショナーズ…中世ヨーロッパで神の名のもとに上流階級の貴族を斬首刑に処す際に使われたと言われる剣。一見は鑑賞用っぽいが立派な殲術道具である。また、カトリック教の鎮魂歌を詠唱するとサイキックが強化される。

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