日本が異世界転移しました。そして国家分裂しました。   作:適当でいいです

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第11話

3日後 シュクシュラ国 ハースン市

 

荷物をまとめ終えた私たちは、合衆帝国・陸上自衛軍ハースン基地の滑走路へと足を運んでいた。そこには、私たちと同じように「墓標の地」へと送り出されるために、すでに300名近い日本人のビジネスマンや技術者たちが集められていた。

 

これから向かう予定のズーン市にも一応は陸上自衛軍基地が存在している。しかし、そこにも大型の固定翼輸送機が発着できるようなちゃんとした滑走路がない。そのため、この大人数と大量の荷物はすべて、4機の大型ヘリコプターによる数回のピストン輸送で現地へ送り届けられる手はずになっていた。

 

私たちの目の前で、轟音を立てながら滑走路に鎮座しているのは、まさにそのための巨大なヘリコプターだった。

 

「……たしか、チヌークって言うんだっけ、これ?」

 

周囲の喧噪を聞きながら、私は目の前の巨体を仰ぎ見る。

 

言うまでもなく、この世界に転移したことで、かつての地球上の知的財産権や特許の概念なんてものは霧散していた。他国製の優秀な軍用機をどれだけ大量に増産(違法コピー)しようとも、文句も言われないし、本家に対するライセンス料など基本的には1円も発生しない。

それをいいことに、帝国は「作れるものは何でも作る」と言わんばかりに、アメリカ製のみならず世界中の傑作兵器たちを次から次へと自国仕様でコピーしていったのだ。

 

もっとも、そこは急造のコピー品だ。本家が何十年もかけて培ってきたブラックボックス技術や、それを支える高度な冶金・製造ノウハウの蓄積が丸ごと抜け落ちている。オリジナルに比べてエンジン出力やペイロードなどのスペックは低く、よく見ると外観のパネルラインやリベットの打ち方に至るまで、あちこちに微妙なズレや安っぽさが透けて見えていた。

 

だが、帝国軍の現場においては、そんな微細なディテールなど誰も気にしていない。

『多少の劣化版だろうと、自前で大量にコピーして動かせるなら100点満点よ!』――そんな割り切った思想のもと、泥臭く実戦配備され、今まさに私たちの前でローターを猛烈な勢いで回転させている。

 

「おい、ぼさっとするな田中。そろそろ搭乗に呼ばれるぞ」

 

主任に促され、私たちは重い荷物を引きずりながら、轟音を轟かせる巨大ヘリコプターの孕む熱気の中へと足を踏み入れていくのだった。

 

 

 

「またすし詰めか……」

 

「そりゃあ、ただの旅客機じゃないからな。文句を言うな」

 

機内に乗り込むやいなや、私は思わず悪態をついた。

中は簡易的なベンチシートが等間隔で無理やり据え付けられ、乗員定員を限界まで増やすためのすし詰め状態になっていた。天井付近には仮設の荷物棚が頑丈なベルトで吊るされており、かろうじて通路だけは塞がれないように工夫されているものの、息苦しいほどの密閉感が空間を支配している。

 

ふと小さな丸窓から外に目をやると、並行して飛ぶ一機の巨大な影が見えた。機体そのものは私たちが乗っているものと同じ双発のタンデムローター機だが、その胴体には紛れもない『日の丸』のマークが描かれている。

――あれは自衛隊が運用する『本物のチヌーク』だ。

 

エンジンの出力や整備精度の違いなのだろうか。自衛隊機は私たちの乗る帝国製のコピー機を、まるで虫けらでも追い抜くかのように軽々と前方へと加速し、雲の彼方へと消えていった。

 

(そういえば……)

 

今回、なぜこれだけの人数がわざわざ「墓標の地」などと呼ばれる最前線の危険地帯に飛ばされることになったのか。

 

事の発端は日本政府側から帝国に対して「国内向けの食料増産と安定供給のために、まとまった規模の農地を融通してほしい」と打診したことだったらしい。

それに対し、合衆帝国側が提示してきた条件付きの回答の中の一つが、このズーン市周辺の土地だったというわけだ。帝国側としても自前でインフラを敷き、開拓し切るにはあまりにリスクが高すぎる未開の火薬庫。だからこそ、「共同開発という名目で日本を引き込み、リスクを分散させよう」という魂胆だった。

 

そして、そこには絶対の条件がついていた。

――『現地の治安維持と自国民たちの防衛のために、日本側も自衛隊の実動部隊を派遣し、共に血を流せ』と。

 

つまり、さきほど私たちの機体を追い越していった自衛隊のヘリコプターの中には、私たち民間人ではなく、武装した自衛官たちが同じようにすし詰めで満載されていたに違いなかった。

 

(……これって、まるきり明治時代の『屯田兵』の構図じゃないか)

 

護衛を兼ねた開拓民として、危険地帯の最前線へ放り込まれる。日本政府も政府だ。まさかこんな火薬庫のど真ん中に自分たちのビジネスマンを突っ込むルートだとは、事前の説明では微塵も匂わせていなかった。

 

冷房の効かない機内の熱気の中で、私は深く息を吐き出す。

――完全にハメられた。これじゃあ、危険手当の交渉どころか、無事に生きて日本へ帰れるかどうかのサバイバルじゃないか。

 

 

 

同日 シュクシュラ国 ズーン市

 

轟音を轟かせながら、私たちを乗せた輸送ヘリがズーン基地の簡易滑走路へと着陸した。

機体から降り立った瞬間、肌を刺すような日光と独特の湿気を含んだ空気が全身を包み込む。見回せば、このズーン市は四方を険しい山々に囲まれた広大な盆地に位置していた。

 

南側に連なる山々はどこまでも深く、険しい。中世的な世界観ではよくあることなのだろうが、どこからどこまでが正式な国境線なのかは曖昧で、公式には「未定」のまま放置されているらしい。

かろうじて、合衆帝国とシュクシュラ国の間では「一番前の山の峰を結んだ線を防衛線とする」という暫定的な取り決めが交わされているだけであり、これから展開する自衛隊も、おそらくその危うい協定のラインに組み込まれることになるのだろう。

 

「なるほど……こりゃあ、いつまで経っても開発が遅れるわけだ」

 

主任はヘリの窓から見下ろした現地の地形を思い出しながら、やれやれといった様子で呟いた。

実際に足を下ろして周囲を見渡すと、その言葉の意味が痛いほどよく分かる。このズーン市の一帯は至るところに湿地帯が広がり、あちこちに澱んだ沼が点在していた。

 

だが、逆に言えば、この過酷な気候と豊富な水環境だからこそスクスクと育つ、この異世界特有の植物資源が存在する。それこそが、私たちが血眼になって求めている「代用カカオ」や「代用コーヒー豆」の原料となる作物だった。

もっとも、『代用』と銘打たれているだけあって、その味や風味は本物と比べると数段劣る。赤道直下の恵みを受けて育つ本物の濃厚なコクと比べれば、どうしても水っぽくて薄味になってしまうのだ。

 

「……まあ、本社からの内線電話では『本物のカカオをクリーンな状態で仕入れられるルートが確立できるまでは、当面こっちの代用品で市場の需要を繋ぐ予定だから現地で頑張ってくれ』ってな」

 

機体を降りる直前、主任のスマホにかかってきた上司からの非情な通達を思い出し、私は思わず遠い目を向ける。

 

倫理的にグレーな本物を諦め、味の落ちる代用品を求めて湿地帯のフロンティアを開拓させられる――。

ハイテクとローテクが歪に交差するこの世界で、私たち商社マンの泥臭いサバイバル生活は、こうして文字通りの「墓標の地」で本格的に幕を開けたのだった。

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