日本が異世界転移しました。そして国家分裂しました。   作:適当でいいです

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第22話

2050年 6月 シュクシュラ国 ズーン市

 

泥質調査によって苗の栽培に適した地点がいくつか見つかり始め、私たちが進めていた代用カカオと代用コーヒーのプロジェクトは、ようやくスタートラインに立つことができた。

だが、作業を進める現場の空気はどこまでも重く、暗かった。特に、警備と防衛のために日本から派遣されている自衛官たちの表情には、色濃い疲労と緊張が滲み出ている。

 

この地は凶暴なモンスターや有害な昆虫による被害が多いだけでなく、政治的な『敵』の脅威にも晒されていたのだ。

 

ここから見える南の山々――その険しい稜線の向こう側には、『ブフルルク王国』と呼ばれる国家が存在する。

かつて通訳としてお世話になったセセトさんが教えてくれた、協定と裏切りを延々と繰り返してきた悪名高き3カ国のうちの1つだ。

 

このズーン市の一帯は、かつてシュクシュラ国とブフルルク王国が頻繁に凄惨な争いを繰り広げてきた血塗られた戦場だった。

そもそも、現地の稚拙な土木技術では、この地に人間が定住すること自体が難しい。現在のズーン市も、合衆帝国が周囲の山々から削り出した膨大な量の砕石を投入して埋め立て、地下水だらけの軟弱な地盤を強引に固めることで、ようやくこれだけの都市基盤を実現したのだ。

仮にブフルルク王国がこの街を奪い取ったところで、彼らの技術では都市として維持できず、ただ無駄に領土の面積が増えるだけに過ぎない。

 

――しかし、それでも彼らにとっては奪う価値があるのだ。

シュクシュラ国の喉元へと攻め込むための『前哨基地』を構築できる、というただそれだけの理由のために。

 

彼らにとって、占領地の年貢や人頭税といった経済的価値はどうでもよかった。

故に、この地で繰り広げられる戦争は、占領後の統治や領民の懐柔といった考慮が一切存在しない、極めて純粋な『殺戮と破壊』という最悪の形をとることになる。

 

土地を得て攻めるか、あるいは守るか。

その軍事的な損得勘定しか頭にない現地の特権階級にとって、そこに暮らす住民の命やインフラがどうなろうと、ハナから知ったことではなかったのだ。

 

 

 

「依田三曹、帝国軍から補給が参りました」

 

「分かった。すぐ出迎える」

 

部下からの報告を受け、俺は作業用のグローブを嵌め直しながら立ち上がった。

 

海外拠点など何一つ持たない我が陸上自衛隊が、この異国の地でまともな活動を継続することなど、物資面だけを見てもハナから不可能なのだ。

戦闘における弾薬もさることながら、日々の隊員の胃袋を満たす食料や水、車両を動かすための燃料――それらの命綱はすべて、合衆帝国自衛軍から購入する契約になっている。

ちなみに、我々の『自衛隊』と向こうの『自衛軍』では発音も文字も酷似しすぎていて現場で紛らわしいため、隊内では彼らのことを明確に『帝国軍』と呼ぶルールが徹底されていた。

 

ドドド……と重低音を響かせ、陣地の敷地内へ大型車両が入線してくる。

 

俺が天幕の外へ出ると、そこにはすでに帝国の運送会社が所有する巨大なタンクローリー車が5台並び、その直後には大型のコンテナトラックが3台、綺麗に車列をなしていた。

 

「後ろのコンテナ車……ついに頼んでいた弾薬が到着したってことか?」

 

「はい、三曹。予定通りの品目です」

 

シュクシュラ国における帝国のインフラ網は、単なる泥臭いアスファルト道路だけではない。なんと、最新鋭の自動運転トラック専用道路というハイテクインフラまで敷設されているのだ。

とは言っても、この国の中に存在する帝国所有の主要都市を、大きな一筆書きで繋ぐように作られた『ただ1本の幹線道路』に過ぎないのだが。

 

かつて本国(日本)で自動運転技術の開発と実装が遅々として進まなかったのは、日本の技術力が劣っていたからではない。すでに余裕など皆無の、緻密でギチギチに完成された既存の道路・都市環境に自動運転を適合させる難易度が高すぎてできなかったからだ。

時代が進み、政治体制まで代わり、大半の本土を引き継いだ合衆帝国の国内も同じ背景で自動運転は実装されていない。だが、だからこそ合衆帝国はこう考えた。

 

『せっかくゼロから未開の地に道路を引くなら、現時点の技術でも確実に自動運転できる専用道路を一から作ってしまえばいい』

 

そう言い放ち、一気に力技でそれを現実のものにしてしまったのだ。

 

「……たく、相変わらず無茶苦茶な国だよ」

 

「でもその国、元々は同じ日本でしたよね・・・?」

 

自動運転の車列から降りてくる現場のドライバーを見遣りながら、俺と部下は呆れと羨望の混じった溜息を吐き出すのだった。

 

ドン! ドン!

 

フォークリフトが吐き出す排気音とともに、俺たちの目の前へミリタリーグリーンに塗られた金属箱が次々と積み上げられていく。

箱の中身は9mm拳銃弾、そして主力である5.56mm小銃弾と7.62mm機関銃弾だ。後者の2種類は、最初からマガジンに一弾一弾装填された状態で納品されている。(もちろん、そのマガジン代諸々もしっかりと請求書に上乗せされているのだが……)。

 

それらの箱が、俺の背丈を超えるほど大量に、そしてどこまでも高く積み上がっていく。

 

ただし――そこに手榴弾やロケット弾の類は一切存在しない。

帝国製兵器の安全性に関して、本国の『新防衛研究所』が解析こそ進めているものの、未だに正式な採用承認を出していないからだ。そのため、現場がいくら欲しがろうとも購入は見送られていた。

大口径の砲弾も発注自体は可能だが、足場の悪いこの湿地帯防衛に装甲車両は不向きなため、それらは地盤が整地された後方の陣地に控えさせられている。おそらく今頃、あちらには防衛省が発注した各種砲弾が大量に届けられているのだろう。

ちなみに、誘導ミサイルに関していえば「帝国への技術開示に繋がる」という理由で、本国から最初から議論の対象外(論外)として蹴られていた。

 

ここは、ズーン市周辺に置かれた4つの前線基地――そのさらに配下に位置する哨戒基地(パトロール・ベース)の1つに過ぎない。文字通り、末端中の末端だ。

そんな最前線の出先機関に、かつて日本の駐屯地で見かけた『中隊規模』の銃弾箱が、いま目の前にズラリと並んでいる。

 

「では、受領印いただきましたんで、次の配送先向かいまーす。お疲れっした〜」

 

納品書を確認した帝国の民間ドライバーたちは、軽快な挨拶を残すと、大型トラックのエンジンを吹かしてさっさと去っていった。

 

遠ざかるエンジン音を聞きながら、俺は高く積み上がった弾薬箱を見上げ、ぽつりと呟く。

 

「……ふう。『銃弾は有り過ぎくらいでちょうど良いですからね』……か」

 

帝国ドライバーから漏れた物騒なフレーズが口をついて出たが、笑える状況ではなかった。

手榴弾も重火器も心許ない数しか持って来れなかった、この末端の陣地でブフルルク王国の殺戮者どもが押し寄せてきた時、俺たちが頼れるのはこの山積みの小銃弾と、己の引き金を引く指だけなのだから。

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