都市なので当然、幸福など欠片も挑めません。
私は、目覚めたときには親がいて。
隣には友人がいた。
路地には気の合う仲間がいて、いつか一緒に働くんだ、なんて夢を語っていた。
私は平均的で、平凡な、都市の一部でしかなかった。
どこから運命が狂ったのだろうか。それはきっと、あの夜、あの昼だろう。
「眩しいな……」
地上から空へ伸び続ける光の柱。あれはなんの予兆なのだろう。分からないけれど、なんとなく不吉だった。
“いつも”と様子が違うから。
都市においては、習慣こそが人を救う。いつもと同じ道を辿ることで幸福を得られるように、いつもの異なる道を走ったり、なにか違和感に気付けないものはたちまち、都市に飲まれて消えてしまう。
こんな日に限って、父も母も仕事で不在で、私だけが、学校帰りの家の中でぬくぬくと過ごしていた。途方もない不安があった。午後になれば父も母も帰ってきた。私は正直に不安を口にしたが、両親は気に留めないようにと言った。私には学校の試験が待ち構えていたのだ。入学試験を真ん中から少し上で合格したところ、どうやらこの位置で私が卒業できるか、両親は関心があるらしい。もう少し危機感を抱いて欲しいとも感じたが、ここはL社の巣であり、巣は翼に保護されるゆえ、こうした危機感を抱くことは難しいのだとすぐに思い直した。実際、巣に住まう私も、裏路地に過ごしていたり、外郭で生きている住人からすれば危機感が足りないと感じるだろう。すべては立ち位置の違いでしかなく、また、比較されるものでしかない。
光は途切れなかった。
三日三晩と、昼も夜も輝き続けていた。
しばらくして、私たちの卒業式が来た。
「不思議な三日間だったな」
マサムネが私にそう持ちかけた。彼は学校で入ってから仲が良くなった。剣が上手かった。
「都市はいつもこんな感じだろ」
サイは冷静だった。彼は近くの路地に住んでいた。サイというのはあだ名だが、本名がなんだったか、私は覚えていない。
私と彼らは、卒業後、フィクサー訓練を受けるつもりだ。そしてそのまま組織を作り、いちばん昇進が早かった者を代表に据えて事務所を作る。そういう約束だった。
「ベルンは? あれをどう思った?」
サイが問いかける。
「分からない。ただ、不吉な感じがする」
良いとも悪いともいえなかった。都市で起こる変化は常にそうだ。私にいいことを齎すこともあるし、悪いことを齎すこともある。だから、変化が起きたということだけ心に留めておくべきだ。
そう告げると、サイもムラサメも頷いていた。
学校を卒業すると、卒業生は四種類の選択肢を与えられる。正規には三種類のはずだが、四種類であることを私は知っている。
ひとつは翼の職員。つまり、この区を管轄管理しているロボトミー・コーポレーションに入社する道。翼に入社すれば、生活はかなり安定する。飢えや貧しさに怯える必要がなくなり、穏やかに人生を終わらせることができるだろう。
ひとつは協会の事務職。この都市を支配している十二の協会のいずれかに加入し、その職務を全うする。安定しているかどうかは、加入する協会によるだろう。どれも危険であることに変わりないが、公権力に就くことが出来るということの価値は大きい。
フィクサーを管理するハナ協会や、区画の保護を行うツヴァイ協会、探偵業を行うセブン協会などがあり、私は決闘を専門とするセンク協会と戦争を専門とするリウ協会に興味があった。
もう一つはフィクサーになること。フィクサー訓練場で訓練を積むか、今から事務所の扉を叩くか、どちらにせよフィクサーという職業に就けることに変わりない。都市で最も多く、そして広く活躍している便利屋。それがフィクサーである。
私たちはこれになることを目指している。フィクサー事務所を立ち上げ、協会に認められ、名を上げる。それが夢であり、目標である。
そして最後に、指に加入すること。
巣ではほとんど関わりがないが、裏路地を支配している五本指という組織がある。今のうちからその傘下組織と繋がっていたり、縁ができた者はそこへの加入を目指すこともある。この道は表舞台から消えることも意味していて、場合によってはフィクサーよりも危険な人生を送ることになるだろう。
私は上級学科に進んで学びを深めてから、フィクサー訓練場に加入することにした。ただ体を動かすより、動かし方の理論を修めてから戦えるようになりたいと思った。
フィクサー訓練場は、大いに役に立った。
剣の振り方も、契約書の書き方も学ぶことができた。そして数年経ったある日。ハナ協会に認められて、私は9級フィクサーとなった。
私たち三人が合流して、とある事務所に所属した。
その頃だったと思う。
今日、両親が死んだ。いや、もしかすると昨日かもしれないが、私には分からない。正体不明の怪物が現れて家中を荒らしたそうだ。情報は錯綜していて正確な日時は掴めなかった。
週間投稿を目指しますが、おそらく無理だと思います。
途切れたら許してください。