ちなみに投票は圧倒的に終止符艦隊でした。効率的に殺そうとするな。
マサムネが初めに死んだ。剣を振らせてもらう前に弾丸に撃ち抜かれた。
それに気を取られたサイは、そのあと少し踏ん張ったが、それでもやはり、撃たれた。ヘッドショットだった。
「くそ……!」
私だけが残っていた。私だけが、素早く身を屈めて弾丸から逃れていた。迫る銃弾を目で追うことはできないので、銃口の向きと相手の目線からなんとか予測を立てて、逃げ回った。だが限界はある。
足を打たれた。私は足を引きずって進まなければならなくなった。
腕を打たれた。ついに反撃手段すら封じられた。
それでも地べたを這いつくばって生き延びようとした。
それでも撃ち抜かれた。為す術はなかった。
私たちは調子に乗っていたのかもしれない。いつもの装備、いつもの覚悟、いつものやり取り。もう少し準備していれば、私たちは生き延びることが出来たのだろうか。私は、そうは思わなかった。無意味な思考ではあるが、おそらく借金を背負い装備を整えたところで、私たちが勝てる可能性などなかったのだ。あれは私たちを『接待』していた。いい勝負になるように、私たちの感情を昂らせるように、加減されていた。
遊ばれていたのだ。どうしようもないほどに。
図書館で死亡したものは、本になるという。私たちもきっと本だったのだろう。そして私以外も、多くが本になった。
そして唐突に、私たちは解放された。
目が覚めると、どん、と誰かにぶつかった。耐えられなくてそのまま地面を転がる。私も相手も、一緒になって地面を転がった。泥だらけになったが、久しぶりの地面はなんだか嬉しかった。
そう思ったのも束の間、私は青ざめた。私が転ばせた相手の衣装を見たからだ。
赤い衣服と、赤い帽子。……親指だ。
「にげ」
逃げ出そうとしたサイの頭が撃ち抜かれる。私が転ばせた女だ。
「アタシを。こうも汚した上で、謝罪もなく立ち去るつもりか。無礼者め」
ゆっくりと立ち上がり、葉巻を燻らす姿は優雅そのもの。当然だ。指の中でもっとも資金力を持ち、そして階級とそれに相応しい衣装を誇るのがこの指だから。
彼女はステッキを隠し銃として所有していた。地べたを這う私たちを狙うには程よいものだったろうと思う。
「ちぃ!」
抜刀一閃。マサムネの抜いた刀がステッキとかち合う。銃口は私には向いていない。だがソルダートの銃口はどうだろう。
「マサムネ……!」
私が手を伸ばした刹那、私の目の前でマサムネの体に穴があく。
「逃げろ!! 早く!!」
私は動けなかった。動けなかった分だけマサムネの体に穴が空いた。動き出した時にはもう、彼はボロ雑巾と見分けがつかなかった。
私のせいだ。私が間違えた。そして私によって、仲間が死んだ。
図書館から、もしかするともっと前から、私のせいだ。
私は、ずっと、間違えていた。
―――ねえ。声をきかせて
「……誰だ?」
―――私はあなたの友人。あなたの理解者。あなたのことを助けに来たの。
「助ける? 私を? この状況から?」
―――少し違うわ。でも、手助けはしてあげられる。
「どういう、意味だ?」
―――あなたの悩み苦しんでいる声が聞こえたの。自重に耐えかねて、苦しんでいる声が。
―――ベルン。あなたは今、自分の下した決断を後悔している。違う? フィクサーという仕事を選ばなければ。図書館に行くという判断をしなければ、もしかすると、もしかして、もしかしたら……そういう苦しみの中にいるように見えるわ。良いことと悪いこと、その判断の渦の中にいるのね。
―――でも、ベルン。そうして、他人の期待に応えてしまった自分を責める必要はないの。あなたにはあなたの目的があって、彼らには彼らの目的があったのだから。総てがあなたの責任だったなんて、私には言えない。逃げられなかったのよね? 流されるしか無かったのよね? 選択肢なんてなかったように思ってしまうのよね?
―――だから、ベルン。そんな風に悩まないで。苦しまないで。あなたはあなたらしく生きていいの。あなたを悩ませる他人なんて気に留める必要はないの。期待に応えようだなんて無理に思わないでいいの。選択肢は無限にあるのだから。
―――あなたの人生は、あなただけのものだから。
―――さあ。
「そう、だ」
私のせいで全てを失った訳じゃない。合意があり、同意があった。答えられなかったのは私の弱さと、二人の弱さ。突き詰めれば私たちが間違っていたという事実が残る。
ならば私は、正しくなければならない。
黒いモヤが私を包む。この中にいれば私は怖くない。何も選ばずとも、正解を手繰り寄せられる。
ソルダートたちが銃を構えた。それを腕のひと振りで一掃する。何人と連なろうとも、もはや私の敵じゃない。まとめて片付けていく。終わらせていく。悪は滅ぼすべきだ。
この手で総てを閉じたのなら。夢の中へ誘えば。ここはつまり夢であり。目が覚めたらきっと二人はいて、私たちはやり直せる。ああ――そんな気がする。
最後に残ったのはカポだった。そう、カポ。私の幼馴染を殺し、私の友人が最後まで鍔迫り合いをしていた女。こいつは、なんとしてでも殺さなくてはならない。
腕を振るう。足を振り回す。黒いモヤを全身で打ち振るいながら、敵を追い詰めていく。はずだった。
当たらない。躱される。攻撃が掠りもしない。
「なぜ、どうして、違う。これは夢、夢、夢!」
「……夢じゃねぇさ」
代わりに私が撃ち抜かれていた。何度も何度も弾丸を浴びていた。それでも私は止まらなかった。痛くないから。間違っている事実を前に、私が負けてはならないから。
「ねじれってやつか? しかし話に聞いていたよりも惨めだな。
仲間を死なせて、責任も取らない。お前の義理はどこにある?」
「そんなものは夢だ。幻だ。私たちにはそのようなものは必要なく。私たちひとつで。完全で。あなた達もそうなるべきだ」
影が飲み干し食らっていく。
選択肢は無限にある。そうカルメンは教えてくれた。私は選ぶ。皆を私の中でひとつにしてしまえば。生き延びた私の中に彼らはあって、私のせいで死んだ、なら私のおかげで蘇ればいい。これで完全だ。完璧だ。無欠になれる。 正義だ。
ならばそう。父も母も彼も彼女も、きっと一つなのだ。そんな気がしている。同じ日に起きて、同じような時間に労働し、同じように都市を生きる私たちは―――ひとつだ。
そのように正義であれば、間違いでなければきっと、間違えることもない。私は、正しい側にいる。その喜びがある。
「話にならねぇな」
私の腕が撃ち抜かれる。
「アタシはカポだ。お前らとは違う。忠誠で、忠実で、そして階級と礼儀を知っている。仲間を己の失態で失ったくせに、そこから逃げる奴と同じにされたくはないな」
砕かれる。体が、足が。そしてなにより、心が。間違った理論だと叫びたいが、それはダメだと思う理性がある。
「隣のヤツが脳漿ぶちまけて死ぬなんてありふれた話だろ。
何が正しい選択か、間違いの選択かなんて、都市では簡単に変わる。
だけど、礼儀だけは嘘をつかない。地位へ到達するまでの歩みの重さと尊さ。誰に対しても礼儀は欠かすべきではないという道理だけは不変だ。
この尊さを、理解しかいお前に。アタシは、負けない」
銃弾が三発唸り、私の胸を貫いた。モヤはだいぶ、祓われていた。
―――諦めないで。あなたがようやく手にした答えを。あなたの望みを、全うするの。
「そうだ、私は」
―――礼儀であなたは救われない。あなたを救えるのはあなた、あなたの心だけなのだから。
「私は、私の道を」
―――そう。この、誰も色を持てない都市で、あなたはあなたらしく生きていいの。
「詭弁だな。アタシの道は自分で選んだ道じゃないっていうのか?」
―――そうよ。彼女は親指という組織の考えに感染して、影響されているだけだもの。
「……それでも。貴方が選んだ道か」
「そうだ。アタシはこの規則に納得しているし、この価値観で生きていく」
―――そう思い込まされているだけなの。本心では違うの。だって誰かに強制された規則と、誰かに望まれるだけの人生なんて、悲しいとは思わない? 寂しいとは思わない? あなたという個人が尊ばれなければらならない。違う?
「そうだな……」
―――だから迷わないで。苦しまないで。あなたはあなたらしく生きていいの。あなたの人生を歩み続けるの。
「都市の人々は、灰色の人生を過ごしている。
価値観は流転する。人の命は、簡単に終わる」
―――だけどそれはいけない。人はもっと多くの可能性を持つのだから。誰かに流されて、自分で決めたつもりになって生きているような、そんな人生は哀しいわ。
「総てはただ、風のようなものだから。
この都市で、たった一つの事実は」
全てを私にしてはいけない。飲み干し食らってはいけない。捕食したソルダートを、仲間を、吐き出していく。
全てはあるがまま。私は足りない私のまま。相手は親指のカポのまま、生きている。そしていつかは変わる。それは死ぬ時かもしれないし、生きている間かもしれない。
私のせいで、私の仲間は死んだのかもしれない。だがお互いに最期まで助け合おうとしたことから逃げてはならない。私たちは互いに互いを縛りあって、影響させ合って、ここまで来た。
「誰が“悪い”だとか、誰が“良い”だとか。そんな境界線はないってことだろうな」
総てのことは繋がっていて。正しいか間違いかはその時々で可変で。だから人々は規則に縋り、何が正しいかを判断しようとする。
「でもそうじゃない。それでは規則に飼われているだけだから」
私が目指すべきは自閉でもなく。無法でもなく。ましてや何かの規則に従うことでもない。
「私は、風になるべきだったんだ」
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逍遥遊――あらゆる境の外側へ出る。
「は。なんだ? ねじれってのは、元の形に戻ることもあるのか?」
「元の形ではないよ。少しだけ変わった。少しだけね。ありがとう、貴方の言葉が効いたんだ」
会話をして、互いを見る。もう、モヤは無くなった。相手と正面から対等に向き合う。
「その言葉遣い……礼儀を教えないとだな」
「要らない。結局、お前は敵だ」
その日。親指のカポが一人死んだ。
この時相手をしていたフィクサーは、数ヵ月後に色を授かった。
やりきった感は凄い。
ですがまだ続きます。