レオ・デュエル・スクール――通称LDS。その巨大な建物を見上げながら、オレは思わず口笛を吹いた。
「ヒュウ! でっけえ……! これ全部デュエルのための施設なのか?」
「当然! エリートデュエリストを育てるための最高峰、それがLDSだからな!」
隣を歩く沢渡が、待ってましたとばかりに胸を張る。さっきからずっとこんな調子だ。自分の通っている塾を自慢できるのは、まあ悪いことじゃないと思うけど。
ただ、オレとしては別のことも気になっていた。
どうやら、この世界には榊遊矢というオレそっくりのデュエリストがいるらしい。そして、その人物を知っているらしい赤馬零児が、オレを呼び出した。
この世界に飛ばされた理由が分かるかもしれない。少なくとも、何も手掛かりがない状態よりはずっとマシだ。
「それじゃあ、行くか!」
「おう!」
オレが勢いよく返事をすると、沢渡は少しだけ得意げに笑った。
「フッ、せいぜい粗相のないようにな。何しろ、これから会うのはLDSの社長にして、プロデュエリスト、そしてこの俺(たち)と一緒に侵略者と戦い世界を救った……とにかくすごい人だからな!」
「最後、ちょっと自信なくなってなかった?」
「う、うるさい!」
そんなやり取りをしながら、オレたちはビルへと足を踏み入れた。
◆
案内された部屋は、広々としているのに妙な圧迫感があった。壁面のモニターには、デュエルの記録らしきデータがいくつも表示されている。その中央で、ひとりの青年がこちらを待っていた。
「君がユークか」
「ああ。アンタが赤馬零児?」
「そうだ。来てくれて感謝する」
零児は淡々と答えた。年齢は2歳差くらいでそれほど離れていないように見えるのに、その佇まいは落ち着いていた。そしてこっちの反応を観察しているような、隙のない視線だった。シグもたまにこういう雰囲気になることあるんだよな。
「早速だが、君について確認したいことがある。昨日、舞網市の港湾地区で行われたデュエルで、君はこの世界では確認されていない召喚方法を使用した」
「リンク召喚のことか?」
「リンク召喚……君たちはそう呼んでいるのか」
零児の目がわずかに鋭くなった。その視線はまるで腹の中まで探られて分析されているような気持ちだ。
「その召喚方法について、説明してもらえるだろうか」
「説明って言われてもなあ……。モンスターを素材にして、リンクモンスターを召喚する方法だよ。モンスターの種類やLINKマーカーの数によって、必要な素材が変わるんだ」
オレは自分の端末を取り出し、リンク召喚の基本的な仕組みを説明した。零児は途中で口を挟むことなく、モニターに映したデュエル記録と照らし合わせながら話を聞いている。
「なるほど。素材となるモンスターの数だけでなく、リンクモンスターそのものを素材として扱う場合には、そのLINKの値も考慮されるわけか」
「そうそう。そこがちょっとややこしいんだけどな」
「しかし、興味深い。レベルではなく、独自の値を参照する……。召喚方法ひとつを取っても、我々の知るものとは根本的に異なる部分がある」
零児は一度言葉を切り、オレの顔をまっすぐに見た。
「もうひとつ聞きたい。君は榊遊矢という人物を知っているか?」
「いや、名前を聞いたのも昨日が初めてだ。オレと同じ顔をしてるって話だけど……正直、会ってみないと何とも言えないな」
「そうか」
零児の表情はほとんど変わらなかった。しかし、何かを考えていることだけは伝わってくる気がする。
「君と榊遊矢の容姿が酷似していることは確認している。加えて、君は未知の召喚方法を使い、異なる世界から来たと主張している。現時点で断定はできないが、調査する価値は十分にある」
「まあ、オレだって知りたいことだらけだよ。どうしてここに来たのかも、元の世界に帰れるのかも分からないし」
「その点については、私も調査に協力しよう。君にはいくつか質問することになるだろうが、構わないか?」
「もちろん! オレだって、できることなら早く帰りたいからな」
そう答えたものの、胸の奥には別の気持ちもあった。
帰りたい。そりゃそうだ。シグもいるし、オレの生活だってあっちにある。何より、突然いなくなったままじゃ、あいつに心配をかけてしまう。
でも、この世界にはまだ知らないデュエルがあった。昨日の沢渡のペンデュラム召喚だって、そうだった。あんなに一度にモンスターを呼び出す方法があるなんて、想像もしていなかった。
この世界をもっと知りたい。そんな気持ちが、確かにオレの中にある。
「……ところで、ユーク」
「ん?」
「君はエンタメデュエリストだと聞いた。昨日のデュエル映像も確認したが、君の戦術は独特だな」
「おっ、分かる? いやあ、照れるなあ!」
「褒めているわけではない。君は相手の行動を利用し、想定外の手段で勝利を狙う。だが、最後の局面では偶然の要素も大きかった」
「うっ……!」
痛いところを突かれた。昨日のデュエルだって、最後に謎の風が吹いて、《ファイアウォール・ドラゴン》が《ファイアウォール・ドラゴン・ダークフルード》に変化しなければ、どうなっていたか分からなかった。
「驚かせることと、楽しませることは違うのではないか。そう考えているのでは?」
「……ああ」
思わず、真面目な声が出た。
沢渡とのデュエルの最後、オレは自分の未熟さを突きつけられた。驚きの連続を作るだけじゃダメだ。相手と観客の心を動かして、次のデュエルを楽しみにしてもらえるようになりたい。
そのためには、もっと考えなくちゃいけない。
「だからこそ、今回のデュエルを提案したい」
「今回の?」
零児が視線を向けると、待っていたかのように沢渡が一歩前へ出た。
「そう! リベンジマッチをやろうじゃないか、ユーク! 俺様との再戦だ!」
「おおっ! やるやる! 沢渡とのデュエル楽しかったんだよな。」
即答したオレに、零児は小さく息を吐いた。
「話が早くて助かる。LDSでは今夜、デモデュエルを予定している。君たちのデュエルを、その催しの一環として行いたい」
「つまり……観客もいるってことか?」
「もちろんだ! この沢渡シンゴ様のエンタメを見たがっている観客たちに見せつけてやる!」
沢渡が大げさに両手を広げる。
観客の前でのデュエル。胸の奥が熱くなった。
「エンタメ勝負、オレも負けないぜ!」
◆
LDSのデュエルステージには、思っていた以上の観客が集まっていた。観客席には生徒たちだけでなく、一般の来場者もいる。ステージの上方には配信用のカメラが浮かび、デュエルの映像がネット配信されているようだった。
観客のざわめきを聞きながら、オレはデュエルディスクを装着する。ちなみに榊遊矢に似てるってさんざん言われたし、顔出しは流石にしたくなくて、帽子を深々と被って顔を隠している。
「我がLDSでは、未知の召喚法を新しく発見した。そのため、正式発表に先駆けてゲリラ的ではあるが披露したいと思う」
壇上に立っているのは零児だ。つまりオレとリンク召喚を広告にしようって魂胆だな。これで話題を攫えたら、リンク召喚コースを新設ってか? ……今更だが、マジでこれで良かったのかどうか不安になってきた。
「それでは、これよりデュエルを開始致します!」
司会の声が響き、歓声が上がった。
「挑戦者は新たな召喚方法を操る謎のデュエリスト、綾目ユーク!」
オレは片手を上げ、歓声に応える。
「そして迎え撃つのは、LDSが誇るエンタメデュエリスト、沢渡シンゴ!」
「待たせたな、観客諸君! 俺様のエンタメ劇場の開演だ!」
沢渡が堂々と胸を張ると、観客席から笑いと歓声が上がった。どうやら、あの大げさな振る舞いも含めて彼の魅力らしい。
オレはその姿を見て、自然と笑みを浮かべた。
いいな、こういうの。
デュエルが始まる前から、観客を自分の世界に引き込んでいる。沢渡は本当に一流エンタメデュエリストなんだ。
「アクションデュエルのフィールドは《サイバースター・ネオンシティ》!」
アクションデュエルのフィールド魔法が発動される。ネオンきらめく都市に早変わり。つまり、ノードシティにそっくりなフィールドだ。
このデュエルはアクションデュエル。たしかフィールドでアクションマジックってヤツが拾えるから、それを活用できるルールだったな。よし、ワクワクしてきた。
司会者が意気揚々とアクションデュエルの前口上を唱える。
「戦いの殿堂に集いしデュエリストたちが、モンスターとともに地を蹴り、宙を舞い、フィールド内を駆け巡る!
見よ、これぞ、デュエルの最強進化形Ver.2!アクション——」
「「デュエル!」」
ユーク/LP 4000 vs 沢渡/LP 4000
LPは互いに4000。先攻を取ったオレが、デュエルディスクにカードを置いた。
「オレのターン!」
手札を確認する。昨日と同じように、まずは盤面を整えるところからだ。
「オレは手札の《斬機サーキュラー》の効果を発動! デッキから《斬機シグマ》を墓地へ送り、自身を特殊召喚する!」
【斬機サーキュラー】
レベル4/光属性/ATK 1500
サイバース族/効果
カラフルな光が走り、サーキュラーがフィールドに現れる。続いて墓地へ送られたシグマが反応した。
「墓地の《斬機シグマ》の効果! 自身を特殊召喚!」
【斬機シグマ】
レベル4/光属性/ATK 1000
サイバース族/チューナー/効果
「《斬機サーキュラー》の効果でデッキから斬機魔法罠カードを1枚手札に加える。オレは《斬機超階乗》を手札に加える。そして!」
2体のモンスターが並ぶ。
「レベル4が2体……いや、チューナーと非チューナーか……?」
この斬機はシンクロ召喚とエクシーズ召喚、そしてリンク召喚を得意としている。まずは小手調べだ!
「レベル4の《斬機サーキュラー》と《斬機シグマ》で、オーバーレイ!」
2体が現れた銀河に飛び込み、フィールドに幾何学模様が浮かび上がった。
「無数の可能性を束ね、勝利への方程式を完成させろ! エクシーズ召喚! 計算完了、ランク4! 塊斬機ダランベルシアン!」
【塊斬機ダランベルシアン】
ランク4/地属性/サイバース族/ATK 2000/DEF 0
サイバース族/エクシーズ/効果
ダランベルシアンが出現すると、観客席からどよめきが上がった。エクシーズ召喚自体はこの世界にもあるみたいだけど珍しいらしく、見慣れないモンスターには興味を引かれるようだ。
「《塊斬機ダランベルシアン》の効果発動! オーバーレイ・ユニットを二つ取り除き、デッキから《斬機方程式》を手札に加える!
そして、《ファイアウォール・ディフェンサー》を通常召喚!」
【ファイアウォール・ディフェンサー】
レベル4/闇属性/ATK1200
サイバース族/効果
「出て来い、可能性のサーキット! 召喚条件はサイバース族モンスター2体。オレは《塊斬機ダランベルシアン》と《ファイアウォール・ディフェンサー》をリンクマーカーにセット!
リンク召喚! 現れろ、リンク2!《サイバース・ウィキッド》!」
【サイバース・ウィキッド】
LINK-2/闇属性/ATK 800
サイバース族/リンク/効果
□
↓↘
リンク召喚を行ったとき、会場がざわついた。あれが新しい召喚法なのか、と。やっぱりこの世界じゃリンク召喚なんて存在しないらしい。
そして、サイバース・ウィキッドが召喚されたとき《ファイアウォール・ディフェンサー》の効果が発動する。
「《ファイアウォール・ディフェンサー》の効果! リンク素材として墓地へ送られたことで、デッキから《ファイアウォール・ガーディアン》を特殊召喚する!」
ウィキッドのリンク先に、もう一体のモンスターが出現した。
【ファイアウォール・ガーディアン】
レベル4/闇属性/DEF2000
サイバース族/効果
「そして、《サイバース・ウィキッド》の効果! リンク先にモンスターが特殊召喚されたことで、墓地の《塊斬機ダランベルシアン》を除外し、デッキから《斬機ダイア》を手札に加える!」
「そのデッキ回りすぎ……!」
沢渡が感心したように声を上げる。観客も、リンク召喚という見慣れない仕組みに興味津々のようだ。
「まだまだ! 手札の《斬機アディオン》の効果を発動! 《サイバース・ウィキッド》の攻撃力を1000上げ、特殊召喚する!」
【サイバース・ウィキッド】
LINK-2/闇属性/ATK 800→1800
アディオンが現れ、ウィキッドの力を一時的に上げる。
「まだまだ行くぞ!出て来い可能性のサーキット!
召喚条件はサイバース族モンスター2体。
《斬機アディオン》と《ファイアウォール・ガーディアン》をリンクマーカーにセット!
リンク召喚!リンク2、《スプラッシュ・メイジ》!」
【スプラッシュ・メイジ】
LINK-2/闇属性/ATK 800
サイバース族/リンク/効果
↗
□
↘
ガーディアンが墓地へ送られると、すぐさまその効果が反応した。
「《ファイアウォール・ガーディアン》の効果! リンク素材として墓地へ送られたことで、自身を特殊召喚する!
さらに、スプラッシュ・メイジの効果を発動。墓地の《斬機シグマ》を蘇生!
これで準備完了だ!」
オレはフィールドを見渡した。ここまでの展開は予定通り。あとは、最後まで走り切るだけだ。
「再度来い!可能性のサーキット!
召喚条件はモンスター2体以上!
オレは《ファイアウォール・ガーディアン》と《斬機シグマ》、そして《スプラッシュ・メイジ》をリンクマーカーにセット!」
モンスターたちが1つ、2つ、そして4つとリンクマーカーにセットされる。
「幾重もの情報の海を越え、今ここに築かれる絶対防壁! すべての脅威を退ける守護の竜! リンク召喚! 現れろ、リンク4!《ファイアウォール・ドラゴン》!」
【ファイアウォール・ドラゴン】
リンク4/光属性/攻2500
サイバース族/リンク/効果
↑
←□→
↓
青白い光の中から、巨大なドラゴンが姿を現した。
上向きのリンクマーカーが、《サイバース・ウィキッド》の下向きのマーカーと向かい合う。二体の回路が繋がり、フィールドに光の線が走った。
「これが相互リンク……!」
零児が、観察するように呟くのが聞こえた。
オレはカードを2枚セットし、ターンを終える。
「カードを2枚セット! これでターンエンドだ!」
LPは4000。フィールドには相互リンクの《ファイアウォール・ドラゴン》と《サイバース・ウィキッド》。そして伏せカードが2枚。
「さあ、沢渡! アンタの番だ!」
デュエル描写の見やすさは手探りです。
執筆環境の兼ね合いで5000文字超えると分割したくなる……。
次回もデュエルが続きます。