『公安警察外局特定脅威処理記録:コード「削除済み」』 作:平素練磨
「騎馬戦――終了!!」
ミッドナイトの進行の合図がスタジアムに響き渡ると同時に、グラウンドを支配していた異様な熱気がぴたりと収まった。
泥と汗に塗れた生徒たちが息を荒らげ、荒い呼吸音だけが土の上に残る。巨大モニターには上位の騎馬(緑谷、爆豪、焦凍、心操のチーム)が映し出されていたが、観客席を埋め尽くすプロヒーローたちの反応は、いつもの体育祭とは明らかに異なる「戸惑い」に包まれていた。
「……ねぇ。 さっきの騎馬戦……どう見えた?」
スタジアムの通路側で警備の合間にモニターを凝視していたMt.レディが、眉をひそめながら呟く。
「どう見えたもこうもあるか。……全体的に、妙に『硬い』試合だった」
デステゴロは腕を組み、怪訝な表情で画面を睨みつけていた。
「普通、あの手の騎馬戦ってのは『個性の派手なぶつかり合い』になるはずだろ。氷結で足止めしたり、爆破で吹き飛ばしたり、個性をどう連携させて大技を魅せるかがメインだ。だが……あいつら、特にA組の連中は何だ?」
「技を出す『前』の動き……よね」
Mt.レディの目が鋭くなる。
「ハチマキを奪い合う間合いの詰め方、突撃された時のいなし方、崩された時の立て直し……個性の出力に頼るんじゃなくて、自分の身体の軸をどう保つかだけに意識が集中してる。見せるためのパフォーマンスを、まるでドブに捨ててるみたいだわ。……あれじゃまるで、実戦の泥試合よ」
「いや……洗練された泥試合ならまだいい」
巡回から戻ってきたシンリンカムイが、腕組みをしながら低い声で割って入った。
「見てみろ。あの緑谷という生徒も、爆豪という男も……動きの端々で一瞬だけギクシャクと滞っている。無駄を失くそうとして腕や足の力を抜こうとしているようだが、意識しすぎるあまり、逆に動きが硬くなって失敗している」
「え……? 失敗してるの?」
Mt.レディが問い返す。
「そうだ。完成された達人の立ち回りではない。染みついた『力み』や『タメ』、あるいは『意識の偏り』といった悪癖を、誰かに無理やり突きつけられて、必死に現場で修正しようともがいている……そんな歪な違和感だ」
「USJを経験したから……ってだけじゃ説明がつかないわね」
Mt.レディはグラウンドで荒い息を吐く生徒たちを見下ろした。
「あの子達、ヒーローとしてアピールすることなんてまるで頭にないわ。ただ……自分の身体の中にある『不完全さ』に追いつめられて、苛立ってるみたい……」
周囲のスカウト目的のプロヒーローたちからも、ひそひそと困惑の囁きが漏れていた。
「1-Aの生徒たち、個性のスペックは凄まじいのに、なんであんなに体を固くしてるんだ?」
「もっと個性を派手に見せればいいのに……技のタメを気にして自滅しかけてるぞ」
「誰にあんな『変な意識』を叩き込まれたんだ……?」
観客席のヒーローたちがその『理』の正体を理解できず、不気味な違和感に首を傾げる中、実況席からはトーナメント戦(1対1のガチンコ勝負)の開始が告げられる。
華やかなアピールを完全に置き去りにしたまま、自分の身体の悪癖と必死に格闘する青い生徒たちは、ついに一対一の死地へと足を踏み入れようとしていた。