『公安警察外局特定脅威処理記録:コード「削除済み」』 作:平素練磨
「――トーナメント1回戦、第1試合!!」
実況席のプレゼント・マイクの叫びとともに、満員のスタジアムが揺れる。
リングの中央で対峙するのは、緑谷出久と普通科の心操人使。
出久は足裏で土を踏みしめ、朝の鍛錬で叩き込まれた「無駄を省く姿勢」を強く意識していた。だが、心操が発する刺々しい言葉が、出久の胸を激しく揺さぶる。
「ヒーロー科様は恵まれてていいよな……。僕みたいな人間は、スタートラインにも立てないのに」
「……っ、そんなことは――」
心操の狙い通り、出久の唇が思わず動いた瞬間、頭の中が真っ白に染まった。
心操の個性『洗脳』。身体の自由が奪われ、出久の足が自らリング外へと歩み始める。
(あ……動かない……! 心操くんの言葉に……僕が勝手に反応して……!)
意識が遠のく中、出久の脳裏に泥まみれの朝のグラウンドと、無機質な声が冷たく響いた。
『思考という遅延(ラグ)を挟むな。言葉や感情に反応するな。理とは考えるものではなく、削ぎ落とした末に残るものだ』
(そうだ……僕、また頭で反応して……! 考えるな、力むな……!!)
出久はパニックになりそうな心を必死に抑え込み、全身の無駄な力みを強引に抜こうと足掻いた。その一瞬の「力みの弛緩」とワン・フォー・オールの衝撃が偶然にも噛み合い、指先の一点だけで衝撃が弾ける。
カツンッ!
「な……なに!?」
衝撃で洗脳の呪縛が解けた瞬間、出久は転がるようにして踏みとどまった。だが、そこからの余裕など微塵もない。感情を抑えようと意識するあまり動きが硬くなり、無我夢中で心操の腕を掴んで背負い投げを打つのが精一杯だった。
「緑谷……場外!! 第1試合勝者、緑谷出久!!」
ハァハァと荒い息を吐きながら、出久は自分の手を見つめる。
(ギリギリだった……。無駄を削ぐどころか、また感情に振り回されて自滅しかけた……)
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続いて、第2試合。轟焦凍 vs 瀬呂範太。
「第2試合――スタート!!」
合図と同時に、瀬呂が両肘から高速でテープを射出し、焦凍の身体を拘束して一気に場外へと引きずり出そうとする。
「悪いな轟! 奇襲させてもらうぜ!」
(右の氷……だが、右に体重を乗せすぎるな……! 左の軸を殺すな……!)
焦凍は瀬呂に引っ張られながら、朝の乱取りで左膝裏を突かれた記憶に囚われていた。
「左の歪みを意識しなければ」と焦るあまり、逆に肩と体幹に無駄な力みが入る。右半身の出力と身体のバランスが喧嘩し、不格好に足がもつれかけた。
「……くっ!!」
意識と身体の噛み合わなさへの苛立ち。そして「右だけで勝つ」という意地。
焦凍は結局、体軸の歪みを整えきれないまま、力任せに感情に任せて巨大な氷結を放った。
ドゴォォォン……!!
スタジアムを覆い尽くす、歪で巨大な氷の山。
瀬呂を一瞬で凍りつかせて勝利したものの、それは洗練された技などではなく、「身体の歪みと葛藤から来る、力任せの過剰な過ち(無駄)」そのものだった。
「……せ、瀬呂くん行動不能! 轟くん2回戦進出!!」
観客席がどよめく中、焦凍は激しい呼吸のまま、自分の右手に残る過剰な冷気の残滓と、相変わらずしっくりこない左半身の違和感を睨みつけていた。
(ダメだ……全然削ぎ落とせていない。意識すればするほど、力が入って崩れる……!)
勝ち進みながらも、出久も焦凍も、そして控え室で見つめる爆豪たちも、全員が「己の身体の未熟さと悪癖」に足を取られ、苛立ちながら足掻き続けていた。
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