『公安警察外局特定脅威処理記録:コード「削除済み」』 作:平素練磨
「——トーナメント2回戦、第1試合!!」
第1回戦を経て、生徒たちが抱く「焦燥」と「違和感」はより一層濃くなっていた。
出久と爆豪、そして焦凍の戦いを見つめていた1-Aの面々——常闇、飯田、八百万、お茶子らもまた、各々の試合で自らの身体に染みついた「不純物」と格闘していた。
誰もが、あの男の『削れ』という無言の教えを頭では理解しようとしている。だが、長年かけて培った癖や恐怖は、そう簡単に剥がれ落ちてはくれない。意識すればするほど動作が固くなり、力み、失敗する。
「ハッ、無駄だらけだな全員!!」
控え室の通路で、爆豪が低く吐き捨てた。
自身の2回戦を控えた爆豪の掌は、苛立ちで小さく爆発を繰り返している。
「意識して肩の力抜こうとして、逆に動きが遅くなってんじゃねえよクソブツブツが! 削ぎ落とすってのはなぁ、『力抜こう』なんて考えてる時点ですでに遅延(ラグ)なんだよ!!」
通りかかった出久が、その言葉にハッと息を呑む。
「……思考のラグ……。僕は『無駄を消そう』と頭で考えて、また新しい無駄を作っていたんだ……」
「失せろ! 次の半減野郎との試合で無様な面晒したらぶっ殺すからな!」
爆豪自身もまた、腕の振りを削ろうとするあまり爆破のタイミングがミリ単位でズレるもどかしさと戦っていた。自分への苛立ちを粗野な言葉に変換しながら、爆豪はグラウンドへと向かって大股で歩き出す。
そして、運命の準決勝——緑谷出久 vs 轟焦凍。
「――準決勝、第1試合!! スタート!!」
実況席の叫びと同時に、焦凍が右の氷結を放つ。
ドォン!
出久はワン・フォー・オールの衝撃で氷を粉砕するが、その指先には容赦ない痛みが走る。
(力を抜く……んじゃない。『考える』のをやめるんだ! 身体の理に、ただ身を任せる……!)
出久は右手の関節の余計な力みを削ぎ落とそうと必死に足掻く。だが、焦凍の猛攻を前に焦りが生じ、また踏み込みの軸がブレかける。
一方の焦凍も極限状態にあった。
右の氷結を撃ち続けるうち、右半身が冷気で凍りつき、動きが目に見えて鈍り始める。
(左の炎を使えば……冷えは治まる。だが、あの熱は……燈矢兄さんを焼き尽くしたあの炎は……! いや……『恐怖』じゃない……!)
脳裏に過るのは、幼い頃に自らの炎で焼き尽くされた兄・燈矢の記憶と、冷たい死の恐怖。
そしてそれ以上に、朝の乱取りでイレギュラーに叩きつけられた言葉が、焦凍の凍りついた脳裏に激しく刺さる。
『右を使いたいのではない。左を嫌っているだけだ。自ら半身を殺して立つ人間に、正しく伝わる軸など作れない』
(俺は……燈矢兄さんへのトラウマと炎への恐怖という『余計な感情(無駄)』で、自分の身体の半分を死なせて立っていたのか……!?)
焦凍の身体から、一瞬だけ左の炎が吹き出す。
だが、それはコントロールされた美しい炎ではない。兄の死の記憶、炎への恐怖、そして「一本の軸として立つ」ことへの葛藤が混ざり合った、不格好で猛烈な熱量。
「轟くん……!!」
出久が地面を蹴る。ワン・フォーオールを全身に巡らせ、余計なタメを消そうと歯を食いしばりながら、直線で焦凍の懐へと突っ込む。
焦凍もまた、左の熱と右の冷気——その二つの要素を「一本の骨組み」として無理やり繋ぎ合わせようと、全身の力を解き放った。
減衰と力み、そしてトラウマの葛藤を抱えたまま、未熟な二つの巨大なエネルギーが正面から激突する。
スタジアムを吹き飛ばすほどの衝撃波と爆風。
観客席のプロヒーローたちが目を見開くなか、煙の向こうで倒れていたのは——泥と傷に塗れた二人の姿だった。
まだ完成などしていない。
勝者となった焦凍の身体にも、敗れた出久の身体にも、削りきれなかった「恐怖の歪み」と「未熟さ」が濃く残されていた。