『公安警察外局特定脅威処理記録:コード「削除済み」』 作:平素練磨
「――第2種目トーナメント、準決勝第2試合!!」
メインモニターに映し出されたのは、切島鋭児郎と爆豪勝己の対峙だった。
切島は『硬化』を全身に纏い、低くどっしりと構えていた。
朝の乱取りで幾度となく地面に沈められ、己の踏み込みの甘さと「硬さに頼った大振り」を痛感した切島。だからこそ、爆豪の爆破に対して無駄な大振りを捨て、最小限のガードと直線的な踏み込みで間合いを詰めようと足掻いていた。
(力を溜めるな……気合いで力むな……! 最小限のステップで、まっすぐ突っ込む……!)
しかし、その「力みを抜こう」とする意識そのものが、わずかな動作の硬さを生む。
「遅ぇんだよ、切島ァ!!」
爆豪の怒声が飛ぶ。
爆豪もまた完璧ではなかった。腕振りのタメを消そうとするあまり、爆破の威力がわずかに散り、思い通りのベクトルが出ない。苛立ちに歯を食いしばりながらも、爆豪は空中で体幹を無理やりねじり、最短距離で切島の側頭部へ右掌を叩きつけた。
「がっ……!?」
『硬化』の隙間、支点が防ぎきれていない絶妙な角度。
切島は体軸を崩され、泥の中に倒れ伏した。
「勝者、爆豪勝己!! 決勝進出!!」
勝ち名乗りを上げられた爆豪だったが、その表情に歓喜の色は一切ない。倒れた切島を見下ろす瞳には、己の掌の微小な「ブレ」に対する激しい焦燥だけが渦巻いていた。
(チッ……まだ腕のタメが残ってやがる。ミリ単位で威力が逃げてんだよ……!)
---
そして、スタジアムの観客席上階。
スカウト目的で集まったプロヒーローたちの間では、噛み合わない戸惑いの声が上がっていた。
「……なぁ、今年の一年生、個性のスペックはすげえのに、なんか魅せ方が下手じゃねえか?」
スカウト席の中堅ヒーローが、首をひねりながら椅子に背をもたれかける。
「ああ。轟の氷結も緑谷のパワーも規格外なのに、動きがいちいち硬いというか、変に手数を惜しんで自滅しかけてるだろ。もっと個性を派手に振り回せば楽に勝てるのに、なんであんな泥臭い相撲みたいなことやってんだ?」
「パフォーマンス性が足りねぇよな。スカウト映えしないというか……見ててスカッとしない不気味なぎこちなさがある」
個性の「出力」と「華やかさ」ばかりを評価する大半のプロたちにとって、1-Aの生徒たちが必死に格闘している「身体の削ぎ落とし」は、ただの「魅せ方の拙さ」や「謎のぎこちなさ」にしか映っていなかった。
だが――腕を組み仁王立ちするエンデヴァーだけは違っていた。
「……チッ」
エンデヴァーの鋭い双眸が、リングの上を、そして自らの息子・焦凍の足元を凍りつくような冷徹さで見つめている。
(手数を減らしているのではない……『無駄なタメ』を削ろうとして自滅しているのだ。焦凍のやつ、左の出力を上げた時に体軸が右へ傾いている……。炎への恐怖で左のタメを無意識に拒絶し、骨組みが歪んで出力が死んでいる)
己の身体を極限まで練り上げてきたNo.2ヒーローだからこそ、気づいてしまう。無駄を削る先にある最高効率の力を。
(緑谷も、爆豪も、焦凍も……誰だ? 誰があいつらに『それ』を叩き込んだ……? 15歳の子供が自力で辿り着く領域ではない。身体からすべての不純物を削ぎ落とそうとする、あの異常な足掻きは――)
大半のプロが「下手な試合」と片付ける中で、エンデヴァーだけが、生徒たちの背後に透ける「理を叩き込んだ何者か(イレギュラー)」の存在と、その鍛錬の恐ろしさに戦慄していた。