『公安警察外局特定脅威処理記録:コード「削除済み」』   作:平素練磨

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第36話:極限の軸、過絶なる破砕

静寂が大通りを覆っていた。

 

壁面に叩きつけられたステインは、頭部と背骨への衝撃により完全に意識を失い、力なくだらりと崩れ落ちている。その足元には、彼の血塗られた短刀が転がっていた。

 

遅れて路地裏から駆け出してきたプロヒーロー・ネイティヴを背負った緑谷出久と、足を引きずっている飯田天哉が、壁面に深くめり込んだステインと、その傍らに佇むイレギュラーの背中に息をのむ。

 

「せ……先生……!」

 

出久が出しかけた言葉は、途中で凍りついた。

 

制圧を終えたはずのイレギュラーが、何の前触れもなく唐突に振り返り、出久の眼前に向かって右脚の蹴りを鋭く振りかぶったからだ。

 

(え……何で……僕に……!?)

 

理解が追いつかず、恐怖で身体が硬直し一歩も動けない出久。

 

直後——イレギュラーの『KISARAGI製強化外骨格』の腰部シリンダーから、限界だろう強烈な稼働音が響く。

 

——ガシュッ!

 

小型のメカニカル油圧ピストンが極限まで圧縮され、太腿の過絶な出力が膝下の高剛性装甲ブーツへと一気に伝達された。

 

出久の頭上わずか数センチの空間で、大気が破裂したかのような重厚な衝撃音が轟く。

 

頭上から襲いかかっていた『飛翔型脳無』。

出久を空から急襲し、鉤爪で捕獲しようとしていたその異形は、出久が気配に気づくことすら許されず、完璧な「先読み」からの軌道上へ繰り出された回し蹴りによって頭郭を直接撃ち抜かれていた。

 

風圧が出久の前髪を激しく吹き上げる。

 

「ガっ…………っ!?」

 

頭蓋を内部から全粉砕された脳無の巨体が、足が食い込み叩き込まれた物理エネルギーのままアスファルトへと叩き伏せられた。コンクリートが蜘蛛の巣状に割れ、脳無は一圧のもとに完全な沈黙へと沈む。

 

吹き抜ける突風の中で、出久はようやく自分が上空から攫われかけていたこと、そして先生が自分ではなく「頭上の脅威」を寸分の狂いもなく撃ち落としたのだと理解した。

 

「あ……」

 

出久の口から掠れた声が漏れ出る。

 

イレギュラーは飛翔型脳無から芦を引き抜き、完全な停止を確認。脚部の油圧ピストンの噛み合わせを静かに戻すと、一度も息を乱すことなく直した。

 

しかし、ピシッ……と、無理なトルクに耐えた脚部フレームから微かな歪みの音が漏れる。

しかし、バイザーの奥の冷徹な視線は、倒れた二体の脅威と、こちらに向け遅れて駆け込んでくるプロヒーローたちの姿を静かに捉えているだけだった。

 

保須市の夜が静寂とともに、完全な終息を迎える。

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