『公安警察外局特定脅威処理記録:コード「削除済み」』   作:平素練磨

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第52話:鉄の落破、無の伝播

炎上するヘリの瓦礫を押し退け、ウォルフラムが立ち上がった。

 

頭部に装着された個性増幅装置が不気味な光を放つ。彼が両腕を掲げると、ヘリポートの床面を構成する分厚い鋼板やヘリの残骸——数十トンに及ぶ鉄塊が、直接触れられることもなく浮き上がり、彼の肉体を覆う強固な重装甲へと姿を変えていく。

 

増幅された『金属操作』。直接の接触を必要とせず、広範囲の金属を意のままに操り、自らを巨神へと仕立て上げる能力。

 

「オールマイト……! ここが貴様の墓場だ!!」

 

異形の鉄塊となった巨腕が振り下ろされ、ヘリポートの床が激しく鳴動する。

 

「緑谷少年、離れていなさい!」

 

オールマイトが前へ踏み出す。

その背中は巨大で、いかなる絶望からも弟子を守り抜く「平和の象徴」そのものだった。全盛期を過ぎ、限界が迫る肉体でありながら、彼は一歩も引かずに巨腕を正面から、デトロイト・スマッシュで迎え撃ち衝突する。

 

凄まじい衝撃波がヘリポートを駆け抜け、膨大な質量と平和の象徴の拳が正面から拮抗する。

 

「うおおおおっ!!」

 

そして打ち合った拳に対し、緑谷もフルカウルの出力を脚部から腕へと通し、オールマイトと打ち付け合った金属の拳をスマッシュで殴りつけて吹き飛ばす。

 

師弟の連続打撃によって一瞬の硬直が生まれた、その激闘の直打と死角。

 

いや、死角というよりも——完全な認識外。

 

イレギュラーは低く倒し込んだ体軸のまま、ぬめりとした動作でウォルフラムの認識から完全に外れた位置へと滑り込んでいた。

 

USJで損壊したMk-1の全面改修、保須で損耗したMk-2のオーバーホールが追いつかず、現時点で装着しているのは代用フレーム。トルクも出力も不足し、駆動応答には明確で致命的な遅れが生じる粗末な合わせ合わせだ。

 

だが、彼はそれを頭で計算などしない。朝夕の鍛錬で骨格に叩き込んだ寸尺の物理感覚で、機械の遅れを自身の重心移動によって先回りして埋める。

彼が向かったのは、ウォルフラムの影響下にある巨大な金属の腕だ。

 

右手で、その過密に結合された鋼板の表面へ冷徹に接触する。

 

——『虚』。

 

接触面から伝導するように『虚』の影響が急激に伝播し、ウォルフラムの個性伝送に干渉。数秒間に及ぶ「個性の不安定化」を引き起こした。

 

「な……!? 個性の制御が……揺らい……!?」

 

初めて直面する異常事態に、ウォルフラムの脳裏に激しい動揺と慌てが走る。

 

次の瞬間、彼のあらゆる支配下にあった数十トンの鉄材が、一瞬にして個性の維持力を失い、ただの「鉄くず」へと変化した。

 

凄まじい音を立てて巨腕と装甲が崩壊し、自重に従ってヘリポートの床面へ自重落下していく。強固な防壁を一瞬で失ったウォルフラムの無防備な体が、夜空の下へ剥き出しになった。

 

その絶対的な隙を、オールマイトは見逃さない。

 

「おおおッ!」

 

全身の踏み込みとともに地を蹴り、オールマイトが前進する。

そして緑谷もまた、その背中を追って力強く走り始めた。

 

二人の拳が、崩壊した鉄の残骸を越えて一直線に突き進む。

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