『公安警察外局特定脅威処理記録:コード「削除済み」』 作:平素練磨
I・アイランドから帰還した翌朝。雄英のグラウンドには、重い打撃音と荒い呼吸が満ちていた。
『フルカウル』の踏み込みを踏み外された緑谷が、地を舐める。
だが、起き上がる眼光に迷いはない。I・アイランドでの激闘を経て、生徒たちは骨身にしみて理解していた。無言で殴られ、投げられ、締め上げられるこの「地獄の乱取り」こそが、実戦で生死を分ける「基礎の理」だと。
「もう一度お願いします!」
緑谷が喰らいつき、爆豪も大振りを捨てた重心移動で肉薄する。自分たちで考え、己の肉体へ叩き込んでいく。相澤とオールマイトは、間近に迫る林間合宿を前に「器」としての強度が急速に出来上がりつつある彼らの姿を、静かに見守っていた。
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その日の放課後、サポート科工房。
「いやー! 素晴らしい作例です! この低トルク低スペックで、とにかく『生身の負担を減らすためだけ』に割り切られたレスポンス皆無の省力設計! この繋ぎの骨組み、たまりません!」
「……おい。勝手にバラすな」
I・アイランドを乗り切り、林間合宿までの繋ぎとして生身の摩耗を抑えるためだけに着用していた粗末なキサラギ製「代用フレーム」。それが現在、不要となり発目明の手によってボルト単位まで完膚なきまでに解体されていた。
「何を仰いますか! 構造を知らずして更なる進化はありません! ほら見てください、サポート科の先輩たちも目が血走ってますよ!」
発目に煽られたサポート科の生徒たちが、解体されたパーツの構造美に群がり、目を輝かせている。その様子に頭を抱えているパワーローダー先生。
その喧噪の奥では、自ら開発した強化外骨格に狂気的な執着を見せる元キサラギの天才エンジニアが一人、保須の激闘で重度のフレーム歪みとシリンダー焼付きを起こした「2号機(Mk-2)」の完全修復(レストア)と応答性の微調整作業の最後の工程を冷徹に進めていた。
「2号機の歪み補正とシリンダーの完全打ち替えは完了し、応答性のマイナーオーバーホールも併せて進めている。 明日の朝には仕上がる」
エンジニアの報告に、イレギュラーは淡々と頷く。
「1号機のCAD再設計はどうなっている」
「USJで全壊した1号機(Mk-1)の解体データを基に、完全解体からのCAD再設計を進行中だ。発目やサポート科の生徒どもが持ち込む妙なアイデアの選別も含め、設計のブラッシュアップは順調だよ」
その時——工房内に絶望的な破壊音が響き渡った。
プシューーーーッ!! ガコンッ!! ギシィッ!!
「あはは! 耐圧実験です! 超高圧エアーを直結したらどこまで耐えられるか——あ、軸が折れました!」
発目が代用フレームから勝手に取り外したシリンダーにコンプレッサーの高圧エアーを流し込み、シリンダーロッドを派手にへし折っていた。
「発目ぇぇぇえええ!! 他人の備品を勝手に過負荷で破壊するなと言っただろうが!!」
作業奥からパワーローダーの怒声が炸裂し、重い工具が飛ぶ。
狂気と喧噪の工房で、組み上がりつつある黒装の2号機だけが静かに異彩を放っていた。道具の修繕と、教え子の練磨。林間合宿に向け、準備は着々と整いつつあった。