『公安警察外局特定脅威処理記録:コード「削除済み」』 作:平素練磨
翌朝、静まり返ったサポート科工房。
無残に分解され尽くした代用フレームの横に、一機の黒い強化外骨格が鎮座していた。
歪みは完璧に矯正され、新調されたシリンダーが鈍い金属光沢を放っている。
「……試運転を」
元キサラギ技師の声に促され、イレギュラーは修復された『2号機(Mk-2)』を装着した。
シリンダーが微かな吸気音を立て、関節部が噛み合う。
短く踏み込み、体軸を低く落とす。
極僅かなの遅れすら感じさせない。肉体の動きに対し、外骨格が吸い付くように追従してくる。
「シリンダー径の微調整と、流体バイパスの新技術を組み込んだ。以前より応答性・追従性ともに概ね3割は向上しているはずだ」
技師は自慢するでもなく、無表情にスペックを口にした。
イレギュラーは足首と腰の軸を旋回させ、その馴染み具合を確かめる。素手・腕の感覚を阻害しないよう二の腕から先を排したフレーム構成において、下半身から体軸へ伝わるトルクの速さは劇的に改善していた。
「……問題ない。明確に速くなっている」
短く肯くイレギュラーの反応に、技師は満足そうに口元をわずかに歪めた。
「良し。2号機が形になった以上、私の全リソースは1号機(Mk-1)の再設計へ移行する。戦闘データを踏まえ、フレーム剛性を根本から見直した化け物に仕上げてやる」
そう吐き捨てると、技師はすでに1号機のCAD画面が並ぶマルチモニタの前へと戻っていった。
その時——工房の奥からガコンガコンと重金属音が響いてきた。
「見てくださーーーい!」
声を張り上げて現れたのは、過去の試作品パーツと異形の油圧アクチュエータを組み上げ、自作の試作フレームを背負った発目明だった。
「代用フレームの分解データと私の溢れ出る閃きを融合させ! 自ら組み上げてみました『ベイビー発目特製・可動域対応油圧バイパスフレーム』です! テストに付き合ってください!」
「断る。消えろ」
「まあまあ! 試さずして否定は科学の敗北です! ほら、この腰部に組み込んだマニホールドブロック! 内部流圧を相互に逃がしつつ、瞬間的なトルクへ変換する画期的な——」
発目は技術者の制止を完全に無視し、試作フレームのバルブを開放した。
高圧流体が不規則に循環し、異形フレームの腰部アタッチメントが凄まじい音を立てて駆動する。技師の作業机に積み上げられていた設計資料が吹き飛び、奥からパワーローダーが「発目ぇぇぇええ!!」と怒声を上げた。
「……チッ、鬱陶しい」
吹き飛んだ資料を拾い集めながら、元キサラギ技師は舌打ちを漏らした。
だが、その視線が一瞬だけ、暴走する発目製フレームの「マニホールドブロックの配置ライン」に留まる。
無骨で粗削りな組み込み。しかし、その小型バルブブロックによる流圧制御の発想には、軍需専門であるキサラギの頑固な設計思想にはない柔軟な「逃げと効率」が含まれていた。
「……おい、発目」
「はいっ! 感動しましたか!?」
「そのマニホールドのCADデータを置いていけ。邪魔だからさっさと出ていけ」
「あはは! 採用ですねー!!」
パワーローダーに首根っこを祀り上げられて引きずられていく発目を見送りながら、技師はブツブツと文句を吐き捨て、1号機の設計画面へと向かった。
1号機(Mk-1)の再設計モニタの上で、軍需用の圧倒的剛性設計と、発目明の発想による流体制御回路が密かに混ざり合い始めていた。