『公安警察外局特定脅威処理記録:コード「削除済み」』 作:平素練磨
ヒーロー公安委員会本部、特別情報室。
薄暗い室内で、無数のモニタが不気味なノイズを打ち出していた。
本来であれば、今日から雄英高校ヒーロー科の林間合宿へ同行するはずだった非常勤講師——イレギュラーの前に、公安の担当官が極秘ファイルを提示する。
「保須市での件以来、地下に潜った『敵(ヴィラン)連合』と思われる通信ログだ。保須……ヒーロー殺しステインの思想や映像は、我々の情報統制によってメディアへ流出させていない。そのため奴らは思想に感化された兵隊を余り集められず、少数精鋭での潜伏と情報収集に切り替えている」
担当官が画面を切り替える。そこには、山岳地帯の衛星画像と途切れ途切れの暗号通信が映し出されていた。
「襲撃の可能性が高い。目標は雄英生徒……特に特定の個人の拉致。決行予定は4日目の夜と見ている。急ぎ、ここで情報の裏取りと経路照合に付き合ってもらう」
「……了解した。業務を遂行する」
イレギュラーは短く答え、手帳に警戒座標を記録し始めた。
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【合宿初日〜3日目】
**初日。**
非常勤講師の不在の中、1-Aの生徒たちは、相澤消太とプッシーキャッツの指導のもと、早々に樹海の突破と地獄の訓練へと叩き落とされた。日頃の組み手で叩き込まれた体幹・骨格の保持が功を奏し、生徒たちは身体を破綻させることなく、順調に課題をこなしていく。
**2日目。**
早朝から始まったのは、個性の許容量(キャパシティ)を力尽くで引き延ばす「限界突破」の訓練。相澤の厳しい眼差しのもと、生徒たちは叫び声を上げながら己の個性を追い込んだ。
**3日目。**
B組との合同訓練と個性強化がピークを迎える。日々の地味な身体操作が身についている生徒たちは、無理な姿勢からの復元力を発揮し、大きな怪我人を出すこともなく着実に「器」の強度を増していった。
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**4日目、夜。**
山道を裂くように、重厚な排気音が響く。
公安での情報照合を終えたイレギュラーは、自前の大型バイクを駆り、漆黒の山道を猛スピードで疾走していた。
全身には、新調されたシリンダーと流体バイパスが組み込まれ、応答性が3割向上した『2号機(Mk-2)』を常時着用として完璧に再装着している。素腕・素手の触覚を晒したまま、バイクのアクセルをひねり込む。
山頂の施設に到着すると、敷地内には「肝試し」に向かう生徒たちの歓声が微かに残っていた。
「……遅かったな」
施設前で待機していた相澤が、影の中から姿を現す。その傍らにはマンダレイ、ピクシーボブ、虎の姿があった。
「公安からの情報精査だ。敵連合の動きが捕捉された。目標は生徒の拉致……決行は今夜だ」
イレギュラーがバイクのエンジンを切り、冷徹に告げる。相澤の目が険しく光り、プッシーキャッツの面々に緊張が走った。
「何ですって……!? 生徒たちは今、森の中で肝試しを——」
マンダレイが言葉を言い切る前に、森の深部から不気味な甘い匂いを伴う「黒い毒ガス」が立ち込め始め、同時に夜空を燃え盛る青い炎が切り裂いた。
奇襲の火蓋が、切って落とされた。