『公安警察外局特定脅威処理記録:コード「削除済み」』 作:平素練磨
林間合宿での奇襲から数日後。都内某所に設置された警察およびヒーロー公安委員会の合同作戦本部。
円卓を囲むのは、オールマイト、エンデヴァー、ベストジーニストをはじめとするトップヒーローたち、そして警察庁の塚内直正。
「目標は神野区のアジト、および敵連合の補給路の完全遮断。目的は爆豪勝己の無事救出だ」
塚内がスクリーンに地図とデータを投影する。
「学生が交戦中に取り付けに成功した超小型トラッカーによって判明した敵の本拠地は大きく分けて二つ。爆豪くんが拘束されている可能性が高い神野区雑居ビルのアジト、そして『脳無』の製造工場と見られる倉庫群の一角だ。二箇所同時に突入し、電撃戦で片を付ける」
塚内は視線を列席する者たちへと向ける。
「相澤先生には当日決行時刻と同時に雄英高校の緊急記者会見に出席してもらう。メディアの批判を受け止め、世間と敵の目を会見場へ釘付けにすることで、我々の同時襲撃の秘匿性を高める」
相澤は無言で短く頷く。
「そしてイレギュラー講師。君には公安の特別部隊とともに、脳無工場側の突入オペレーターを務めてもらう。君の『Void(虚)』による近接抑制は、狭所での交戦において極めて有効だ」
「了解した。与えられた配置業務を遂行する」
感情を含まない短く平坦な答え。塚内もそれ以上の追及はせず、淡々と神野区の構造図面へと説明を戻した。
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同日夜。雄英高校敷地内、地下整備ドック。
薄暗いドック内に、2号機(Mk-2)の油圧シリンダーが吐き出す低音が響いていた。
元キサラギのリードエンジニアが、モニターのグラフィックと骨格フレームのボルト締めをチェックしながら不機嫌そうに吐き捨てる。
「合宿での連続戦闘でシリンダーの圧力弁に微妙なトルクのズレが生じている。応答性3割向上のセッティングを維持するためには、1ミリのバックラッシュも許されん」
「問題ない。再調整の時間を充てろ」
イレギュラーは上着を脱ぎ、裸体となった上半身に2号機の背骨フレームを固定させていく。無数の古傷が刻まれたその背中に、強化外骨格の金属骨格が噛み合い、シリンダーが静かに圧縮音を立てた。
「……サポート科のあの娘が持ち込んできた流体制御の発想、不快だが使えはする。1号機(Mk-1)のCAD再設計に組み込んではいるが、完全なフレーム剛性とすり合わせるにはどうやっても年末までかかるぞ」
「急ぎはしない。現行の2号機で業務に支障はない」
「フン、道具が道具の分を弁えているなら結構だ」
技師の言葉に重ねて答えることはせず、イレギュラーは自身の素手・素腕の感覚を確かめるように、静かに指を曲げ伸ばしする。
敵の目を欺く記者会見、そして同時電撃突入。
神野区のアジトアタックという巨大な局面を前にしても、彼の体幹と心軸は、微動だにせず冷たく冴え渡っていた。