『公安警察外局特定脅威処理記録:コード「削除済み」』 作:平素練磨
テレビ画面の中では、黒のスーツに身を包んだ相澤消太と雄英幹部たちが深々と頭を下げ、世間やメディアからの猛烈なバッシングを正面から受け止めていた。
その会見映像がリアルタイムで流れる中、神野区郊外に佇む倉庫群。
「……同時突入、カウント3前」
公安特別機動隊の合図とともに、漆黒の2号機(Mk-2)を身に纏ったイレギュラーが、無言で工場裏手の鉄重門前に立った。
「……2、1、——突入(ゴー)!」
ドォンッ!!
爆破とともに鉄門が吹き飛び、特殊部隊とともにイレギュラーが滑り込む。
薄暗い倉庫内に立ち並ぶのは、培養液で満たされた無数の巨大ガラス管。
突入の爆音と同時に、自動警備システムとして割り振られていた3体の黒色・高性能型脳無**が管を突き破り、超人的な質量とスピードで襲いかかってきた。
「グガアアアッ!!」
先頭の1体が、巨大な肉塊のような拳を振り下ろす。
イレギュラーは一切の予備動作なく一歩踏み込み、素手・素腕の左手をその巨大な拳の側面に滑らせた。
Void(虚):現象の無効化
運動エネルギーを爆発的に補強していた個性の出力が、接触の瞬間に消失する。威力を殺された拳の軌道を左掌底でわずかに逸らし——ベクトルの転換。
前傾姿勢に崩れた脳無に対し、イレギュラーは2号機の背骨・脚部シリンダーの油圧トルクを全開で駆動させた。
ズドンッ!!
回転を加えた右膝蹴りが、脳無の顎下へ正確に叩き込まれる。重心の軸を底から破壊された巨体が浮き上がった瞬間、後頭部の皮膚へ素手で直接触れた。
ジ……と不気味な相殺音が響き、黒色個体が持つ「超再生」の機能が強制的に遮断された。そのまま自重と肘の支点を利用して首関節を固定し、可動域を完全に潰す。
わずか数秒で1体機能停止。
残る2体の黒色脳無が左右から同時に襲いかかるが、イレギュラーは1体の突進のベクトルを捌いてもう1体へと衝突させ、軸を失った隙に関節構造を破壊、触覚抑制によって再生を許さず完璧に沈黙させた。
直後、けたたましい警報音が倉庫内に鳴り響き、警備システムによって培養管から**灰色および白色の量産型脳無**が順次作動し始める。
だが、再生能力を持たない量産型に対し、突入してきたベストジーニストやMT.レディ、公安の特殊部隊が即座に展開。
「順次起動する個体を逃すな! 拘束具を装着しろ!」
後続のプロヒーローたちが流れるような連携で量産型を次々と制圧し、倉庫内の脅威はものの数分で完全に抑え込まれていった。
「……工場内部、制圧完了。全個体、機能停止および拘束」
隊員が無線で本部に報告を入れ、緊迫した空気に一瞬の安堵が走る。
だが——。
倉庫の空間全体から、すべての音が消失したかのような強烈な違和感。
イレギュラーの足裏から背骨を通り、頭頂部へと駆け抜ける冷たい悪寒。長年修羅場を潜り抜けてきた彼の身体感覚(センサー)が、絶対的な異常事態の発生を告げていた。
ズルリ……と、倉庫中央の空間から不気味な「黒い液体」が溢れ出し始める。
その液体の中から突如として姿を現した数体の完成形脳無。そして——
「やあ、申し訳ないね。君たちが手際よく片付けてくれたおかげで、こちらの手間が省けた」
闇の奥から一歩踏み出してきたのは、全身に底知れぬ死と圧迫感を纏った黒いマスクの男——オール・フォー・ワン。
2号機のシリンダーが、警戒を強めるかのように低く排気音を上げた。