『公安警察外局特定脅威処理記録:コード「削除済み」』 作:平素練磨
神野区の激闘から数日。
社会がオール・フォー・ワンの身柄拘束と「平和の象徴」の引退という激震に揺れる中、雄英高校は全生徒を対象とした「全寮制制度」への移行を急速に断行していた。各家庭への訪問と手続き、設営は相澤たち教職員によって淡々と進められていく。
その裏で、地下の特別整備ドック。
作業デスクには、神野での過負荷とGフォースによって原形をとどめないほどひしゃげた2号機(Mk-2)が無惨に横たわっていた。
主任技師は歪んだチタン合金の破片を握り締め、顔を歪めて忌々しそうに吐き捨てた。
「……くそっ、見事に壊してくれたな。俺が寸分の狂いもなく組み上げた我が傑作を、こんなスクラップの山に変えやがって……!」
苛立ちに歯ぎしりをしながらも、技師の目は冷ややかな興奮で爛々と輝いていた。
「だが、この破壊痕を見ろ。お前の無茶な負荷が、俺の設計の甘かった箇所を完璧に暴き出している。この極限状態の破損データ……これをそのままフィードバックすれば、現在建造中の1号機(Mk-1)は、次元の違う領域の機体へと化ける……! 傑作を壊された不愉快さと引き換えに、これ以上ない最高峰のデータが手に入った!」
狂気的な推論を口にする技師に、イレギュラーは無言のまま冷徹な視線を据える。
神野の激闘で負った負傷は右第5・第6肋骨の不全骨折。微細なひびにとどまっているとはいえ、リカバリーガールの「個性」による超回復の負荷を考慮しても、今後数日間はまともな戦闘行為など不可能な状態だった。
「1号機の設計への影響は」
「遅れるに決まっているだろうが! そもそも、1号機の完成を急ぐために、本来なら進めるはずだったスケジュールを割いて、一から2号機を再製造し直さなきゃならんのだぞ!」
技師は狂気を孕んだ苛立ちをぶつけながらも、鋭い技術者の眼光へと切り替えた。
「だが、お前がそのボロボロの肉体で数日間動けない『空白期間』はいいが、このまま機体なしで放置するなど、俺が作り上げたデータに対する冒涜だ。代替のプロトタイプを用意するが手があかない」
その瞬間、重いドックの扉がスライドして開いた。
「——そこから先はウチらの領域ですよ!」
元気いっぱいの声とともに現れたのは、サポート科の担当顧問・パワーローダーと、その背後からひょっこり顔を覗かせた発目だ。発目は両手を腰に当て、満面の笑みでタブレットを突き出す。
「神野のテレメトリーデータ、こっちでバッチリ解析させてもらいました! 正規の設計じゃ何カ月もかかりますけど、先生の基礎フレーム設計をベースにした突貫ベータ版なら48時間で機体を組んであげます! フレーム寿命は実戦稼働で精々3回、限界を超えたら各所のシームが派手に爆ぜますけどね!」
発目の不敵な笑みと、腕を組んだパワーローダーの不遜な態度。
イレギュラーは冷徹な眼光でその応急設計の数値群を一瞥し、短い沈黙の後に静かに頷いた。
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