『公安警察外局特定脅威処理記録:コード「削除済み」』 作:平素練磨
組み上がった直後のベータ版プロトタイプが、テスト用のアクチュエータ試験架台に接続された。
無言のままフレームへ足を通し、カチリという無骨な機械音とともに腰部と四肢のロックを完了させる。右腹部にはキネシオロジーテープが何重にも巻き直されているが、体幹を捻るたびに肋骨の不全骨折による痛みが走る。
「さて、どこまで耐えられるか見ものだな」
主任技師が腕を組み、冷ややかな視線でモニタの油圧グラフを注視する。パワーローダーと発目たちサポート科の生徒群も、息をのんでフレームの動作を見守っていた。
静かに腰を落とし、実戦とそん色のない踏み込みを再現した。
瞬間、ドック内に金属の軋みと鋭い油圧の駆動力音が轟く。
急激な加速度と重心移動に伴うトルクがフレーム全体を駆け抜け、背骨のリリーフバルブが悲鳴のような排気音を上げた。
——バァン!
右腰のアキュムレータがサージ圧に耐え切れず、鈍い破裂音とともに油圧オイルを撒き散らして圧壊した。圧力計の針が僅かに下がったところで放出が停止する。
「やった……! 完璧です!」
サポート科の生徒の一人が歓声を上げた。
「狙い通り、フレームの主要骨格や他部位の制御系には一切の損傷なし! サージ圧力の負荷を右腰のユニット一点に集中させて意図的に破壊し、全体崩壊を防ぎました!」
生徒たちがハイタッチを交わす中、主任技師が忌々しそうに吐き捨てる。
「『脆性破壊の制御(Controlled Failure)』か……。最初から壊れる前提で特定のヒューズ(犠牲部位)に破壊を集約させるなど、道具に対する侮辱だな。機体全体の剛性を突き詰められん未熟者の発想だ」
「何と言われようと、現状のベストですよ!」
発目が胸を張り、破裂したアキュムレータへ近づく。
「壊れた部位が分かってるなら話は早いです! 予備モジュールと入れ替えればすぐに——」
「交換所要時間は」
静かな声が割り込んだ。発目は胸を張って答える。
「ボルト2本の脱着と配線カプラーの抜き差しで、慣れれば10秒です!」
「……現場で死ぬな、それは」
主人公の冷徹な一言に、ドック内の空気が凍りついた。
「実戦の交戦距離で10秒の無防備は致命的だ。工具を回す余裕などない。破損部を叩き割って引っ剥がし、予備を叩き込んで噛み合わせる。3秒以内に収めろ」
発目は一瞬目を見開いたが、すぐに八重歯を見せて不敵にニヤリと笑った。
「言いましたね!? ならネジ止めなんか全部廃棄です! ツールレスのスナップロック式に配線カプラーも統合! 破損ユニットのレバーを一発叩いてポップアップ射出、新しいやつを力任せに叩き込めば3秒でロック完了のド突く前提システムに改修してあげますよ!」
「……最初からそうしろ」
圧が抜けた右腰の遊びを感覚に叩き込むと、フレームの固定を解除させ、淡々と上着を羽織った。
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時は流れ。
全寮制制度への移行が完了し勉学に励み、雄英高校1年A組およびB組の生徒たちは、仮ヒーロー免許の取得を目指し、難関校が集う「仮免許試験会場」へと移動を開始していた。
大型バスが会場の駐車場へ滑り込む。
バスの勝手口が開き、これから行われる難関テストにみな緊張をしながら降りてくる。イレギュラーはいまだ2号機が用意できず、ベータ版フレームを着用し相澤と共に生徒達を見ていた。