葬送のフリーレン〜名もなき故郷の哀歌〜 作:みかん色の夕焼け
その日のナヒトの村は、いつもより賑やかだった。
まだ日が昇って間もない早朝から、広場には何人もの村人が集まり、忙しそうに行き交っていた。軒先には色とりどりの布が吊るされ、通りには木製の屋台がずらりと並んでいる。辺境の村とは思えないほどの活気だった。
そんな中、太陽が空の真上に差しかかろうという頃、宿屋の一室でフリーレンはようやく目を覚ましていた。
「……ふあぁ」
まだ眠たそうな目を擦りながら、眩しそうに窓から外を見る。随分と日が高い。どうやら思ったよりも、よく眠ってしまったらしい。
「……何だか賑やかだね」
「フリーレン様。ようやく起きたのですか?」
隣から、低い声が聞こえた。フェルンだった。
「今、何時だと思っているんですか」
「……お昼くらい?」
「分かっているなら、どうしてもっと早く起きられないんですか」
「昨日は色々あったからね」
「それは私も同じです」
フェルンはじっとフリーレンを見つめた。その表情は、いつもより少しだけ険しい。
「いいですか、フリーレン様。私たちは今日、村の人たちからお仕事を引き受けているんですよ。なのに、お昼近くまで寝ているなんて、どういうつもりなんですか」
「ごめんて」
「そもそも、今の私たちは路銀があまり残っていないんです。だから、こうして村の方にお願いして、お仕事を紹介していただいたんですよ。フリーレン様だって、分かっているでしょう?」
「……うん」
「それなのに、肝心のフリーレン様が起きてくださらないと、お仕事を始めることもできません。朝から何度も起こしたのに」
フリーレンは小さく肩を落とした。先ほどまでの気の抜けた表情はどこへやら。しゅんと項垂れ、フェルンの顔をちらりと見上げている。
「……ごめんなさい」
「分かってくださればいいんです」
まるで母親に叱られる娘のようだったが、もちろん、年長者はフリーレンの方である。ともかく、今日のお説教はこれで終わりらしい。フリーレンはほっとしたような様子でもう一度、窓から広場の方へ目を向けた。
「それで、今日は何かあるの?」
広場の中央では、男たちが大きな木材を運んでいた。少し離れた場所では、女性たちが布を縫い合わせ、子どもたちがその周囲を走り回っている。
「お祭りの準備だそうです。今朝、宿屋の方がそんなことを仰っていました」
「へえ」
フリーレンは気のない返事をした。
「シュタルク様はもう広場へ行っています。お祭りの準備で人手が足りないそうで、朝から荷物運びを手伝っているそうです」
「働き者だね」
「ええ。シュタルク様は力仕事が得意ですから。村の方々も助かっていると思います」
フリーレンは感心したように頷いた。それから、広場を行き交う村人たちへと視線を向ける。
誰もが祭りの準備に忙しそうだった。昨日、魔物の騒ぎがあったというのに、村人たちの表情は明るい。空を覆い尽くすほどの飛竜が襲来したことなど、とうに忘れてしまったかのようだった。
フリーレンは昨日の光景を思い返した。村の上空を覆い尽くした漆黒の天蓋が、十数匹の飛竜を一方的に捕らえ、その強靱な肉体を引き裂いていく。圧倒的な制圧力と、物理攻撃性を持つ影の魔法。
これまで、自分は数え切れないほどの魔族と戦ってきた。だが、ネーニアという名前を耳にしたことは一度もない。それどころか、あれほど大規模に影を操る魔法についても、心当たりがなかった。
あれだけの力を持ちながら、その存在すら知られていない。それが何を意味するのか、フリーレンには嫌というほど分かっていた。
「……無名の大魔族か。久しぶりだね」
「無名の大魔族、ですか?」
フェルンが聞き返した。
「そうだね。フェルンには話したことがあったでしょ?」
「確か、遭遇した人間を一人残らず殺してきたために、名前が知られていない魔族のことでしたね」
人類に甚大な被害を与えてきた魔族には、その特徴や魔法に由来した『二つ名』が付けられることが多い。『断頭台のアウラ』も、その一人である。しかし、稀に、その存在がほとんど知られていない大魔族もまだ世界には存在している。
「二つ名が無いのは、他の魔族よりも弱いということを意味しない。生存者がいなければ、証言は残らないからね」
自らと相対した者を殺し、目撃者を殺し、徹底的に生き残りを刈り取る。そうすることで、人類側にはその存在を伝える者すら残されない。どれほど多くの犠牲者を出そうとも、名前も、姿も、使う魔法も知られない。
無名の大魔族とは、長きにわたって、そのような『完全な殺戮』を繰り返してきた存在である。
「……恐ろしい話ですね」
「うん。そういう魔族は当然だけど、使用する魔法の情報もない。だから、何も分からないまま戦うことになる。人類にとっては最悪の相手だよ」
「ですが……」
フェルンは小さく眉をひそめた。フリーレンの説明は理解できる。魔族の本性を見誤ることが、どれほど危険なのかも知っている。しかし、それでも引っかかるものがあった。
昨日、目の当たりにしたネーニアの姿。あれは、本当に人間を欺くための振る舞いだったのだろうか。
フェルンは少しためらってから、口を開いた。
「昨日の様子を見ていると、ネーニアはとてもそのような魔族には思えませんでした。魔族が人のふりをするのが得意なのは理解していますが、それとは違うような雰囲気がありました」
フェルンが思い浮かべるのは、飛竜を一瞬で引き裂いた直後、村の子どもたちに取り囲まれたネーニアの姿だ。角を引っ張られ、肩に乗せてほしいとせがまれ、しまいにはどうすればよいのか分からずに困り果てていた。あれほど強大な魔族が、子どもたちにはまるで頭が上がらない。
それは、今までフェルンの抱いていた魔族のイメージとはかけ離れている。
「……正直、あの子どもたちに振り回されている姿が、どうにも忘れられません」
「フェルン」
フリーレンの声が、少しだけ低くなった。
「見た目や普段の振る舞いで、魔族を判断しちゃ駄目だよ」
フェルンはわずかに目を伏せ、師匠の言葉を受け止めた。
「あいつが村人たちにどう接しているかと、これまでどれだけの人間を殺してきたかは、別の話だ」
「……はい、すみません」
フリーレンは淡々と言った。
普段と変わらない口調だったが、その言葉には、長い年月を魔族と戦ってきた者だけが持つ重みがあった。
「とはいえ、ネーニアが無名なことには、別の理由があるのかもしれない」
「別の理由、ですか?」
「うん。例えば、誰かの配下だったとかね」
フリーレンは少し考え、それからフェルンへ向き直った。
「魔族は力によって上下関係を築く。ネーニアみたいな大魔族でも、さらに強い魔族に従っていた可能性はある。その場合、どれほど多くの犠牲を出しても、名前が知れ渡るのは集団を率いる親玉の方になる傾向があるんだ」
「なるほど……」
フェルンは少し考え込んだ。
「ですが、ネーニアの魔法と魔力は、今まで私が戦ってきた魔族とは桁が違います。あんな魔族を従えられるほどの存在となると……」
「もちろん、並の魔族じゃ無理だね」
フリーレンは、ネーニアの魔法を思い返した。あれほどの力を持つ魔族を従わせるには、相当の実力が必要になるのは間違いない。
「ネーニアの魔力量と魔法の強度は相当なものだ。あいつが従うほどの相手となると、七崩賢クラスの大魔族になると思う。それくらいの実力者じゃないと、主従関係が成立しない」
「……七崩賢」
フェルンの表情が険しくなる。
「そのような魔族が、この辺りにいるということでしょうか。もしそうなら、ネーニアと協力して襲って来られたら、極めて危険です」
「分からない。もう誰かに討伐されているかもしれないし、今も生きているかもしれない。ここ数十年、この周辺で大規模な魔族の被害が確認されていないことだけは確かなんだけどね」
フリーレンはそこで言葉を切った。そもそも、ネーニアが誰かの配下だったという確証もない。今ある情報だけでは、どちらの可能性も否定できなかった。
「まあ、ともかく、依頼をこなしに行こうか。昨夜も魔力探知で警戒していたけど、少なくとも目立った魔力の動きはなかったし。今すぐ何かが起こる可能性は低そうだよ」
「フリーレン様。そんなことをしてくれていたんですね。ちゃんと寝坊の理由があるなんて、見直しました」
「ふふん、もっと褒めてもいいんだよ」
そう冗談めかして答えてから、フリーレンはまた窓の外へと視線を移す。村人たちは、今日も変わらず祭りの準備に追われている。そんな平穏な日常のなかに、得体の知れない大魔族が当たり前のように溶け込んでいる。この村の平和は、ひどく危うい均衡の上に成り立っているのかもしれない。
「依頼は広場の銅像を掃除するという内容です。早く向かいましょう。お祭りまでにピカピカにしないと、報酬はゼロだそうですから」
「そうなんだ。お祭りはいつなの?」
「明日です。あまり時間もないので、寄り道しないでくださいね。魔導書を買い漁るとか」
「分かってるよ」
もちろん、路銀が足りないことは理解している。だが、村のどこかに珍しい魔導書が眠っているかもしれないと思うと、どうにもじっとしていられないのだ。
「……でも、報酬が入ったら、一冊くらい買ってもいいよね?」
「そういうのは、路銀に余裕ができてからにしてください。余裕がないと駄目です」
少しだけ残念そうにするフリーレン。その様子を見て、フェルンは小さくため息をついた。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「ネーニア姉ちゃん、もっと怖い顔してよー」
「怖い顔、ですか?」
ネーニアは首を傾げた。村の広場から少し離れた空き地では、子どもたちが祭りの出し物の練習をしていた。木箱を並べただけの簡素な舞台。その上に立つネーニアの前には、木剣と木斧を構えた男の子が二人立っている。
勇者一行の活躍を再現する劇で、ネーニアは魔族役を頼まれたのだ。大魔族に魔族を演じさせる。それは配役だけを見れば、これ以上ない適材適所である。
「魔族役なんだから、もっと怖くなきゃ駄目だよ」
「そもそも私は魔族なのですが……。そんなに怖くないのでしょうか?」
「逆に聞くけど、ネーニア姉ちゃんに怖い要素なんてあるの?」
その問いにどう返せばいいのか、ネーニアには答えが見つからない。人間は魔族を恐れる。それは当然のことであり、ネーニア自身、これまで幾度となくその反応を目にしてきた。何もせずとも、人間の方から恐れ、逃げ出していく。わざわざ怖がらせるために、何かをした経験など皆無である。
ネーニアは少し考えた。とりあえず、子どもたちを睨むように目を細めてみる。
「こうでしょうか?」
「全然怖くないな……」
「あれで怖がらせようとしてるの?」
「ネーニア姉ちゃん、ちっちゃいから迫力ないもんな」
どうやら不評らしい。自分では怖い顔とやらをしているつもりなのだが、彼らの反応を見る限り、何かが違うようだった。
「じゃあ、こうするのはどう?」
男の子が両手を大きく広げ、精一杯の怖い顔を作った。
「ふははは! 愚かな人間どもめ! この俺に逆らったことを後悔するがいい! こんな感じだよ、ネーニア姉ちゃん」
「……なるほど。何となく、分かりました」
つまるところ、子どもたちが思い描く恐ろしい魔族とは、尊大な態度で人間を見下し、自らの優位を誇示する存在らしい。それならば、参考になりそうな人物に心当たりがあった。八十年前の古城での出来事を思い返す。
相手を見下ろす眼差し。相手を従わせることに、何の疑問も抱かない態度。そして、自らの優位を微塵も疑わない、あの絶対的な強者としての笑み。あの大魔族の言動を真似すればよいだろう。
「では、もう一度やってみますね」
ネーニアは静かに姿勢を正し、少年のいる方へと踏み出す。
コツ、コツ、革靴の踵が木箱の舞台を叩く。普段なら立てないような足音を、わざと響かせながら歩いていく。
「……ネーニア姉ちゃん?」
男の子が不思議そうに首を傾げた。ネーニアは答えず、その目の前で足を止め、ゆっくりとその目線の高さまで身を屈める。
淡い金色の瞳が、幼い少年の姿を映していた。口元には、わずかな笑みが浮かんでいる。
それは少年にとって、見慣れた顔のはずだった。しかし、今はどこか違う。
「私に従いなさい。そうすれば、命だけは助けましょう」
吐息が触れそうな距離で、そう告げる。
人を惑わせるためか、魔族は総じて美しい容姿をしている。ネーニアもその例に漏れず、幼さの残る顔立ちは、まるで精巧な人形のように整っていた。
淡い金色の瞳が少年を捉え、形のよい唇には、余裕を含んだ微笑が浮かんでいる。その声音は静かでありながら、相手を従わせることに何の疑問も抱いていないかのようだった。
普段は表情に乏しい魔族の少女が、今だけは不思議なほどの妖しさを纏って見えた。
まるで、ずっと年上の女性に心の内まで見通されているようだった。少年は思わず息を呑む。
「わ、わわっ……ね、姉ちゃん!? な、何を……!?」
顔を真っ赤にして、慌てて後ずさる。勢い余って尻もちをつきそうになったところで、どうにか踏みとどまった。周囲の子どもたちも、何人かは頬を赤く染め、互いの顔を見合わせていた。
「ネーニア姉ちゃん、たまに魔族だよな……」
一人の男の子が、妙にしみじみと呟いた。
「半年に一回くらい?」
「そんなもんかも……」
「急に大人っぽくなることがあるよね」
ほかの子どもたちも、神妙な顔で頷いている。
ネーニアは元の雰囲気に戻っていた。七崩賢の振る舞いを参考にしたおかげで、先ほどとは違う反応が得られたらしい。少なくとも、何らかの効果はあったようだ。
ただし、男の子たちが期待していたものと、ネーニアが演じたものが同じだったかどうかは、定かではない。
「ま、まあ、いいや! 次に行こう!」
別の男の子が仕切り直すかのように手を叩いていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「……何か、随分と賑やかだね」
フリーレンが呟いた。銅像の掃除を終えた頃には、太陽はとうに真上を通り過ぎていた。三人は、祭りの準備で賑わう広場を歩いている。
あちこちで村人たちが忙しそうに行き交う中、シュタルクは早朝に手伝っていた屋台の組み立てが気になるらしく、何度もそちらへ目を向けている。
「まだ何か手伝うことがあるのかな」
「シュタルク様は、もう十分に働いたと思います」
フェルンが答えた。
「そうか? でも、まだ結構忙しそうだぜ」
「朝からずっと働いていらっしゃるでしょう。少しは休んでください。お昼もまだのはずです」
「あー、そう言われると、確かに腹が減ったかもな」
シュタルクは小さく笑った。そんな会話を交わしながら、三人は広場の端へと歩いていく。そのとき、シュタルクが何かに気づいた。
「ん? あいつら、何やってんだ?」
少し離れた木箱の陰で、幼い女の子たちが集まっていた。
その中心には、小さな籠が置かれている。中には白い布や、色とりどりの花を編んだ飾りが入っている。少女たちはそれを囲んで、こそこそと何かを相談しているらしい。
小声で話しているつもりらしいが、よほど楽しい話題なのだろう。興奮した声が、ところどころ漏れ聞こえてきている。
「ふふ、可愛いのが用意できたね」
「うんうん、お祭りの日が楽しみ」
「ネーニアお姉ちゃんにバレないかな?」
「大丈夫。男の子たちには、しっかり口止めしたもん」
「しーっ! 誰か来る!」
フリーレンたちが近づいてきたのに気づき、女の子たちは慌てて口をつぐんだ。シュタルクは、そんな少女たちへと不思議そうに話しかける。
「何の話をしてるんだ?」
「えっ!? な、何でもないよ!」
女の子の一人が、慌てて首を横に振った。しかし、その目がシュタルクの背中にある大きな斧を捉えた途端、表情が変わった。
「あれ……?」
少女はシュタルクの顔と斧を交互に見つめた。
「もしかして、お兄ちゃんって……戦士様?」
「俺のことか? 戦士ではあるけど」
「やっぱり! 戦士様だぁ!」
その声に、ほかの女の子たちもシュタルクへ駆け寄ってきた。
「ほんとだ! 大きな斧を背負ってる!」
「勇者様の隣にいる、アイゼン様の像とそっくり!」
シュタルクは思わず苦笑した。
「いや、あの像とは全然似てないと思うけどな……」
見た目も似ていない。実力でもまだまだ師匠であるアイゼンには届かない。しかし、女の子たちはそんなことなど聞いていなかった。そのうちの一人が、何かを思いついたように目を輝かせる。
「……ねえ、ちょっと」
少女がほかの子たちを手招きする。そして、女の子たちは顔を寄せ合い、小声で相談を始める。
「ねえ、このお兄ちゃんなら……」
「うん! ぴったりだと思う!」
「でも、ちゃんとお願いしないと」
シュタルクは困惑した。どうやら、自分の知らないところで何かが決まりつつあるらしい。
「なぁ、さっきから何を話してたんだ?」
「それは秘密なの」
一人の女の子が、唇に人差し指を当てた。ほかの子どもたちも真似をして、いたずらっぽく笑う。
「でもね、戦士様にお願いがあるの」
「お祭りを手伝ってほしいの!」
「お礼に、お菓子もあげるから!」
にっこりと笑っている少女たちに、シュタルクは少し困ったように頭を掻いた。
「いや、お礼なんていいよ……。一応聞くけど、何を手伝えばいいんだ?」
「それは、来てからのお楽しみ!」
「……何だそりゃ」
シュタルクは少し笑いながら、ちらりとフリーレンとフェルンへ目を向けた。何を頼まれるのかも分からない。それでも、あれほど嬉しそうにしている子どもたちを、無下にする気にはなれなかった。
フリーレンとフェルンは少し呆れたような顔をしている。だが、どうやら二人とも止めるつもりはないらしい。それならば、少女たちからのお願いを断る理由もなかった。
「よし、いいぜ。俺にできることなら何でも言ってくれ」
「やったー!」
女の子たちは歓声を上げると、シュタルクの手を引いて駆け出した。
「お、おい。そんなに急がなくてもいいだろ!」
シュタルクは慌てて歩調を合わせた。向かう先には、木箱を並べただけの小さな舞台があった。舞台の上では、ネーニアが木剣を構えた子どもたちと何やら話している。
「……って、あそこにいるのは!?」
シュタルクの表情が固まった。よりにもよって、あのネーニアのところへ連れていかれるらしい。
「ほら、戦士様! 早く早く!」
「い、いや、ちょっと待てって!」
女の子たちは構わず、シュタルクの手を引いていく。シュタルクは困ったように振り返り、フリーレンたちに助けを求める視線を送った。
「……随分と人気者ですね、シュタルク様は」
フェルンの口調はいつもどおりだったが、なぜか頬が少し膨らんでいる。
「そうだね」
フリーレンは特に気にした様子もなく答えた。子どもたちがシュタルクの手を引いて、ネーニアの元へと駆け寄っていく。
女の子たちが舞台にいた男の子たちと合流する。シュタルクはネーニアの目の前まで連れてこられたものの、どう声をかければよいのか分からない様子だった。
フリーレンがぽつりと呟く。
「何だか面白そうだね」
「……フリーレン様は、随分と落ち着いていらっしゃいますね」
フェルンが少し不思議そうに言った。
「そう?」
「先ほどは、あれほどネーニアを警戒するよう仰っていたのに」
「警戒はしているよ」
フリーレンは広場の向こうへ視線を向けた。今のところ、魔力の動きに不審なところはない。だが、もしネーニアが敵意を向けてきたなら、シュタルクだけでは対処できないだろう。
「大丈夫、シュタルクを一人にするつもりはないよ。私たちも近くで見ていよう」
「……そうですね」
二人もまた、子どもたちのいる方向へと歩き出した。その先では、ネーニアが子どもたちに囲まれ、彼女の周りにいる子どもたちは嬉しそうに笑っている。
祭りは、まだ始まっていない。けれど、村はすでに、その日を迎えるための賑わいに包まれていた。
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