葬送のフリーレン〜名もなき故郷の哀歌〜 作:みかん色の夕焼け
祭りの当日、村は朝から大勢の人で賑わっていた。
通りには色とりどりの布が飾られ、屋台からは焼きたてのパンや肉の香ばしい匂いが漂ってくる。そして、祭りの中心となる広場の方からは楽しげな音楽と、子どもたちのはしゃぐ声が聞こえていた。
「……どうしよう」
そんな賑わいとは対照的に、宿屋の一室には、どんよりとした空気が漂っていた。椅子に腰掛けたシュタルクが、消え入りそうな声で呟く。
背中は丸め、すっかり肩を落としている。明るい色をしているはずの赤毛まで、どこか元気がないように見えた。
「お祭りで、魔族と一緒に演劇をすることになっちゃった……」
「……すごく落ち込んでる」
意気消沈するシュタルクを眺めながら、フェルンはそう呟いた。昨日、幼い女の子たちに手を引かれていったシュタルクは、日が暮れてもなかなか戻ってこなかった。ようやく宿屋に帰ってきたのは夜も遅くなってからのこと。何があったのか尋ねる間もなく、シュタルクはベッドに倒れ込んでしまったのである。
よほど疲れていたのだろうと思っていたのだが、どうやら事情はそれだけではなかったらしい。
「昨日、夜遅く帰ってきて、そのまま寝込んだと思ったら……そんなことになってたんですね」
フェルンは小さくため息をついた。それから、シュタルクの頭へそっと手を伸ばす。
「……よしよし」
赤い髪を、ゆっくりと撫でた。
「嫌なら、どうして断らなかったんですか?」
「だってさぁ……」
シュタルクは情けない声を漏らした。
「村の子どもたちが、すっげえ期待した目で見てくるんだよ。『戦士様ならできるよね!』とか、『ネーニアお姉ちゃんのために頑張ってね!』とか……」
そのときの光景を思い出したのか、シュタルクは両手で顔を覆った。
「そんなこと言われたら、断れねえじゃん……」
「本当にお人好しですね」
「アイツらさ、俺が引き受けたら飛び跳ねて喜ぶんだぜ? 今さら、やっぱり嫌ですなんて言えるわけねえ……」
フェルンはしばらく黙っていた。気持ちは分からなくもないし、シュタルクが子どもたちに甘いことは、これまでの旅でよく知っている。困っている人がいれば放っておけないし、頼られれば多少の無理をしてでも応えようとする。フェルン自身、そんなシュタルクに好感を持っているのも事実だ。
しかし、今回ばかりは相手が悪かった。子どもからのお願いで、よりにもよって、大魔族と肩を並べて演劇をすることになるなんて予想できるわけもない。
「シュタルク様。嫌なことは、ちゃんと断らないと駄目ですよ」
「……はい」
「いくら子どもたちのお願いでも、何でも引き受けていいわけではありません。特に、相手が魔族ならなおさらです」
「……おっしゃるとおりです」
シュタルクはますます沈んでいく。フェルンはそんな彼を見て、困ったように顔を少しだけ伏せる。少し言い過ぎたかもしれない。慰めるためにも、再び赤毛の頭を撫で始めた。シュタルクはされるままにしている。
「なあ、フェルン。俺、ちゃんと生きて帰れるかな……」
「演劇をするだけでしょう?」
「その相手がドラゴンを十何匹もまとめて引き裂いた魔族なんだけど……」
「シュタルク様なら、きっと大丈夫です」
そう答えながらも、フェルンの手はいつの間にか止まっていた。あれほどの魔法を使う相手と、何の備えもなく舞台に立つことを考えれば、シュタルクの不安ももっともだった。とはいえ、今さら引き受けた話を取り消すのも難しいだろう。
何か安心させる言葉をかけようとしたが、うまく思いつかなかった。結局、フェルンは何も言わず、再び赤い髪を撫で始めた。
「あれ、二人とも何してるの?」
そんな時、部屋の隅からのんびりとした声が聞こえた。
声の主、フリーレンはベッドに横になりながら、分厚い魔導書を開いている。昨日、銅像磨きの報酬を受け取った帰りに購入したものだ。思っていたより依頼の報酬がよかったため、フェルンも一冊だけならと購入を認めていた。もっとも、その一冊を選ぶのに随分と時間がかかり、結局、宿屋へ戻るのが遅くなったのだが。
「……フリーレン様。ひょっとして、何も聞いてなかったんですか?」
「うん。面白い魔導書だったから、読むのに夢中になってたからね」
フリーレンは悪びれもせず答えた。どうやら、二人の会話はほとんど耳に入っていなかったらしい。
「それで、シュタルクはどうしたの? なんか元気ないね」
「……フリーレン」
シュタルクが、顔を上げた。その目には、わずかな希望が宿っていた。
「頼む。どうにかならないか?」
「え、なに?」
「今日、ネーニアと一緒に劇に出ることになっちまったんだよ。俺、どうすればいいんだ……?」
フリーレンはしばらくシュタルクを見つめた。それから、呆れたように眉を下げる。
「いや、私に何をどうしろっていうのさ」
「そこを何とか!」
「自分で引き受けたんでしょ? 戦士なら自分でなんとかしなさい」
「そうだけどさぁ!」
シュタルクが悲鳴じみた声を上げた。フリーレンは魔導書を閉じ、少し考える。
「冗談だよ。昨日と同じように、私とフェルンはすぐに助けに入れる距離にいるつもりだから、安心しなよ」
「ほ、本当か!?」
「うん。ネーニアの魔法は、発動するまでに若干の時間差がありそうだからね。何かあれば助けるよ。多分、間に合う」
フリーレンはいつもの調子で続けた。シュタルクはほっと胸を撫で下ろした。
「それなら安心できそうだ。……今、多分って言った?」
「だって、ネーニアの魔法の全貌が分かっているわけじゃないからね。高速で展開できるタイプの術式も、持っているかもしれないし」
シュタルクの表情が、みるみる引きつっていく。フリーレンは至って真面目だった。だからこそ、余計に恐ろしさが際立つのである。
「……間に合わなかったら、俺はどうすればいいんだ?」
「耐えて」
「は?」
「私とフェルンが応戦するまで耐えて。アイゼンなら竜に踏み潰されても生きてたし、シュタルクもきっと大丈夫」
「いやいやいや! ちょっと待てって!」
シュタルクが勢いよく立ち上がった。
「あの魔法、竜を粉々にしてたんだぞ。人間なんて一瞬でソーセージの材料にされちまうって!」
「でも、シュタルクってアイゼンの弟子だし、戦士だし」
「前から思ってたけど、戦士なら何でも耐えられると思うなよ!?」
「そうなの?」
「そうだよ!」
シュタルクは何か言い返そうとしたが、結局、諦めたように肩を落として、力なく椅子に腰掛けた。そして、両手で頭を抱え、深々とため息をつく。
「もう駄目だ。俺、今日で死ぬかもしれない……」
「……すごく落ち込んでる」
窓の外では、祭りの始まりを告げる鐘が鳴り響いていた。シュタルクにとって、今までの人生で最も気の重い祭りが、今まさに始まろうとしていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆
日が沈み、空が夜の影に染まる頃。
村は昼間にも増して賑わいを見せていた。通りに並ぶ屋台には次々と明かりが灯され、焼きたての肉やパンの香ばしい匂いが漂ってくる。広場のあちこちでは村人たちが酒を酌み交わし、子どもたちは手に菓子を持って走り回っていた。
そんな賑わいの中、フリーレンとフェルンが眺めていたのは、広場の中央にある二体の銅像だった。一体は、勇者ヒンメル。剣を掲げ、堂々と胸を張った姿は、いかにも伝説の勇者らしい。
そして、もう一体。戦士アイゼンの銅像は、なぜか無表情で両手の指を二本ずつ立てていた。いわゆる、ダブルピースである。
「……何度見ても、変な格好ですね」
自分たちが昨日、村人からの依頼でピカピカにした銅像だ。磨いている最中も変わったポーズだと思っていたのだが、改めて見ると尚更である。
「そうかな。どっちも結構似てると思うけど」
「似ているかどうかではなく、どうしてアイゼン様をこの姿で銅像にしたのかという話です」
「そう言われてもね」
フリーレンは、アイゼンの銅像を見上げた。両手を顔の横に掲げ、愉快なポーズを決めている。本人を知る者からすれば、何とも奇妙な姿だった。けれど、フリーレンは覚えている。
八十年前、この地方を後にすることが決まったときのことだ。村人たちが、旅立つヒンメルとアイゼンのために銅像を建ててくれることになったのだ。ヒンメルはいつものように、彫刻師の前で何度も姿勢を変えながら、あれこれ注文をつけていたのを覚えている。
剣を掲げたり、胸を張ったり、顎の角度を調整したり。少しでも格好よく見せようとするヒンメルを、アイゼンは隣で腕を組んで眺めていた。
──どうせなら、もっと面白い格好にすればいいだろう。いつも同じようなポーズだと印象に残らんぞ。
そんなことを言って、ヒンメルのポーズに口を挟んでいたのを覚えている。
──ほほう、僕の勇者ポーズが同じような格好か。そこまで言うなら、アイゼンにお手本を見せてもらおうじゃないか。
ヒンメルが挑発するように笑う。
──任せろ、俺が後世にまで残るポーズを披露してやる!
アイゼンは自信満々に頷くと、彫刻師の前へ進み出る。そして、両手を顔の横へ掲げ、いつもの表情でダブルピースを決めたのだ。
──どうだ?
──ははっ、いいじゃないか、アイゼン! それでいこう!
妙な自信の満ちていたアイゼンに対して、ヒンメルは声を上げて笑っていた。自分もハイターも、つられて笑みを浮かべていたのを覚えている。くだらない冒険の、何でもない一幕だ。まさか、あの時の銅像が八十年後まで残ることになるとは、運命とは面白いものである。
「……ふふっ」
思わず、小さな笑みがこぼれた。
「フリーレン様?」
「いや、何でもないよ」
フリーレンはそう答えて、もう一度銅像を見上げた。あのときのアイゼンは、本当に得意げだった。今、この銅像を本人に見せたら、どんな顔をするだろう。自分と同じく、くだらない大切な思い出だと思うのだろうか。少しだけ、見てみたい気がした。
「また、シュタルクの土産話が増えるだろうね」
「何のお話ですか?」
「こっちの話」
フリーレンはそう答えると、屋台で購入した焼き菓子を一口かじった。甘い蜜が染み込んだ生地は、外側が少し硬く、中は柔らかい。昼間から何軒もの屋台を回っているが、どれもなかなか美味しかった。
フェルンも隣で、串に刺した焼き肉を食べている。
「……おいしいですね、これ」
「うん。もう一袋買おうかな」
「フリーレン様。さっきも食べていたでしょう。また路銀が無くなりますよ」
「でも、お祭りだし、せっかくなんだから楽しまないとね」
フェルンは少し考えたあと、自分の串を見下ろした。
「……私も、もう一本買います」
「でしょ?」
フリーレンが得意げに笑う。結局、二人は近くの屋台で焼き菓子と串焼きをそれぞれ買うことにした。
ちなみに、シュタルクはしばらく戻ってこない予定である。宿屋まで迎えに来た女の子たちに、ほとんど連行されるようにして連れていかれてしまったのだ。
──戦士様、迎えに来たよ!
──さあ、早く早く!
──ちょ、ちょっと待ってくれ! 心の準備が……!
そんな声が廊下から聞こえてきたと思ったら、あっという間にシュタルクの姿が見えなくなっていた。フェルンは少し心配そうにしていたが、フリーレンは特に止めなかった。
もちろん、ネーニアに対する警戒を解いたわけではない。今も舞台のある広場の一角には注意を向けているし、何か異変があれば、すぐに対応できる距離にいる。
「……シュタルク様、大丈夫でしょうか」
フェルンがぽつりと呟いた。
「まあ、劇をするだけだからね」
「その相手が問題なのですが……」
「大丈夫だよ。こうして、ちゃんと見てるんだから」
フリーレンはそう言って、手に持っていた焼き菓子を口に運んだ。フェルンは何か言いたげだったが、それ以上は追及しなかった。
確かに、ネーニアが演劇の最中に、何かを仕掛けて来る可能性は低いのかもしれない。そんなことをするなら、宿を奇襲なりした方が手っ取り早く済むのだ。必要以上に心配しても仕方がないのかもしれないと、自分を納得させることにした。
「……そういえば、さっき村の方に劇の内容を少し教えていただいたんです」
フェルンは舞台の方へ目を向けてから、口を開いた。
「シュタルク様は随分と嫌がっていましたけど、お話自体は面白そうでしたよ」
「へえ。どんな話なの?」
「八十年前、この地方に現れた強大な魔族を勇者一行、つまりはフリーレン様たちが討伐したというお話だそうです」
フリーレンは焼き菓子を口に運ぼうとして、その手を止めた。
「……八十年前?」
「はい。ちょうどフリーレン様たちが、この地方を旅していた頃です。時期も合致しますし、実話を元にしたお話ではないかと思います」
「……そうだね。確かに、私たちが『アイツ』と戦ったのは、その頃だ」
フリーレンは短く答えた。八十年前、この地方で勇者一行が遭遇した魔族。思い当たる相手は一人だけだ。だが、フェルンの聞いてきた話とは、細部が少しばかり食い違っている。それも、一番重要な部分が違う。
「フリーレン様?」
「……いや、何でもないよ」
フリーレンは小さく首を振った。
「それで、シュタルクが参加するのは、私やヒンメルが魔族と戦った時の話なんだね?」
「はい。村では昔から語り継がれているそうです。勇者一行の活躍を描いた劇ですから、私も楽しみにしているんですよ。特にフリーレン様とハイター様が、どのように演じられるのかが楽しみです」
フェルンは、どこか嬉しそうに微笑んだ。フリーレンはそんな彼女を横目に見て、再び作りかけの舞台へと視線を向けた。八十年前の出来事が、今ではどんな話になっているのだろうか。興味が無いと言えば嘘になる。
「そういえば、フリーレン様」
フェルンはふと思い出したように、目の前に並ぶ二体の銅像を見上げた。
「この像は勇者一行の活躍を記念して建てられたものなんですよね?」
「うん、そうだね」
「それなのに、どうしてこの村にはヒンメル様とアイゼン様の銅像しかないのでしょうか?」
フリーレンも顔を上げた。
「ほかの町や村では、ヒンメル様お一人の像か、フリーレン様たち四人が揃った銅像が多かったと思います。この村の像がお二人だけなのは、何か理由があるのでしょうか?」
フリーレンは、ヒンメルとアイゼンの銅像を交互に見つめる。片方は剣を掲げた勇者。もう片方は、両手で妙なポーズを取っている戦士。魔法使いも僧侶もいない、何ともバランスの悪い組み合わせではある。
「よく見ているね。フェルンの言うとおり、ちゃんとした理由はある。興味があるなら、後で説明するよ」
「今では駄目なのですか?」
「多分だけど、シュタルクの出る劇でも、私とハイターは出番がないと思う。それも含めて説明したほうがいいだろうからね。劇を見ている途中か、終わった後に、のんびり話すよ」
フリーレンはそれだけ言って、小さく笑った。フェルンは少し不思議そうに首を傾げたが、それ以上は尋ねなかった。
そのとき、広場の一角から、大きな拍手が聞こえてきた。
「おっ、そろそろ始まるみたいだね」
フリーレンがそちらへ目を向ける。少し離れた場所に設けられた舞台の前には、いつの間にか大勢の村人が集まっていた。
舞台は、木箱と板を組み合わせただけの簡素なものだったが、色とりどりの布や花飾りで丁寧に飾りつけられている。その両脇には松明が灯され、揺れる炎が舞台を暖かく照らしていた。
やがて、子どもたちが次々と姿を現した。木剣を腰に差した男の子。村人の衣装を着た女の子。そして、悪い魔族を演じるのだろう、黒い布を肩に掛けた男の子。
「……あれ?」
フェルンが小さく首を傾げた。
「どうしたの?」
「確か、魔族の役はネーニアが演じるはずではなかったでしょうか?」
「そういえば、そうだったね」
フリーレンも舞台へ目を向けた。昨日、ネーニアは子どもたちに頼まれて、魔族の役を練習していたはずだ。それなのに、今は別の男の子がその役を演じようとしている。予定が変わったのだろうか。
「ネーニアは、どこにいるのでしょう?」
辺りを見回しても、ネーニアの姿が見当たらない。いつの間に移動したのだろうか。見失った、と僅かに焦りを感じたとき、少し離れたところから、男の声が聞こえてきた。
「ネーニアちゃん、そっちを持ってくれ」
「わかりました」
舞台の端では、露天商の男が飾り綱を柱に結びつけようとしていた。その傍らで、ネーニアが男から差し出された綱の端を受け取っていた。
しかし、柱の上部に届くには、少々背が足りない。ネーニアは少し考えるように綱を見上げると、そのままふわりと宙に浮かんだ。
「この高さでしょうか?」
「ああ。そのまま頼むよ」
男が結び目に苦戦するその手元を眺めながら、ネーニアは黙って待っている。やがて、綱がしっかりと固定されると、男は満足げに頷いた。
「よし、できた。ありがとな、ネーニアちゃん」
「いえ。お役に立てたのであれば、何よりです」
ネーニアは静かに地面へ降り立った。男は礼を言うと、今度は別の飾りを取り付けるため、近くにいた村人を呼び止めている。
その様子を、フリーレンは何となく眺めていた。大魔族に対して、まるで近所の子どもに頼むような気軽さだった。けれど、ネーニアもそれを不思議に思っている様子はない。演劇の役も、舞台の飾り付けも、誰かから頼まれたから手伝う。ただ、それだけのことなのだろう。
奇しくも、それはシュタルクと同じ姿だった。
「あ、シュタルク様もいますね」
フェルンの声に、フリーレンは舞台の反対側へ目を向けた。そこでは、シュタルクが子どもたちに囲まれていた。手には舞台用の木斧を持っている。どうやら、開演前の台詞合わせをしているらしい。
「戦士様はここで『せんてんげき!』って言いながら、魔族役の子に斬りかかるふりをしてね。あ、『せんてんげき』は戦士アイゼンの必殺技なんだ。かっこいいよね」
「あ、ああ。そうだな」
シュタルクは何とも言えない顔で頷いた。まさか、師匠の技の名前を子どもたちから説明されることになるは思わなかったからだ。もっとも、目を輝かせて説明する子どもを前に、余計な口を挟むつもりはない。
「じゃあ、戦士様は向こうで待っててね!」
子どもに促され、シュタルクは木斧を抱えて舞台の脇へと移動した。その頃には、飾りつけもすっかり終わっていた。村の男たちが道具を片づけ、子どもたちもそれぞれの持ち場へと向かっていく。
やがて、舞台の中央に一人の男の子が進み出た。どうやら、いよいよ始まるらしい。観客席から、期待のこもった拍手が沸き起こった。
「いよいよですね」
フェルンが呟いた。
「そうだね」
フリーレンは、舞台へと視線を向けた。
この地方で八十年前に起こった惨劇は、今では村人たちの間で勇者と戦士の英雄譚として語り継がれている。この地方を命を懸けて守ったヒンメルたちへの感謝の想いは、今もこの村で生き続けているのだ。広場を満たしていたざわめきが、ゆっくりと静まっていく。
かつて勇者一行に救われた人々。その幼い子孫たちによって紡がれる、勇者と戦士の物語が幕を開ける。
イラストはフリーレン様とネーニアが戯れている瞬間です。