ペルソナ5R×無職転生 〜怪盗団と異世界からの来訪者〜 作:和井江一
かつて『泥沼』と呼ばれていたその老人にはもう何も残されていなかった。
愛していた女を、家族を、友を、全て失った……
今あるのはただ諦念だけだった。
それはあの日を境に自棄になった自分のせいでもある。自分に責任が無いなんて言わない。だが、そうなるように、俺の愛した女を殺し、俺の全てを奪うように誘導した……憎むべき敵がいた。
「……ヒトガミ……」
そう、憎むべき敵が居たはずだった。
その為に全てを投げ捨てて、悪神を殺す為だけに生きてきた、多くを犠牲にした、力を研鑽し続けた、それなのに。
俺には悪神を殺す事は出来ないことを知ってしまった。
全てが無駄だった、俺の人生の、全てが……
「もう、どうにでもなれ」
これで最後だ。時間を超える魔術で、過去に戻る。
もし成功すれば……ヒトガミに一泡吹かせることが出来るかもしれない。
だが、この魔術はまだ実践したことが無い。これを使って過去に戻れば何が起きるのか分からない。失敗し取り返しのつかない事になるかもしれない。
でも……俺にはそんなことはもうどうでもよかった。
「もう、どうにでもなれだ」
準備は終わった。たぶん魔力量も充分に足りるだろう。
莫大な量の魔力を注ぎ込んだ。時空が歪み、目の前に空間の裂け目が現れる。
発動に成功したことは感覚でわかった。
後は……上手く過去へ戻れれば……
『――見つけた』
「――あ?」
声が、何かの声が脳内に直接響き渡った。
一瞬ヒトガミかと思ったが、違う……知らない声だ。
そして、眼前の裂け目から、赤い血管の様な管がいくつも伸びてきた。
「なっ――!?」
『完全に消滅する前に、見つけた……別世界との狭間に残されていた……メメントスに繋がるシャドウを持つ者よ』
声は意味の分からない事を喋り続け、赤い血管の束が俺の全身を拘束する。
失敗か、何なんだ、何が起きているんだ、俺は、何を呼んでしまったんだ……
「……シルフィ……ロキシー……」
そして赤い髪の女の姿を脳裏に浮かべた。
家族の、友の、愛した女達の顔が走馬灯のように脳裏を過ぎり……意識は深い闇の底へと落ちていった。
――――――――――
それはまた別の世界線の話だ。
「――ん」
巨体の白い犬を枕に野宿していた青い髪の少女が何かに気づいたように伏せていた顔をあげる。
涎が垂れているのはさっきまで寝ていたからだ。
少女は涎を拭いながら、ボーッとした雰囲気の目つきのまま空を見上げ小さく呟いた。
「……やばい、未来が変わる。めちゃくちゃ悪い方に」
青い髪の少女は魔女帽を被り杖を手に持って立ち上がる。
「……よく分からん他所者に、パパのやってきたことを無駄にはさせない」