ペルソナ5R×無職転生 〜怪盗団と異世界からの来訪者〜 作:和井江一
十二月二十六日 朝
純喫茶ルブラン
「……」
目を覚ますと視界に映るのは見知った天井。
馴染んだ布団の感触。
ルブランの屋根裏部屋……慣れ親しんだ自室だった。
記憶では、正体不明のパレスの中に居たはずだ。
そうだ、あのヒュドラの戦いから逃げ撤退した後に、外で強烈な光が走って――気がつけばベルベットルームに居て、青い髪の少女ララと出会い、今に至る……
「みんなは……!?」
何故目が覚めたらここに居るのかも気になるが、それより大事なのは一緒に居た仲間達の安否だ。
双葉、モルガナ、芳澤、明智……
早く確認しなければとベッドから腰を上げると、部屋のソファに座る双葉とモルガナが目に入り視線が合う。
「蓮、よかった……目が覚めたんだな……っ」
「双葉……怪我は無かったか」
「いや自分の心配してよ! 私も皆も大丈夫だけど!」
双葉が涙目でホッとした表情で見つめてくる。あの光に包まれて……
そうか、皆も無事なようでよかった。
双葉の足元から黒猫――モルガナがベッドの上に飛び上がって来る。
「お前、朝までずっと寝てたんだぜ。あの光に包まれて……ワガハイ達はパレスの外に出されて、メメントスのエスカレーター前に戻されていたんだ」
「……!」
「メメントスの外に出てからは……蓮の知り合いの吉田って政治家のおっちゃん居るだろ。あの人がたまたま通りがかって、気を失ってるお前を運ぶの手伝ってくれたんだ」
「近所の医者のタケミにも診てもらったが、問題ないって言われたからここで寝かせて様子見てたんだよ」
吉田と武見が……また会った時にでも御礼を言っておかなければ。
「全員無事戻れて良かったけどよ……あの感じ、おそらくワガハイ達は完全に立ち入りを拒否されてるっぽいぜ」
「……何故だ?」
「何故かは分かんねぇけど……そういう雰囲気っての? 奥部への侵入に対する強い拒絶の意思をワガハイ感じるんだよな」
「分かるぞモナ。あの村の家に入って行き止まりでヒュドラと戦わされて外に出たら無理矢理パレスから追い返される……完全に先に進ませる気が無いもんな」
モルガナと同じように双葉も考えているらしい。
奥部への立ち入りを拒否されているとは……どうすればいいのか。
ラヴェンツァから言われた期限が脳裏に浮かぶ。
「期限があと一日くらいしかないらしいな……」
ボソッと双葉がそう呟く声が聞こえた。
「……知ってるのか?」
「うん、聞いた。メメントスの入口に戻された時……いなかったはずの青い髪の女の子も一緒に居たんだよ。本当ビックリした」
「……! ララか」
「そうそう。なんか人見知りの私でも話しやすいタイプだった」
ララも一緒にベルベットルームから出たから、居るのは当然か。しかしこの様子だと既に色々話した後らしい。
「ラヴェンツァ殿と友達だって言ってたから、ワガハイもアイツの話は無視出来なくてな。ある程度の事情はもう聞いた後だ」
……ラヴェンツァと友達と名乗ったのか。本当なのかどうか……適当に言ってそうな気もするがまあいいだろう。
「……そのララはどこに?」
その姿が辺りに見当たらない……あと白い犬もいない。散歩でもしているのだろうか。
「ララなら、下でそうじろうのカレー食べてるよ。カレーを食べるの初めてなんだってさ」
――――――――――――――
「どうだい、嬢ちゃん。美味いか」
「……」
「夢中に食ってるなら美味いんだな。服汚さない様に気をつけて食えよ」
夜中に蓮が気を失って帰って来るわ青髪の外国人の女の子を連れてくるわで先日、惣治郎は酷く驚いたものだ。
双葉からララと呼ばれていたこの女の子は無口。たまに喋ってもどこの国の言葉なのか、言語が分からない。
にも関わらず惣治郎の言いたい事は理解しているようで不思議だった。
そして、双葉と猫のモルガナは意思疎通を取れているように見えたので、また『認知世界』に関係するものなのであろう事は何となく察した。
食べ終わったみたいで満足気な表情を浮かべた後、こちらに振り向き静かに頭を下げた。
言葉ではないが、感謝も人にちゃんと伝えられるとは親の教育がよかったのだろう。
食器を下げ外でタバコでも吸ってこようかとポケットに手を入れた時、惣治郎は気づいた。
「……あら? ライターがねぇ」
最後に吸ったのはいつだったか……昨晩は色々あってゆっくり吸える心境ではなかったのでど忘れしてしまった、どこに置いたのだったか。
すると、ララが無言のまま立ち上がり突然ルブランの外へと歩き出して行った。
「おい、どうした?」
迷子にならないかと心配し追いかけるとその子の向かって行った先は店の近くにあるコインランドリー。
中に入って行くと、ララは洗濯機の目の前に立ち止まり蓋の上を指差していた。
「あ……」
そこにあったのはライターだった。
そういえば家の洗濯機の調子が悪かったからコインランドリーを利用し、ちょうど終わったタイミングで双葉から連絡が来て……急いで洗濯物だけ片付けてライターを置きっぱなしにしていたのだ。
少女はライターを手に取り手渡してくる。
「もしかして……探してくれたのか?」
「……」
少女は無言のまま小さく首を縦に振った。
「はっ……どうやったか知らねぇけど。ありがとよ」
―――――――――――
双葉、モルガナを連れて屋根裏部屋から一階に降りると、ちょうど玄関の扉が開き惣治郎とララが店内へと戻って来たようだ。
どこかへ出掛けていたのだろうか。
こちらに気付いた惣治郎がホッとした表情で声を掛けてくる。
「おう、目ぇ覚めたか……もう大丈夫なのか?」
「心配かけた。もう大丈夫だ」
「ならいいんだが……まだ飯食ってないだろ。カレー温めるからそこで待ってろ」
「あぁ」
――惣治郎の作ったカレーを食べながら、双葉、モルガナ、そしてララとテーブルを囲み話し合う。
昨夜の事は昨日、双葉が怪盗団の仲間達にメッセージを送って伝えてくれていたらしい。
色々な事が起きて開くのを忘れていたスマホを見てみると怪盗団のグループチャットに仲間達からの心配のメッセージが届いていた。
心配を解くためにも早く返信し無事を伝えなければ。
雨宮蓮『おはよう、今起きたところだ。俺は元気だ』
『……』
坂本竜司『いや、軽すぎんだろオイ……』
真っ先に竜司からツッコミの返信が来た。すまない。
他の仲間達からも続々返信が来る。
高巻杏『おはよう、無事みたいで安心した!』
新島真『普通に朝の挨拶みたいな返信が来たからビックリしたわ……』
奥村春『私達すごく心配してたんだよ……元気なら安心したけど』
喜多川祐介『いつ如何なる時も心が乱れない、流石はリーダーといったところか。ちなみに俺も元気だ』
その後何通かやりとりしたあと芳澤と明智にも無事の連絡を送信。芳澤からは直ぐ返信が来た。明智はたぶんそのうち返してくるだろう。
スマホを閉じ、目の前の本題に入る。
――残された期限は約一日……朝食を摂り仲間達へ連絡を入れ、アジト(ルブラン)に集まったら直ぐにでも出発するべきだろう。
ちなみにララと一緒に居た白い犬レオは身体が大きいので流石に町中を歩かせるのはヤバい為メメントス入口に待機させているそうだ。
しかし、モルガナはパレス主から立ち入りを拒絶されているように感じたらしい……どうすればいいのだろうか。
そもそも拒絶されている理由がよく分からない……
「私ならその立ち入り禁止、解除できるよ」
頭を悩ましていると、こちらのカレーを美味そうに見つめるララが口を開きそう答えた。
「……そうなのか?」
「猫とフタバから聞いた認知世界の特徴を元に考えると……パレス主のパパは元々ヒトガミのせいで歪んで、人間不信だったのが認知世界の影響で肥大化して更に拗らせちゃった……って感じかな……たぶん……」
そのララの答えに双葉が「なるほど、あの時か」と口を開き。
「シャドウに一回質問されたろ、蓮。ヒトガミを知ってるかって」
「あぁ……アレか。まさか……」
「うん。あの時私達はちゃんと答えられなかったから拒絶されてるんだと思う。ララの話も統合して考えるなら、あの時は即答でヒトガミへの敵意を示すべきだったのかも」
双葉の導き出した答えに「そうだよ」とララが同意した。
とんでもない初見殺しにモルガナと一緒に頭を抱える。
「……とんだトラップだな……」
「わかるわけねぇだろ、そんなの……」
そんなもの『ヒトガミ』という単語を知っていて敵対の意思を持っていなければ突破できない。俺達はまだスタートラインにすら立てていなかったという事か。
「だが、ララ殿のおかげでワガハイ達も先に進めそうって訳だ。感謝するぜ」
「うん……はぁ……たくさん喋ったからちょっと疲れた……」
「今のでたくさん!?」
ララは疲れたように溜息をついた後、モルガナを抱きかかえ身体の毛を揉みくちゃにし始めた。
「ってオイ、コラ! 真面目な話の最中に何やってんだ!」
「ハハッ、初めて見た時から思ってたけど喋る猫とかおもしろ」
「ニャぶぅっ!?」
続いてララはモルガナの顔面を両手ではさみ込む。双葉は助けに入るどころか「いい触り心地だろ?」と言わんばかりの表情をしていた。
「ワガハイは、猫じゃねぇーー!!」
「猫じゃないなら何? 犬?」
「犬か猫かなら猫だろ!?」
その後双葉も「モナはここ触ると喜ぶぞ」と参加し始め、数分後。カレーを食べ終えたのでとりあえず止めた。
「はぁ……はぁ……お前、もっと早く止めろよ……」
「いい触り心地の猫だった」
「もうお前のこと呼ぶ時『殿』って付けてやんねー!」
「いいよ」
じゃれ合う声を聞きながら時計を見る。
双葉達が事前に決めてくれていたらしいルブランでの仲間達との集合時間まであと三十分くらいか。
それまでに吉田と武見に先日の礼を送ろうとスマホを開いた後、ララが「ん?」と突然黙り込んだ。
「ララ、どした?」
双葉の問いかけに、数秒沈黙してから口を開いた。
「……未来が見えた。私達は先にパレス行こう」
「ん? なんて?」
未来が見えた……とは、突然なんだろうか。ふざけている雰囲気ではないが……
「どういう事だ?」
訪ねるとララは「説明めんどくさ」と言いたげな表情を浮かべたあと仕方なさげに応えてくれた。
「……私達だけでも今のタイミングで行くのが、『六面世界』から来るパパ達との合流が一番早い。他の時間に行くとすれ違いまくってなかなか会えない」
ちょっとややこしいが、今の台詞に出てきたパパとはパレス主の方でなくララの実際の父親の方だろう。
本当に異世界から駆けつけて来るのか……というか。
「……君は、未来が分かるのか?」
「そうだよ、言ってなかったっけ?」
「私も今初めて聞いたぞ」
「そっかー」
――この少女は大丈夫なのかやはり少し不安だが、ラヴェンツァからもララは頼りになるとのお墨付きだ。信じよう。
「私達だけでも、今から先にパレスへ突入する……それが一番勝率の高い未来……たぶん」
「そこは自信満々に言い切ってくれ……」
モルガナのツッコミを聞き届けた後、仲間達に急遽予定が変わった連絡を入れてから立ち上がり……惣治郎が声を掛けてくる。
「せっかく平和になったと思ってたら……また、やらなきゃいけない事があるみたいだな。顔見りゃ分かる」
「……惣治郎……」
「行ってこい。怪我すんなよ」
「あぁ、行ってくる」
彼は何かを察しながら深くは聞かず見送ってくれるようだ。
「じゃあな、そうじろう! 晩ごはんまでには帰って来る!」
「あぁ。双葉も気をつけてな……ちゃんと帰って来いよ」
惣治郎に見送られながら、俺達はルブランを発った。