ペルソナ5R×無職転生 〜怪盗団と異世界からの来訪者〜 作:和井江一
広大な中世の街並み――ララはこの地を魔法都市シャリーアと呼んだ。
彼女の生まれ故郷で家族が暮らしている街だそうだ。
その街全域に張り巡らされているであろうメメントスと同じ赤い血管模様が景色を禍々しいモノに変えている。
そういえば今回も『オタカラ』はあるのだろうか。
「モナ。今回は『オタカラ』はどうする?」
「どっかから薄っすらと気配を感じるからあるのは間違いないが、ラヴェンツァ殿の話じゃヤルダバオトが深く関わってるんだろ。なら『オタカラ』を奪ったって意味はねぇ」
「……そもそもの元凶を叩く方が手っ取り早いか」
「だな、ジョーカー」
そのやり取りの最中に「けど」と明智が割って入り、
「目指すなら『オタカラ』の気配を感じる場所だと思うよ。悪神はパレス主と一緒に居ると思うし、パレス主なら『オタカラ』を守っている可能性が高いだろう」
「まあ確かにお前の言う事も一理あるな」
明智の意見に双葉も同意を示す。
奪うにしろ奪わないしろ目指すは『オタカラ』のある場所か。
「オタカラとは?」
ララが質問を投げかけてくる。
確かに彼女は知らないだろう、モルガナが簡単な説明に入る。
「パレスを持つ人間が歪んだ大元……それが具現化したモノが『オタカラ』だ。そいつを奪うことで歪みの根本を無くし、悪党を改心させる事ができる」
「へえ、そうだったんですね」
説明に返事をしたのは芳澤だった。
そういえば怪盗団じゃないので彼女も知らない事であった。
当のララは暫し考える仕草を見せた後……
「……パパの『オタカラ』は奪わなくていい」
「娘に言われちゃ奪う訳にはいかないよな」
「了解した」
ララの意見を尊重し『オタカラ』は奪わない方針で行く。
目標はパレス主との接触……そしてヤルダバオトの討伐だ。
「んじゃ、さっそく。『オタカラ』の気配はどこから感じる? モナ」
双葉の問いかけにモルガナは目を凝らすように遠くを見つめながら、その方角へと歩き出し。
「こっちの方角から薄っすら感じるぞ!」
その方角を見ながらララが応える。
「私の家がある方角だ……だいぶ先まで歩かなきゃいけないけど」
「本当か、ララ」
「うん、フタバ。まあ『オタカラ』があるならそっちだろうとは何となく思ってた」
さっそく『オタカラ』のある可能性が高い場所は特定できた。
後はこの禍々しい景色に変貌した街の中を潜り抜けていくだけだ。
「案内は頼む、ララ」
「任せてジョーカー」
――――――――――
六名は路地から壁から建物、木々にまで侵食している赤い血管模様が広がった街の中を歩いて行く。
認知上の存在である道行く人々ともすれ違うが……その姿もまた異様なものだった。
「みんな……のっぺらぼうみたいですね……」
芳澤の言う通り、全員表情が分からない顔になっているのだ。
「他人の顔をちゃんと見るのが、怖かったのかな……」
その姿を見て双葉がそう溢す。
すれ違う人々はこちらの事に一切気がついてないかの様に通り過ぎて行く。
「……シャドウとも出会わないから今のとこ順調だが……」
モルガナがそう言いかけたところで明智が「待て」と停止を呼びかけながら上空を見つめ、
「何か飛んでくる様だよ」
明智に続きララも口を開いた。
「……パパからの警戒は薄いけど……私を凄く警戒してる奴がいる……」
「何だと?」
「――この声はたぶん……ラヴェンツァから聞いた悪神かな」
明智とララの視線を辿る――自分達の頭上……上空から、三体の翼の生えた天使ドミニオンがこちらを見下ろしていた。
「アレ『クリフォトの世界』で見た奴等だ!」
双葉に続きモルガナも顔をしかめながら、
「さっそくヤルダバオトから目をつけられちまったようだな」
いつでも戦闘に入れる様に構えながら相手の出方を伺い――ドミニオンの一体が口を開く。
「また来たのですか怪盗団……我等が統制神に歯向かうのは止め、降伏し、大人しく去りなさい。我等は慈悲深い、今ならまだ見逃してあげましょう」
また、とはこちらが言いたい台詞だ。
ドミニオンはこちらに向けていた視線をララへと移して。
「……ただし、貴女には降伏の機会も慈悲も与えません。危険だ、排除する」
「――!?」
ララに対しては特に敵意を向けている様子だ。
向けられた殺意に何とも思わないのかララはボーッとした表情のまま杖を持った手を挙げ――
「降参」
「降参!?」
あまりにも唐突な降参宣言に驚きの声を一斉に上げる。
「貴女の降伏などは聞き入れないと先程――」
ドミニオンが呆れたようにそう言いかけたところで、二発の銃声が鳴り響いた。
「ギャァァッ!?」
上空から見下ろしていた天使は悲鳴を上げながら空中でのたうち回る――発砲したのは、明智だ。
モルガナが驚愕した顔を向けていた。
「お前相手が喋ってる途中に撃つとかマジか……!」
そんなモルガナの声は明智の怒声で掻き消される。
「ごちゃごちゃ煩いんだよ雑魚が! こっちは初めから降伏する気なんかないんだよ! お前だってそうだろ、ジョーカー!!」
「――当たり前だ」
上空から聞こえるドミニオン達の怒号は無視し、明智に続いて自分も銃を構え、双葉が号令を掛ける。
「今なら相手も冷静さを失ってる、チャンスだ! みんな一斉に撃って!」
自分と明智に続き、芳澤とモルガナも射撃態勢に入り一斉に連射で撃ち込む。
三体まとめて叫び声を上げながら落下していき――ララが、杖を掲げたまま口を開いた。
「キュムロニンバス」
地に衝突した三体の上から、雷鳴を轟かせながら太い稲妻が落ちる。
「ギャァァァァァッ!!!」
絶叫と共にドミニオン達は黒い泥になりながら溶けていき、消滅した。
「――これが私の答え」
帽子を直しながら彼女はそう呟いていた。
そうだろうとは察していたが、やはり降伏の振りだったらしい。
―――――――――――
「さっきの魔法凄かったな、ララ! 異世界の人間ってみんなあんなの撃てるのか!?」
「あー……めちゃくちゃ頑張れば出来る」
「ララがめちゃくちゃ頑張ってる姿か……ワガハイには想像できねぇな……」
先程の落雷の魔術に感動したらしい双葉がはしゃぎながらララに話しかけている。オタク心を擽られるのだろうか。
モルガナが言う通り想像は出来ないが、彼女なりに努力をしたのだろう……きっと。
「あれから何も来ませんね、先輩」
「そうだな」
芳澤の言う通り、ここまで何事もなくスムーズに進めている。
ヤルダバオトから目をつけられているのは間違いないだろう……なのに、アレ以来刺客の一つも来ない。
……嫌な感じがするほどの、静けさだ。
周囲の景色が商店街から怪しげな雰囲気の街の中へと移り変わって行くその最中……前方から足音と共に近づいて来る姿が見え、ララが足を止めた。
「……え」
その姿を見て足を止めたのは彼女だけではない、自分も含む全員だった。
それは……青い髪、杖、魔女帽、小柄な体格と、ララと同じ特徴を持つ女だったのだ。
一瞬もう一人のララかと思ったが、顔が違う。
その姿を見て、少女は微かに表情を変えながら口を開いた。
「ママ……」
「――ララの、母親か?」
その質問に、ララは肯定する様に首を縦に振った。確か、名はロキシーだったか。シャドウが名を口にしていた。
「ララ、いいか、アレはただの認知存在だ」
「そうだ、本当のお母さんじゃない」
「お、落ち着いてくださいね、ララさん」
「……分かってる」
モルガナ、双葉、芳澤の助言にララは静かに答える。
そして彼女は目の前に立つ認知存在の母に顔を向けながら――その向こう側から見ているであろう別の存在へと呼びかける。
「……ママの姿を見せれば私が怯むと思った?」
そう言いながら杖を向けた、その時だった。
認知存在の母、ロキシーの様子が、変わった。
「ラ……ラ……」
娘の名を呼びながら突如動きを止めたロキシー――その顔から微かに何かが浮かび上がり、腹部が、突如、ありえない形に膨れ上がって……次の瞬間。
「あぁぁぁっ!!」
苦しげな悲鳴と共に、顔面の半分を結晶が覆い、腹部から巨大な結晶がいくつも伸び生え、ロキシーは苦鳴を上げ続けていた。
ララは目を見開き、硬直する。
「ひっ!?」
芳澤が悲鳴を上げかける。
母の苦しむ姿を見せつける光景に双葉が強い怒りを表情を滲ませ、モルガナが眉間に皺を寄せながら叫ぶ。
「クソ、こんな手まで使って来んのかよ!!」
「――ララ、見るな!」
自分のその声を遮る様に、認知存在のロキシーは全身を結晶に侵されながら、ララに向かって悲鳴を上げるように叫んだ。
「ララ……あなたのせいです! あなたがいなければ! 私も、ルディも、私達の家族も! 壊れずに済んだのに……!!」
その声を聞いたララは――今まで見せなかった程に、表情を変え、杖を握る手を僅かに震わせる。
「……ママは、そんな事言わない…………パパは、そんな事、ママに言わせない…………っ!!」
保ち続けていた冷静さが、崩れ掛けていた。