ペルソナ5R×無職転生 〜怪盗団と異世界からの来訪者〜 作:和井江一
ララ・グレイラットはミグルド族の特性である『念話』を使える。
これは本来、同族や近しい力を持つ者との間でしか使えない代物だ。
しかし、この人の心で作られた『認知世界』の中においては様々な声を一方的に受信することが出来てしまうし、念話で話した事が本来通じるはずのない相手にも伝わる事がある。
色々な声を受信してしまうのは騒がしかったが、ララにとったらうるさいくらいで特に大きな負担はなかった。必要な情報と不必要な情報を分けて頭に取り入れればいいだけだから。
今回、認知存在である母ロキシーが現れた時も本物の母でない事くらいは一瞬で分かった――が、眼の前で母が魔石病を誇張した様な外見にされ苦しむ姿を見せられた時は、流石に動揺を隠しきれなかった。
――コレを見せているのはララを排除しようとしているヤルダバオトだというのは分かっていた。
だが、だとして何故ここまでララの排除に躍起になるのか……しかも何故ララがルーデウスとロキシーの娘である事を知っているのか。
おそらく、裏でヤルダバオトに何らかの情報と助言を与えている者がいる。そしてその助言を与えている存在が何なのかの検討も付いている。
頭の中ではそこまで冷静に思考を回していた。
だが、心は別だ。
眼の前で母が苦しみながら、言うはずの無い怨嗟の声を浴びせて来た。
更にその影響かパレスそのものから聞こえる父の悲しみと怒りの声が大きくなっていって、念話能力が自動的にソレを全て受信してしまう。
いつもは起こり得ない事が積み重なった結果、普段は起こらなかったであろう心の綻びが僅かに生まれてしまった。
――――――――――
「――っ! みんな、惑わされるな! コイツの正体、認知存在の皮を被っただけのシャドウだ!! しかも強い気配を感じる、早く仕留めて!」
正体を見抜いた双葉が全員にそう呼びかける。
それに応える様にララは杖を前方に掲げ。
「……それ以上ママの姿で喋るな」
急激に空気が冷たくなるのを感じる。
ララが魔法の冷気を発生させ攻撃しようとしたその直後、手が止まってしまった。
いや、思わず攻撃しようとした手が止まってしまったのは全員だった。
「――!?」
ロキシーの足元から這い出て来た小さい影、茶髪の乳児だった。
乳児はロキシーの姿をしたシャドウの前に座り込み、盛大に悲鳴の様な泣き声を上げ始めた。
「ルーシー姉……!」
「攻撃したら、あの子を巻き込んじゃうんじゃ……」
躊躇する芳澤の声。
自分も頭では分かっている、本物じゃない。だが、本物じゃないとはいえ本能的に赤子を巻き込む事に躊躇を覚えてしまっている。
「見た目が赤ん坊だろうがただの認知存在に戸惑うな! 攻撃すりゃいいんだよ!!」
明智が声を張り上げながら剣を構え飛び掛かる――が、突如。
その真横から飛んできた突風の塊が彼の身体を吹き飛ばし妨害した。
「うぉぁッ!?」
「クロウ!」
苦鳴を漏らしながら路地の上を転がっていく……突風の飛んできた方角には新たな人影が立っている。
白い髪と長く尖った耳が特徴的な女で、その顔は酷くやつれていた。
「白ママまで……」
また、ララの身内か。
さらに休む暇もなく立て続けに双葉が全員に警告する。
「気をつけて! 目の前のアイツ、魔法使う気だ!」
結晶に身体を侵されたララの母――ロキシーの形をしたシャドウ。それの周囲の中空にいくつもの氷塊が出来上がり……杖をこちらへ向け。
「マハブフダイン」
その名と共に大量の氷塊の弾丸が撃ち込まれる。
「ブリザードストーム」
ララが即座に魔術による氷の槍を中空に生成、一斉に射出して氷塊の弾丸を迎撃し撃ち落とす。
だがそれだけでは終わらない。
ロキシーの周囲から更に何人もの人間が地面から生えるようにして出現。
十代前半くらいの金髪の少女、同い年くらいの赤髪のメイド服を着た少女、同じく赤髪にメイド服と眼鏡を掛けた女性、そして顔から生気を感じられない金髪の女性だ。
「……っ!」
ララの反応を見てそれらもまた彼女の家族だと察した。
「アイツらも見た目が人なだけの中身はシャドウだ! 攻撃してくるから惑わされないで!」
双葉の呼び声に従い、攻撃を――
「マハガルダイン」
しかし、遠くに佇む白髪と尖った耳の女が暗い声で囁きながら広範囲に渡る疾風魔法を発動し行く手を阻もうとする。
「疾風はワガハイに任せろ!」
モルガナがペルソナを召喚しながら盾となり疾風魔法を無効化してくれた。
しかし、新たに現れた人の姿をした四体のシャドウが一斉に数十はあるだろう火の玉を撃ってくる。
一撃一撃の威力は大したことは無さそうだが、数が多い。
「キングフロスト」
広範囲に巻かれた氷結の波で火の玉を掻き消し、残って飛んできた数発を芳澤が撃ち落とす。
「やらせません!」
光の魔法により残る火の玉も全て掻き消された。
「……ララ、大丈夫か」
「大丈夫、やれる」
即答でそう答えてきたが……やはり冷静さが少しなくなっている雰囲気の音色だ。
いや、それでもやるしかないか。
「舐めんなよクソ共がぁッ!」
更に、吹き飛ばされた明智も怒声を上げながら戻って来た。
躊躇のない性格はこういう場面だと頼りになる。
「……」
厄介そうな白髪の女はモルガナが足止めしてくれている。
後はロキシーの姿をしたシャドウを守るように真ん前に座りながら泣き叫ぶ赤ん坊をどうするかだが――いや、覚悟を決めるしかない。
あれは、ただのまやかしだ。
「俺が先に仕掛ける」
「ジョーカー先輩!」
後輩の芳澤や、家族であるララには流石にさせられない。明智ならやってくれるだろうが……都合よく頼り切ってしまうのも心が咎める。
自分がやる。
大規模の魔法を放てるペルソナを召喚――しようとした、その時だった。
「みんな待って、ヤバい! 攻撃中止!! ガードに専念して!!」
「――ナビ!?」
「上に、とんでもない気配の奴が来てる!! 魔法撃ってくる!! ガードして!!」
上空を見上げる――すると、そこにはこれまで見た天使達より更に大きい……機械の様な銀色の身体を持つ大天使が翼を広げながらこちらを見下ろしていた。
「私はメタトロン。神の邪魔はさせん」
低い声で言葉少なに宣言し、大天使の周囲に無数の光が集まって――魔法が、発動した。
「メギドラオン」
激しい閃光が撃ち落とされ、大規模な爆裂が巻き起こる。
「――――っ!!」
直撃の寸前に双葉のペルソナ能力により耐久力が上昇し、ララが最速で発動した魔法による氷の壁でダメージは減少されたが――威力を殺し切る事はできなかった。
爆熱が襲いかかり身体を吹き飛ばされ、地面の上を転がる。
「ぐぅ……!」
命に別状はない、だが、この状況は……厳しい。
全員が先の一撃で地面の上に膝をついている……重傷までは至らず意識はあるが、あんなものを何発も撃たれたらただでは済まない。
更に、ララの家族の姿を模したシャドウ達は再び魔法を放つ準備を始めている。
「最後の警告だ。死にたくなければ降伏するか去れ」
大天使メタトロンは見下ろしながら警告してきた。
どうする……打開策は無いのか。
状況は、絶望的だ。
絶望……
『絶望? 本気で言っているのか? お前は、この程度で立ち止まるのか?』
――声が、脳内に直接響き渡る。
知っている、よく……知っている声だ。
『思い出せ。この程度の困難……いくらでも打ち破り乗り越えてきた』
そうだ。
この程度で、俺は止まらない。
『力が欲しいか……』
力が欲しい。
人の心を平気で踏みにじる事が出来るモノをねじ伏せる力を。
皆を救う為の、力を。
『力が欲しいのなら、我を呼べ。お前に、この状況を打破する新たな力を授けよう』
あぁ。
また、お前を呼ぼう。
アルセーヌ
……いや。
『我は汝、汝は我』
「――ラウール」
力がみなぎる。
心の底から、魂が湧き上がる。
かつて共に戦ったペルソナ……その真の姿。
『ラウール』が顕現する。
「何だ……!?」
「ジョーカー、そのペルソナは……!」
仲間達の声が聞こえる。
――もうこれ以上、こいつらの好きにはさせない。
「エイガオン」
闇の力を纏った魔法を発動――上空に目掛けて放たれたその一撃はメタトロンの顔面を穿つ。
「ぬぅぉッ!!」
まだ倒せていないが、直ぐには立て直せないはずだ。
今の内に、この地獄の光景を終わらせる。
「眠りにつき、正体を現せ」
ラウールの力でララの家族の姿をしたシャドウ全員を闇の中へと包み込む。
暗黒に包まれたシャドウ達は一斉に眠りについた……そして。
眠った全員の嘘の姿が剥がれ落ち、シャドウ本来の姿がそこに顕現していく。
ロキシーの姿だったモノは『スカアハ』へ
白髪の女の姿だったモノは『ティターニア』へと姿を変えた。
「もう、俺達にまやかしは通用しない」