ペルソナ5R×無職転生 〜怪盗団と異世界からの来訪者〜 作:和井江一
十二月二十六日 十一時二十分
純喫茶ルブラン
「ふー……」
朝の常連客が出て行き、一人になった店主の惣治郎は新聞を開きながら溜息をついていた。
脳裏に浮かぶのは娘と居候の少年。
良い子ではあったが素性の分からない外国人の女の子を連れてきた挙句、意味ありげな顔で朝早くから出掛けて行った……
また何かに巻き込まれているんじゃないかと不安になるのも仕方ないだろう。
そんな事を考えていると、普段はまだ客が来ない時間帯に扉の開く音が聞こえた……見ない顔の来客だ。
しかも夫婦と子供という組み合わせ、本当に珍しい事だった。
「いらっしゃい。珍しいね家族連れでウチに来るなんて」
新聞を閉じ、準備に取り掛かりながら声を掛ける。
すると旦那らしい男が明るく人の良さそうな声で返して来た。
「はい。渋谷の親戚の家に行こうとしていたんですが……妻の友人が以前このお店で食べたカレーが美味しかったと話していたらしくて。気になって、渋谷へ行く前に寄ったんです」
「そうなのかい。そりゃ嬉しいね」
カレーの準備に取り掛かり、大人にはコーヒーを、子供には炭酸飲料を差し出した。
カレーの匂いに喜ぶ子供の声が聞こえる。
家族分を盛り付け、皿を並べる。
一瞬、若葉と双葉と三人で過ごした日のことを思い出した。
「……味はどうだい」
「はい、美味しいです。コレは人に薦めたくなりますよ」
「そりゃどうも」
人に喜ばれるのはやはり嬉しいものだ。
テレビから流れてくるニュースが、轢かれそうな人間を庇っての交通事故死という暗いモノになったのでチャンネルを切り替える。
すると、旦那らしい男が一瞬暗い顔になったのが見えた。
「どうしたんだい?」
「……いえ。弟の事を、思い出しまして……」
「弟さん?」
暫しの沈黙の後、男性は静かに話し始めた。
「……うちの弟は、引きこもりでした。最初は何とかしようとしてたんですが……そのうち皆、諦めてしまって……弟もどんどん腐っていってしまって……」
「……」
何かを言うのを躊躇う様な素振りを見せてから、続きを話す。
「俺も完全に見限って追い出したあと……アイツ、トラックに轢かれそうな高校生を庇って死んだんです。昔みたいな……人を思いやれる部分が、アイツにもまだちゃんと残ってた」
「……」
つい先程のテレビニュースと似たような話だ……それで、思い出してしまったのだろう。
「……俺や両親がもっとちゃんと向き合えていれば……もっとマトモな人生を歩ませてやれたんじゃないかと、今でも後悔が抜けないんです」
「なるほどね……」
引きこもりという話に惣治郎も他人事では聞けなかった。
双葉にあれ以上辛い思いをしないで欲しいからと……何もしてやれなかったのは同じだから、偉そうに説教などは出来ない。
双葉は「そんな事ない」と言ってくれるだろうが、あの娘を本当の意味で救ってくれたのは蓮とその友人達だと思っている。
「……すみません、暗い話して」
「いや。ウチと事情は違うだろうが……気持ちは何となく分かるよ」
――――――――――
ルーデウス・グレイラット……ラヴェンツァから聞いていたその名前。
日本からの転生者でありララの父親。
どう見ても外国人の顔しているが前世は日本人という事だ……実感が湧かないが。
このパレスの主とは別の世界線の同一人物だという事も既に聞いており、正直少し不安もあった。
だが話してみたところ彼は娘想いな普通の大人といった印象だ。
とても前世でメメントスにシャドウを持っていた人物とは思えない。
ただ、強さに関しては規格外だった。それは彼の妻であるエリスと名乗った赤髪の女性も同様である。
先刻はアバドンを二人の連携で瞬時に倒し……
更に双葉が『セーフルーム』の気配を遠くに感知しそこを目指している現在の道中。
ゾロゾロと出現し始めたシャドウをルーデウスは岩の砲弾や大規模な氷結で蹴散らしていき、エリスも視認が困難な速度で次々と敵を薙ぎ払っていった。
それらを潜り抜け双葉へ近づいて来ようとしたシャドウに対しては自分が前に出るより先に白髪の男……オルステッドが指先一本で貫き消滅させていた。
「大丈夫か」
「ぴぇっ。ひゃい、大丈夫っす!」
双葉はいまだにオルステッドには緊張感が抜けないようだ……顔が怖いからだろうか。
「それにしても……すごいな……何が起きてんのか分からん……異世界の人間ってめっちゃ強いんだな……」
「あの人達は特に上澄みだからね」
オタク心を刺激された双葉は目を輝かせながらそれらの光景を見ていて、ララは気の抜けた表情で返していた。
戦いが終わりルーデウスがこちらへ振り返りながら笑いかけ……
「皆は疲れてるだろうから休みながら歩いてくれ。道中は俺達に任せるんだ」
気のせいだろうか、何だかキメ顔を見せている気がする。
「パパ。娘の前だからって張り切って頼れるパパ感を出そうとしなくていいよ」
「え!? そ、いや、そんなつもりは無いぞ……? 決して娘の友達もいるからって張り切ってなんか無いぞ?」
「張り切ってたんだな……」
モルガナもツッコミをいれるくらいわかりやすい反応だ。
だが悪い人間じゃないのはよくわかる、信頼できそうだ。
「……エリス、俺、父さんに似ちまったのかな……」
「そう?」
――――道中の大量のシャドウの妨害は異世界人の彼等のおかげで難なく突破し『セーフルーム』へと入る。
中は中世の小さな民家といった雰囲気の風貌だ。
「このセーフルームなら、大丈夫なんですか? ジョーカー先輩」
「そうだ、芳澤。ここなら敵襲も無く休憩ができる」
「ここは歪みが少ない安全地帯なんだ。ヤルダバオトが介入してるようなパレスでも存在してて助かったぜ」
モルガナとの説明に彼女は「そうなんですね」と答え、疲れたように木製の椅子に座る。
「大丈夫か?」
「大丈夫……と、言いたいところですが、ちょっと疲れが溜まってしまったみたいで……」
やはり先刻のメタトロンとの激戦でかなり消耗してしまったらしい……
「彼女はまだペルソナ能力を使った経験が浅いんだろう。疲労が早くて当然だ……今ついて来ても足手纏いにしかならない。ここで休ませて行った方がいい」
「お気遣いありがとうございます。明智さん」
「……別にお気遣いで言ったんじゃ無いけどね」
明智の言う通りだ。無理させてはいけない。
「俺達はあと二十分程で出発するが、芳澤はここで休んでいてくれ」
「わかりました」
「……明智もだ。一緒に休め」
「なに?」
明智から怒りの様なモノを感じたが……流石にそれを無視は出来ない。
「お前はメタトロンの魔法を直接受けた。本当は消耗を我慢してるんじゃないのか?」
明智は一瞬黙り込んだ。図星らしい。
「お前もよ……我慢なんかせず疲れてんなら素直に言えよ」
「自分で言ったように、足手纏いにならないように休んだ方がいいんじゃないか?」
モルガナと双葉からも言われ、明智は静かに舌打ちをしながら。
「わかったよ。確かに痩せ我慢なんかしたってメリットは無い。万全になるまで休むとするよ」
「そうしてくれ」
芳澤と明智は暫く離脱し休ませる事になった。
芳澤一人で休ませるのはもしもの時に不安だったが、明智もいれば大丈夫だろう。
「ルーデウス! 見て、パンがあるわ!」
話が一通りまとまったところでエリスの元気な声が聞こえてきた。
両手にたくさんのパンを抱えている。見た目は普通のパンだが。
「……それ……食べれるのかエリス?」
「食べれたわよ」
「もう食べた後!?」
「流石赤ママ怖いもの知らず」
行動力が凄い……ルーデウスが顔を青くしているのが見えた。心配なのだろう……
双葉にたずねてみる。
「このパン、食べられそうなのか?」
「んー……うん、大丈夫。問題なく食べれる奴っぽいな」
「大丈夫なら食べましょう。何か食べないと力つかないわよ!」
そう言いながらエリスがテーブルの上にパンを置き、双葉の答えを聞いた瞬間ララはテーブルに置かれたパンを手に取り頬張る。
「ちょうどお腹空いてた」
「ララ! パン取って食べる前に手を洗いなさい!」
「ララの親父さんお母さんみたいな事言ってるな……」
テーブルを囲い座ってパンを食べながら、今後の行動を会議する事にした。
目的は変わらずオタカラの気配がする場所……推定グレイラット邸へ行き、パレス主と会い近くに居るであろう元凶のヤルダバオトを打倒すこと……だったが。
「いきなりオタカラのとこ行くのやめとこう」
ララが開口一番そう言い放った。
「やめとこう!?」
「……どういう事だ」
ララはうーんと唸りながら返答し、
「アレからパパの警戒度が、めちゃくちゃに上がってるんだよね……凄く怒ってる」
「え?」
「俺の事じゃないよエリス」
ルーデウスを見るエリス。
だがララが言うパパとは、このパレスの主の事だろう。
まさか警戒度が上がっているとは、だからシャドウが急激に湧き始めたのか。
「まあ、パレスの出入り口はまだ塞がれてないけど……敵はウジャウジャいるっぽい」
「敵なんか私とルーデウスがいくらでもやっつけるわよ、ララ」
「うん……でも、やめたほうがいいかな……強行突破は……未来見てみたけど、パパの家の周り凄い事なってたし……」
「凄い事って……?」
ルーデウスの問いかけにララは淡々と答えて行く。
「シャドウの群れに大量のトラップみたいな転移魔法陣……あっちのパパが生み出した厄介な認知存在がいくつか……」
「あっちの俺が生み出した認知存在って……具体的に誰だ……?」
「具体的に言うとマナタイトヒュドラ」
「マナタイトヒュドラ!? 家の周りにあんなん配置するとかなりふり構わすぎだろ、俺……!」
ルーデウスが大きな反応を見せる。
名前からしておそらくソレは……
「ワガハイ達が一度戦った、九本首の龍じゃねえか?」
「おそらく……そうだろうな」
モルガナの言う通り奴の事だろう……またアレと戦う可能性があるのか。
「他には?」
ずっと黙りだったオルステッドが続きをララへ聞く。
「後は、ジョーカーが戦った……メタトロンだっけ?」
「あぁ」
「アレ以上に強いシャドウが三体…………蠅みたいなのとか、デカい悪魔みたいなの」
「なんだって!?」
双葉が自分以上に大きく反応を示した。
芳澤も驚いた顔を見せ、明智も流石に冷や汗を浮かべている。
メタトロン以上強さのシャドウが、まだあと三体も居ると聞けば当然の反応だ。
「そこに加えて今の怒ってるあっちのパパまで敵として出てきたら、私達は勝てない。オルステッドが本気で戦えばいけるけど……」
「それは……ダメだ」
「だよね、パパ」
そこまで厳重に配置するならオタカラがあるのもパレス主やヤルダバオトが居るのもほぼ確実だ……が、今聞いた情報を整理する限り、無策で突っ込んでも勝てない可能性が非常に高い。
「じゃあ、どうすんだよ……」
そのモルガナの声に応えるようにララは「でも大丈夫」と続けて喋り。
「そこでパパの活躍の番だよ」
「え、俺?」
「パパなら……このパレスの主であるパパの心で作られた世界に介入することが出来る。それを利用するんだよ」