ペルソナ5R×無職転生 〜怪盗団と異世界からの来訪者〜 作:和井江一
ルーデウス視点
――『パレス』の転移魔法陣の上に乗る前、俺が想像したのはロキシーとシルフィの姿だった。
かつて、ヒトガミに騙されていた俺に警告を告げに現れた未来の自分……わかりやすい様に便宜上『老ルーデウス』と呼ぼう。
『老ルーデウス』はヒトガミを信用し行動した結果、ロキシーを死なせてしまった。
罪を犯し、友のクリフを犠牲にし、そこまでして魔石病の治療法を持ち帰ろうしたのに……ロキシーを助ける事は出来なかった。
何もかもが無駄だった。
そして自暴自棄になって、人間として堕落して行って、シルフィが出て行き……挙句の果てには母にまで傷を付け、他の家族にも見限られた。
そして、家を出たシルフィを追いかけて――その姿を目にした時にはもう、全てが手遅れだった。
自暴自棄になってのアレコレは……正直ただの自業自得だ。
『俺』という人間は堕ちる時は何もかも諦めて自暴自棄になりとことん底まで堕ちる……前世の頃から、そうだった。
『老ルーデウス』が歪んでしまった原因はたくさんある、ヒトガミを発端として、自分の選択の結果や様々なモノが積み重なった結果……
俺の知る『老ルーデウス』になったのだ。
だが……『堕ちるきっかけ』となった特に大きな要因を考えるのならば。それはやはり、妻達の死だと思う。
このパレスは主の『老ルーデウス』の心や認知から作られている。
そんなパレスの中で特に大きな歪みが二つあるとなれば、ロキシーとシルフィに関係する事だろう。
だから俺は、ロキシーとシルフィの事を考えながら、転移魔法陣へと足を踏み出した。
――そして、俺達は目的地だった大きく歪んだ地点への転移に成功していた。
更にその転移した場所の見た目が……シルフィが死んだ、アスラ王国の形をした場所だったのだ。
転移する直前に考えていた人物の顔がシルフィだったからだろう。
転移した先で真っ先に浮かんだのは『老ルーデウス』の日記に記されていたシルフィの死の記述だった。
それが脳裏を過ぎってすぐに、俺はがむしゃらに駆け出した。
道中『水神レイダ』の認知存在などの妨害もあったが、共にいた『怪盗団』やエリスのおかげで突破に成功。
そして道中、多数の死体が街中に転がっていた。
異世界の人間とは倫理観が違い、まだ未成年である『怪盗団』のメンバーはこんな光景を見て大丈夫だろうかと気にするくらいの余裕はまだあったが……
凄惨な死の景色に嫌な予感が加速し、自分の鼓動が酷く煩く聞こえるのを感じた。
しかしその焦燥感も一人の男を見つけた事で僅かに和らいだ。アリエルの騎士、シルフィの同僚であり俺の従兄弟のルークが、傷だらけではあるが生きていたのだ。
「シルフィは……広場に居るはずだ……」
日記では死んでいたはずの彼が生きている、ならシルフィも生きているに違いないと希望が芽生える。
胸に湧き上がる希望に背中を押されて路地を抜け、広場に出た――
するとそこには、群衆に囲まれ磔にされた彼女が居た。
「シルフィ!!」
一瞬激しく動揺したが、傷は無く五体満足で顔も綺麗だ。両耳の青いイヤリングが無い事には胸が痛んだが、生きているならそれでいい。
別の未来の俺が堕ちていったきっかけの一つはシルフィの死だ……シルフィを助ければその心も救われるはずだ。
そう信じ杖を構えた俺と隣に並び剣を抜いたエリスを背後からララの声が制止した。
「目的を忘れないで……ただ助けるだけじゃ、パレス主のパパの怒りは収まらない」
……どういう事だ。怒りを収める為に、シルフィを助けようとしているのだが……
ララが小さい溜息をつき、何かを伝えようとした、その時だった。
背後から『怪盗団』メンバーの一人、双葉の声がした。
上空から、巨大な蠅の悪魔が舞い降りて来たのだ――磔にされたシルフィの、目の前に。
例え認知存在だろうと手は出させまいと反射的に杖を構えストーンキャノンを発動しようとした。
しかし、蠅の悪魔から返ってきた言葉は想定外のモノだった。
『シルフィに近づくな。俺のシルフィに近づく奴は誰だろうと全員……死ねばいい……!』
「あの蠅のシャドウからは、パレス主のパパの心と魔力が籠もってるのを感じる」
蠅の悪魔『ベルゼブブ』とララの言葉で察した。シルフィを襲いに来たんじゃない、守りに来たのだと。
それならちゃんと話せば分かるはずだと、俺はシルフィを助けないし傷つけさせないと必死に伝えようと叫んだ――が。
ベルゼブブから返ってきたのは強烈な怒りと悲しみを孕んだ一言だった。
『シルフィはもう死んだだろう?』
――――声が出なかった。
一瞬、頭が真っ白になってしまった。
その返ってきた一言で、俺は気付いたのだ。
自分が間違えていた事に。
そして、ララがシルフィを助けることを引き止めた理由に。
……そうだ。
認知存在はあくまでただの認知存在、本当に生きている人間じゃない。
『老ルーデウス』の現実では、シルフィは死んだのだ。ロキシーも死んでいるのだ。
『俺』の現実ではシルフィもロキシーも生きている、異世界で帰りを待ってくれている。
『老ルーデウス』と『俺』の感覚を、同じに考えてはいけなかった。
俺は、バカだ。
『シルフィの死を、侮辱するなぁっ!!!!』
怨嗟の叫びと共に火炎の魔術が一帯を呑み込む勢いで大規模に放たれる――反応が少し遅れてしまった。
今は失敗に引きづられている場合じゃない、戦わなければ。
「――っ!」
ララ、エリスと『怪盗団』全員を守る様に氷の壁を全方位に展開。
炎の直撃は防いだが、その勢いは凄まじく一瞬にして街を火の海へと変えていた。
火聖級魔術『フラッシュオーバー』に近い特性と威力。
「待て、話を聞いてくれ! 無神経な事言って、本当にごめん! お前と戦うつもりはないんだ!!」
『黙れ!! シルフィを侮辱する奴等は死ねェッ!!!!』
ダメだ。声は、届かない。
「――ルーデウス、加減は出来ないわ! アイツ斬るわよ!」
「――っ!」
まだちゃんと話せていない……俺が失敗したせいで、暴走させてしまった。
躊躇はある。だが、あんな威力の魔術を使える相手を放置には出来ない。戦う以外の道は無い。
この場に居る誰も死なせない為に、覚悟を決め杖を構えた。
「俺のせいでごめん! 悪いけど、皆も力を貸してくれ!!」
振り返り『怪盗団』の子供達に目を向け協力を願い出る。
我ながら情けない……出会った最初は「大人として俺が守らなければ」なんてかっこつけた事を考えていたのに。
そんな事を考えながら『怪盗団』のリーダー……ジョーカーと視線が交差する。
「もちろんだ」
彼は迷いなどなく、すぐにそう応えてくれた。
――――――――――
ジョーカー視点
怒りのままに大規模な炎を撒き散らした『ベルゼブブ』……火の海へと変貌した街。
ルーデウスの声も届かなくなってしまった様だ。
完全に暴走してしまったシャドウ……ルーデウスの魔術のおかげで自分達への被害は防げたが周囲の火の手はどんどんと広がり燃え移っている。
「『アギ』系魔法最高位なんかよりもっと上の威力だ……あんなの連発されたらヤバいぜジョーカー」
「あぁ」
モルガナの言う通り、ただのシャドウとは思えない程の魔法の威力だ。
怒りに歪んではいるが、邪悪な理由で動いている相手ではないのは分かる。出来れば穏便に済ませたかったが、そうもいかない状況になってしまった。
「先ずは周りの火を何とかしないと、私達まで巻き込まれるよ!」
双葉の声に応える様にララが杖を掲げながら呟く。
「スコール」
次の瞬間、一帯に大雨が降り注ぎ火の海が弱まっていく。
「全身水びたしになってしまったが……これなら暫くは奴が使う炎の威力も弱まるのでは無いか?」
祐介がそう呟きながら剣を抜いた直後――『ベルゼブブ』が次に行使する魔術の名を口にした。
『フロストノヴァ』
「あ、ヤバ」
その名に対しララが「やらかした」という表情を浮かべた――確かその名は、ララ自身も使用していた広範囲を凍結させる魔術だ。
「こんな水びたしな状況で使われたらヤバいぞ! ジョーカー、火炎で対抗して!」
双葉が叫び、火炎が得意なペルソナへ交代しようとした、その直後。
「乱魔」
ルーデウスの声が耳に届く。
その一言と同時に『ベルゼブブ』の周囲に集まっていた冷気が一瞬で消滅していくのがわかった。
魔術の使用そのものをキャンセルさせたのだ。
「そんな事も出来るのか……!」
「油断するな! アイツも俺やララみたいに無詠唱で魔術を撃ってくる! すぐに次が来る!」
「その前に私が斬るわ!!」
剣を抜いたエリスが地を蹴り一気に駆け抜ける。
「フォックス。俺達も行くぞ」
「了解だ、ジョーカー」
祐介のペルソナの力で互いの速度を上昇させ、それぞれ武器を構えながらエリスに続いて突撃する。
魔法の撃ち合いでは押し負ける可能性があると考え近接戦闘を選んだ。
「はあぁッ!」
相手の魔術が発動するより先に『ベルゼブブ』へとエリスが接近、光速の一閃が放たれ――
『助太刀しよう』
新たな声が聞こえた。
「――ッ!?」
エリスの一撃は新たに現れたシャドウの長槍で受け止められ、身体ごと弾き飛ばされ地面を削りながら着地する。
続いて祐介と同時に左右から振り抜いた斬撃――それを新たに現れたシャドウは長槍を大きく回転させ同時に打ち払って来た。
「くぅっ!」
弾き返されながら祐介と共に一時後退する。
三つの攻撃を全て防いだ相手が『ベルゼブブ』と並び立ちはだかる。
長槍を手に持った長身、戦士らしい風貌の青年の形をシャドウ――『クー・フーリン』だ。
「また新しいのが出てきやがった……!」
モルガナに続きララが『クー・フーリン』へ目を向けながら口を開く。
「あの槍のシャドウからも少しパパの心と魔力を感じる。『ベルゼブブ』程じゃ無いけどあいつも普通のシャドウより強いよ」
「凶悪な魔術使いのシャドウに近接戦闘が卓越したシャドウか……シンプルでいて厄介な組み合わせだな」
その上、二体の背後には磔にされている認知存在『シルフィ』が居る……心情的に彼女を巻き込む様な戦い方は出来ない。
双葉へ視線を向け、問いかける。
「相手の弱点は分かるか?」
「探してるけどまだ分からない。『クー・フーリン』は本当なら雷撃が苦手なんだけど、調べてみた感じあの個体は耐性があるみたい」
「そうか……頑張って突破の糸口を探してくれ」
「任せろ!」
睨み合っているだけでは埒が明かないと次の行動に移ろうとしたその時だった。
『ベルゼブブ』が杖を構える動作を見せる。
相手の行動に合わせ対処できるよう何の魔法が来るのか警戒し、一方ルーデウスは手を前に出して声を上げた。
「乱魔!」
先程も使用していたモノだ。
――しかし、先程と違い、相手の魔法が止まる気配は無かった。
「くっ!? 消せない、俺が知らない属性の魔術か!?」
『――マハムドオン』
ルーデウスが目を見開き、相手がその魔法の名を口にした直後、双葉が叫び警告する。
「みんな、足元に気を付けて回避して! 命を奪う魔法が来る!!」
その場に居るシャドウ以外の全員の足元に、一斉に闇色の禍々しい魔法陣が出現した。
「避けろっ!!」
闇色の魔法陣から一斉に黒い閃光が放たれ、当たる前に後退する。
双葉があらかじめ警告してくれたおかげで全員が回避に成功――
『マハムドオン』
「ヤバい、回避した先にさっきの魔法陣がまた出てくる!!」
「……っ!!」
連続しての発動、あまりにも殺意が強い追撃。
双葉の警告通り、回避した先にまた闇色の魔法陣が現れた――このままでは、全員が回避しきれない。
呪怨の魔法を食い止めるべく、ペルソナを交代し召喚する。
「ウォフ・マナフ! 呪怨の力を打ち消せ!」
召喚したペルソナの光の魔法攻撃『マハコウガオン』を周囲へ一斉に放ち、闇色の魔法陣を上から撃ち抜き相殺、消滅させる。
「やった、ジョーカー!」
警戒したのだろう、三発目は来なかった。
「ありがとう」
「あぁ」
ルーデウスから礼を向けられる。
目を合わせ一言返し、敵へ目を向けた。
おそらくまたすぐに広範囲に渡る魔法攻撃が来る、気を抜いてはいけない。
「先ずはあの先頭に立って邪魔してる『クー・フーリン』を引き離した方がいいんだけど……近接戦闘が通りにくいっぽいんだよな。とはいえララのお父さんには『ベルゼブブ』の魔法に対処して欲しいから自由に動かせないし……」
「そうだな」
悩ましげに頭を回しながら呟く双葉へ、横からモルガナが口を開いた。
「ワガハイに良い提案がある」
「お、なんだモナ?」
「全員集まってくれ……あ、ララの親父さんはそれより『ベルゼブブ』の警戒を頼む」
「あぁ……なんか俺だけ仲間外れにされたみたいだな……」
モルガナの作戦に耳を傾ける。
――その内容は、モルガナの身体を張った何とも無茶苦茶なモノだった。
――――――――――
「ストーンキャノン」
『ジオダイン』
放たれた石の砲弾と轟く雷撃が中空でぶつかり合い、相殺される。
魔法による応酬が行われる中――ララが杖を振るい魔法を放つ。
「ディープミスト」
混合魔術によって発生した大量の白い霧が一帯を覆う。
その間に自分はペルソナ『ザオウゴンゲン』を召喚しなが近接戦闘を仕掛ける。
霧を掻き分けながら距離を詰め『ザオウゴンゲン』の剛腕が『クー・フーリン』へと振り抜かれる――が、それを見切られ槍の一手を返される。
『こんな子供騙しが俺に通用すると思っているのか!!』
更に『ベルゼブブ』は怒声を上げながら魔術を発動し、濃霧は無理矢理掻き消され一帯が晴れ渡る。
――ここまで全て、計算のうちだ。
俺に意識を向けていた『クー・フーリン』の真横から、巨体がタイヤの音をかき鳴らし笑いながら急接近していた。
「二ャハハハぁっ! 余所見したなぁっ!!」
『――っ!?』
バスに変身したモルガナが『クー・フーリン』に向かって突撃を仕掛ける。
その衝撃的な光景にシャドウは驚きの表情を顔に刻み目を見開いた。
バスの巨体による突撃をシャドウは長槍で受け止め、自らの身体も衝撃に飛ばされながら跳ね返す。
「ぐわぁぁぁ〜〜!!」
バスの姿が消え猫の姿に戻りながら宙を舞うモルガナ――そのバスが消えた地点から、中に乗り込んでいた祐介とエリスが現れた。
「今なら隙だらけだ」
祐介が剣を構え、エリスも剣を抜き突撃する。
「あなたの犠牲は無駄にしないわ、モルガナ!!」
「死んでねぇよ!!」
空中からモルガナの元気なツッコミが轟く中、エリスの光速の一閃が態勢の崩れた『クー・フーリン』の左目と顔半分を切りつけて、祐介の斬撃が左肩を深く抉った。
「ギリギリで致命傷を避けたわね」
「だが、今ので良いダメージは入った」
『ベルゼブブ』と距離を離された『クー・フーリン』の目の前に、祐介とエリスが立ちはだかった。
宙を舞うモルガナを俺が受け止めて、双葉の隣に寝かせる。
「無茶をさせた……ありがとう。暫く休んでくれ」
「おう……優しさが胸に染みるぜジョーカー」