ペルソナ5R×無職転生 〜怪盗団と異世界からの来訪者〜 作:和井江一
十二月二十五日 夜
四軒茶屋 純喫茶ルブラン
店内のテレビからはクリスマスソングが流れ、窓から見える外では雪が静かに舞っていた。
今日は閉店となり客の居ない店内にはカレーの匂いが漂い、カウンター席で少女と並び座りながらカレーを平らげる。
「今日は平和な一日だったな……怪盗団の仲間達とクリスマスパーティーして、楽しんで。昨日までの戦いが嘘みたいだぜ」
そう囁き喋るのは椅子に座り丸くなっている黒猫……モルガナだ。
自分――雨宮蓮は心を盗む怪盗団を結成し、欲望に塗れた悪い大人を改心させ続けてきた。
何度も危機に晒され、最終的には神の様な存在とも戦う事になったりしたが、仲間達と共に乗り越えここまで来た。
やっと勝ち取った平和だ……モルガナの言葉に首肯する。
「――昨日も今日も、せっかくのクリスマスだってのに夜一緒に過ごすのが俺達でいいのかよ」
続けてそう声を掛けてきたのはカウンターの向かいに立つルブランの店主、佐倉惣治郎。
一見ガラの悪い不良中年にも見えるが、冤罪による前科がつき保護観察処分を受けた自分をほぼ他人同然なのにも関わらず引き取ってくれた根は優しい世話焼きな男だ。
「お前、女の友達や知り合い多いだろ。一緒に過ごす子とか彼女とかいねーの?」
確かに女の知り合いが多い割に彼女は出来なかったが、今自分は充分に充実している。だから即答した。
「家族で過ごすのも悪くない」
「恥ずかし気もなく家族とか言いやがって……悪い気はしねぇけどよ」
照れくさ気な反応をする彼に続き自分の隣に座る惣治郎の娘、眼鏡を掛けた少女の佐倉双葉も嬉しそうに反応を示す。
「わたしも三人で過ごすの楽しいぞ、昨日も七面鳥食べたしな! 来年も三人で七面鳥食べて一緒に過ごそう!」
「来年もって……コイツがここに居るのは三月まで……」
「んん…………蓮、ずっとここに居ろ!」
「おいおい」
双葉の発言に困った表情を浮かべる惣治郎だがまんざらでもなさそうだ。
正直それは自分としても悪くない。
「あ、もちろんモルガナもな! 三人じゃなくて三人と一匹でな!」
そう言いながら双葉はモルガナの居る方へ歩み寄り猫の柔かい顔を揉みくちゃにする。
「モニャ!? フガッ……やめろって、オイ!」
少女に揉みくちゃにされる黒猫を眺めながら、今の平和な時間を噛み締める。
「俺はそろそろ帰らなきゃいけねぇな……双葉も一緒に帰るか?」
「わたしはもう少し蓮達と話してから帰る」
「そうか、あんまり遅くなるなよ」
「おう、そうじろうも車に気をつけてな!」
「俺は小学生かよ」
双葉の軽口に笑みをこぼした彼はコチラに目を向けて。
「じゃ、戸締りは頼んだぞ」
その言葉に首肯し、店を出る彼を見送った。
残った双葉、モルガナと談笑し暫く経ち、双葉を家まで送ろうと店を出たその矢先。
「おい」
粉雪の舞う夜道の中、突如声を掛けられ呼び止められる。
目を向けるとそこには、一見好青年といった人物――よく知る男が立っていた。
「明智!」
「うわ!? ビックリさせんなよ、何しに来た……!?」
「警戒しなくていいよ。今更君達に何かしようとか思わないし、そうする理由もない」
名を呼ぶモルガナと大きな反応を示す双葉に青年、明智吾郎はそう返す。
彼はかつて好青年な探偵を演じ、怪盗団に近づき、本性を表して裏切った……連続精神暴走事件の実行犯。
かつての彼の行動原理は母を捨てた父への復讐であり、その父は現在、怪盗団の手によって改心を受けた後。
今更復讐の為に怪盗団を利用する意味はない、彼の言葉に嘘は無いだろうが……
「お前、警察に出頭したんじゃないのか。何でこんなとこに居るんだよ」
そう問い詰めたのはモルガナだ。
彼の言う通り……明智は警察に出頭し実行犯として全てを話すと語っていた。何故こんな場所に居るのか疑問を抱くのは当然だろう。
双葉も警戒心を隠さず明智に向けている。
「……正直なところ僕自身も聞きたいくらいだ。何故か分からないが、警察や冴さんの僕に対する態度や認知が突然書き換えられている様な……まあそれはいい」
「いいのかよ?」
「それよりだ。ある情報が入って、事態が急変してね。先ずはそっちの調査を優先する事になって、力を持っている僕が一時的に釈放され駆り出される事になったんだ。……お前にも、来てもらうぞ」
向けられる警戒を気にもしない様な態度、以前の様な胡散臭い優男の様な演技が無くなった声でそう語る。
普通、大事件の実行犯を力があるからといって簡単に釈放するだろうか。警察の態度が一変したらしい事は気になるが……
事態が急変――どういう事だろうか。嫌な予感がする。
鋭い目つきを向けてくる明智に視線を返し、
「何があったのか、話せ」
「――単刀直入に言おう。メメントスが復活している」
メメントスの復活――突然その口から放たれたにわかには信じ難い話にモルガナが反論する。
「悪神はワガハイ達が倒した。メメントスはその時、一緒に消滅したはずだ……やっぱお前なんか企んでんのか?」
「そ……そうやってどっかに連れ出して、わたしらに何かする気じゃないだろうな!?」
明智は呆れた様に溜息をつき、
「さっきの話、聞いてなかったのかい? もう君達に手を出す意味も理由もないし、わざわざメリットの無いことをするほど僕は馬鹿じゃないよ」
「ペラペラとよく喋る口だなコイツぅ……!」
この男の言動を怪しむ気持ちは分かるので自分も警戒は解いていないが、嘘をついている様にも見えない。
それに、もしメメントス復活の話が本当だとすれば……
もし本当なら、放置は危険かもしれない。
悩ましく考え込むモルガナ、双葉と目を合わせた後、明智へ答えを返す。
「わかった。確認しに行こう」
――――――――――
十二月二十五日 夜
渋谷駅前広場 地下鉄前
「――本当に……復活してんのか……」
「だから言ったろう?」
明智、モルガナ、双葉と渋谷駅地下鉄入口へと向かった。
人の出入りが少なくなったその場にいったん立ち止まりスマホを見てみると――消えていたはずのアプリ『イセカイナビ』が復活していたのだ。
更にメメントスにも入れそうな挙動を見せている……
悪神ヤルダバオトは確かに怪盗団の手で倒したはずだ。いったい何が起きているのだろうか。
「もし倒しきれていなかった……とかなら、どうする?」
「考えたくないが……もしそうなら放ってはおけねぇな」
明智とモルガナの言葉を聞き、選択する。
「メメントスへ潜入してみよう」
「あぁ、お前ならそう言ってくれると思ったぜ!」
モルガナと目を合わせ、明智と一瞬視線を交差させた後、イセカイナビを起動――メメントスと、名前を打ち込み……空間が歪んだ、それと同時だった。
「わっ!」
背後から足音も気配も無く、すぐ背中の真後ろまでいつの間にか近づいて来ていた少女の明るい声が聞こえた。
振り返った先に居たのは、学校の後輩――ポニーテールの少女、芳澤かすみだった。
いつから居たのか、無邪気に驚かそうとしていたらしい彼女と目が合い……そして。
「え?」
その場に居たはずの四人と一匹はメメントスの中へと姿を消した。