ペルソナ5R×無職転生 〜怪盗団と異世界からの来訪者〜 作:和井江一
「パパ。フタバに呼ばれたからちょっと行ってくる」
「あぁ。気を付けて行ってらっしゃい」
友達に呼ばれたみたいな言い方をしながら、『怪盗団』の双葉が召喚した球体のペルソナと一緒に大きく旋回しながら上空へ上がって行く我が娘ララ。
あの子の話では『ベルゼブブ』は双葉に対しての警戒心がほとんど無く、ララに対しても他のメンバーよりは警戒心が低いらしかった。
そして確かにあのシャドウは地上から突貫してくる『怪盗団』や地上の俺に対しての警戒心や敵意が強く、離れた位置を飛んでいく双葉とララには気付いていなかった。
ジョーカーは一瞬だけ視線を娘達に向けていた、気がついたのだろう。
そして少し離れた場所の建造物の上にララを降ろし配置した後、迎撃で落とされたジョーカーを助けに向かう双葉。
ララは混合魔術『ディープミスト』でシャドウの視界を妨害、その間に双葉がジョーカーを回収し濃霧に紛れながら背後へと回り込んで背中から杖へと手を伸ばし――
「頂いていく」
ジョーカーとの二人の協力でシルフィのイヤリングを盗る事に成功した。
俺の……『老ルーデウス』の心の影響を受けているシャドウ『ベルゼブブ』は怒りよりも悲しみの勝った声でシルフィの名を呼び叫んでいた。
胸が痛む。
「――『エレクトリック』」
杖を上空へ構え、放った電撃の魔術が『ベルゼブブ』を地上へと撃ち落とした。
―――――――――――
シルフィの前に落下していったシャドウ。
その周囲を囲う様に地上に居た者達で集まり、ララ、ジョーカー、双葉も戻ってきて合流する。
「ルーデウス」
「あぁ……ありがとう」
ジョーカーからシルフィの、青いイヤリングを受けとった。
そして目を向けると、シャドウの身体に変化が訪れる……
蠅の悪魔だった姿はボロボロと剥がれ落ち……その下からは、今より若い、酷くやつれた顔の『ルーデウス・グレイラット』の姿が現れ、両膝を地面に着き俯いていた。
そしてシルフィを磔にしていたモノも無くなり、彼女は眠ったまま地面の上に倒れ伏す。
「……」
シルフィの様子は、変わらない。
青いイヤリングを握りしめながら、シャドウへと声を掛ける。
「シルフィの死に苦しんでいたお前に……認知世界の人間を助ければ救えるだろうなんて、無神経で馬鹿な事を言ってすまなかった」
『それは、もういい……それより……頼む、頼む……シルフィを……これ以上、傷つけないでやってくれ……安らかに、眠らせてやってくれ……』
「分かってる。何もしないよ」
イヤリングを奪われたからだろうか……そのシャドウは先刻までの勢いを無くしてしまっている。
もう、戦う意志は感じられない……最初の、無神経な発言を詫びた。
そしてシャドウは弱々しくなってしまった雰囲気でこちらを見上げ、
『……お前は……まさか、俺か……ルーデウスか……?』
「…………え? え!?」
シャドウから向けられた衝撃的な発言にデカい声で驚いてしまった。
俺だと、ルーデウス・グレイラット自身だと気づいていなかったのか……マジか……。まあ、仕方ないか……すごく怒らせてしまったしな。
『その顔……ロキシーが死んだ日より、大人になっているのに……表情が死んでいない。まさか、上手く行った未来の、俺か?』
「……上手く行かないこともあったけど……俺の生きてる世界は、シルフィもロキシーも元気だよ」
その返答に続き、エリスも隣に並び立ち。
「私も居るわよ」
『……エリス……そうか……エリスとも、結婚したのか』
「あぁ」
『そうか……』
シャドウは全身が脱力したようにフッと微かに笑みを浮かべた。
「未来の俺が、時間を遡ってまで警告に来てくれたおかげだよ」
『……! 過去への転移に、成功していたのか……』
「あぁ。話し終わってすぐに、死んじまったけどな……」
それからシャドウはまた暗い表情へと変化しながら俯いて、
『――だが、今、俺は……このパレスの主は、過去への転移に失敗し、『統制神』とか抜かす奴に身体も心も囚われている。このまま放置していると、どんどん世界が変質して……過去に転移してお前を助けたという事実も、全て無かった事になるだろう』
「――っ!?」
『そうなれば。シルフィやロキシーが助かった現実も無くなって、お前が築き上げ来た記憶や経験は全て無に帰すはずだ』
そういう可能性は確かにずっと考えていた。
だが、いざ実際にそれを突きつけられると強い焦燥感が沸き起こる。
それだけは、嫌だ。ここまで積み上げてきたものが……全て、台無しになるなんて。
今の家族の、皆の平穏が、日常が、全て無かった事になってしまう……
そしてそうなれば、生まれてきたはずの子供達も、生まれて来ない事になってしまうのだ。
今、ここに居るララも……
「……そうならない為に、ここに来たんだよパパ。私達なら大丈夫」
「――そうだな。ララ」
自分自身の命運に関わる事態でもほとんど変わらない落ち着きを見せるララ……すごく頼もしい。
娘が自信満々にこう言ってるんだから、父である自分もしっかりしないとと思わせてくれる。
『……そうか、そのララという娘が……俺と、ロキシーの……』
「うん……未来から、来てくれたんだ。俺達の為に」
シャドウはララをジッと見ていた。
そしてこちらへ視線を戻し、泣きそうな顔になりながら声を震わせ、自嘲するように。
『……俺は、もう、ダメだ……誰も、救えなかった。最初のきっかけはヒトガミのせいだったが、その後は……俺の自業自得だった。その果てに今はヒトガミとは別の悪神に目を付けられてやがる、馬鹿みたいだ……』
「……」
『お前はちゃんと大事にしろ。今周りに居る人達を』
「そのつもりだ。最後まで大事にして、ちゃんと生きようと思ってる」
『パレスの主を、『ルーデウス』を、止めて解放してくれ。悪神を、倒してくれ……頼む……!』
「あぁ。必ずやってみせるよ」
俺に続き、ララとエリスも前に出てシャドウへ語りかける。
「……安心して、パパ。このパレスを生み出した要因のヤルダバオトは私達が止める。ヒトガミもいずれは、私が倒す」
『ララ……』
「私も付いてるわ。知らないルーデウスでも、私が助けて止めてみせる」
『エリス……ありがとう……』
それからシャドウは『怪盗団』――ジョーカーへと目を向け。
『俺が、こうして冷静に話せるようになったのも……お前達が俺の怒りの源を切り離してくれたおかげだ。礼を言うよ』
「あぁ」
『頼む……このパレスを、消滅させてくれ』
「任せろ。俺達の手で必ずやり遂げる」
その後、シャドウは真剣な目つきで俺を見てきた。そしてその口から、もう一つのシャドウの存在について聞かされる。
『――俺を止めただけじゃ、まだダメだ。このパレスの警戒度を大幅に上げている一番の要因は……ここから離れた場所の、歪みがデカいとこに居るシャドウ』
「え?」
『前世の俺のシャドウだ』
「前世の、俺……!?」
いや、居るのは、当然か……そもそもヤルダバオトが接触した一番最初の要因が前世の俺のシャドウなのだから。
だが、そいつが一番の警戒度を上げている要因とは……
『アイツは、異世界での人生も全て失い失敗に終わって、自暴自棄になり……完全に引きこもっちまっている。――都合よく改変した認知存在のロキシーと一緒にな』
「ロキシー……!?」
『そこにいる認知存在はロキシーだけじゃないぞ……。おそらく、対話するという意味なら前世の俺が一番厄介だ』
「……」
ロキシーは転生してからも変わらず怖くて外に出られなかった俺を、一番最初に外に連れ出してくれた人だ。
何よりも尊敬している、そんな人と一緒に引きこもるなんて……それだけでもかなり歪んでしまっているのが分かる。
『アイツは、このパレスの作り自体にも強い影響を与えている。攻略したければ先ず引きこもっている前世の俺のシャドウを説得しろ』
「……わかった」
そのシャドウはきっと前世の自分を、更に歪ませた様な状態だろう……我ながらどう説得すればいいのかすぐに答えが出て来ない。
「――安心しなさいルーデウス。いざとなれば私が引っ叩いてでも無理やり外へ引きずり出すわ」
「エリス……ありがとう。先ずは話したいから、加減してほしいけど」
しかし、エリスに叱られながら引っ張り出されるというのも案外悪くないかもしれない。
やってもらうにしてもどうしようもなくなった時の最終手段ではあるが。
『前世の俺のシャドウが居る場所は、『統制神』の干渉も強く受けている。奴等の戦力も配備されているはずだ、充分に気を付けて――』
シャドウが忠告を口にしている最中だった……突如、ララが空を見上げながら口を開いた。
「話は終わり。敵が来た」
「……!!」
敵――敵襲か
反射的に杖を構え上空へ目を向けると同時、背後から双葉の声が響き渡りモルガナの舌打ちが聞こえる。
「上から来るぞ! また天使の軍団だ!」
「チッ。悪神の配下どもめ……空気読めよ!」
見上げると確かに彼女の言葉通りだ――
翼を広げた天使の軍団がこちらを見下ろしていた。
そして、その中央に立つ周囲の個体よりも更に一回り大きな黄金の鋼の身体を持つ大天使が口を開いた。
『我が名はサンダルフォン。強力な手駒だった『ベルゼブブ』に余計な事をしてくれたな、怪盗団……そして異世界の者達よ。我々の邪魔をするな』
悪神の配下の天使達……話には聞いていたが、コイツらの事か。本当に出てくるタイミングが悪い。
しかも、邪魔をするなだと。
それは……
「――それは、俺達の台詞だ」
怪盗団リーダー、ジョーカーが前に出て先頭に立ち、恐れなど全く無いと言わんばかりの目つきと態度で言い返していた。
『生意気な。まあいい、元に戻せばいいだけの事……』
サンダルフォンがそう呟き、ララが微かに眉間に皺を寄せながら伝えてくる。
「あいつ、認知存在の白ママを殺す気だ。鎮まった怒りを再燃させようとしてる」
「――っ! そんな事、やらせるかよ!」
杖を握りしめ、即座に魔法を撃てる準備を始めたと同時。
先頭に立つジョーカーもまた、声に静かな怒りを宿らせながら……少女の形をしたペルソナを召喚した。
「アリス」
『――死んでくれる?』
少女の形をしたペルソナが小さくそう囁いた直後。
上空に居た十数体の天使のうち大半が断末魔の様な叫び声を上げ苦しみながら次々と地へ落ちて行く。
何かに襲われているような藻掻き苦しみ方だがあいつらには一体なにが見えているのだろうか……
少し頭が冷静になってしまう様なとんでもない光景だった。
だが『サンダルフォン』には効いていないらしい。
「ストーンキャノン!!」
冷えた頭で冷静に、頭部を狙い魔法を発動。石砲弾を放ち『サンダルフォン』の顔面に風穴を空け粉砕した。
――が、粉砕した顔面がすぐさま修復を始める。
回復魔法か。
適当に魔法撃つだけでは駄目な相手だ。
「厄介だな……」
顔が再生した『サンダルフォン』は、俺とジョーカーを見下ろした怒声を上げる。
『死神の力で我が部下を排除しただけでなく、私の顔を潰したのか! 貴様らはぁ! 人間ごときが舐めるなよ!!』
叫びながら、上空に複数の大剣が浮かび上がる光景が広がった……何だアレは、魔法なのか?
嫌な予感がする……
「気を付けろ、ルーデウス。あの大剣のを地上に全て降らせる気だ」
「くっ、やっぱそういう技かよ……!」
マズイ、あの大きさと量は……認知存在のシルフィを、守りきれるか?
『邪魔をした報いを受けよ!! 我は統制神様の配下最高位の――』
その時、『サンダルフォン』の怒声を妨害する、若い男のデカい声が割り込んで来た。
「ゴチャゴチャうっせぇんだよっ!!!! ぶっ飛ばせ、セイテンタイセイ!!!!」
デカい声と共に、『セイテンタイセイ』と呼ばれたモノと共にどこかから飛んできた男が真横から『サンダルフォン』を殴り飛ばし、建造物の壁に衝突するまで吹き飛ばした。
『ぐぉぉぉっッ!!?』
建造物の崩れる音が聞こえ、上空に浮かんでいた複数の大剣は発動を中断され消滅。
『サンダルフォン』が吹き飛ばされたことに怒った残りの天使達が魔法を行使しようとし――
「燃やせ! ヘカーテ!」
どこからか女の声がした。
発動する前に、全員が空中で炎に飲まれ墜落していく。
そして、ジョーカーの前に二人の姿が現れた。
一人は黒ずくめの服装に骸骨の仮面をした金髪の男。
もう一人は全身赤いボディスーツを着た猫の仮面のツインテールの女。
「待たせたなジョーカー! こっから俺達に任せろ!!」
「遅れてごめん、今から一緒に戦うよ!」
ジョーカーが、二人の名を呼んだ。
「やるぞ。スカル! パンサー!」