ペルソナ5R×無職転生 〜怪盗団と異世界からの来訪者〜 作:和井江一
綺麗な自然に囲まれた中世的な町並みに日本の穏やかな住宅街の静かな風景が同時に並ぶ、平和で歪な景色の中を歩いていた道中。
「パパは性格的に認知存在相手でも本物と喋ってるみたいに情緒ぐちゃぐちゃになっちゃうと思うから……。雰囲気に流されず冷静な判断を頼むよ、ジョーカー」
ララから小声でそう聞かされていた。
まだ会って半日も経っていないが、ルーデウスの中身は良くも悪くも普通の人間なのだというのは段々わかって来ている。
そして、ルーデウスは何かの屋敷の門前で立ちはだかる二人と相対する――どちらも、親しい人間の認知存在だったようだ。
名は『アイシャ』と『ザノバ』……どちらも引き下がる気は全くないらしい。
ララの言っていた通り彼は本物と話している様な気持ちになっているのは音色や表情から察せられた。
しかし無理もない、認知存在とはいえ敵対するなど簡単に冷静にはなれないだろう。
前に出て先頭に立ち、ルーデウスへ声を掛ける。
「無理はしなくていい。俺達に任せてくれ」
「……!」
その呼びかけに対しルーデウスは一瞬迷う表情を見せたが、すぐに意を決した顔に杖を握りしめ。
「いや……俺も戦おう。俺だけ逃げるわけにはいかないし」
「……アイシャもザノバも、私達の世界にちゃんと居るわよ。ルーデウス」
「……あぁ。そうだな、エリス」
エリスの声にも応え、ルーデウスの表情はマシになった様だ。
しかし、前方に佇む『アイシャ』は小さく溜息をつき――魔法を行使する。
『テンタラフー』
その名が聞こえた直後、全員の動きが一瞬止まり――一斉に脳内に異変が訪れた。
「うっ――!?」
心をぐちゃぐちゃに掻き乱されるような感覚。
ありもしない被害妄想や幻聴が脳内を埋め尽くすかの様に駆け巡ってくる……まずい。
このままでは脳が混乱しそうだ――完全に正気を奪われる前に、手を打つ。
「コウリュウ!」
ペルソナ『コウリュウ』を召喚、癒しの力が味方全体へと行き渡り精神の異常までもを治療した。
その光景に『アイシャ』は「む」と少し不機嫌そうな表情になりながら再度魔法を発動。
『メギド』
混乱しかけた状態から戻ったばかりで多くの者の反応が遅れてしまった。
広範囲に渡る閃光の爆裂が巻き起こり、進行を妨害してくる。威力はこれまでの強敵に比べればそこまででは無いが、厄介な魔法攻撃。
しかし、そんな爆裂の中を関係なく突き進む者が二人――竜司とエリスだ。
「そこどけってんだよぉ!!」
「通しなさい」
真っ直ぐダッシュし突っ込む竜司とエリスを――『ザノバ』が真正面から止めに入る。
『行かせはしません』
迫るエリスの鉄拳を手の平で受け止め、竜司の放った殴打が顔面にぶつかったにも関わらずビクともしない。
「硬すぎんだろ!?」
「……やっぱり効かないわね」
竜司は『ザノバ』の反撃により殴り飛ばされ苦鳴を上げながら地面を転がり、エリスは反撃を回避しながら後退する。
「スカル!!」
「心配すんなジョーカー、いってぇけどまだ戦える……」
痛みを堪えながら笑みで返す竜司。
まさか彼の攻撃を無傷で受け一撃でここまで吹き飛ばしてしまうとは……
立ち上がる竜司にルーデウスも「大丈夫か!?」と声を掛け、
「ザノバには魔法しか効かない、物理攻撃はまず通らないと思っていい、それに加えて怪力だ! 骨とか折れてないか!?」
「だ、大丈夫っす……俺も頑丈なんで……いてっ!」
「オイ、無茶はすんなよ」
「わかってるっつの、モナ。骨は折れてねぇから安心しろ……もう一発食らったら流石にヤバそうだけど」
――『ザノバ』も『アイシャ』も強敵だ。が、勝てない相手ではない。
『ザノバ』は身体は無敵かと思う様な頑丈さだが、動きの速さは普通くらいだった。魔法だけで攻めれば回避されずに倒せそうな気がする。
『アイシャ』は精神に異常を与える魔法と広範囲の攻撃魔法を使う、他にも複数使えるものがありそうだが……この人数差なら本気で攻めれば反撃をほとんど許す暇もなく倒せるだろう。
全員で一斉にかかれば勝てる。
……だが、それだけでいいのだろうか。
いくら認知存在とはいえ身内を傷だらけにされるのはルーデウスも見たくないだろう。
それに、話を聞いている限りルーデウスの前世のシャドウが最後の心の拠り所にしている存在だ……
説得しようとここまで来たのに、完全に倒してしまっては余計に事態が悪化してしまうだけではないだろうか。
ここでするべき判断は――認知存在の討伐ではない。
「奴等がこれ以上戦闘出来ないように、捕らえて拘束しよう」
他の怪盗団の仲間達も芳澤も同意の意思を示す。明智は何も言わないが合わせてくれるだろう。
そしてルーデウスも「そうか」と口を開き。
「倒さなくたって、動けないようにすれば……!」
そう呟きながら彼は杖を振るい魔法を放とうと構え、
「泥――∣」
「待って。泥沼は駄目」
「え、ララさん!?」
撃とうとした魔法を唐突に止められてルーデウスは驚いた顔をララへ向けると、。
「パパ、よく見て足元……。私達の立っている居る場所は整備された土の地面だけど、認知存在二人の立ってる場所からはアスファルトになってる」
「……!」
確かにそうだ。
中世的な地形と現代日本の地形が混ざった事によって出来上がっている景色……中世的な屋敷の門の前がアスファルトになっている。
「……よくアスファルトって名前知ってたなララ」
そこへ双葉が口を開き、
「ニホンに居た時に、珍しい地面だったからジョーカーに教えてもらった。――パパは、アスファルトの上に泥沼が作れると思う?」
「……作れずに失敗する可能性は否定出来ない……」
「失敗するだけならいいよ。泥沼がアスファルトの代わりに私達が立ってる地面の方で発動したりしたら大ピンチになる。あくまで可能性の話だけど」
「そうだな……やめておいた方がいいか」
ルーデウスはいったん杖を降ろして、その一部始終を見ていた『アイシャ』は「あーあ」と残念そうに溢し、
『バレちゃったか。ララちゃんだっけ、よく見てるね』
「見るのは得意」
「アイシャ、お前わかってそこに立ってたのか……」
『まあ私はお兄ちゃんの心から生まれた認知存在だからね。お兄ちゃんが知ってることを知ることくらい出来るよ』
彼女のここまでの言動に杏と祐介、モルガナと双葉がそれぞれ口を反応を示し。
「あの『アイシャ』って人、今までに見てきた認知存在となんか違う……」
「自分の存在が何なのかもしっかり把握していて、完全に自立して自分の意思で発言や行動しているようにすら見えてしまうな」
「それすらも『コイツならこうする』って認知から来てるかもしれないぜ。あまり惑わされない方がいい」
「それはそう。あくまで認知存在、そこ忘れるな! それにどっちも強いが私達が勝てない相手じゃない!」
……しかし、『アイシャ』はこの戦力差でもいまだ余裕の態度を崩さない。「躊躇して本気では来れないだろう」と考えているのかもしれないが、何か不気味だ。
何かをされる前に、動きを封じる。
一歩前に出て、『アイシャ』と『ザノバ』へ目を向ける。
『ジョーカーくんだっけ。何するの? まあ何でもいいけど……物理的な攻撃だと私傷ついちゃうし、とりあえず魔法でも撃ってみたら?』
「乗るなよジョーカー! 調べてみたけど二人とも『マカラカーン』に守られてるからな!」
『むぅ。ナビちゃんめ……』
魔法攻撃を反射するバリアか……そんなものまであらかじめ使っていたとは。しかも『怪盗団』のメンバーの名前まで既に把握している様だ。
だが、こちらは初めから魔法攻撃などするつもりはない。
ペルソナを召喚し、その名を呼ぶ
「ラウール、あの二人を眠らせろ」
『え――』
ペルソナ『ラウール』の力を発動。
漆黒が二人の認知存在を闇へと誘い、強制的な睡眠状態へと陥らせる。
『む……!』
『うぁ……っ』
認知存在二人は強烈な眠気に襲われ、膝を地面につき、意識を奪われ――る、その前に。
『ザノバ』が自らの指を数本へし折り、それを見たアイシャもアスファルトを全力で殴りつけ自らの手を血塗れにしながら痛みで無理矢理目を覚ました。
「なに……!?」
『危な……寝るとこだった』
『恐ろしい技ですな――』
自らを傷つけてまで、とんでもない覚悟だ……だが、
「隙が出来たわね」
エリスが剣を手放し膝をついたアイシャへと飛び掛かり捕まえた。
『エリス姉――!? ちょっと離して、痛い!』
「痛いほど力入れて掴んでないわよ! 私だってアンタはなるべく殴りたくないんだから、大人しくしてなさい」
『――ザノバさん!』
『はい――むっ!?』
次の瞬間、アイシャを助けに入ろうとしたザノバの全身に氷の棘がぶつかる――が、それは『マカラカーン』で跳ね返されララに返って来たものを杏が火炎魔法で溶かし防ぐ。
そして、本命は次の一撃。
「エレクトリック」
ルーデウスの放った電撃の魔術が『ザノバ』へと直撃。
苦鳴を漏らしながら再び膝をつき、動けなくなっていた。
『身体が痺れて、動けないようです……師匠』
「威力は抑えたけど……こうでもしないとお前は止められないだろ」
『相変わらず、人が良過ぎますな』
「……悪いな、ザノバ」
そしてルーデウスはアイシャにも申し訳なさそうに屈んで視線を合わせながら言葉を向ける。
「アイシャも、ごめんな。終わるまで動けない様に身体を拘束させてもらう」
『――離して! 『お兄ちゃん』にはもう私とザノバさんしか居ないの!』
「そんなこと……ないだろ」
『そんなことあるよ。二度目の人生にも失敗して『お兄ちゃん』に何が残ってるの? 前世の家族も裏切って、新しく出来た家族も裏切って、友達もナナホシさんも死なせて……何も残ってないよ?』
「お前達が……いや、そうか……現実の、そっちのお前達は、死んだんだもんな」
『そうだよ。お兄ちゃんはね、自分が誰にも許されないと思ってる。シルフィ姉もエリス姉もゼニスお母さんも私のお母さんもノルン姉もルーシーも裏切った自分を許さない。家族を大事にしてたお父さんも、家族を裏切った自分を許さない。クリフさんもエリナリーゼさんもギレーヌさんもルイジェルドさんも……今まで出会って来た人間達が、みんな、自分を許さないって思ってる』
「……そこまで、自分を追い詰めてるのか……」
『だから離して! 関わらないで! もう、可哀想でしょ!』
「……ごめんな。それでも、俺は行くよ」
『……っ!』
一人は身体が痺れ、もう一人はエリスに完全に抑えられて動けない。
これで、終わった……
「いや、まだここからだな」
「あぁ、中に入ってからが本番だぜジョーカー」
モルガナとそう言葉を交わした直後。
ララが見上げながら「あ」と口を開いた。
「赤ママ、避けて!」
「え?」
突如エリスに警告するララ――そのすぐ後に、門壁の上から一つの影が落下し、剣を振るった。
「クッ――!」
エリスは頬に微かに掠り傷を受けながらその場を離れ回避したが、新たに現れたその人物に『アイシャ』を奪い返されてしまった。
忍者の様な身のこなしで現れたその人物は、独特な色合いの衣装に身を包みパラボラアンテナの様な髪型をした剣士――その姿にルーデウスとエリスが反応を見せた。
「オーベール……!」
「コイツも居たのか!?」
取り返すため、一斉に戦闘態勢に入るが――
『メギド』
『アイシャ』がメギドを放ち場を撹乱する。その直後、『オーベール』と呼ばれた認知存在が煙幕弾をいくつも投げ視界を遮る。
何も見えない――
そして、気がついた時には既に、『オーベール』は音も立てずに門壁の上に立ち――その片手と背中には『アイシャ』と『ザノバ』が担がれていた。
『ありがと、オーベールさん』
「待て! なんでソイツも居るんだ!?」
呼びかけるルーデウスをアイシャは見下ろして。
『強いし話聞いてくれる認知存在だったから私が頼んで雇ったの。――邪魔は、させないからね』
それだけ告げた後、『オーベール』の足を狙った発砲音が鳴り響く……明智だ。が、既にその姿は消えていた。
「チッ。逃がしたか」
煙幕で視界を遮られている短い間で、まんまとやられてしまった。
「……アイシャ……ザノバ……」
ルーデウスは二人の名を小さく呼んだ後、顔を上げ先頭を歩き出し。
「……先へ行こう」