ペルソナ5R×無職転生 〜怪盗団と異世界からの来訪者〜 作:和井江一
十二月二十五日 夜
見覚えのありすぎる、薄暗い地下鉄に赤い血管が通った様な異様な景色。
大衆の集合的無意識が生み出していた『大衆のパレス』メメントス。
先日、消えたはずのこの場所が復活している……半信半疑だったのがこの光景を目の当たりにしてしまったら、事実を受け入れるしかない。
隣に立つ双葉へ目を向けて、自分達の姿もペルソナ使いに目覚めた者特有のコスチュームになっている事に気が付く。
モルガナは二頭身の姿になり、明智は黒い本性の姿……そして、
「あ、あの、ごめんなさい……先輩方。もしかして私、なにか余計なことしちゃった感じですか……?」
誰も気づかず接近されていた事により一緒に入って来てしまった芳澤もペルソナ使いの衣装に変化しており、小さくなった声で申し訳なさそうな顔をしていた。
「うん、しゃあない。若いのがあんなとこで集まってたら何か楽しい集まりだと思っちゃうよな……大丈夫、ドンマイ」
「双葉先輩……」
「先輩って双葉はお前と同い年だぞヨシザワ……」
落ち込んだ雰囲気の彼女に双葉が真っ先にフォローへと入る。人見知りが激しかった双葉も成長したものだ。
自分もフォローに入らなければ。
「そういう事もある、これくらい気にするな」
「皆さん優しいですね……!」
明智にも何か彼女に言ってやれと目でサインを送ったがわざとらしく視線を逸らし無視された。
まあ、いつものご飯をたくさん食べそうな明るい顔に戻ったので良しとしよう。
彼女が元気になったところで明智が芳澤へ視線を戻しながら口を開く。
「……芳澤さん、その格好……君もペルソナ使いだったのかい」
「あ、明智さん……ですよね? はい、以前雨宮先輩とモルガナ先輩に助けて貰った事があって……怪盗団ではないんですけど。もしかして明智さんも……」
「もう隠す必要もないね。僕も力は持っている……けど、同じく怪盗団ではないよ」
「そうだな。コイツは怪盗団じゃないどころか……」
「フタバ。今はやめとけややこしくなる」
明智のカミングアウトに続き双葉が何かを言いかけたがモルガナに止められる。
双葉にも色々言いたいことがあるのは当然だが、今は仕方ない。
「……あの、詳しい事は分かりませんが、私にも協力させてもらえませんか?」
「ヨシザワ……」
「雨宮先輩にも、まだこれまで受けた恩をまだ返しきれていません。少しでも力になりたいんです!」
「……確かにヨシザワは強力な戦力になるが……どうする、ジョーカー」
モルガナから問いかけられる。
芳澤から強い意志とやる気を感じる……まだ異世界に慣れていないだろう彼女を連れて行くのは確かに不安もあるが……
「お願いします、先輩」
ここで彼女を追い返してしまい、気持ちを無碍にしてはいけない気がする。
「わかった。かすみ、よろしく頼む」
――――――――――
芳澤の加入も決まり、エスカレーターに向かおうと足を進めようとしたその時。
双葉とモルガナが足を止め何か悩ましげにしている様子だった。
「どうした?」
「ジョーカー……わたしらが知ってるメメントスと、何か、違うんだ」
自分には目の前に地下へ続くエスカレーターがあるいつものメメントスの姿に見えるが……
双葉の言葉にモルガナが同意を示すように続ける。
「エスカレーターの先から感じる空気が全然違う……前みたいな色んな人間の意識が集まってる気配じゃねえ……コレは……」
前とは違う気配……どういう事だろうか…
そう疑問を抱いていると、隣から双葉の驚く声が聞こえた。
「ひぇ!? 何だコリャあ!?」
「どうしました!?」
驚きの声にビックリした芳澤に双葉はスマホを開き見せながら
「ぱっ、パレスがある……エスカレーターの先に……」
「――!?」
スマホを開きナビを起動する――
本当に、パレスの反応がある。
書かれている名前は知らない日本人――そして、その下に書かれているモノは、何だろうか。日本人の名前と一緒に何かの記号らしき列が書かれていた。
これがパレスの主の名前だろう……が、記号の意味は分からない。
「合言葉も入力しなくても入れるっぽい……今までと全然違う。コレどういう事なのモナ、パレスとメメントスが合体してんの? てか合体すんの?」
「状況的に考えればそうだが……ワガハイも聞いた事がないぜ、メメントスの中にパレスが出来てるなんて……」
「パレスの主の名前の下に書かれている記号列も謎だね……いや、記号じゃなくて何かの文字って可能性もあるか……」
双葉、モルガナ、明智のそれぞれの話を聞き、思案する。
今までにない未知の状況ということ。このまま奥に進むべきだろうか……それともいったん帰りもっと慎重に準備をしてから行くべきだろうか。
――せっかく、仲間達と数々の苦難や窮地を乗り越えて手に入れた平穏に、早くも影が差している。
少し時間を置いただけで事態は急激に悪化してしまうかもしれない。そんなのは御免だ。
「先へ進もう」
――――――――――
エスカレーターを降りた先に広がる光景に、圧倒される。
「何だコリャ……」
先程までのメメントスとは全く違う景色。
青空が広がり、草木のほとんど生えていない荒れた大地が広がっており地平線には緑の無い山々が見える。
「……何か、ここ……わたしのパレスに似てるな……」
「フタバのパレスの時は砂漠だったな、ここは砂じゃない荒野だが……」
果てまで広がる荒野……確かに一見は似ている気がするが、雰囲気が双葉のパレスとは、全然違う。
「……あと、もう一つ気になるのは……パレスってのは悪意や欲望が強く認知の歪んだ人間に出現する。だから大抵の場合欲望に塗れた外見の場所になるんだが……」
「一面に何もない荒野……モナの言うような悪意みたいなのは今のとこ感じられないな」
「何だか……淋しい雰囲気ですね……」
モルガナ、双葉に続き、芳澤がこの景色を見た率直な感想を述べる。
パレスが出来るということは何かしら強く歪んだ人間なのだろうが……
「……たまに生えている草木もよく観察すると見たことない種類のモノばかりだね。草花の外見がおかしくなるくらい認知が歪んでいるのか、単に僕達が知らない種類のモノなのか……」
明智の発言を聞き、たまにポツンと生えている草花を確認してみる……確かに、見たことのない形のモノだ。
「――! みんな、気をつけろ、前方からシャドウっぽい気配!」
「!!」
双葉――ナビの声に反応し、即座に足を止める。
その直後、前方から一体の人型の黒い影が苦しげに全身を引きずるようにして接近してきて……目の前で止まった。
そしてのっぺらぼうの様な顔面を上げながらこちらへ向け、うめき声の様なモノを発し……そして。
「△■□■□●●▽■■」
「え……な、何ですか? すみません、もう一度……」
何かの言葉を発した気がしたが、聞き取れなかった。
芳澤はシャドウ相手にも丁寧に聞き返し――
「■■□……あぁ、そうか……お前達は、日本人か……日本語じゃないと……通じないか……」
「はい……?」
はっきりと、言葉が分かるようになった。今のはどこの言語なのだろうか。
「お前は何者だ」
その質問は無視され、シャドウはこちらへ質問を返してきた。
「……ヒトガミを知ってるか」
「…………」
ヒトガミ。
聞いたことない言葉だ。
どういう意味の言葉なのだろうか……どう答えるのが正解だろうか。
知らないと、正直に答えていい質問なのか。
思考を回し、暫しの時間が経過して……数秒後。
シャドウの態度が一変し、憎しみを込めた様な声を発し黒い姿が激しく膨れ上がった。
「答えに詰まったな……やはりヒトガミの、手先か……!」
「はぁ!?」
「待ってください、ヒトガミって何です……!?」
静かだった気配から一変、いきなりの変化に戸惑いを隠せない双葉と芳澤。
「駄目だ、コイツはもう話通じねえ、来るぞ!」
「あぁ」
モルガナの声に応え、無言で口元を笑いに歪めながら剣を抜く明智と共に戦闘態勢に入る。
膨れ上がったシャドウが現した姿――それは漆黒のジャックフロスト……否、ジャアクフロストだった。
「来るぞ、デカい氷結魔法だ!」
双葉の全員に呼びかける声が聞こえる。
シャドウの真の姿――ジャアクフロストを中心に一帯へ広がる程の強大な氷結の波が放たれる。
「キングフロスト」
ペルソナ『キングフロスト』を召喚、出来る限り最大限の冷気の嵐を巻き起こし氷結の波で押し返し相殺。
「よくやったジョーカー!」
相殺された冷気が舞う中、モルガナがペルソナ『メリクリウス』を召喚。
「威を示せ、メリクリウス!」
疾風の一撃を放ちジャアクフロストの全身を呑み込み吹き飛ばす。
「ヒーホーッ!!」
――が、まだ倒れていない。
悲鳴と同時に反撃とばかりに放たれた氷結の波が五人を巻き込むように呑み込み……
「鬱陶しいんだよ雑魚がぁッ!」
戦闘になり本性を剥き出しにした凶悪な笑顔を浮かべた明智が殺意を籠めた声で叫びながら反撃。
膨大なエネルギーから放たれる白い光の爆発がジャアクフロストの身体を焼いていき、氷結の波の威力が弱まり霧散した。
「色々ヤバいけどナイスだクロウ!」
双葉はドン引きしつつも明智へ感謝を向けた後、芳澤へ指示を出す。
「今なら隙だらけだ!」
「はい!」
芳澤はレイピアを抜き、新体操で身についた凄まじい身のこなしで舞いながらジャアクフロストを両断。
シャドウは黒い液体の様に溶け、消滅していった。
「やりました先輩!」
「よくやった」
トドメを刺してくれた芳澤を労い、仲間達の怪我の有無を確認しようとした直後。
モルガナと双葉が背後を振り返りながら警告する。
「まだ終わってない、新しいのが来るぜ!」
「さっきのと同じくらい強いぞ!」
「……!」
先程のジャアクフロストもこちらも始めから全力で挑んだから時間を掛けずに倒せたが、こんな間隔の短いペースで同じような強敵と遭遇するのは不味い。
すぐに力が底を尽きてしまう。
次のペルソナを召喚する準備をしながら先頭に立ち、姿を現した巨大なシャドウと相対する。
目の前に佇むのは黄金の車輪、緑の巨体に大量の触手、大きく開かれた口――そして。
どう見てもアレを模したとしか思えない凶悪な頭部を持った悪魔……マーラである。
「きゃあああぁぁぁっ!!?」
芳澤の本気の悲鳴が聞こえた。