ペルソナ5R×無職転生 〜怪盗団と異世界からの来訪者〜 作:和井江一
「ジョーカー! 早くやっつけて! 時間かけてまた敵が増えたらヤバい! あとなるべくソイツ見たくない!」
「あぁ」
双葉の声に応え前に出る。眼前にそびえ立つ姿は凶悪なシャドウ、マーラ。
なるべく消耗はしたくないが、時間をかけるわけにもいかない。
「ザオウゴンゲン」
ペルソナ『ザオウゴンゲン』を召喚。神のごとき威力の一手を、緑の胴体を上から押し潰すように振り降ろし車輪の片側ごと砕いた――が。
「う――!」
負けじと放たれた頭部の突きが衝突し、凄まじい衝撃に身体を背後まで突き飛ばされた。
「ジョーカー!」
「先輩!」
双葉のペルソナ能力による治癒、そして芳澤に受け止められた事で思った程のダメージは受けなかった。
感謝を伝え立ち上がるとマーラに同時攻撃をかける明智とモルガナの姿が見える。
「ハハハハハハ! 血祭りだぁ!」
とても味方と思えない表情と台詞で触手を切断していく明智に続き、モルガナのペルソナがマーラの頭部に一撃の鉄拳を叩き込み、奇声を発しながら地面へ倒れ込む。
「やったぜ!」
「今だ、みんな一斉攻撃でトドメを刺すぞ!」
双葉の掛け声と同時に、明智、モルガナ、芳澤と共に四方から一斉に飛びかかる。
車輪を破壊し、触手を全て切り落とし、そして頭部へ斬りかかろうとした直後。
「ま、待て、ワシはもうポッキリと折れた、降参じゃ……!」
文字通り頭部が折れ曲がりながら命乞いをしてきた。
全員で銃を向け警戒しながら話を聞く事にした。
「お前らの目的は何じゃ? まさかワシの身体では無いだろう?」
「いや当たり前だろ」
「ではなんじゃ?」
モルガナがツッコむ。
「見た目の割に意外とお話出来そうですね」
芳澤の言う通り比較的理性的に感じる。会話はちゃんと出来そうだ。
何を聞こうか。
「……パレスって事はどこかに建物か人工物らしきものはあるはずだよ。どこかに無いか聞いてみればどうだい」
「そうだな、私のパレスの時も砂漠だけじゃなくてピラミッドや小さい町があったし……荒地ばっかじゃ手がかりすら無いしな」
明智と双葉の提案に乗り、聞いてみよう。
「この近くに建物や人工物は無いか」
「ふむ……真っ直ぐ進んでいけば村がある。麦畑がたくさん広がる美しい場所……だった。今はほとんど何も無い跡地になっておるぞ」
「村があると思ったら、もう既に廃墟って事かよ……ろくな情報得られなさそうだな……」
モルガナが惜しげに呟く。
……村まで廃墟とはこのパレス主には一体何があったのか――
だが、話はまだそこで終わらなかった。
「――跡地の中に一軒だけ民家は残っておる。ワシが話せるのはここまでじゃ」
――――――――――
シャドウとの会話を終え、五人は荒野を歩いて行く。
ほとんど変わらない景色の中を歩き続けて十分――ボロボロの木の看板がポツンと立っているのが見えた。
「看板に書かれているのは何でしょうか?」
「何かの文字……か? わかんねぇな」
看板に書かれている何か。全く読み取れないが、初めての人工物……意味もなく立っているものではないだろう。
「あ、見てみろ! 看板の裏! 日本語だ!」
「!」
双葉が気づいた看板の裏を覗いて見た……『ブエナ村』と書かれている。
「聞いたことのない名前の村だね……どこか外国にでもあるのかな」
確かに外国の村という可能性はある。だが、パレスの主の名前は日本人だった……知らない文字らしきモノも並んでいたが。どういう事だろうか。
「村の中へ入ろう」
看板を通り抜け、周りにシャドウの気配が無いか警戒しながら進んで行き――やがて村の跡地らしき場所へと足を踏み入れた。
「……麦畑が広がってたって、言ってましたよね」
「あぁ、どうやらここがその村の廃墟って事らしい」
左右に広大に広がる、畑があったろう枯れ果てた土地。木々や山も緑一つ無い枯れた姿になっており、ほとんど姿が残っていない民家の廃墟がポツポツと建っているだけだった。
「……ここ……本当に、ただのパレスか? 自分の欲望のままに都合よく考えて生きてる奴の中なら、わざわざこんな悲しい姿にするなんて私には思えない……」
「どうだかね。この村に恨みがあって滅んで欲しいと思ってる人間がこういう姿を望んでいるのかもしれないよ」
明智の予想もあり得る話ではあるが……個人的には双葉の意見の方に同意だ。
この廃墟からは、そういった悪意を感じられない気がする。
シャドウから聞いた話なら、一軒廃墟化していない民家が建っているという。
それを探してみよう。
「なあ、あれじゃないか?」
廃墟の中を進んで行き暫くした頃、モルガナが手を指す方向に目を向けるとそこには一軒の無事な民家が見えてきた。
その風貌は日本のありふれた一般家屋といった雰囲気で特に外観に特別感は無いが……その普通さが周囲の風景と合わさることによりかえって異様さを際立たせている。
「行ってみよう」
日本らしくない殺風景な荒地の中に一つだけポツンと建つ日本家屋というその光景はかなり異様だ。
一歩一歩近づいて行き、庭があったらしい跡地へと入って、玄関の前で一斉に立ち止まる。
近くで見てもやはり普通の家としか思えないが。
「中から……今のところ、ヤバい気配は感じない。入ってみるか? ジョーカー」
そう発言する双葉に首肯し、ドアノブに手をかけて回し扉を開く。
靴が一足分だけ置かれた玄関。屋内は薄暗いがよくある一般家庭といった雰囲気で特に変わったところは見当たらない。
丁寧に靴を脱ごうとしていた芳澤を制止してから土足のまま上がり薄暗い廊下を歩いて行く。
左右に並ぶ扉はどれも鍵が閉まっていて開く気配は無い。
「チッ……どうする? 木製の扉だし壊せそうだけど」
「やめとけアケチ。無駄に破壊してどんな影響があるか分からんだろ」
「冗談だよ」
本当に冗談なのかどうか分からない発言に芳澤が引いた顔で明智を見ている。先刻、戦いが終わった後も同じような顔をしていた、明智は微塵も気にしていないようたが。
見て回った結果、一階はどの部屋も開ける事ができなかった。
成果はなく階段を上がり二階へ移動する。
「二階からもシャドウらしい気配は無いな」
モルガナの言葉を聞きながらミシミシと鳴る階段を上がっていき二階へと到達する。
二階も同じく日本の一般家庭といった風貌だ……そしてまたも扉の鍵はどれも閉められていて――
「入った時から思ってたけど、この家なんか息苦しい……」
双葉が少し元気が無くなった声でそう溢すのが聞こえた。
「大丈夫か?」
「ん、大丈夫だジョーカー……身体の調子が悪いわけじゃない、けど……気分的にな」
彼女の言いたいことは何となく理解できる。
生活音一つしない薄暗い屋内に徹底的に鍵を閉められている扉の数々……強い閉塞感を感じるのだ。
このまま二階でも何の収穫もなく終わるのだろうかと思った、その時だった。
「あれ、ここの扉は空きますよ」
芳澤の声とドアノブを回す音が聞こえた。
「ナイスだ芳澤!」
「えへへ」
彼女が発見した扉の前に集まり、唯一開いたその部屋へ足を踏み入れる。
「チッ、汚いなクソ」
明智の口汚い台詞が放たれる。
しかし部屋の中は……正直確かに汚い。
誰かが生活していた痕跡は強く残っているが、長い間掃除されていない感じで色々なモノが散乱している。
中を見回していると「おっ」と何かを発見した双葉が躊躇なく部屋の中へと入り駆け出した。
向かった先にあるのは……
「パソコンか」
「その通り。パソコンの中身は個人情報の塊だ。開けばパレス主の事が分かるかも……いひひひ」
双葉はパソコンを起動させようとした――が、
「ありゃ? ん? あれぇ……?」
一向にパソコンは起動しないようだった。モルガナと明智も隣に並び、
「おい、まさか壊れてんのか?」
「いや、モナ……壊れてはないっぽい、んだけど……何か電源が付かん」
「壊れてないのに電源が付かない……どういう事だい?」
「私にも分からん!」
私にも分からんか……なら仕方ないか。
「パレスの主が絶対に見られたくないモンがパソコンの中にあるのかもしれないな」
「そうだなモナ……いや、パレスの主本人が思い出したくないモンって可能性もあるか」
確かに、本人の思考や精神、本音を元につくられているであろうパレス内でも徹底的にパソコンの中身を隠す……見られたくないモノというよりは思い出したくないモノの可能性が高いかもしれない。
「収穫は大して無かったな……でも仕方ねえ、出るか」
「……そろそろ時間的にもいったん元の世界に帰った方がいいかもしれませんね」
「あぁ」
ガッカリした様子のモルガナとスマホで時間を確認する芳澤に答えながら、仲間達を連れ部屋を出ることにする。
ここまで来てパレスの主についてわかった事はほとんど無い。
結局、何者で、何故パレスが出来たのだろうか……
そう考えながら部屋の外へと、足を踏み出したその直後――
景色が、一変した。
「――――!?」
全員が驚きに言葉を失い、足を止める。
さっきまで、部屋の外は普通の日本家屋の廊下だったはずだ。
そうだったはずなのに、部屋から出た瞬間、全く見覚えの無い光景が眼前に広がっている。
「こ、これは……!?」
場所は廊下でなく食卓の並ぶ一室。さっきまでと違い屋内の雰囲気は中世の外国といった雰囲気に様変わりし……閉塞感は消え、温かな空気感の中で食事をする外国人らしき風貌の六人の姿があった。
茶髪と金髪の大人の男女。茶髪の少年。赤髪のメイド服の女。そして二人の幼児。
おそらく家族だろうか。
「ど、どういう事? 日本なの? 外国なの? どっち!? どうなの!?」
「さっきの引きこもりみたいな部屋との繋がりが全くわかんねぇ……何で部屋出たらこうなるんだ!?」
混乱する双葉とモルガナ。
そんな中、変わらずクールな顔のままな明智が口を開き、
「わからないなら接触してみればいいだろう。それとも攻撃してみる?」
「明智さん!?」
その提案に驚く芳澤。しかし、確かにそれはその通りだ。
接触するべく家族の元へと歩み寄り……
「待ってくださいジョーカー先輩、まさか本当に攻撃するんですか!?」
「……安心しろ、攻撃はしない。話しかけるだけだ」
「あ、そうですか。そうですよね。よかったです」
自分の答えに安堵した彼女から目を離し、食卓に向かって近づいていく。
そして、話しかけようとした――その瞬間。
視界の一面が、一瞬、強い光に包まれた。
「――――!?」
反射的に目を閉じる。
「キャッ!?」
「なんだ!?」
背後から皆の声もする、全員の視界が同様に強い光に包まれたらしい。
それからゆっくりと、瞼を開け……
また、周囲の景色が一変していた。
「は……?」
次の景色は民家の中ですらない……一面薄暗く、広くなっていて、何かの遺跡の様な姿に移り変わっており――
「ジョーカー、下がれ!」
「っ!」
モルガナの声に従い仲間達のいる場所まで後退する。そして、眼前に見える巨大な何かの塊……それが、蠢き始めた。
「な、何ですか!?」
蠢き始めたそれはその正体を現す。
九つの頭部、薄緑色の鱗――巨大な胴体を持つ、竜だった。
「……まるで、神話にでも出てくるヒュドラの様だね」
そんな明智の声が聞こえ、双葉が全員に向けて叫ぶ。
「みんな気をつけろ、アイツたぶん、めちゃくちゃ強いぞ!」
九つの頭部が一斉に雄叫びを上げ、襲いかかってきた。