ペルソナ5R×無職転生 〜怪盗団と異世界からの来訪者〜 作:和井江一
荒れ狂うように蠢きながら眼前から襲い来る九本の竜頭。
一度でも食いつかれれば人体など容易く破壊してしまいそうだ大口を開け――
「スピードアップ!」
双葉のペルソナ能力により全員の身体能力の速度が上昇、先ずは迫りくる竜牙の回避に徹する。
「チッ!」
「ワガハイが回復する!」
竜頭が掠ったらしい明智の肩が僅かに抉れ出血し、モルガナが回復に向かっていた。掠っただけで、あのダメージか。
「大丈夫か」
「人の心配してる暇あるなら前見ろジョーカー!」
突撃してくる竜牙をワイヤーを壁の窪みに引っ掛け跳躍しながら回避して着地。
巨竜――明智曰くヒュドラの動きが止まったその隙をつき、芳澤と並びながら反撃する。
「ウォフ・マナフ」
「サンドリヨン!」
二体のペルソナが並び同じ光の力を纏った魔法を広範囲へ向けて同時に放つ。
計九本の竜頭へと一斉に直撃――
「……!?」
「嘘っ!?」
しなかった。
『キィィィン』という音と同時に、ヒュドラの前で魔法が掻き消えてしまった。
効かないのか。
「駄目みたい! 他の攻撃も試してみて!」
「ワガハイたちに任せろ!」
「メギドラオン!!」
明智とモルガナがそれぞれペルソナを召喚し魔法を放つ。
強烈な閃光を纏った魔法と突風による魔法攻撃をヒュドラに向かって放つ。
しかしそれらもまた同様に――
『キィィィン』
「またかよクソがっ!」
「駄目だわ効かねえ!」
同じように防がれ、魔法が消滅してしまった。
ペルソナを入れ替える――次に召喚するのは、
「オーディン」
新たに顕現したペルソナ『オーディン』から放たれる、絶大な威力を持った雷撃がヒュドラへと容赦なくふりかかる――が。
『キィィィン』
結果は同じだった。
手持ちのペルソナで最高クラスの威力を持つ雷撃すらも完全に掻き消されてしまった。
「駄目だ、尽く消される、コイツ魔法そのものが効かないのかも!」
「なら次は接近戦だ、いいなジョーカー、クロウ!」
「あぁ」
「指図されるまでもない!」
「先輩達、私も援護します!」
武器を構えたモルガナ、明智と共にナイフを抜き出しながら前線に立ち、芳澤も背後から共に敵へと接近していく。
首が太く外見からして硬そうだ、一人だけで一本の首を落とすのは無理だろう。
四人で一斉に攻撃し、一本ずつ切り落とす。
「よし!」
竜頭を回避しながらモルガナと同時に首を切りつけ、半分まで切断に成功。
「物理は効いたぞ! ヨシザワ、クロウ!」
「はい!」
芳澤が回転を加えた斬撃で更に首を斬り込んでいき――最後のトドメの一撃が明智の赤い刃から放たれる。
「ヒャハハハハァッ!!」
凶悪な笑い声と共に振るわれた斬撃、ヒュドラの首の一本が完全に両断され地の上に落ちる。
「よし、一本落ちた! 残り八本だぞみんな!」
双葉のサポートの元、先程と同様に先ずは回避に徹する。
そして巨竜の動きが一時的に緩んだタイミングを見計らい、一本の首を狙う。
「合わせろ!」
掛け声に合わせ四人の刃が四方からヒュドラの首へと一斉に斬りかかる。
切断された二本目の首が地へと落ちた。
「今のとこ順調だな!」
「この調子ならいけそうですね……!」
モルガナと芳澤の言葉に首肯し、三本目を狙おうと再びナイフを構え、再開したヒュドラからの攻撃の回避に徹し――その最中だった。
「ヤバい! 一本目の首が――!」
双葉の声が聞こえ、巨竜の一本目の首へと目を向け――その光景に目を疑った。
頭部の無くなった首だけの部分が再び動き始めただけでなく、傷口がボコボコと蠢いて、次の瞬間。
「再生した!?」
一斉攻撃で切り落としたはずの頭部が、再生してしまった。
そして復活した頭部が首ごと鞭の様に振るわれる――他の首の攻撃を避けている最中の無防備な芳澤とモルガナを目掛けて。
「危ない!」
反射的に芳澤とモルガナの盾になるように前に出て全身で受け止めた。
「ぐぅぅっ!」
物理耐性が高いペルソナへと即座に切り替え、苦鳴を漏らしながら耐えた、が――その勢いを殺し切れず弾き飛ばされてしまう。
「先輩!」
地面の上を受け身を取りながら転がる。
大きな怪我は無いが、強烈な衝撃に脳が揺れて吐きそうだ、身体が言う事を聞かない。
「ジョーカー!」
遠くまで吹き飛ばされた姿を見て双葉がこちらへ目を向けてしまう。
そしていつの間にか復活していた、切り落とした二本目の首。その頭部が大口を開けながら迫り――
「何やってんだッ!!」
その双葉を助けに入り、剣を大口へ縦向きに挟まさせ牙を留めながら割り込んだのは明智だった。しかし完全には防ぎ切れず肩や腕を削がれ出血している。
「クロウ!?」
「お前の役目は全体の戦況を把握することだろうが!! 余所見すんな!!」
怒声を上げながら攻撃をギリギリで受け止める彼に続き、芳澤とモルガナが助けに入り首を深く切りつけた。
首を半分以上削がれ顎の力が弱くなった口から剣を抜き取り、明智も叫びながら反撃――残った部位を完全に切り落とした。
「――ごめん、ありがとう! 次、すぐ前から二本突撃して来るよ!」
態勢を立て直した双葉が次の相手の動きを伝える。
既に全員の疲労が色濃くなってきた。
いつまでもダウンなどしていられない、自分がやらならければ。
立ち上がり、仲間達に迫る巨竜の首に狙いを定め駆け抜け接近する。
「ジークフリード」
ペルソナを召喚、全力を籠めた特大の斬撃が巨竜の首を横から深く抉り一閃の元に斬り落とす。
「ジョーカー、一撃でやりやがった!」
更に続けてもう一閃。特大の斬撃を振り抜き仲間に牙を向ける巨竜の首二本目を斬り飛ばした。
――二撃目を放った直後、身体にドッと強い疲労感と倦怠感が伸し掛かる。これ以上の連発は出来ない。
ヒュドラからの攻撃は一時的に止んだようだ、が……直ぐ再生しまた攻撃が始まるだろう。
この間に負傷者を治療し、態勢を立て直して――
「何だ、さっきまでと動きが違うぞ?」
モルガナが何かに気づく。
その視線を辿った先……ヒュドラの残った頭部の内三体が大口を開き、口内に閃光が走るのが見え、その直後。
三体の口から広範囲、大規模に燃え広がる火炎の息吹が放射された。
「――っ!!」
「私がみんなを守る!! 後ろに固まって!!」
意を決した表情で前に出た双葉がペルソナ『プロメテウス』を召喚。
一方でヒュドラの放った息吹が広範囲に広がりながら眼前に迫る。
「ファイナルガード!」
高熱を孕んだ火炎を真正面からペルソナで受け止め、押し寄せる息吹を防ぎ掻き消した。
「よっしゃぁ――ぁぅぅ……っ」
成功し喜びの声を上げようとした双葉だが、ペルソナの姿が消え全身の力が抜けたように膝から崩れ落ちてしまった。
彼女の元へと駆け寄り、
「大丈夫か!?」
「大丈夫……と、言いたいとこだけど……次来たらヤバいかも……」
――息が荒く顔色も少し悪い。
一時的に攻撃は止んだが先刻斬り落とした首は三つともまた再生を始めていた。
一方的にこちらが消耗するだけだ、埒が明かない。
「ジョーカー……ワガハイ達だけじゃ、アイツには勝てないかもしれん……」
モルガナの意見に同意だ。明智も舌打ちしたそうな目をしているが文句を言ってこないので同じ考えなのだろう。
「これ以上の戦いはやめよう。退却する」
「あぁ。懸命な判断だぜ」
だが、どうする。
周りに扉や階段など別の部屋に移動出来そうなモノが無い。四方全て壁に囲まれている。どうすれば……
「きゃっ!」
背後から芳澤の驚いた様な声がした。反射的に振り返ると視線の先にはビックリしたようなポーズを取った芳澤の目の前の床に、先程までなかった光る魔法陣の様なモノが出現していた。
「どうした?」
「脱出出来そうな場所を探そうとして歩いてたら、目の前に……」
そう答えながら目の前の魔法陣を指差す。
これは何なのだろうか、と思案するより先に。
「少しどいてくれ」
そう言いながら明智も近づいてきて、地面に落ちている瓦礫を魔法陣の中へと投げ込む――すると。
瓦礫の姿が、消えた。
「なるほど。転移装置みたいなモノかもしれないね……おそらく、だけど」
「……ただ消えただけって、可能性もあるんですか」
明智の推測の後に芳澤が恐ろしい可能性を口にする。
どこかに転移したのならいいが、存在そのものが消滅したのだとすればそんなに恐ろしい事は無い。
『サードアイ』を使用してみる。
すると、パレスで隠し通路などを発見した時と同じ反応を示していた。
大丈夫そうだと伝えようとしたその直後。
「ヤバい、動き始めるぞ!」
モルガナの声を聞き、振り返る。ヒュドラの首が再び戦闘態勢に入り、攻撃の意思を見せてきた。
皆をこれ以上危険には晒せない、全員に指示を出す。
「魔法陣はおそらく安全だ、飛び移るぞ!」
「はい!」
「よし、全員撤退〜!」
復活した頭部も合わせて背後から迫る巨竜の牙から逃げる仲間を庇う様に魔法を撃って反撃。
消滅してしまうが、その間は動きが止まるので時間稼ぎにはなる。
次々と仲間達が魔法陣へ飛び込んで行き、後は芳澤だけになったタイミングで――
「うっ!」
巨竜の首を一本止めきれなかった、脚を噛みつかれ動き止められてしまい……
「先輩を離しなさい!」
おそらく咄嗟の行動だったのだろう、芳澤が巨竜の口内に光の魔法を撃ち込んだ。すると、
「――――ッ!」
口内への魔法攻撃は効いたらしい。驚いた様に頭部が後退していく。
「行きましょう!」
「ありがとう」
脚を負傷し上手く動けない身体を彼女に支えられながら、再び迫る巨竜の攻撃から逃げ――魔法陣へと二人同時に飛び込んだ。
――――――――――
負傷した脚がズキズキと痛む。
魔法陣に飛び移り、転移した先にあったのは最初に訪れたあの廃虚の村……『ブエナ村』だった。
更に日本家屋のあったはずの場所には、もう何も残されていなかった。
「脚の傷は塞いだぞ、ジョーカー」
「ありがとう」
モルガナのペルソナによる回復魔法で脚の出血は止まり傷も塞がれた。
目の前には負傷した明智が胡座で座っており、そちらは芳澤が回復している。
「もう他に怪我は無いか?」
「あぁ、大丈夫だ」
心配そうに肩に手を起きながら双葉が確認してくる。
身体の疲労はまだ残っているがそちらは休めば回復するだろう。
「――結局何だったんだろうね、このパレスは」
疲労の濃い声で明智がそう零した、その直後だった。
「……あれ、何ですか?」
芳澤が遠くの空に向かって何かを指差していた。
その方向へ視線を向けると、地平線の向こう側……遠い上空から、光の奔流が地面に向かって落ちてくる光景が目に入る。
「何だ――」
そう双葉の呟く声が耳に入り、光が地に到達したその瞬間。
「え?」
何か言葉を発する暇もなく、視界は真っ白な閃光に包まれ――――
――――――――――
気づけば意識は深い闇の中へと入っていた。
ぼんやりとしていた中、段々と意識がハッキリしてきて――老人の声が、した。
「ようこそ。我がベルベットルームへ」
いつの間にか寝ていたベッドから起き上がり、声のした方向へ視線を向けながら立ち上がり――扉の開いた牢から出て中央のテーブルに居る二人の元へと歩み寄る。
「ふふふ。またお会いしましたな」
長い鼻と血走った様な目に紳士的な態度が特徴的な老人イゴールと、金髪と青いワンピースの小柄な少女ラヴェンツァから迎え入れられる。
ラヴェンツァと目が合い穏やかな笑みを向けてきた後、真剣な眼差しへと移り変わって。
「……ヤルダバオトは打倒しました。しかし……まだその力を完全には消滅させられていなかった。あの悪神は『異世界』に転生したシャドウを持つ魂を利用し、まだ生き延びています」
……再会していきなり浴びせられた情報の波。流石に一回聞いただけでは整理しきれない。
「何が起きているのか、詳しく教えてくれ」
「はい、ご説明しましょう……その前に」
そう言葉を区切りながら、ラヴェンツァが振り向いた場所に自分も視線を向ける。
すると、ベルベットルーム内に見覚えない青い髪の少女が一人居ることに気が付いた。
更にその少女が枕にしているのはよく見ると白い大きなクッションではなく白い大きな犬だった。
「……あの女の子と犬は?」
「彼女は『異世界の悪神』を打倒するべく運命にある『六面世界』の救世主。ララ・グレイラットです」
ララ・グレイラット。そう呼ばれた少女と目が合う。
彼女は壮大そうな紹介の割に何を考えているのか分からないボーッとした表情で、こちらに親指を立ててきた。