ペルソナ5R×無職転生 〜怪盗団と異世界からの来訪者〜 作:和井江一
『六面世界』
魔法都市シャリーア
グレイラット邸
……俺、ルーデウス・グレイラットは重い気持ちのまま目を覚ました。
前世の日本での、どうしようもないクズだった頃の夢を見た。
両親の死を聞いても大して悲しまず、葬儀にも出ず、兄貴を本気で怒らせ、悲しませ、完全に見限られただろうあの時のことを。
「ふぅ……」
時間が経過するほどに、異世界で様々な経験を積むほどに、痛みを増すとは皮肉なものだ。
……いかんな、ネガティブ気分はいったんここまでにしよう。
前世で強く後悔したからこそ全力で生きようと、必死になって積み上げてきたのが今じゃないか。
午後からオルステッドにも呼ばれているし、今日も一日本気で生きなければならないのだ。
「よし、今日も頑張ろう」
妹アイシャの元気な声が聞こえてきて、起床する。
朝起きて真っ先に心配そうに顔を覗いてくるシルフィ、そしてロキシー、エリスと愛する妻達に朝の挨拶を交わし、目に入れても痛くない世界一可愛い六人の子供達の姿を見守りながら朝食を食べ、母ゼニスにはいつもよりも長く話しかけ、もう一人の母リーリャの朝食の片付けを手伝った。
結婚したノルンも今頃ルイジェルドと娘のルイシェリアとこんなふうに一家団欒を楽しんでいるだろうか。
今日は午後からエリスを連れてオルステッドの元へ行く予定だが、それまで少し時間があった。
そういえば今日はケイオスブレイカーで時間を止めながら眠りについているナナホシが目を覚ます日だ。
次、目を覚ましたら作ってあげようと思っていたものがあったのだった。
準備をして、ケイオスブレイカーへ向かおう。
――――――――――
空中城塞ケイオスブレイカー
エリスを連れ空中城塞のナナホシが眠っている部屋まで行くと、彼女の姿はなかった。
「誰かに拉致されたのかしら」
エリス、物騒なこと言わんでくれ。あと敵襲だったら戦えるわ!とか考えてそうな目をしないでくれ。午後にはオルステッドから仕事の話を貰えるだろうから。
シルヴァリルを見かけたので聞いてみたところ、ナナホシは朝から庭園を走っているらしい。
最近ちょっと太り気味だったのでダイエットをしているようだ。
それに、食っちゃ寝生活では体も弱るだろうし、運動するのはいいことだろう。
ナナホシの運動が終わるまでまだ少し時間はある。
この間に作ってあげるとしよう。
「何を作るの?」
「俺とナナホシの故郷にあった食べ物だよ、エリス」
「……流石ルーデウスね!」
今のはよくわかってない時の返事だ。
褒められるのは嬉しいから別いいけど。
――暫く時間が経過し、運動を終えたナナホシがこちらに気が付きやってきた。
「美味しそうな匂いがすると思ったら、来てくれてたんだ。今日はエリスさんも来てるのね、おはようございます」
「久しぶりね!」
「今日は何を作ってくれたの?」
「ふふ。運動の後だから甘いものがより一層美味しく感じることだろう……」
恒例行事と化したこの時間。匂いにつられてやってきた彼女に、(許可を取ってから)作った元の世界の食べ物を庭園のテーブルに並べ、見せる。
「……ルーデウス……これって、まさか……!」
「そう、たい焼きだ」
前々から頭の中にはあったのだが長らく作ることができなかった一品。
鯛の型を作るのはこれまでに培われて来た土魔法でのフィギュア創造技術の応用でさして苦労しなかった。
生地は数ある菓子の中から近い食感と味の生地を厳選し、改良を加えて近いものに出来上がった。
一番の問題はあんこだった。この世界に小豆は存在しないのだ。
しかしある日、たまたま仕事で立ち寄った場所で見つけた古い文献に……数種類の豆をミックスし混ぜ合わせて水煮する料理を見つけた。
なんとそれが、説明文を読む限りあんこっぽい特徴を持った代物だったのだ。
家に帰ってアイシャに協力してもらい研究を重ねて出来上がったのが……この異世界版あんこだ。
「食べていい?」
「どうぞ。お水も飲みなさいナナホシ」
「私もさっき食べたけど美味しかったわよ!」
「エリス、ほっぺにあんこ付いたままだよ」
ナナホシは出来立てアツアツのたい焼きを手に持ち、かぶりつく。
「あふっ」と熱がりながらも味わうように咀嚼し、幸せそうな表情を見せた。
「すごい……たい焼きだわ、美味しい……生地の食感はちょっと違うけど……」
「うん、そこが味も保てる妥協点だったんだ」
「でも、ありがとう。本当に美味しい」
「うん」
ナナホシは嬉しそうに食べてくれるから作り甲斐があるな。俺も作っていて楽しいし。
「あんこも異世界で作れるのもなのね。どんな豆を使ってるの?」
「……普通の豆だよ」
「何か今含みのある言い方だったわね」
実はこの使用した豆というのが外見や色がかなりグロテスクなモノだった。
味は美味しいし、身体にもいいので食べても全く問題ないものなのだが、世の中には知らなくていいこともある。
たい焼きを味わっていると、案の定あのお方もここへやって来た。
「まったく、人の自慢の庭園を調理場にするとは……我の分はあろうな?」
空中城塞の主、甲龍王ペルギウス・ドーラ様である。
こうして庭園でたい焼きを作り食べる事も許可してくださる寛大な御方だ。
「もちろんです。どうぞ」
「これは魚の形をした焼き菓子か? 中には豆の煮込みが入っているのか……菓子に合うのか?」
「古い文献で見たものを改良し甘く仕上げてあります」
「甘くか……」
本当に美味しいのか?と言いたげな怪訝な目を向けながら一口かじる。
そして無言のまま咀嚼し――「うむ」と一言。
「悪くないな」
ツンとした目つきでそう言いながらすぐ二口目をかじりに行った。気に入ってくださったようで何よりだ。
そうして平和な時間が過ぎていたその最中……ペルギウスのたい焼きを食べる手がピクリと止まった。
「どうしました? まさか生焼けの部分でも……」
「コレの味は問題ない。――侵入者がいるな」
「え?」
彼の視線の先を見ると、一羽の青い蝶が空を飛んでいた。え? 蝶のこと? いやまさかそんなわけないだろう……
そう思っていると隣に立つエリスからピリピリとした雰囲気を察知した。チラと見ると、彼女は剣の柄に手を置きながら何かを真っ直ぐ睨みつけていた――その視線の先にあるのも、一羽の青い蝶だった。
「どこから入って来たか知らんが……姿を現せ。話は聞いてやる」
青い蝶はテーブルを囲む一つの椅子の上で止まり、発光しながら人の形へと姿を変えていく。
その姿は……少女だ。
青い服、金髪に蝶の髪飾りを着けた、小柄な少女。うちの長女のルーシーと年が近いくらいだろうか。
「私はラヴェンツァ。突然の無礼、お詫びいたします。時間の猶予があまりないものでして」
「……ふむ。まあよい」
登場と共に詫びを口にするラヴェンツァと名乗った少女。
その礼儀正しい態度にペルギウスの警戒心も多少和らいだようだ。寛大な御方である。
しかし、隣のエリスはますます剣の柄を握る手の力が強まっていた。
「エリス!? 娘と同じ年くらいの子にいきなり斬り掛かったりしちゃ駄目だよ!?」
「見た目で油断しないでルーデウス。その子すごく強いわよ」
「え……」
コレはマジの目だ。
こんなルーシーと年の近そうな子がそんな警戒心バリバリになるくらい強いのか……
俺には正直見ただけじゃさっぱり分からない。
そしてナナホシも目の前で突然始まった光景に二枚目のたい焼きを手に持ったままポカンとしている。
情けないが俺も同じ気持ちだ。
「ご安心を。あなた方と戦うつもりはありません。いきなりで不躾なのを承知の上で……助けを求めに参りました」
「助け?」
「……ラヴェンツァと言ったか。話してみよ」
ペルギウスに促されるまま、俺とナナホシは混乱したまま、ラヴェンツァは本題に入る。
「今、日本と六面世界の境界線が歪み、不安定になっています……あなたに、関係があることです。ルーデウス・グレイラット」
俺の名前が呼ばれた。