ペルソナ5R×無職転生 〜怪盗団と異世界からの来訪者〜 作:和井江一
「日本……?」
突如現れたその単語。前世の自分が生きていた場所である。
更にその日本と『六面世界』の境界線が歪んでいるというあまりにも唐突で突飛にも程がある情報……そして。
「俺……!?」
「はい、あなたです」
エリス、ナナホシ、ペルギウスから一斉に目を向けられる。あとペルギウスの背後に立つシルヴァリルが「何したんだお前」オーラを発しながらこっちを睨んでいる気がする。
俺に関係があると言われても全く身に覚えがない。
そんな事した記憶はないし、そもそも異世界同士の境界線を歪ませるなんて神の様な力は俺には無い。
人違いだ、同姓同名の違うルーデウス・グレイラットさんの仕業だ! ……と、言いたいところだったが……
……俺は日本からこの異世界に転生した身だ。まさかそのせいで歪みが起きて今更異変が起きた、とかだろうか。
だとしたら急にものすごく申し訳ない気持ちになってきた。俺が世界の滅ぶ原因になったりしたら冗談でも笑えない。
関係あるか聞いてみよう。エリスには前に俺が転生者であることは聞かれているし、また聞かれてもいいか。
「あの、ラヴェンツァ……さん……? まさか、僕が転生者であることが、原因だったりします……? 転生して異世界に行く際に、変な歪みが生まれたとか……?」
「急にしおらしくなりましたね……ご安心を。それ自体は特に関係ありません」
「よ、よかった……」
どうやら異世界転生そのものが罪という訳ではなかったらしい。もしそうだったら親であるパウロやゼニスにも顔向けできなくなるところだった。
まだ心臓がうるさい。
というか今の質問に疑問を持たずサラッと答えたな……俺が転生者であることを知っているようだ。何者なんだ。
「日本で何が起きていたのか……時間の猶予があまり無いので手短に、一度だけ説明いたします。よくお聞きください」
それからラヴェンツァの口から、俺が死んだ後の日本の事が語られた。
ナナホシも、帰るためにたくさんの苦労を重ねてきた故郷の話だ……食い入る様に聞いていた。
認知世界、メメントス、シャドウ、パレス……初めて聞いたそれらの単語。それらを利用した犯罪を行う者。
認知世界を使い、様々な悪党を改心させる怪盗団と呼ばれる者達が現れたこと。
その怪盗団の活躍により、認知世界を利用した犯罪を行う人間……そして、メメントスやパレスの出来上がる要因だった『悪神』が打倒されたこと。
にわかには信じ難いアニメの世界の様な話……だが、アニメの世界の様な経験をしているのは俺もだった。
実際に異世界があったのだ、認知世界とかいうモノや怪盗団や悪い神がいたって不思議ではない。
不思議ではないが……
「そこから、俺にどう繋がるんだ……?」
「はい。本題はここからです。あなたは前世の頃メメントスにシャドウを持っていました」
「…………そうか」
歪んだ心によって生まれる存在、だったか。
うん、正直否定できない。前世の頃の俺にシャドウがあるかないかと問われればあると自分でも思う。
今の俺なら……無い、よね? どうだろう……ヤバいちょっと自信ない。いやいや、大丈夫だ。うん、自信を持て。ほら、脳内のクリフ先輩もそう言って……言って……くれるかなぁ……
いかん、話が脱線する。真面目に聞こう。
「シャドウは本来あなたが死んだ時点で消えるはずだったのですが、転生というイレギュラーが発生したことによりシャドウは消えず日本と六面世界の次元の狭間に取り残されました」
……嫌な予感がして来たが、黙って続きを聞こう。
「先日、ヤルダバオトは怪盗団により倒されました……が、ここで想定外だった事が発生したのです」
「想定外……?」
「あの悪神は消滅する前に、境界線の歪みとそこから感じる一つのシャドウの気配を察知し、接触した」
「……」
「歪みが起きた原因は……こことは別の世界線の年老いたあなたが、時空を超え過去に戻る術を使用したこと」
そして唐突に現れた別の俺。
え。それって、まさか……ヒトガミに騙されていた俺に警告に現れた、あの年老いた俺の事か?
「そして、歪みで発生した亀裂から悪神が入り込み、消滅する前に次元の狭間に取り残されていたシャドウへと接触。そこから更に年老いたあなたの元へ向かい、日本まで連れ去りました」
――言葉が出ない。マジかよ。何だよそれ。
というか……
「起きてる事の時間軸がめちゃくちゃじゃないか……?」
「はい、現在日本と六面世界は境界線が歪んでいる上に時間や次元を超え繋がりが混線している状態なのです。このまま放置すれば……お互いの世界が正常な状態を保てなくなるのは間違いないでしょう」
まさかそんな風に俺に繋がるとは……しかも放置すれば世界がおかしくなるという言い方だ。
この異世界でここまで頑張って積み上げてきた人生が全て台無しになって……愛する家族が安全に暮らせなくなるかもしれない。
そして、影響があるのは日本もだ……
「……」
転生した当初は日本にも家族にも思い入れなんか無かったし、前世など早く忘れてしまいたい嫌なだけの記憶でしか無かった。
まあろくでもない記憶ばかりだとは今でも思うが……向き合い方が前とは変わった。
昔の俺なら元の世界がどうなろうと知ったこっちゃないとか考えていたかもしれないけど……
「兄貴……」
優しかった……許されない事をして裏切ってしまった、兄とその家族が日本に住んでいる。
葬式に出ることすらしてやれなかった、両親の眠っている墓もあるだろう。
それにナナホシの家族や友人だって……
――今の俺には、「俺には無関係」だと元の世界を見捨てる事はできない。
「……パレスの攻略には貴方の力も必要となるでしょう、ルーデウス・グレイラット。ご協力をお願いします」
「私もついて行くわよ。ルーデウス」
「……エリス……」
まだ返事してないのに協力する前提で真っ先にエリスが口を開いた、既にやる気満々だ。
いや、俺もそのつもりではあるのだが……無視できない懸念点もある。
「……一つ聞かせて欲しい。この事態に、ヒトガミは関わっているのか?」
「ヒトガミ……この世界にいる悪神の名でしたか。それは関わっていないはずです」
「そうか……」
どうやら関わっていないらしい。だが、世界が不安定な今を狙って何かしでかさないだろうかという不安もある。アイツ性格悪いしな……
世界が不安定な今の現状で、俺はまだ成長途中の子供達……家族のいる世界から離れていいのだろうか。
もし、俺が『パレス』攻略の協力に出向いている間に、家族に何かあったら……
「――ララ・グレイラット」
「……え?」
突如、少女が口にした……娘の名前。
反射的に顔を上げラヴェンツァへと視線を合わせた。
「この世界線の、今より何年も後の未来からですが……ララは現在、パレス攻略の為に向こう側の世界へ行っています」
「何だって!? ララが、未来から!?」
「はい。父のやって来た事を無駄にしない為だと仰っていました」
「……!」
今、お互いの世界は時間軸すら超えて繋がりが混線していると語っていた……ならそれは、じゅうぶんあり得る話か。
そもそも、俺も未来から来た自分と対面した経験がある。そんな話ありえないなんてとても言えない。
そうか。未来のララが……既に向こうの世界へ行ってるのか。この世界を救うために……しかも父の、俺のためだなんて……
あ、ヤバい。なんか感極まって来た。泣きそう。
俺の表情を見たペルギウスが呆れたように溜息をついた。
「世界の危機の話の最中に何を泣いておるのだ」
「すみません……あのいつもボーッとしてて変なとこで行動力あってイタズラばかりしてるララが……未来では立派な大人になってるんだなと思うと涙が……」
「……彼女が立派な大人になっているかどうかは置いておいて。話を続けてもよいですか?」
「はい」
ラヴェンツァから真顔で言われたので話の続きに移ってもらう。
子供の事となるとこんなすぐ泣くとは、俺もすっかりオヤジになったものだ。
「……おそらく、ララの力だけではまだ足りません。迅速に解決するにはパレス主と同じ、ルーデウスという人間である貴方が介入する必要があるでしょう」
「……つまり、また、『あっち』の未来の俺と対面するかもしれないのか……」
あの時現れた年老いた未来の俺は力を使い果たして目の前で死に、俺自身の手で遺体を火葬した。また会うかもしれないとは、何とも言えない気分だ。
それでも、俺が行かなきゃいけないのだろう。
それに向こうには娘が先に行っていて……あの子一人じゃ無理そうだというのなら、父である俺が行ってやらないでどうするのか。
「……分かった、ラヴェンツァ。俺も協力しよう」
「よく分からないけど、大きくなったララも居るって事でしょう? 私も行くわ」
「ご協力、ありがとうございます」
ただ、それでもやはり家族を残して一時的にでもこの世界を離れるのは不安だ。大丈夫だとは思うのだが……
「分かりやすいほど不安を顔に出しおって」
ペルギウスが頬杖をつきながら、少し不機嫌そうな目でこちらを見ながら言葉を続けた。
「周りを頼れば良かろう……少しの間貴様の家を見張ってやるくらいの頼みなら、我は断らんぞ」
「え、いいんですか、ペルギウス様……?」
「貴様が帰るまでアルマンフィを置いてやってもいい」
「……!」
光輝のアルマンフィ……確かに彼なら家族の危機にも光の速さで駆けつけて守ってくれそうだ。
「ありがとうございます……! この御礼はいつか絶対……!」
「ふん。大げさだな」
本当に寛大すぎる御方だ。背後に立つシルヴァリルも仮面の下で誇らしげな顔をしているのが分かる。
そうして話も一通りまとまったところで……空気を読みずっと沈黙していたナナホシが口を開いた。
「あの……こんな大変な話の最中に、空気読めてなくて本当にごめんなさい。だけど……もしかして今なら私、元の世界に帰れるの?」
「ナナホシ……」
本当は真っ先に口を出しそれを聞きたかっただろう。
彼女はずっと、日本に帰る方法を探し続けてきた。
その挙句不治の病に侵されて、実験と研究を重ねても帰れなくて、今では一ヶ月に一日以外はずっと眠り続ける生活だ。
俺としては帰れるのなら是非本来居るべき世界に帰って、普通の生活に戻って貰いたい。彼女の頑張りが報われなくてはあまりにも悲しいだろう。
ラヴェンツァは無言でナナホシを見つめた。
その無言が怖い。
そしてしばしの沈黙のあと、ラヴェンツァは口を開き。
「確かに、日本と六面世界を繋ぐ境界線が不安定な今なら……結論から言えば帰れます」
「……!」
マジか。帰れるのか。それは、本当に喜ばしいことだ。ナナホシも喜んで……あれ?
微妙に険しい顔のままだ。
「……続きが、あるんでしょ? 話して」
「はい。詳しい事情は知りませんが……貴女はとても特殊な状況下でこの世界に存在している事は何となく分かりました」
「……」
「結論を言えば帰れますが……今の状態で日本に帰った事で、どのような影響を及ぼすのかは分かりません。正直、帰る事はオススメできませんね」
「……わかった、ありがとう。私は、行くのやめておくわ」
「ナナホシ……いいのか?」
「大丈夫、何となくそんな気はしてた。ダメ元で聞いてみただけだから。焦って行動した結果、これまでやって来た事も全部無駄に終わった……なんてなる方が最悪だしね」
「……そうか」
思ったより落ち込んではいない風だから、元々ダメ元で聞いただけというのは本当なのだろう……
とはいえ急にちょっと饒舌になっているのは内心ショックなのを隠そうとしているからかもしれない。
本当は、帰れるならすぐにでも帰りたいだろうに……
「……せめて、ナナホシが喜びそうな土産話でも用意しておくよ」
「お気遣いありがと」
「出る前にたい焼きもう一枚焼こうか。実は他の味も用意してるから試してみる?」
「本当、そこまで気を使わなくてもいいから……でも他の味は気になるわね……。また次回でいいわよ。急いでるんでしょ」
逆にナナホシから気を使われてしまった。
だが、次回か。未来の事を自分から言えるのなら、大丈夫だろう。
「では……早速向かいますか?」
そう言いながら椅子から立つラヴェンツァ。
早く向かった方がいいだろう……が、これから行く場所は別世界、完全に未知の領域。何が起こるのか分からない。
「出発前に……家族に一目会ってきてもいいですか」
せめて家族の顔は見ておきたかった。
……あと忘れていたが、呼び出されていたオルステッドにも別の用事が入ったことを伝えなければいけない。