ペルソナ5R×無職転生 〜怪盗団と異世界からの来訪者〜 作:和井江一
空中城塞ケイオスブレイカーから出て、先ずはオルステッドが待っているであろう事務所までエリス、青い蝶(ラヴェンツァ)と共に向かう事にした。
せっかく仕事のミーティングに呼んだのに「世界が危ないのでドタキャンします」などと突然言われてオルステッドはどんな顔をするだろう……怖い顔をするだろうか。それは元からだな。
もしかしたらションボリしてしまうかもしれない。
到着するなりオルステッドは俺の肩に止まっていた蝶を睨みつけ恐ろしい目つきで「何者だ」と口にした。
全員が揃って蝶の違和感に勘づく……何も分からなかった俺は鈍いのだろうか。
この世界ではあまり長時間本来の姿を保てないらしいラヴェンツァに代わり俺が日本とこの世界に起きている事を説明。
彼は「また知らない出来事が起きているな……」と悩ましげな表情を浮かべている。
「未来のお前の娘……ララも来ているのか……」
「はい。向こうの世界には俺とエリスが行きます。社長はここで俺達の帰りを待ってもらい……」
「わかった。俺も行こう」
「そうしてもらえると助か……って、え? 今なんと?」
「俺も行くと言った」
「正気か」
「正気だ」
あまりの衝撃発言につい敬語が消失してしまった。
急に何を言い出すんだこの人は。今は大人しく事務所でふんぞり返り大きく消耗している魔力の回復に努めるべきだと思うが……
「お前の言おうとしていることは分かる……俺は魔力回復に努めるべきとでも言いたいのだろう」
「おっしゃる通りで」
「……だが、そこまでの、両世界の存亡までも巻き込む程の事態は俺も初めての経験だ。それにララも居るのだろう……あの子の身に何かあれば未来に多大な影響を与えてしまう可能性がある。実際に自分の目で確かめておきたい」
「……なるほど」
確かにオルステッドとしては自身で確認しておきたい気になる状況か。
まあ、ついて来てもらうだけならいいか。魔力は温存しといて貰えばいいしな。
「分かりました。ただし魔力は使わないでください」
「わかっている。それと、俺達が抜けている間のお前の家の守りだが……」
「あぁ、その事なんですが。それはペルギウス様にお願いしました、帰るまでの間アルマンフィを置いてくださると」
「そうか……アルマンフィならまあいいだろう」
光輝な彼には短期間だがグレイラット家の守護精霊になってもらうとしよう。
ちなみに今回呼ばれたミーティングはそこまで急ぎの用では無いためまた今度でも良いそうだ。
話もまとまったし、次は我が家へ向かおう。その後に、日本へ出発だ。
しかしオルステッドもここを離れついて来るとなると、ペルギウス様が付いているとはいえやはり家族から離れるのは少し不安だが……
そう思っていたその時だった。
俺の背後からよく知る頼もしいイケメンボイスが聞こえてきたのは。
「勝手ながら話は聞かせてもらったよ、ルーデウス」
「この声は……!」
ハッと振り返った先に居たのはやはりクリフ。そしてその隣にはザノバが立っていた。
まさかずっと後ろに居たのだろうか。
「二人とも……何でここに?」
話を聞いてみると、どうやらザノバと共同で改良を加えたオルステッドの呪い制御ヘルメットの事で来たらしい。
しかし、込み入った話をしていたようだから二人は邪魔しないように終わるまで待っていたのだと。
「意味の分からない言葉も混じっていたので詳しくは分かりませんが……どこか違う世界へ向かうのですな?」
「僕にもやるべき事があるからついていく事は出来ない。けど……君のことだ、家族を置いて別世界へ行くなんて不安で仕方がないだろう」
「……」
「……師匠が憂いなく出発出来るよう、何かあれば直ぐあなたの家族の元まで駆けつけられる準備をしておきますので」
「だからこっちの事は僕らに任せて、安心して行くといい」
クリフ……ザノバ……なんていい奴等なんだ……!
自分達にもやるべき事があるのに、俺の為に……ま、眩しい、眩し過ぎる……!
「俺、お前達と友達でよかったっ!」
やはり持つべきものは友だ、そう思った。
……しかし、友情をじっくり確かめ合う時間は無い。肩に止まってる蝶(ラヴェンツァ)が急かす様にめちゃくちゃ羽をパタパタさせているし。
二人に出発の挨拶を済ませて、最後に向かうのは我が家。魔法都市シャリーアの住宅区を目指す。
平和な空気の流れる町の中を歩いて行き、グレイラット邸の前に四人の人影を見つける。
「お兄ちゃん、エリス姉、仕事は!?」
妹のアイシャが驚くような聞こえた。
彼女は三人の来客を出迎えている最中だった……その三人は、時間の都合的に挨拶を諦めようとしていた一家。
「あれ、兄さんとエリス姉さん?」
「どうした。お前達は仕事だとさっきアイシャから聞いたところだが……」
「ノルン、ルイジェルドさん!」
来客はノルンとルイジェルド、そして娘のルイシェリアも来ている。おとなしい子で、まだ小さいから母であるノルンにベッタリだ。
「……兄さん、何かあったんですか?」
ノルンの察しがいい。少し怪訝な視線を向けている。
たぶん俺の顔が分かりやすいからだろうか。
「お兄ちゃん……その子はどこから連れてたの?」
「……ん? その子?」
誰のことかとアイシャの視線を辿ると……ラヴェンツァが人の姿で真横に立っていた。
「お前、いつの間に人の姿なったんだ!?」
「だいぶ回復してきたので……あと会ったばかりでお前とは何様ですか」
「ごめんなさい」
しかし本気でビックリした。ずっと蝶の姿でいると思ってたし……
となると、まさか、ノルンが俺を怪しげに見てるのって……
「いや、ノルン、違うんだ。流石に兄さんそういう趣味は無いから……」
「まあ確かにそれも一瞬怪しみましたが、分かってますよ。また何かに巻き込まれたんじゃ……と思っただけです」
「うん……まあ巻き込まれたというか……巻き込まれた半分、俺のせい半分みたいな?」
「は?」
「それは違うわ。悪いのはルーデウスじゃなくてアレよ、ほらラヴェンツァが言ってた……ヤ……や…………アイツよ」
「ごめんなさい、エリス姉さん。全く分からないです」
ヤルダバオトの名前は思い出せなかったみたいだけどありがとうエリス、その気持ちだけでも嬉しいよ。本当に。
「……それを伝える為に帰って来たんだ。皆を集めて改めて話すよ、ノルン」
「そうですか……わかりました」
さっそく大人組を集めよう……と思ったらアイシャが「お母さん達呼んでくるねー」と家の中に向かって行った。
流石アイシャだ、仕事が早い。
妹が駆け出す姿を見送る横でルイジェルドが声を掛けてきた。
「……ルーデウス。俺の力は必要か?」
「ルイジェルドさん……」
そう声をかけながら目を向けてくる。頼めば、快く受け入れてくれる雰囲気だ。
正直、連れて行こうと思った人選にはすぐルイジェルドの顔も浮かんだ……頼りになるし、またエリスも含めた三人で冒険してみたいという下心もあった。
けど、彼の娘のルイシェリアはまだ小さい……それに彼はこれまで長年苦労を重ねて来たのだ。
「正直、ついて来て欲しい気持ちは山々ですけど……ルイジェルドさんには、手に入れた今の平穏を享受して欲しいんです」
「……そうか……わかった。お前の気持ちを尊重しよう」
彼は言葉少なくも優しい声で首肯してくれた。
―――――――――――
エリスが嬉しそうにルイジェルドに話かける声が聞こえる中、俺も子供達以外を集めて部屋に向かった。
「大事な話とは何ですか?」
「……僕らの娘のララにも関係があることです」
「ララに?」
今日は教師の仕事が休みのロキシーを呼び、そして掃除をしていたシルフィに声を掛ける。
流石に今日は普段の様なスキンシップを二人にする空気でも気分でもない。
「おかえり、早いね……どうしたの真剣な顔して」
俺の隣に立ち周りを物珍しそうに眺めていたラヴェンツァへ視線を向けた後こちらへ戻し。
「その子は?」
「えー……んー……ナナホシの故郷と同じとこから来た御方です……」
「……片付けてから行くよ」
咄嗟にどう言えばいいのか反応に困ってしまった。一応ラヴェンツァには俺が転生者だって事は伏せながらの説明に協力してくれるよう頼んでいるが。
まあ……別にバレても構わない気はするんだけど、話が脱線しそうだしな。
シルフィとロキシー、アイシャが呼んで来たゼニスとリーリャ、俺がテーブルを囲んで座り、そこにノルンとルイジェルドも参加する。
俺は隣に座るラヴェンツァと共に、話がややこしくならないよう前世の事や転生者であることは伏せながら現在この世界と別世界がどういう状況にあるのか……
そして、未来から来たララも既にあちら側へ行ったらしい事を伝えた。
「別世界の悪神の介入、ですか……にわかには信じ難い話ですが、信じましょう」
「そうだね。いつもと何も変わらないから僕にはまだ実感がないけど」
ロキシーとシルフィから熱い信頼の視線を感じる。
シルフィの口にした疑問に対しラヴェンツァは「そうですね」と応え、
「目に分かる異変が起こればそれはもう手遅れになった後かと。だから今のうちに対処しなければならないのです」
「そうなんだ……」
シルフィが不安そうな表情を見せる。
「大丈夫。俺とエリスが必ず止める。オルステッドだっているし、この今の日常を壊させやしない」
「うん、ルディ……信じてる」
俺のシルフィをこんな不安がらせるなんて……彼女にはもう悲しい顔はさせたくない。
「エリスも、ルディを頼んだよ」
「えぇ。任せて、シルフィ」
悪神なんかに、大事な人達が生きているこの世界をめちゃくちゃになんかさせない。
だいたいこの世界にはロキシーという絶対神が居るのに神を名乗り手を出そうなどとあまりに傲慢で――
「ルディ。今一瞬おかしい時の目つきになっていましたが……」
「ロキシー」
「……ララは、未来のあの子は今も一人で戦っているという事でしょうか」
「いや、ラヴェンツァの話では向こう側の世界の『怪盗団』っていう強い奴と一緒に居るらしい」
「そうなんですね。それなら安心……いえ、向こう側の方々に迷惑を掛けていないかは不安ですけど……」
やっぱそういう心配はするよね。まあ小さい頃、というか今よりは大人になってると……なってると思うが……
「できれば私も行ってあげたいんですが」
「ロキシーには、この世界の子供達を見てあげて欲しいです」
「わかっています。そちらは、ルディとエリスに任せます」
「はい」
ロキシーと言葉を交わした後、ゼニスと目が合った。
これから、前世の世界へ向かうからだろうか……ふと前世の親の顔を思い出した。なにもしてやれなかった、愛情を持つことができなかった、母の顔を。
今は廃人となってしまったゼニスにも……転移事件が起きるより前から、もっと親孝行しておけば……
いや、今更こんなこと考えたって、過去は変えられない。
「……母さん、行って来ます。待っていてください。帰って来たらまた色々話をしましょう」
「……」
変わらず、喋る事も表情を大きく変えることも出来ない。それでもちゃんと声は届いているし、ちょっとフィルターは掛かっているらしいが周りの事もわかっている。
ゼニスは首肯した。
気のせいかもしれないがいつもより少し穏やかな顔をしていた気がする。
「リーリャさんも。家の事と、母さんを頼みます」
「はい。ルーデウス様もお気をつけて」
「……前にも言いましたけど、僕はリーリャさんのことも母だと思ってるので。たまにはお母さんらしい言葉を掛けてくれてもいいんですよ」
「そ、その気持ちは嬉しいですが、はい……お気をつけて」
ほとんど変わっていないけどまあ、俺も突然の無茶振りだったしな。ごめんなさい。今ちょっとこの感情が何なのか、自分でもよく分からない気分なんだ。
……帰ったら、リーリャにも親孝行になることをしよう。
――大人組に話し終わり、子供達とも顔を合わせに行く。
先ずは末っ子のクリスとリリ、そして二人の面倒を見てくれていたルーシーの元へ向かう。
部屋の端ではララがレオを枕にしながら昼寝をしていた。
一緒に面倒見ろって起こしてやってもいいんだよ、ルーシー?
クリスは相変わらず甘えん坊で俺の顔を見た瞬間に「パパ!」と飛び付いて来た。「あれ買って!」とかねだられたら何でも買ってあげたい衝動に駆られそうだ。
金を使い過ぎたらシルフィに怒られそうだけど。
そしてもう一人の末っ子リリはとても大人しい子だ。しかし手先が器用なようで与えた玩具を知らない間に勝手に改造したりしている。
クリエイター方面で将来有望な子かもしれない。
「……どこか危ない所に行くの?」
「うん、ルーシー。今回はかなり遠いとこまで行かなきゃいけないみたいだけど……大丈夫だ。弟や妹達と、家で帰りを待っててくれ」
「うん。気をつけてねパパ」
「……ルーシーも抱っこする?」
「え……いい……」
普通に断られた。
ルーシーも小さい頃は一時期よく甘えてきてくれたのに……まあ、あの頃より大きくなったもんな。子供は成長するものだ。
ララはまだ寝てるので、外で剣を振り合っているアルスとジークの元へ行く。相変わらず元気な息子達だ。
アルスは俺とパウロの悪いとこが遺伝している部分はあるが、頑張り屋で真面目な子だ。
パパとしてはもっと甘えてくれてもいいんだけどね。
その調子で俺達の悪い部分でなくアルスのいいところを伸ばして欲しい。
そしてジークは純粋で活発な性格の子だ。良い子だとペルギウス様からもお墨付きである。
ヒーローや英雄譚などが大好きな男の子で、特に俺が話すお腹が空いた人に自分の顔を分け与えるヒーロー『チェダーマン』がお気に入りなようだ。
元ネタが何なのかは言うまでもない。
息子達とも一緒にお酒を飲んで語り合ったりしてみたいが……流石に気が早すぎるな、うん。
「アルス、ジーク。帰ったらパパと三人でお風呂入るか」
「えっ、パパと……!?」
アルス……親子だし男同士なんだからそんな緊張した様な反応しなくていいのに……
「パパ、久しぶりにチェダーマンの話聞かせて欲しいです!」
「あぁ、たくさん用意しておくよジーク」
緊張気味なアルスと、目を輝かせるジーク。
これで帰った後の楽しみも増えた。
息子達との会話を終えたところで、背後から「パパ」と聞こえた。
ララだ。
まだ眠そうな目を擦りながら現れたその子は「夢見たんだけど……」と呟き暫し沈黙。
アルスに心配そうに「ララ姉どうした?」と尋ねられたあと口を開き、
「……今のパパなら大丈夫。がんば」
それだけ告げあくびをしながらまた家の中へと戻って行った。
―――――――――――
「準備は出来ましたか?」
門の前で待っていたラヴェンツァに声をかけられた。
……実はあと一つ寄りたい場所があるんだが、怒られるだろうか。ダメ元で聞いてみよう。
「……父さんの墓にも、ちょっと寄りたいんだけど……ダメでしょうか……」
「遠くないのならいいですよ」
「いいんだ!?」
てっきり冷めた顔で「時間無いんだからいい加減にしろ」とか言われるかと覚悟していたがまさかの回答。
「人の絆や心が与える強さはよく知っていますので……それがあなたの力になるのなら構いませんよ」
なるほど……意外にもそういうものを大事にするタイプらしかった。
父……パウロにも一言挨拶して、向こう側の世界へ出発しよう。
家族に見送られながら俺とエリスは家を発った。