森
なんて気持ちのいい朝だろう……
今日はいつもより一時間ほど早く目が覚めたが、
知らなかった。
こんなに朝がすがすがしいものだったとは。
「ちょっと走るか」
すでに日課にしていた早朝のウォーキング。そして今日はランニングでもしてみようかと思った。
私は早速新しく買ったジャージに着替え、家を出た。
「うーん。健康ってすばらしい」
実をいうと俺は元の世界にいたとき、生活習慣病、まぁ脂質異常症というものを患っていた。
どうやら社会人になってからの運動不足が原因だったらしい。そこからウォーキングも始めて改善できた。
もう、あんな目に遭いたくないと思うと、走らずにはいられないのだ。
……おっといけない。いつの間にか人里からかなり離れてしまった。早く戻らないと遅刻しちゃう――
その時、甲高い女性の叫び声が聞こえた。
「な、なんだ!」
叫び声が聞こえた方角。そこは
「確か、魔法の森とか言ったっけ……」
人間があまり寄り付かない場所で、よろしくない物が充満してるとか……
しかし、そこに人がいるならば、大変だ。きっと妖怪に襲われているに違いない。
私は近くにあった木片をつかみとり、森の中へと入っていった。
「ど、どこだぁ……おーい……」
恥ずかしながらビビっていた。
そもそも、なんで朝からこんな暗いんだ?これじゃ視界がわるいじゃん……
そして、私は感じていた。進めば進むほど気分が悪くなることに。
引き返そうか……そう思ったとき。
ガサッ……と音が聞こえた。
近くだ…… 私は恐る恐る音のした場所に近づく。
樹の裏……ちょうど茂みが晴れているところに人が倒れているのが見えた。
私は急いで近づき、里に運ぼうとした。
しかし、その光景をみて、絶句した。
「あ……」
妖怪。それはミスティアのような可愛いものじゃない。
5つの目玉がぐるぐる動き、頭でっかちの鬼のような化け物。
これぞ私が思い描いていた妖怪。そしてこの光景こそが妖怪だった。
そう……女性の腕を食いちぎり、食している妖怪がそこにいた。
胞子のような物で気づかなかったが、あたりには血の匂いが充満している。
つい吐き出しそうになったのをこらえる。しかし、しゃがみこんだ拍子に転び、音を立ててしまった。
目玉がこっちを向いた。
「……あ」
私は腰が抜けてしまった。頭だけで私の身長を優に越す妖怪が近づいてくる。
こういう時ばかり私の意識はしっかりしており、耐え難い恐怖にすでに半分泣き出していた。
以前死を覚悟したつもりでも、実際に立ち会うとその恐怖は計り知れないものだった。
巨大な手が近づき、私の腕をつかむ。そして……まるでチーズのように引きちぎられた。
こいつ、腕フェチか。
激痛のなかそんなことしか考えられなかった俺は余程混乱していたのだろう。
巨大な口が近づく。しかし幸い、先の出血でもう意識が消えかかっていた。
そのとき
走馬灯……だろうか……元の世界での記憶が再生される。
……俺が階段から落ちたこと
……障子を破って怒られたこと
……後輩に告白してフラれたこと
……最初の会社をリストラされたこと
うわ、嫌な記憶ばっか
そして最後に見たもの……それは剣を持った一人の男の姿だった。
それはまるで、女性のために戦い抜いた俺を具現化させたようなものだった。