おっさんが幻想入り   作:柊の花

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「テレポ!」

 

香霖堂から森の入口まで一瞬で移動した。俺は驚いた。何にって?

空気のおいしさにだ。

そういえば、森は有害な胞子が飛んでいたらしい。

俺は慣れてしまったが、最初は酷かったな……咳とか苦しかったし

 

 

…………

 

 

俺は少し考え、再び森に入った。

理由は簡単で、俺が腕を失った場所、そこに行きたかった。

 

 

 

 

 

「……ここだよな」

なぜか知らないが、ここは草がまったく生えず、景色もそのままだった。

しかし、香霖が処理したのか血は少しも残ってなかった。

「……もし、今の俺があの時ここにいたら……どうなってたんだろうな」

たぶん今の俺は昔よりも強い。あきらかに。

なら、あの時の俺が今の俺なら未来は変わっていたんだろうか……

ここに来たのはそういう理由があった。

が、もう一つ理由が存在している。それは

 

「――やはり来たか」

私は後ろにいた奴に声をかける。

それは頭の大きく、香霖から受けたであろう傷が顔にある、あの時の妖怪だった。

「お前を倒して……俺のチカラを証明してやる!」

私はハッケロッドを構え、妖怪に突き付けた。

 

 

  ***

 

 

私は走った。

しかし、逃げるためではない。

戦うために、私は走った。

「ブレイク!!」

相手を石化させるこの技。まだ修行の段階では実用は不可能だったが……

 

「やはりダメか……」

この術は不安定で、このように緊迫した状態では相手に当てることすらできない。

妖怪が雄叫びをあげ、倒木を投げつけてくる。

「エアロラ!!」

空気の膜を作りこれを防ぎ、反撃の手段を考える。

先ほど、ファイラ、ブリザラ、サンダラと三つの魔法をぶつけたが、あいつには効果が薄かった。

いや、俺の魔力が弱いということもあるだろう。

 

こんな状況、昔の俺なら平常心を保てなかっただろう。これも魔理沙との修行のおかげか……。

 

「くっ!速いな……」

魔法を使って足止めをしていたが、あんな巨体でそんな速く走れるとは思わなかった。

次の瞬間妖怪が跳んだ。このままだと確実に俺の上に落ちてくるルートで。

「ブリンク!!」

影分身の魔法をかけたが、気休めだろう。俺は全力で飛びこんだ。

そしてすぐあとに、後ろに妖怪が着地した。

「ホールド!!」

隙をついて麻痺の呪文を唱えたが、弾き返されてしまった。

魔法がまったく通用しない相手に俺は少し焦った。

 

「くっ……スロウ!ヘイスト!」

 

動きを遅くするスロウ、動きを速くするヘイストをそれぞれ唱えた。しかし

 

「……あ、やべ」

間違えて俺にスロウ、あいつにヘイストをかけてしまったようだ。

効果が働き、体が重くなったように感じる。

「くっ!」

妖怪の一撃をかろうじてかわすが絶対に長くはもたない。

どう考えても俺の負けだ。

 

「テレポ!」

俺は瞬間移動の呪文を唱える……が

「……しまった、MPが!」

その瞬間、目の前が暗くなった。妖怪が太陽を覆い、俺を喰らおうと襲いかかってきた。

 

 

 

次に感じた感覚、それは痛みではなく熱だった。

しかも俺でなく、妖怪に向けられたもの。

 

どこからか飛んできた、俺の全力のファイラを優に越す熱量の炎があいつを吹き飛ばし、数秒後には断末魔とともに妖怪はあっけないほどに燃え尽きてしまった。

 

俺はそれをみて茫然としていた。

今度は慢心した結果こんな事態を招いてしまったのだが、やはりこれはショックだった。

必死に得た力も、この世界ではこうも無力なのかと……。

 

「……どういうことか、説明してもらおうか」

 

気が付くと、目の前に誰かがいた。

おそらく、さきほど俺を助けてくれた人だろう。

助けられたからには礼を言わねば……そう思い俺は顔をあげた。

が、同時に胸倉をつかまれ、引き寄せられた。

 

「うおっ……」

急な事態に驚いたが、ここは冷静に対応すれば大事にはならないだろうと判断。

逆光で影になり、見えにくい顔を俺は覗き込む。

しかし太陽が雲に隠れ、影が薄くなってきて、初めて気づいた。

 

「妹紅……?」

 

 

 

 

 

わかっててやっているのか?そう言いたくなった。

うん、わかる。どうしてこんな事してるのか。今はまだ夕方だけど少しだけ暗いからスタンドライトを点けたんだ。そして夕飯の時間、で、久々に俺が帰ってきたから俺は丼物。

そう……取り調べといったらのあの状態が出来上がっていた。

 

しかし、こんな不謹慎な状況に関わらずも、子供の頃に見ていたドラマのシーンと同じ気持ちが味わえて心がおどっていた。

 

「なにニヤついてんだ。こっちは心配したんだぞ?」

「あぁ、すまない。これ、いただくな」

慧音の作った丼に手を伸ばす。が

「そのまえに、先に言うこといってくれ」

飯はお預けだそうだ。

「……この度は誠に申し訳ありませんでした」

地面に頭をつけ、俺は完璧な土下座をする。

最も、頭をつけなければ、左腕だけで支えることになるからだ。

「聞きたいことはいくつかあるが……順に話してくれ」

あぁ、と俺は体を起こし、ここ一週間の出来事を話し始めた。

女性の声のこと、妖怪のこと、右腕のこと、魔理沙と香霖のこと、魔法のこと……

とにかく、覚えていることすべてを話した。

 

「……そうか、霖之助か」

会ったことがあるのか、慧音が呟く。

俺は丼をすべてたいらげながら、妹紅に話しかける。

「その、さっきは助かった。危ないところを」

「……そうだな、危なかったよな」

「…………」

「お前、魔法なんか使って何するつもりなんだ?」

誰かを守るため……さすがにこのセリフは説得力がなさすぎる。しかし、俺はそれだけを思ってここまで来たんだ。

「誰かを守るためだ」

「……まぁ、そんな事があったらそう思うだろうな」

俺は何か考えている妹紅の側を丼を持って通る。片付けだ。

洗い物の手伝いをしていると、妹紅が帰ると言い出した。

 

「じゃあ、気をつけて」

手が離せない慧音の代わりに妹紅を送り出す。まだ夏だというのに、空いた戸からは冷たい夜風が吹く。

「……なぁおっさん」

「ん?」

「そろそろだよな。満月」

そうか、もうすでにここでの生活が終わりに近づいているのか。

「よかったのか?貴重な時間をそんなことに使って」

それはどうか。いい経験したのは確かなんだが……

「……いや、それはここに居ても同じか……。すまない、変な事言って」

 

去っていく妹紅の背を眺めながら考えた。

残りの時間は二日。

 

俺はどうするのか、再び考えつつ夜を過ごした

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