おっさんが幻想入り   作:柊の花

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現代入り

「ちょうどいちねんまえにぃ~、このみちをとおったよるぅ~♪」

 

そんな間の抜けた歌声が響く此処は、人里のある一件の家。

年季が入ったその家を、すみずみまできれいにしようと努めているのはこの俺。そして、歌声の正体、沖田だ。

 

俺は慧音への恩返しとして、この家の掃除をすることにした。

しかし、普段からきれいにされているため、必然と俺の掃除する場所は普段目のつかない場所になる。

俺はミスティアから、屋台の仕事の休みをもらえたが、慧音は仕事にでていて此処にはいない。

つまり、俺の行為には気づかないとおもう。

 

しかし、立つ鳥跡を濁さず、だとか。

そう。俺は今日幻想郷を去るのだ。

 

 

「なんでもないよるのぉ~こぉ~とぉ~♪」

畳のシミを取りながら、しかし、そこでふと思う。

「この汚れっていつのだ?ぜったいここ数年の汚れじゃねぇって……」

この村の景観なのだが、家自体がそうとう昔の設計だ。

慧音の年齢(だいたい二十代か)をかんがえても、それ以前からの汚れだ。

中古?いや、この家は慧音が建てたとか聞いたことがあるよな……。

そこで、考えるのをやめた。散々言ったが、実際俺は汚れがついた時を見定めることなどできないのだ。

 

 

***

 

一通り掃除をおえ、一息ついていた。

 

「しかし、上出来じゃないか?今日の出来は」

俺は部屋中眺めて言う。

うむ、さて、この後なにをしようか。

慧音がいうには、「今日の夜は忙しいから、今がこうやって話す最後だ」だ。

つまり、もうこれで慧音とは会うことはできない。まぁ、だから朝のうちに別れの言葉を述べたんだけどな。

 

「妹紅のとこ……行ってみようかな」

俺はそう思いつくと、すぐに荷物をまとめ始めた。

 

約40秒。すべてのものを持ち、家を出る。

扉に鍵を閉めると、人が通れないような小窓に鍵を放りなげた。このために、ここは鍵をかけないでおいたのだ。

 

 

さて、すこし歩けばもう目の前は迷いの竹林だ。

そう、目の前には「迷い」の竹林が。

 

「……なんじゃこりゃ」

今までどうして気づかなかったのだろう。

その竹林はびっしりと竹でおおわれ、先など見えなかった。

いったいこんな状況でどうやって中に入ればいいのか……

「ん?なにしてるんだ?おっさん」

しかし、目の前にお目当ての人物が現れたことでその悩みは吹き飛ぶ。

「よぅ妹紅、おまえよくいつも家に帰れるな」

「まぁ、なれてるからな」

慣れるもんか?と疑問に思ったが、そんなことはどうでもよかった。

「もう昼だ。どこかで飯でも食べないか?」

「……あんたのおごりなら構わないけど」

最後くらい、二人で飯というのもいいもんだろ。

 

 

さて、あの後、二人で昼食をとり、軽い買い物をした俺達は、

ミスティアの屋台へと来ていた。最後のあいさつも兼ねて、ちょいとした手土産も買っておいた(雀のペンダント。需要は知らんが、渡したら結構喜んでくれた)

 

「こうやって、ここに客としてくるのも久々だな」

「そうね。妹紅はなんどか来てくれてるけど」

とりあえず、ゆっくり話すために、ほかの客がいなくなるのを待っていたので俺達は小腹がすいてしまった。しかし、時間はすでに22時を回っている。もう辺りは完全に真っ暗で、今から食べたり飲んだりすると、健康上よくない。

それに、今日の現代入り(ここでは、元の世界に戻ることをこう呼ぶらしい)は、0時ちょうどに行われる。つまり、あまり羽目を外すのも良くないだろう。

「ミスティア、ありがとうな。俺をこんな雇ってくれて」

「ん?そのセリフは今日で二回目だぞ」

確かに、初日にも言った。しかし、感謝してもしたりないものだ。

特に目的のなかったこの世界での唯一の生きがいだったりもした。

「最後だし、店の裏メニューでもいただこうかな」

「え?そんなものがあるのか?」

実際にはない。しかしミスティアは理解してくれたようだ。

「おでん?これが裏メニュー?」

「というより、まだ試作段階ってだけだよ」

でも、すぐに出してくれた所をみると、もう準備はできてるらしく、店に並ぶ日も近いだろう。

「どうだい沖田、このおでんと一緒にビールは?」

「……遠慮しとく」

ミスティアがビールと呼ぶそれは雀酒という代物(ビール=酒という解釈らしい)

俺はこれを飲んで倒れたことは忘れたい思い出なのだ。

 

 

***

 

博麗神社前階段

雀酒を大量に飲んでもピンピンしている妹紅と共に俺は階段を上って行った(妹紅が未成年とかどうとかはもう知らない)

「おまえ、酒強いのか?」

「ん~。アルコールを分解する力が強いんじゃないの(適当)」

といった他愛もない会話をしていた。

長い長い階段のはずだが、今日に限ってはあっという間に感じた。

どうやら相対性理論はここでも健在らしい。そろそろ神社は目の前に見えるだろう。

俺は長い長い階段をのぼりながら、一歩踏み出すたびにここでの思い出がよみがえってくる感覚に浸っていた。

「そういえば、おっさんの本当の名前、教える約束だったよな」

「ん、あぁそうだっけか」

そもそも、今も「沖田」と呼んでくれないコイツに名前を教えて意味はあるのだろうか。

「……そういえば、元の世界に戻ったら記憶ってどうなるんだろうな。それと、どの時間に戻るのか。よく考えたら、何にも知らないよな……俺って」

「確かスキマ妖怪の奴がどうこうするってことだったはずだけど」

「全然知らないじゃんか。お前も」

スキマ妖怪……またあいつに会うのか……なんか、あんまり好かないんだよな~。あの子。

 

その時、茂みから音がした。別に最初は興味はなかったんだが、出てきたものには驚いた。

「お、女の子か!?」

体中が傷だらけの少女が飛び出てきたのだった。

その子はどうやら俺達を妖怪とでも思ったのか、俺と目があったあと気を失った。

「ど、どうしたんだ一体?」

「こいつは……リグルか!」

「知ってるのか、妹紅」

リグルと呼ばれた少女はまるで何かに襲われたかのようだった。

「まさか妖怪に!?」

「いや……実はこの子も妖怪なんだ」

え?

さすがに、人間型の妖怪を見ても驚かなくなったが、こいつはけがをしてるんだぞ?

つまり

「まさか、より強い妖怪とか?」

「この傷は違う……弾幕ごっこの傷だ」

弾幕ごっこって、殺傷能力あったのか!

って、そうじゃなくて

「こんなになるまでやるのはルール違反じゃないのか?」

「私も詳しくは知らないけど……少なくとも、相手は大人数の可能性がある」

「大人数……」

「おっさん。私はこの事を慧音に知らせる。こんなの普通じゃない」

「俺は!?」

「大丈夫、これは私たちで何とかできる。それよりも、おっさんは元の世界に帰るのが優先だ」

もう午後11時55分。転送開始まであと五分だ。

「……だが、怪我をしてる子を放っておけるほど、俺は鬼畜じゃない!」

「……」

実際、あと一か月後にも機会は来るんだ。だったら、今目の前にある命を救うのが最優先だ!

「……じゃあ、おっさん。この階段を急いで登って、博麗の巫女を呼んできてくれ。異変かもしれないから」

「……呼んで来たら、また戻ってくるぞ」

「好きにしな」

 

俺は向きを変え、階段を上った。

それは自分のためでなく、あの少女のために。

そして、やっと果たすことができる。

誰かを救うという願いが。

 

「……いない?」

時間は11時58分。

そこには博麗の巫女どころか、現代入りを目的に来た奴らすらいない。

そして、鳥居に張り付けられた紙に目が行く。

 

 

『急用につき、今日の現代入りは中止。

次は一か月後』

 

 

「博麗の巫女が……いない?」

 

 

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