夢を見ていた
どこかに迷い込んだと思ったら不思議な少女と出会うという、この歳でなさけないようなメルヘンな内容だった。
鳥のさえずりで目を覚ました。
目覚まし時計なしで起きる朝は既に遅いというのが俺だ。
だから第一声、
「遅刻だッ!」
慌てて飛び起きるが、明らかにここは俺の部屋じゃない。
そして目の前に少女が現れたとき、真実が見えた。
「お、起きたかおっさん」
少なくともまだ夢を見ているらしい。
「こら!起きろ!」
しかし、少女に呼ばれて蹴り飛ばされる感覚は本物だった。
「まったく、人の顔みて寝るとは失礼な奴だ」
「おい君、俺はあくまで大人だ。敬語を使いなさい」
少女に叩き起こされ、床に座り少女と向き合った姿勢となっている。
「そんなことよりおっさん。早く家に帰ってくんないか?昨日に泊めてやったのは仕方なかっただけなんだから」
「あぁ。無論そのつもりだが.......ここは何処だ?」
「昨日と同じ迷いの竹林。その中の私の家だ」
家ねぇ……。
見たところ一人暮らしらしいが、ただの小屋みたいな場所だな。
親戚はいないのか?
「……そういえばあんたの格好みたことないな」
このスーツがか?
「おっさん、博麗神社って聞いたことあるか?」
「いや、聞いたことないな」
そうか……と少女は考え込む
「……おっさん。ここが何処だかわかるかい?竹林じゃなくて、地域の名前だ」
「東京……じゃないのか?」
そして少女は少しうんざりした顔で言った
「やっぱり、あんたは外来人らしいな」
外来人?じゃあここって外国か?
「簡単に説明すると、ここは幻想郷という。日本の何処かにあると言われているが、わけあってあんたの世界とは繋がってない。」
ん?
「しかしごく稀にあんたの世界で忘れ去られたものなどがここに来ることがある。あんたもそんな所だ」
忘れ去られたってお前……
「だからおっさんは博麗神社の巫女に頼んで元の世界に返してもらう必要がある。」
「ちょっと待て。君、大人をからかっちゃいかんぞ。」
そうだ。こんなことが信じられると思うか?
「じゃああんたはこの状況を説明できる方法を知ってるか?」
いや、それにしたってそれは随分メルヘンな……
「だいたいあんたは大人だ大人だ言ってるけど私からしたら子供も同然なんだからな」
「? どういう意味だ」
「……失言だ。それよりも、道を教えてやるから博麗神社まで行って、元の世界に帰りな」
元の世界……か。
ここは言う所の異世界ってやつだろう。
「なぁ、俺ってこの世界にいちゃダメなのか?」
「別に構わないがオススメはしない。あっちとは色々違いすぎる。」
「そうなのか……(いろいろってなんだよ)」
「あ、そういやおっさんって一回死んでるのか」
未遂だとは思うが、事実死のうとした。
「元の世界に生きる事が嫌になって、それで幻想郷に迷い込んだというところか」
そういや、昨日この子に散々愚痴聞かせちゃったな。
だから俺の事情も知ってるのだろう。
「あんたの気持ちもわからなくはないさ。私も何回死のうとしたことか」
なんだと?
俺を気遣っているであろうが、冗談が過ぎるな。
「君みたいに若い子はいいさ。自由に生きられるんだからな。しかし私はただの駒。決まったことしかできない。生きていたって面白いことなんかないって嫌でも気づかされるさ」
また愚痴ってしまったと、少女の顔を見るが、案の定、ものすごく睨んでいた。
「おっさん。あんた歳いくつ?」
「ん?32だ。つまりまだおっさんじゃない」
「あんたはたった32年生きただけで人生を諦めたのか?」
これにはさすがにムッとした。
「嬢ちゃんに何がわかるんだ。君なんかまだせいぜい16程度だろう?ちょうど人生が一番楽しい時だろう。しかし大人になればな、背負うものができたり、疲れるんだ。精神的に」
言ってて自分がアホらしくなってくる。
一体、俺はこんな少女に何を話しているのだろうか。
はぁ……と少女はため息をついた
「あんたらみたいな人はいいさ。人生を見限ったらあんたみたいに幕を降ろすことだってできる」
だけど、 と続ける
「私みたいに死にたくても死ねない。どんなに辛くても我慢しなくちゃいけないような奴だっているんだ」
「お前が?」
「あんたの人生なんか私に比べたら全然楽さ。終わりが来るまで我慢すればいいこと。永遠に続く苦しみを知らないくせに、自分がいちばんかわいそうだとかおもうんじゃないよ……」
そう語った彼女の顔はどこか寂しそうだった。
俺には今の話が少しも理解できなかった。
数時間後。俺は迷いの竹林から、人里へと移動した。
「あー。泊まるところがないな……」
いつの間にか財布を落としたらしいので、宿も借りれない。
かといって野宿も変な目で見られそうだ。
「くそ。これならあの子の家にもう一晩居させて貰えばよかったなぁ」
と顎をジョリジョリと撫でる。うわ、髭生えてきた。
そんなとき、
「どうかしましたか?」
道の端に座っている俺を怪しんだのか、一人の女性が話しかけてきた。
「あぁ、ただ宿に泊まる金が無いんで野宿しようか迷ってまして」
いかにも困ってる風に芝居してみた。
そういうことなら、と彼女はおそらく自分の家であろう建物に入っていった。どうやら俺を泊めてくれるらしい。
案外チョロいもんやな。と内心笑う。
「あのもし良かったら……」
「え?いいんですか?じゃあお言葉に甘え――」
「これ、被れば寒くありませんよ?」
とダンボールを差し伸べてきた。
そして俺は一晩震えて過ごした。
夏にしては寒かった。