俺は妹紅に案内されるがまま、この結界(?)の穴を目指していた。
「それにしても、こんな結界を張れるんだな、慧音って」
「……まぁ、結界っていった方がわかりやすいな。ちょっと複雑だから」
結界というのはやはり違うらしい。
今、人里は「消えている」。
俺たちの目にはただの森林しか見えていない。
これは慧音の能力らしいのだが、妹紅に説明させたらわけがわからなかった。何かを食べたとかどうのこうの。
しかし、とにかく妹紅と慧音しか知らない「穴」があるらしいのだ。
「で、穴っていうのは?」
「あぁ、それは……」
そのときだった。
地鳴りのような、強烈な音が空気を揺るがせた。
「!! また戦いか!」
「あぁ、それも近い。もしかしたら慧音が戦っているかもしれない」
「そうだな。急ごう」
鳴り止まない轟音。何気にいままでで一番大きな衝撃だ。
これは助太刀に行かねば。
「この近くだ!」
森林を抜けると、そこは広い更地になっていた。
「慧音!」
慧音はすぐに見つかった。目の前だった。
しかし、目に飛び込んできた景色は、とても現実とは思えなかった。
一人の少女、慧音以外のその腕は慧音の胴を貫いていた。
「……ッ!」
その顔は月の明かりに照らされ不気味に笑っていた。
瞬間、妹紅がその少女に殴りかかり、慧音が地に倒れ込んだ。
呆気にとられていた俺も、急いで慧音に近寄る。
「大丈夫か!」
返事はない、が息はある。
俺は急いで回復の魔法を唱える。
その詠唱中、俺は妹紅がにらみ合っている少女を見ることができた。
まず一人目、
赤を基調とした服、色合いは妹紅の服と似ている。さらに、華やかに工夫がこなしており、小学生くらいの彼女は例えるならまるでお嬢様のような恰好だった。
しかし、その容姿をぶち壊すかのように、全身は血で染まっている。
ペロリと、頬についていた血をなめた。
その仕草は、例えるなら残酷な吸血鬼のようだった。
「お嬢様、大丈夫ですか」
「心配いらないわ、咲夜。だってまたこうやって自ら食材になりに来てくれたんだもの」
食材、確かにそういった。それは俺たちの事だ。
こいつは人間を食う、妖怪なんだと気付いた。
そしてその側近、メイド服を着ている少女。この世界には似合わないような恰好の少女は一見落ち着いた感じに見えるが、瞳の奥はこちらをにらんでいた。その眼には背筋が凍るような体験をした。
さっきの幽々子達とは比較にならないくらい、この二人は危険だった。
「お前ら妖怪を!人里へは近づかせはしない!」
妹紅はいつも以上に燃えていた。錯覚か、全身から炎が出ているように感じる。
そして、出てきたのはメイドの方だった。
どうやらこの二人も主従の関係らしい。
メイドが主人を気遣っていることが会話から感じ取れた。
「おっさん!慧音は任せた!なるべく遠くへ避難してくれ!」
「お、おう!」
慧音を担ぐ。
しかし、俺の体も血まみれとなり、服が重くなった。
ここまでの戦いで消費してしまった俺は、慧音を担いで走る体力はない。
「テレポ!」
とりあえず、森林に移動した。ここは木々が集中しているため、妖怪には見つからないだろう。
運動の体力と、魔法で使う体力は微妙に違うから、まだ魔法は使える。
だが、それでもMPが大量に残っているわけでもない。できるなら、慧音の回復に全力を注ぎたい。
とにかく、さきほど中断した回復魔法の詠唱を再開する
詠唱を行いながら、俺は考える。
置いてきてしまったが、妹紅は今戦っているのであろう。
あいつが負けるとは思えないが(根拠なし)下手すると、奴らは二対一で攻めてくるかもしれない。
しかも、あいつらはきっといままで何人もの人を殺してきたのだろう。
でなければ、こんな残酷な事できるはずもない。
「妹紅……」
俺は今更後悔した。
いくら妹紅が強いからって、俺のような男の大人が少女を置いて逃げるなんてできるわけがない。
「助けに行かねばッ!」
立ち上がった時、
「その必要はないわ」
ふいに後ろから声がした。
しかも俺はこの声を知っている。
だが、悪い意味で。
「今、貴方を殺してあげるから」
俺の後ろには手を怪しく光らせた、吸血鬼のようなあの少女が立っていた。