「貧弱貧弱ゥ!!」
「ぐっ……」
燃料補給に人里へと足を運んだ私とレミリアお嬢様。
村の守護の上白沢とレミリア様の戦いを、私は岩陰からただ眺めていた。
勝負はレミリア様の圧倒的優勢。見たところ上白沢の方もかなりの腕前だけど、レミリア様に勝てるはずもない。
けれど、今夜のレミリア様はいつもよりも気分が高揚していて危険。できることなら上白沢にはレミリア様に勝ってもらいたい。しかし、助太刀するわけにもいかないのでこうしてただ眺めるしかない。
「人間の前に、まずは貴様の血を頂くぞ!」
レミリア様は上白沢の腕に噛みつく。ずいぶん豪快にいった。
でも、上白沢の方も負けてない。今、わざと噛みつかせ、隙を突く作戦だったのだと知った。
そして、背中から取り出した短刀をお嬢様の背中に突き立てた。本来なら、私が時間を止めてあの刀を止めに行ってたはずなので、申し訳なく感じる。
しかし、あの程度の傷なら吸血鬼であるお嬢様ならすぐに癒えてしまう。さらに、今噛みついた時に血を吸ったのなら、お嬢様は今よりも強くなってしまう。これは明らかに上白沢のミスだ。しかし、
「! 傷が再生しない!?」
私の目でも判断できた。背中の傷が回復する気配はない。
「なるほど、貴様……、その刃物は」
「やはり、吸血鬼に銀は効くらしいな。こんなこともあろうかと、護身用の銀の短刀を特注で作ってもらっておいてよかった」
今気づくと、上白沢の刀は私のナイフと同じ物だった。私が銀のナイフを持っている理由は特にないけど。
「ふふふ……そんなちっぽけな刃物でこのレミリアが倒せるか?」
「このまま引き返せば、これ以上危害は加えない。しかし、退かぬというならあのメイド共々覚悟していろ!」
私もか。
「安心しなさい咲夜。今終わらせるからさぁ!」
お嬢様お得意のグングニル。長さは約3m。
リーチだけでも上白沢の刀とは比べ物にならないが……
「これで終わりよ!」
「はぁッ!!」
貫かんとするグングニルを上白沢は止めた。
そしてそのままお嬢様へと刀で斬りかかる。
「無駄だァッ!」
しかし、逆に近づいてきた上白沢を蹴り飛ばした。
「やはり……このままだとレミリア様が勝つ……」
別に勝敗は関係ない。問題なのは、レミリア様が上白沢に勝った後どうするか。
考えられる最悪の結末は、上白沢を殺すこと。吸血鬼が人を殺したと、万が一誰かに知られれば、再び八雲紫と敵対することになる……
いつの間にかとどめを刺そうと、地に落ちた上白沢へとレミリア様は接近していた。
「とどめだぁ!」
やむをえない!
「時よ止ま――」
ザシュ――
遅かった。
能力を使おうとしたときにはもう間に合わなかった。
グングニルは上白沢の腹部を貫き、さらにレミリア様はそこに手を突っ込んだ。一番手っ取り早い吸血手段だった。
さすがにこれはもう死んだだろう。
血を吸い尽くされれば例え妖怪でも命はない。
あっけなく、これですべてが終わってしまった。
せっかく手に入れた平和があっという間に崩れてしまう音さえ聞こえた気がした。
しかしその時、私は気づいた。村の異変が元に戻ってないことに。
つまり、上白沢がまだ能力を使用している。
「慧音!」
その瞬間、人影がレミリア様を蹴り飛ばしていた。
「お嬢様!」
つい反射で、レミリア様に近づいてしまった。これではまた私まで敵と思われてしまうわ。
しかし、
「心配いらないわ、咲夜。だってまたこうやって自ら食材になりに来てくれたんだもの」
そんなことは心配していない。 あ、いや心配してるんですが、今はレミリア様を人間に近づかせないようにするのがいいかと思ってます。
「お前ら妖怪を!人里には近づけさせない!」
驚いたのはこの女だ。上白沢に怪我をさせた私たちに臆さず、さらにはレミリア様を吹き飛ばすほどの力を持っている。そしてもう一人の男。なにやら、男は魔法のようなもので上白沢に治療をしていた。どうやら魔法が使えるらしい。しかし、この二人は明らかに人間だった。人間である以上、これ以上レミリア様と戦わせるわけにはいかない。
だけど、レミリア様は依然ヤル気だ。人間の血を手に入れるまでここから先に進まないつもりなのだろうか。
そして、導き出した最善の策。
「お嬢様、ここは私が引き受けます」
私が戦う事。
「それはできないわ。私がやるから下がってなさい」
レミリア様は本気だった。目で殺すことができる迫力だった。でも引き下がるわけにはいかない。
「お嬢様はけがをしております。その傷を癒すための人間を私が殺して参ります」
「……そうね。咲夜も最近平和で体がなまっている事でしょう。いいわ、行きなさい」
なんとか、許可が下りたわ。でも……
完全に相手は私も殺す気でいると勘違いしてしまっている。本当はこっそり和解したかったけど。
「おっさん、慧音は任せた!なるべく遠くに避難してくれ!」
「お、おう!」
男の方が上白沢と共に逃げた。まぁ、ここまではいいでしょう。
レミリア様も、空から私たちを眺めている。今日のレミリア様を表すかのように、羽ばたく翼は今、まるで竜のように大きく見える。
「そうか、お前らがあの噂の紅い館の吸血鬼だな。そんな危険な奴らを野放しにするわけにはいかない」
そして、私がこいつと相討ちにでもなれば……レミリア様なら私を置いて一人では行かないはず……(負けるのはプライドが許さないので)
私の中ではそうして『レミリア様帰還ルート』が完成していた。あとはレミリア様が大人しくしていてくれれば……
しかし、その瞬間、突然の風。嫌な予感がした。
後ろを振り向く。そこにレミリア様はいなかった。
「しまった!」
レミリア様はすでに、あの二人を追って飛んで行ってしまっていた。